3年生との交流の後半になります。
バスケで負けた俺たち。
次の種目選択権は俺たちにある。
「ハルさん、何か得意なものはありますの?」
「なくはないが…まずはダイヤちゃんに任せるよ」
「いいんですの?」
「もちろん」
勝負も大事だが、本来の目的はこの子たちのリフレッシュだ。
それを忘れてはいけない。
「そうですわね…じゃあ、あれにしましょう」
ダイヤちゃんが指差したのは、テニスコート。
硬式、軟式どちらも用意してあるようだ。
…なぜか、嫌な予感がした。
〜テニス〜
「行きますわよー…とおおお!」
すごい掛け声とともに、ダイヤちゃんの渾身のサーブが放たれる。
「とりゃ!」
リターンするのは果南ちゃんだ。
俺の方にボールが飛んできた。
「よっと」
なんとか打ち返す。
2人のように速くはないが、大きく弧を描いて相手コートの奥に落下する。
はずだった。
落下地点では、マリーちゃんが構えていた。
そのポーズは、まるでサーブを打つ時のようだ。
そして。
サーブを打つ時の要領で、マリーちゃんはラケットを振り下ろす。
『バコオオン!』
体重を乗せた一撃。
それは、俺のラケットを弾いていった。
「………え」
「あら…ハルさん、ラケットちゃんと握っておかないと、危ないですわよ?」
「コメントそれだけ?」
鞠莉・果南:2-0:ハル・ダイヤ
〜エアホッケー~
「な、どこに打ってもダイヤのところに行っちゃう!」
「どうなってるの!?」
「ふっふっふ。これぞ黒澤家に伝わる奥義、パーフェクトホッケーですわ!」
「君のお家には、エアホッケー専用の奥義があるのかい」
家に伝わるなら、ルビィちゃんもできるのか、これ。
『テレレレレ〜ン』
呑気な音声とともに、2枚目のパックが落ちてくる。
2枚のパックが同時に動き回っている状態。
目が回りそうだ。
「さあハルさん!そちらのパックの支配は任せましたわ!」
「すみません、その奥義が誰にでもできると思わないでくれます?」
結局、ダイヤちゃんが2枚とも操っていた。
どういう理屈なんだ、あれ。
鞠莉・果南:2-1:ハル・ダイヤ
〜バレーボール〜
「行くよ、鞠莉!」
「カモーン!」
果南ちゃんの綺麗なトスから、マリーちゃんの強烈なアタックがくる。
「おっと」
なんとかそれを止め、ダイヤちゃんに上げる。
「ナイスですわ、ハルさん!」
ダイヤちゃんがトスの体勢に入る。
それに合わせて、アタック準備をする俺。
「行きますわよ、ハルさん!」
「ああ!」
タイミングは完璧。
よし、このまま…
そこまで思った瞬間だった。
目の前に、ブロックがいる。
しかも2枚。
少人数のバレーで、後ろほったらかしの特攻ブロック。
恐ろしいほどの、攻めの姿勢。
だが、気付いた時には遅かった。
アタックに入った俺の動きは止まらない。
だったら。
「ブロックごと、ぶち抜く!」
そのまま、一気に腕を振り抜いた。
腕の運動エネルギーを受け取ったボールは、そのままブロックに当たり…
まるで金属の壁に当てたかのような勢いで、俺の顔面に帰ってきた。
「ごふっ!」
ブロックが、堅い…じゃなくて、硬かった。
鞠莉・果南:3-1:ハル・ダイヤ
〜パターゴルフ〜
「ハルさん、これは得意なんですのね」
「急がなくていい競技なら、ペースが崩れないからね」
「なんというか…ハルらしいね」
「私はこれ苦手!じれったいー!」
マリーちゃんが悲鳴を上げている。
思いっきり動けないこの競技は、マリーちゃんとは相性が悪いらしい。
「私もこれは苦手だなー。感覚がうまくつかめないや」
果南ちゃんも同様だ。
「なんというか、女性3人と男性1人の集まりで、男性が一番得意なのがこれというのも、変な感じですわね」
「…自覚はあるよ」
「ふふ。でも、勝負は勝負ですわ。悪いことではありません」
「ああ。任せてくれ」
ちなみに、マリーちゃんと果南ちゃんは途中でフラストレーションが溜まりすぎたらしく、壁に向けて思いっきり打っていた。
体に当たったら穴が空きそうだった。
鞠莉・果南:3-2:ハル・ダイヤ
〜ピッチング〜
「これがラストだよ!」
「俺たちが勝てなければ、負け越し確定か…」
「絶対勝ちますわよ!」
いわゆるストラックアウト。
ルールは単純。
2人で15球を投げ、当てた的の数で勝負する。
得点は関係なし。
とにかく、当てれば良いというシンプルなルール。
先行は果南ちゃんたちだった。
9枚中8枚。
いきなりかなり当ててきた。
「私たちが勝つには、パーフェクトしかありませんわ」
「そうだね。…まあ、大丈夫だよ」
「ハルさん?随分余裕ですわね」
「ああ、まあね」
実は、これが意外に得意だったりする。
「…君たちには隠していたけどね。俺、コントロールには自信あるんだ」
「えっ?」
「ハルが?」
「コントロール!?」
3人とも驚いている。
そうだろう。
さあ見ておくといい。
これが俺の本気だよ!
