Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは

今回は果南ちゃんとのお話になります



天体観測と布屋さん

「ほらハル、あとちょっとで頂上だよ!」

「わ、わかってるから。でも、もう少しだけ、ペースを落としてくれ」

「もー。仕方ないなあ」

「む、むしろ、なんで君はそんなに元気なんだ」

 

時刻は夜。

俺は望遠鏡を担いで果南ちゃんと淡島神社の階段を上っていた。

果南ちゃんは背中にカバンを背負っている。

 

目的は天体観測。

つまりは星を見に行くことである。

 

果南ちゃんは昔から星を見るのが好きなので、こうして彼女と天体観測に行くのはそこまで珍しいことじゃない。

見る場所が淡島神社というのもいつも通りである。

 

しかし、何度上ってもこの淡島神社の階段はきつい。

段数ももちろんだが、この傾斜角と場所によって異なる段の高さが、その上り辛さを際立たせている。

 

もうちょっと整備してくれてもいいじゃないか。

 

そんなしょうもないことを考えながら階段を上る。

 

「ハル、またロクでもないこと考えてるでしょ」

「この最悪な立地条件について頭の中で嘆いていただけだよ」

「そんなに悪くないでしょ?」

「せめて階段くらいは整備してほしいんだ」

「相変わらずハルは体力ないなあ」

 

そう言いながら笑われる。

体力ないのはその通りだが、逆に君はありすぎだと思う。

 

息ひとつ切れる様子のない果南ちゃん。

スクールアイドルってみんな体力すごいんだろうか。

 

 

 

 

しばらくして、ようやく頂上に到達。

夜とはいえ季節は夏。

結構な汗をかいてしまった。

 

「はあっはあっ…つ、疲れた…」

「お疲れ様、ハル。といっても本来の目的はこの後だけどね」

「そ、そうだね。すぐ、息を整えるから、ちょっとだけ待ってくれ」

「ほーい。あ、レジャーシートだけ敷いとくね」

「た、頼むよ」

 

果南ちゃんがレジャーシートを敷く。

その間に、俺は息を整える。

 

大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。

その動作を繰り返す。

 

よしよし。

落ち着いてきたぞ。

 

「ふう。よし、果南ちゃん手伝うよ」

「いや、シート敷いただけだからね。まあ座って」

「ああ、ありがとね」

「いえいえ」

 

二人でレジャーシートの上に腰を下ろす。

持ってきた望遠鏡もシートの上に置いておく。

使用するのはまだ後だ。

 

「照明、色変えるよ」

「ん、お願いね」

 

先ほどから道を照らしていてくれたランプの色を切り替える。

白色から赤色へ。

 

白色の光は強すぎて瞳孔を小さくしてしまうのだ。

そうすると、星の光が捉えづらくなってしまう。

赤色の光ではそういう事がないので、天体観測では赤色の光をよく使うんだそうだ。

 

まあ簡単に言ってしまえば、暗闇に目を慣れやすくするために赤の光を使うらしい。

 

光がぼんやりとした赤色に変わり、先ほどまでとはまた違った彩で辺りを照らし出す。

この光景も、思えば最近はあまり見てなかったと感じる。

 

「天体観測、いつ以来だったかな」

「うーん…高二の冬くらいにやって…それ以来?」

「てことは数ヶ月ぶりか。長かったような、短かったような」

「色んなことがあったもんねー」

「ほんとにね」

 

なんの因果か、再びAqoursの結成を千歌ちゃん達から聞いたのが4月頃。

それから1年生の仲間を増やし、東京にライブに行き、そして3年生も仲間に加える。

 

そんなイベント尽くしの3ヶ月だった。

 

「俺の人生の中でも、トップクラスに密度の高い数ヶ月だったよ」

「あはは。ごめんね、たくさん迷惑かけて」

「いや、そういうつもりで言ったんじゃないよ。というか、俺は何もしてないからね」

 

そう。

本当に何もしていないのだ。

 

 

スクールアイドルをやって、輝こうと言った千歌ちゃん。

 

