Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは。

今回は梨子ちゃんとのお話になります。



お絵描きと布屋さん

「おお。梨子ちゃん、やっぱり絵上手だね」

「あ、ちょっとっ。まだ描き終わってないから恥ずかしいんだけど…」

「いやいや。この段階でももうすでにとても上手なのが分かるよ」

「…も、もう。わ、私のはいいからハルさんの絵を見せてよ!」

「それは構わないけど…正直コメントに困ると思うよ」

 

季節は5月。

あと少しすれば人々の生活には『暖かさ』から『暑さ』が顔を見せるであろう今日この頃。

 

俺は梨子ちゃんとそこそこ大きい公園にやってきていた。

目的は風景のスケッチ。

 

休日ということもあってそこそこの人がいる中で、二人でスケッチブックを膝に乗せて景色を模写しているのであった。

 

「ハルさんの絵…なんていうか、影が少ないのね」

「布屋ってこともあって、デザインや製図の方がやることが多くてね。影をつけるというのは苦手なんだよ」

「でも、形の捉え方は上手だと思う。ハルさんが言うほど下手ってことはないわよ」

「嬉しいことを言ってくれるね。ありがとう」

 

梨子ちゃんの指導をもとにして、少しずつ目に見える風景を紙に落としていく。

言われた通りに影を落としていくだけで、絵には少しずつ立体感が感じられるようになった。

 

「梨子ちゃん、教えるの上手だね」

「ハルさんの飲み込みがいいのよ」

 

笑顔でそんなことを言われてしまう。

正直、風景なんかよりこの笑顔を絵に収めたいところだが…

 

残念ながら、俺の画力ではこの魅力を表現することはできなさそうだ。

 

 

 

 

「え?」

「うん。絵」

「ああいや、おれの『え』は疑問の『え』であって名詞の『絵』じゃないんだけど…まあいいや」

「なんのこと?」

「気にしないでくれ」

「えっと…話、続けていい?」

「うん」

 

ことの発端は2日前。

学校帰りにうちに寄った梨子ちゃんとの話がきっかけだった。

 

「私が美術部だってことは、前にも少し話したと思うの」

「そうだね。もともと絵を描くのが好きって言ってたしね」

「うん。でね、こっちに来て生活もだいぶ落ち着いたし、そろそろ学校や家の外でもスケッチをしてみたいんだけど…」

「その場所の候補がない…と」

「そうなの。まだあんまりこの辺の事知らないから。スケッチにいい場所ないかなって、ハルさんに聞きに来たの」

「なるほどね」

 

と言う事らしい。

とはいえ。

 

「頼りにしてくれるのはありがたいけど、どういうところが良いのか検討もつかないんだけど」

「家や学校で見られない景色だったら、大体なんでも良いわよ?」

「んー…もう少し絞ってくれるかな」

「じゃあえっと…静かなとこ、かなあ」

「ふむ…静か…ねえ」

 

そう言われて真っ先に浮かんだのは淡島神社。

あそこもあそこで綺麗な風景だし、スケッチには悪くないとは思うけど…

 

せっかくだし、行ったことがまだない場所の方が良いだろう。

 

「公園とかでもいいのかい?」

「うん、もちろん。スケッチしてる事が邪魔になったりしなければ大丈夫よ」

「そうかい。じゃあ大丈夫だと思う」

「心当たり、ありそう?」

「うん。そうだね」

「じゃあその場所、教えてくれるかしら」

「ああ、もちろん教えても良いんだけど…そうだね。せっかくだから、俺もご一緒できないかな?」

「…へ?」

 

思ってもいなかったという表情の梨子ちゃん。

 

「い、一緒に?」

「うん。…て、そんなに驚く事かい?」

「そ、それってふ、二人きりで…」

「他に誘いたい人がいるのかな?」

「そ、そういうわけじゃないけど!で、でもそれって…で、で…」

「で?」

「公園デートみたいなもの…」

「ん?」

 

どんどん小さくなっていく梨子ちゃんの声。

正直、最後の方はほとんど聞こえなかった。

 

とはいえ、スケッチについては公園で大丈夫そうだ。

 

「えっと…公園で大丈夫って事でいいのかな?」

「あ、うん。そ、それでオッケーよ」

「なんかちょっとぎこちな…」

「気のせいよ」

 

遮られた。

 

 

 

 

まあそんなわけで、梨子ちゃんと公園に来たわけである。

公園といっても、遊具とかはほとんどなくて、結構広い草原が広がる場所なんだけね。

 

少し大きな木の陰。

芝生にレジャーシートを敷いた上で、二人して鉛筆を走らせる。

 

「あんまり目立った建物とか遊具がないけど、これでよかったのかい?」

「ええ。こういう風景を描くのだって、私は好きよ」

「それはよかった」

 

短い会話。

長い沈黙。

 

会話がないその間は、子供の笑い声や風の音で埋められる。

 

 

 

 