「ふん!」
俺の手から放たれたボールは、吸い込まれるようにボードに向かい…
狙った的、1番にヒットする。
「…ふむ」
「「「遅!」」」
「最初のコメントがそれかい」
感心してもらえると思ったら、思わぬコメントだった。
「あのフォームでそのスピードって…どんな投げ方してるの」
「見ての通りだよ」
「あのスピードで向こうまで届くのが信じられないわ」
「狙ったところに行ってるだろう」
確かに、俺のピッチングは制球に神経を割きすぎで、球速は非常に遅い。
以前測った時は、35km/hだった。
千歌ちゃんと曜ちゃんは、それを見て爆笑していた。
だが、ちゃんと狙ったところに行くんだ。
この勝負ならこれでいいはずだ。
ダイヤちゃんと順に投げ、いよいよ俺たちも8枚抜き。
残った球数はあと1球。
投げるのは俺だ。
「ハルさん!ここで当てて延長に持ち込むのですわ!」
「ハルがここで外したら、ピッチングは同点で、総合では私たちの勝ちだよね?」
「そうよ!私たちのビクトリー!」
「必ず延長に引きずり込むよ」
残った的は5番のみ。
ど真ん中。
大丈夫。
これなら問題無い。
モーションに入る。
左手を的の方へ伸ばし、テイクバックした右手を上げ…
力を入れたその瞬間。
「あ!向こうのバッティングコーナーでミニスカの女子高生が!!」
「!!」
条件反射だった。
身体のありとあらゆる部分が、その言葉に反応する。
「…あ」
気づいた時には遅かった。
ボールはすでに手から離れ、あらぬ方向へ飛んで行った。
「ハ〜ル〜さ〜ん〜…?」
「あ、いや、ダイヤちゃんあのね。これはね…」
「何をしているんですのおおお!」
「ぐ、ぐええ。悪かった。悪かったから」
首が締まる勢いで胸ぐらをつかまれる。
そして前後に揺すられる。
く、苦しい…。
「ウィーアーウィナー!」
「いえーい」
マリーちゃんと果南ちゃんがハイタッチしている。
女子高生という単語、これは間違いなく俺の弱点だ。
改めて、それを痛感したのだった。
※
「まあ負けは負けですわ。約束は守ります」
「足を引っ張ったのは主に俺だからね。命令されるのは俺だけでもいいよ」
「そういうわけにもいきませんわ。負ける時は潔くなくては」
「男前だね」
少なくとも俺より男前な振る舞いである。
夕方。
帰り道の車の中。
筋肉痛になること間違いなしの腕をなんとか動かし、ハンドルを握る。
「そんなに心配しなくても、無茶な命令はしないよー」
「そーよ、まったく」
苦笑いの果南ちゃん。
マリーちゃんからは呆れの色が見える。
「命令はもう決めているのかい?」
「うん、まあねー」
「ほう、じゃあ聞かせてもらおうか」
2人は一拍置き、話を続けた。
「夏休みの終わりにね、Aqoursのみんなでキャンプをしようって話があるんだ」
「そうですわね」
「普段から海はずっと見てるから、たまには山でお泊まりしようってねー」
「なるほどね」
「ハルには、それについてきてほしいんだ」
「それが命令かい?」
「イエス!」
「なるほど…」
なんというか。
わざわざ命令にしなくてもいいレベルである。
「命令になんてしなくても、誘ってくれれば行くんだがね」
そんなことを口にした。
した瞬間だった。
バックミラー越しに、果南ちゃんとマリーちゃんの目が光った気がした。
「…ハル、それは本当?」
「男ににごーんはないわよね?」
にごーん…ああ、二言か。
「…まあ、そうだね」
「「じゃあ命令は別で」」
「…切り替えが早くないかい?」
始めからある程度予測されていたらしい。
「じゃあ、キャンプはハルも参加決定で」
「命令はまた考えとくねー」
「…お手柔らかに頼むよ」
笑顔の2人。
というか、ダイヤちゃんには命令はないのかい。
「あ、ダイヤにはもう何をしてもらうか決めてるよー」
「そ、そうでしたの!?」
「ダイヤに与える命令はー…」
「「好きな人のいいところ発表!!」」
「ピギャッ!?」
「好きな人のいいところ?」
好きな人を直接発表させないあたり、2人の優しさ何だろうか。
というか、好きな人がいたのか。
「ハル、多分勘違いしてるけど、ダイヤの好きな人は誰かバレバレだからね」
「好きな人発表に意味はナッシングよ」
なんと。
さすが幼馴染だ。
「…あー…これは、まったく気付いてないね」
「いつも通りねー。まあそれはそうと」
助手席に座るダイヤちゃんが、硬直状態だ。
「ダイヤ、まだ何も言ってないのに顔が真っ赤よ?」
「あっはっは。そうだねー好きなとこ3つ、言ってもらおうか」
果南ちゃんとマリーちゃんがニヤニヤしている。
「〜〜〜〜っ!は、ハルさん!」
「なんだい?」
「耳、塞いでてもらえます?」
「運転中だよ」
「だーいじょうぶよ、ダイヤ」
「そうそう、どうせハルにはバレないから」
「〜〜〜っく、他人事だと思って〜…っ」
「あっはっは、罰ゲームだからね」
「…いいでしょう。いいところを3つ、申してさしあげますわ!」
横で宣言するダイヤちゃん。
「1つ目は…」
好きな人のいいとこを3つ、ちゃんと語ってくれたダイヤちゃん。
本当にその人のことが好きなんだなあ。
そんな感想を抱かせるのだった。
「あれで気づかないって、どんな神経してるんだろう」
「そこは昔からまったく変わってませんわ」
「好かれてる自覚はあるんだろうけど、それが恋愛だなんて微塵も思ってないみたいね」
「それがまた厄介なんだよねえ」
「「「はあ〜」」」
少女たちは、ため息をつく。
彼女たちの前に立ちはだかる壁は高く、険しい。
ご視聴ありがとうございました。
キャンプの話ですが、次回は別の話になります。
それでは何かありましたらお願いします。