それを側で支え続け、ともに輝こうとした曜ちゃん。

 

壁を越え、自身のスランプを乗り越えた梨子ちゃん。

 

憧れ続けたアイドルの世界に勇気を出して足を踏み入れたルビィちゃん。

 

自信の無さという壁を壊し、本の世界から飛び出した花丸ちゃん。

 

在りたい自分の居場所を見つけた善子ちゃん。

 

親友のために自分を隠し続けてきた果南ちゃん。

 

そんな親友に正面からぶつかって仲直りしたマリーちゃん。

 

大好きな親友二人を、ずっと待ち続けたダイヤちゃん。

 

 

そんな彼女たちに俺がしたのは、近くに居続けただけなのだ。

 

「ハルならそう言うと思ったよ。どうせ私が何言ったって、自分は何もしてないって言い通すんでしょ」

「本当に何もしてないからなあ」

「でも、この数ヶ月はハルだって忙しかったんでしょ?」

「忙しかったりしたのは、君たちを見ててハラハラし続けていたからだよ。何か行動していたからじゃない」

「はあ…やっぱりそう言うんだね」

 

果南ちゃんは呆れている様子だ。

 

「ああ、そういえばお茶を持ってきたんだよ。飲むかい?」

「ん、もらう」

「はい」

「ありがと」

 

コップにお茶を入れて手渡す。

それなりに冷やしてあるお茶だ。

 

「さっきの話だけどね」

「ああ」

「何もしてなくても、ハルはいつも側にいてくれたでしょ?」

「そりゃあ店が学校の近くにあるしね」

「いや、そういう物理的な話じゃなくてね」

「君たちとは長い付き合いなんだから。心配にもなるさ」

 

俺がそう言うと、果南ちゃんはこちらを向いた。

そして。

 

「そうやって、下手に干渉せずに見守ってくれたのが、私たちには嬉しかったんだよ」

 

笑顔でそう言われてしまった。

まいったね。

思わず照れそうになるよ。

 

「…何もできなかっただけさ。買い被り過ぎだよ」

「たまには素直に褒められてよ!」

 

そう言われてもね。

 

まあ、彼女たち…果南ちゃんだけかもしれないが、俺が近くにいることを不満には思われてないなら、それだけでもありがたい話だ。

 

 

「好きな人が、ちゃんと見守ってくれてるって事はね、本当に嬉しいんだよ」

 

 

ボソッと、果南ちゃんが何かを呟く。

もう一度言ってくれと頼もうとしたのだが。

 

「よし!そろそろ天体観測始めよっか!」

 

そんな声に上書きされてしまった。

まあ、聞くのはまたの機会にしよう。

 

 

 

 

「あれが夏の大三角だっけ」

「いや、ハルがどれ指差してるのかわかんないよ」

「ほら、あそこのやたら光ってるやつさ」

「どれも光ってるよ。方角は合ってるし、多分当たってるんじゃない?」

「よしよし。で、あれがさそり座だ」

「いや、それは違うから。方角全然違うから」

「あれ?」

 

おかしいな。

あの形はサソリに見えたのだが。

 

二人でレジャーシートの上に寝転がって星を眺める。

そのまま、星をテキトーに指差してこんな会話をするのが、俺たちの天体観測である。

 

「ハル、星座は昔から覚えるの苦手だよね」

「形は覚えられるんだよ。場所が覚わらないんだ」

「場所覚える方が簡単じゃん」

「そうでもないと思うんだけどね」

 

これだけ星があると、形を覚えていても特定しづらい。

なぜなら、星がたくさんあれば、その辺の星をつないで同じ形を作れるからである。

しかも時間によって少しずつ動くし。

 

つまりは、他の星との位置関係も覚えてないと、結局星座の特定はできないのである。

 

「ああでも、一つだけはっきり覚えてるのがあるよ」

「そうなの?」

「うむ」

「へー。どれどれ」

「天の川」

「範囲広すぎ!しかも星座じゃないし」

 

この場所からは天の川がよく見えるのだ。

一番最初に覚えた空の目印である。

 

次に覚えたのは…

 