それからどれくらい絵を描いていただろうか。

二人の間に、これまでとは別の音が鳴り響いた。

 

『ぐうう〜』

 

「おっと、失礼」

「ふふふ。ハルさん、お腹減ったの?」

「どうやらそうらしい。時間は…ああ、12時半過ぎてるね」

「もうそんな時間だったのね」

「お昼はどうするか決めているかい?」

「あ、えっと…その、ね?」

 

何かを言いあぐねている様子の梨子ちゃん。

食べたいものでもあるんだろうか。

 

「ハルさん、サンドイッチとか…好き?」

「サンドイッチ?そうだね。妙なものでも挟んでなければ、大体好きなはずだよ」

「卵とかハムとか…かな」

「それなら大好きだよ」

「そ、そう?」

「サンドイッチが食べたいのかい?んー…近くにそういう店とかあったかな?」

「…いや、私の様子見て気づいてよ」

「ん?」

「はあ…」

 

なぜだかため息をついてる梨子ちゃん。

かと思えば、カバンの中から弁当箱のようなものを取り出した。

 

「それ、お弁当かな?」

「そうよ。その…サンドイッチ、作ってきたからよかったら」

「おお。いいのかい?」

「うん。嫌じゃなかったら、だけど…」

「嫌だなんてそんなまさか。ありがたくいただくよ」

 

いただきますをして梨子ちゃんが作ってくれた卵サンドをいただく。

口の中に、マヨネーズの酸味と卵の味が広がる。

 

おいしい。

とても。

 

思わず無言で頬張ってしまう。

美味しくて、つい言葉もなく食べていたからだろうか。

 

「ど、どう…?」

 

少し不安そうな表情で、梨子ちゃんにそう聞かれてしまった。

 

「とてつもなく美味しいよ」

「そ、そう?ほ、本当に?」

「もちろん。嘘はつかないしつけないよ」

「そ、そっか…えへへ」

 

続いてハムサンドも手に取る。

うん、これも文句なしに美味である。

 

「梨子ちゃん、料理上手なんだね」

「上手かはわからないけど、料理をするのは好きなの」

「なるほど。いや、これなら料理上手を名乗っても問題ないと思うけどね」

「サンドイッチだけで大げさじゃない?」

「得意料理が一つでもあったら料理上手を名乗っても良いのさ」

「世の中が料理上手だらけになりそうね」

「良い世の中じゃないか」

 

そんな話をしつつお昼を楽しむ。

美味しい料理に、横には可愛い女の子の笑顔。

 

贅沢なお昼ご飯だ。

 

「ハルさん?どうしたの?」

「どうしたとは?」

「んー…なんだか嬉しそうだったから」

「そりゃあね。美人さんとお昼をご一緒してるんだ。嬉しいに決まってるじゃないか」

「なっ…だ、だから、そういうこと簡単に言わないでよっ」

「事実だからね」

 

 

 

 

お昼を食べ終わったのは、それから30分程してからだ。

手を合わせてごちそうさまをした俺たちは、特に何をすることもなくのんびりしている。

 

「絵を描くのは、もう少しだけ休憩してからかな」

「そうね。…って、ハルさん、眠そうね」

「ああ。お腹もいっぱいになったし、ちょっとだけ寝不足でね。」

「寝不足って…何かやることでもあったの?」

「梨子ちゃんとスケッチに行くのが楽しみで眠れなかったんだよ」

「…楽しみにしてくれるのは嬉しいけど、遠足前の小学生じゃないんだから」

「男はいつまでたっても心は少年なんだよ」

「ハルさんみたいな小学生は問題があると思う」

 

とはいえ、寝不足の理由はあながち嘘でもなかったりする。

 

昨日、美術部とスケッチに行くのに全く絵が描けないのもさすがにどうかと思った俺は、ちょっとだけ絵を描く練習をしたのだ。

もちろん1日くらいで上手になんてなるわけがないので、本当に知識として最低限勉強をしただけ。

 

景色を描くときはこういうとこを見る、とか。

どういう物から描く、とか。

 

そんな感じ。

 

で、調べていたら案外面白くて寝るのが遅くなってしまったわけである。

 

「眠かったらお昼寝でもする?」

「お昼寝?」

「うん。何が何でも描かないといけないわけでもないし…なんなら、少ししたら起こしてあげるから」

「んー…そうだね。お言葉に甘えさせてもらおうかな」

 

このままだと、描いている途中で寝ちゃいそうだし、その方が梨子ちゃんにも悪いだろう。

そう判断し、その場に横になる。

 

静かな昼下がり。

暑すぎず寒すぎずの気温。

 

「これは…とても気持ちがいいね」

「ふふ。そっか。少ししたら起こすね」

「ああ、頼むよ」

 

俺の意識が眠りに落ちるまで、時間はほとんどかからなかった。

 

 

 

「…ハルさん?…もう寝ちゃった…かな?」

 

「普段じっくり見れないから、こういう時くらい、じっと見てもいいよね…」

 