「もう…これだけ天体観測してるんだから。他に何か覚えてるやつないの?」

「ああ、あるよ。自信持って覚えてるのがもう一個だけ」

「一個しかないの…まあいいや。どれ覚えてるのさ」

「そうだね…この時期なら多分…あ、あった。あれだよ」

「いや、だから指さされても…あれ?あの辺の星座って…」

「ああ。水瓶座だよ。場所、当たってるだろう?」

「う、うん。合ってるけど…よく覚えてたね。そんなメジャーじゃないでしょ」

「いやいや、何を言ってるんだい」

 

そりゃあ覚えているさ。

なんてったって。

 

 

「水瓶座は君の誕生月の星座だろう」

 

「!!…お、覚えてたんだ」

 

 

天体観測をする上で、果南ちゃんからはたくさんの星座のお話を聞いた。

お陰様でたくさんの星座の形を覚え、その位置を忘れてきた。

 

しかしそんな中でも形も位置もよく覚えられているものがある。

 

俺を天体観測に誘ってくれた彼女が、最初に教えてくれた星座。

 

 

『あれがね、水瓶座だよ。あれとあれを結んで…』

 

『水瓶…変わった形だね』

 

『見えるのは8月ね。私の生まれ月の星座なんだよ』

 

『生まれ月…果南ちゃんは2月生まれなのに、生まれ月の星座は8月に見えるんだね』

 

『そういうものなんだよ』

 

 

懐かしい会話。

それでも、いまだ忘れることのない天体観測の始まりである。

 

「まあ残念ながら、それ以外なかなか覚わらないんだけどね」

「…そっか。もう、ハルには困ったなあ」

「あれ?なんでちょっと嬉しそうなの?」

「もー。じゃあ、ハルが星座全部覚えるまで付き合ってあげるよ」

「え、いや、全部って?まさか星座全部?」

「んーん。天体全部」

「何百年天体観測をやるつもりなんだい」

「いいんだよ、何年でも」

 

 

「何年だって、何十年だって、何百年だって…側にいるんだから」

 

 

優しい笑顔でそんなことを言われてしまった。

 

なんだか告白みたいだなあ。

そんなことを思ったのだった。

 

 

 

 

翌日。

 

「あれ?なんかハルくん、動きがぎこちなくない?」

「あ、ああ。き、昨日ちょっとね」

「もしかして筋肉痛?だめだよー、準備運動なしで動いたら」

「ハルさん、ただでさえ運動不足だもんね」

「それに関しては改めて痛感しているよ」

 

彼女らの言う通り、俺はとてつもない筋肉痛に襲われていた。

それはそれは痛くて仕方ない。

 

動くたびに痛むので、おそらくロボットみたいな動きになっている事だろう。

目の前の彼女たちは、トレーニングのために淡島神社を登っているんだよな…

改めて凄さを実感する。

 

「ん?こっち見てどうしたの?」

「ああ。君たちはすごいなーって思ってね」

「あっはっは。どうしたのさ急に」

 

そんな会話をしていた時だった。

 

「そういえば、今日果南ちゃんがすごく楽しそうだったんだよー」

 

千歌ちゃんがそんな話をふってきた。

 

「楽しそうだったのかい?」

「うん」

「そうね。なんというか…ずっとニコニコしてるっていうか…そんな感じ?」

「そうだねー」

「…そうかい。それはよかったよ」

 

しかしそうか。

 

俺は筋肉痛でこんな状態なわけだが…

 

果南ちゃんは、元気に練習できているのか。

 

…いい加減、俺も体力つけた方がいいのかもしれない。

 

 

 




ご視聴ありがとうございました。

果南ちゃんがなんで天体観測の話なのか。
プロフィールに天体観測が趣味となっていたからです。

彼女は基本は男前ですよね。親友のために自分を殺したり、家業のために学校を休学したり、周りのために我が身を顧みないようでした。まさに頼れるお姉さん。
しかしながら、好きな人とはハグしようという女の子らしさ。最高ですね。

それではなにかありましたらお願いします。
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