「あ、それと、写真も1枚くらい…」

 

 

 

 

「…ん」

「あ、ハルさん起きた?」

「ああ、えっと…おはよう」

 

目が覚めたら、視界はすでに橙色になっていた。

少し寝るつもりだったのが、結構長く寝てしまっていたようだ。

 

「今、何時くらいかな」

「5時過ぎくらいよ。起こそうと思ったんだけど、ハルさん、すごく気持ち良さそうだったから」

「そうかい。それは申し訳なかったね」

「ん。大丈夫。起こさなかったのはこっちだしね」

 

と、会話しながら気づいた。

俺が寝る直前と、頭の高さが違う。

 

というか。

 

「…膝枕、だね」

「あ、うん。頭、敷くものなくて痛そうだったから。えっと…いや、だったかな?」

「まさか。むしろ、梨子ちゃんには悪かったかな。重かっただろう」

「ううん。そ、その…わたしも…楽しんだから」

「お?」

 

まあ嫌ではなかったみたいだし良しとする。

 

「それで…絵は描けたのかな?」

「うん。描きたい分は描けたから、今日はそろそろ帰ろうかなって」

「そうだね。すまないね」

「もう。何度も言ってるでしょ、気にしないでって。そろそろ肌寒くなってきたし、帰るのもちょうどいいと思うの」

 

帰り支度を整え、その場を立つ。

そんな時だ。

 

『バサリ』

 

梨子ちゃんの持っていたスケッチブックが落ちてしまった。

なんの気なしにそれを拾う。

 

幸い、紙が折れたりということはないようだ。

地面も濡れていなかったみたいで、その心配もなさそうである。

 

ただ一つ気になったのは、落ちた際に開いていたページ。

 

「はい、梨子ちゃん」

「あ、ごめんねハルさん…って」

 

汚れ確認をするだろうと思い、開いていたページをそのまま渡す。

瞬間、梨子ちゃんの顔から血の気が引いていくのを感じた。

 

そこに描かれていた絵。

 

「俺の絵、かな」

「う、うわあああああああ!ち、違うの!こ、これはええと…そ、その、ひ、人を描く練習をしようと思っただけなの!」

「ああ、そうなのかい。梨子ちゃん、人を描くこともあるんだね」

「そ、そうなの!た、たまにはって」

「…なんか汗すごくない?」

「きょ、今日は暑いわね」

「さっき肌寒くなってきたって言ってなかったっけ」

 

まあいいか。

 

とはいえ、人を描く練習として俺を描いたのか…。

んー…

 

「被写体としては地味じゃない?」

「へ?」

「いや、もっとこう、花のある人というか、ふさわしい人がいるんじゃないかな、と」

「…そりゃあ、模写の練習になるような体型の人とかっていうのはいるけど…」

「だよね」

「で、でもいいのよっ」

 

そう言って、少しだけ早足で前に出る梨子ちゃん。

夕日をバックにして、彼女の全身が眼に映る。

 

綺麗な髪を緩やかな風になびかせるその姿は、美少女と呼ぶにふさわしい後姿だ。

 

「…どうせ、ハルさん以外の人、描くつもりなんてそうそうないんだから…」

 

小さな声でつぶやく梨子ちゃん。

こちらを向かずに口にしたその言葉は、残念ながら俺の耳に届くことはなかった。

 

でも。

 

言ってすぐこちらを振り向いた梨子ちゃんが、すごく綺麗だったからかな。

 

もう一度聞こうとは思えなかったのだった。

 

 

 

 

「ねえねえハル」

「どうしたんだい、善子ちゃん」

「最近、リリーと何かあった?」

「リリーって…ああ、梨子ちゃんか。何かって…この前少し街を案内したよ」

「その時に何かした?」

「いや、特に何もしてないはずだけど…どうしたのさ」

「なんかね、この前練習の休憩中にリリーがスマホ見てたんだけどさ」

「うん」

「なんか、画面見てニヤニヤしてたのよね」

「はあ」

「で、どうしたのって聞いても教えてくれないのよね」

「俺にも全く心当たりがないんだけど」

「いや、多分9割方ハル関係だと思うわよ」

「ほうほう。その根拠は?」

「その直後にポンコツ化するから」

「…どういうことかな?」

「リリーはあんたが絡むとポンコツ化するのよ」

「そりゃまた困った性質だね」

「あんたの鈍感に比べれば100倍はマシだけどね」

「残念だけど、本当に心当たりはないよ」

「んー…絶対ハル関係だと思うんだけどなあ」

 

翌日。

 

誰かさんの寝顔の写真がAqours内で出回ったが。

 

もちろん、その事実を本人が知る事はなかったそうだ。

 

 





ご視聴ありがとうございます。

梨子ちゃんの個人話がなかったので今回は梨子ちゃん一人のお話でした。
時期としてはAqoursが6人だったときのお話ですね。

それでは何かありましたらお願いします。
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