前回に引き続き日常の一コマをお送りします。
「衣装サイズの寸法?」
「そうよ。ここで測らせてちょうだい」
夕方。
閉店して間もないこの時間。
いつものようにお店にはAqoursの子達がやって来ていた。
本日のお客さんは1年生組である。
「そりゃあもちろん構わないけが…部室にメジャーはなかったかな?」
「ついこの前壊れちゃったんです」
「壊れたって…そんなに使い込んでいたのかい」
「いや…千歌ちゃんと善子ちゃんが遊んでたら壊れたずら」
「…メジャーでどうやって遊んだんだい君達は」
「そ、そんなのどうでもいいでしょ!ほら!メジャー貸してよ!」
「壊さないでくれよ」
「わかってるわよ!」
そう言って箪笥からメジャーを取り出す善子ちゃん。
「善子ちゃんメジャーの場所、よく知ってるね」
「手馴れてるずら」
「ぐ、偶然よ!」
「いやいや。昔からここでよく裁縫をしているからだろう」
「ちょ、ちょっと!」
中二グッズの裁縫をよくここで行っていた善子ちゃん。
その時から道具の場所は変わっていないので、自然に手が伸びたのだろう。
「善子ちゃん、ここでああいう衣装作ってたんだね」
「道具が揃ってるからよ!ほ、他に理由はないわ!」
「本当にそれだけずら?ハルさんの近くで作業したかったとか…むぐ」
「ず、ら、ま、るう〜」
「む、むぐむぐ」
花丸ちゃんが何かを言おうとして善子ちゃんに口を押さえられる。
つい最近見た覚えのある光景だ。
「ほらほら、採寸するんだろう」
「そ、そうね!ほら、ルビィもずら丸も、さっさと済ませるわよ!」
「も、もがもが」
「よ、善子ちゃん、手は離してあげて…」
まだ口を押さえていたのか。
いい加減顔色が悪くなり始めている花丸ちゃんを解放し、3人は奥の部屋に向かっていった。
もちろん目的は衣装のための採寸である。
最初は俺も手伝おうかと思ったが、よくよく考えるとセクハラ扱いされそうなのでやめておいた。
しかし、サイズというのはそんなに簡単に変わっていくものなんだろうか。
少なくとも彼女たちは、夏祭りのための衣装作りで一回寸法は取っているはずだ。
それからまだ1ヶ月足らずなんだが…
成長期だからかなあ。
そんなくだらないことを考えつつ、読書に励もうかと思った時である。
「ちょっ、ずら丸、あんたまた大きくなったの…?」
「う、うらやましい…」
「んん?特に変わってないずらよ?」
「いや、数字がちゃんと物語ってるのよ」
そんな会話が聞こえてきた。
…まあその、身長の話だよね。
まさか俺に聞こえるような声で、胸の話とかをしているわけではあるまい。
「ウエストは全然変わってないのにバストだけ…っく!どんな生活してたのよっ」
「どんなって…普通に生活してただけずら」
「花丸ちゃん、あんなに食べてるのに…」
「全部胸に行ってるってこと…?ぐぬぬううう」
「ま、まる、なんか悪いことしたずら?」
…さて。
どうしたものか。
いや、聞こえてきて嫌なことではない。
なんとなく心踊る会話ではある。
しかし…。
盗み聞きしているみたいで、ちょっと気が引けてしまうのも事実である。
とりあえず、聞かなかったことにして読書に集中するとしよう。
幸い、読んでいるのは物語だ。
熱中して読めば、外の音など耳には…。
「あんたこれ、ちょっとは分けなさいよ!」
「ちょ、よ、善子ちゃん、やめるずらー。あ、あははは。くすぐったいずらー」
「よ、善子ちゃん、あんまりあばれちゃだめだよ」
…だめだ。
まったく集中できない。
「はあ…」
ため息を一つつき、椅子から腰をあげる。
仕方ないから注意することにしたのだ。
声が大きいとだけ言えば、その意図は彼女たちに伝わるだろう。
そう考え、襖の前に立つ。
ノックはできないので、外から掛け声で存在を知らせる。
「おーい、3人とも。さすがに声が大きいから、ちょっとボリュームを下げてくれるかな」
「あ、は、ハルさん?わ、わかりましたー。ほら、二人とも、ハルさんもそう言ってるから…」
「は、ハルさんずら!?って、わ、わあああー!」
「ちょ、ずら丸、あんたどこ掴んで…ってひゃあああああ!」
「わああ!善子ちゃん、ルビィを掴んじゃ…ぴぎゃあああ!」
「え、君たち中で何を…」
そこまで言った時だった。
俺の声に驚いたのだろう。
中途半端に衣装を着ていた花丸ちゃんが転倒。
それに巻き込まれて善子ちゃんも転倒。
さらにそこでとっさに掴まれたルビィちゃんも転倒。
三人が一気に倒れこんだ衝撃で、俺と彼女たちを隔てていた襖が外れこちらに倒れてきた。
一瞬、下着姿の花丸ちゃんが見えた気がしたが、残念ながらその時の記憶はあまり鮮明ではない。
なぜなら。
倒れてきた襖の骨組みが俺の頭を直撃。
俺の意識はそこで闇に落ちたからである。
翌日。
善子ちゃんから
「ずら丸の下着、見てないわよね?」
そんなことを聞かれた。
もちろん。
「三途の川しか見てないよ」
そうやって返すのだった。
俺のそんな一言に、1年生3人がバツの悪そうな顔をしたことは、言うまでもない。
※
『コンコンコン』
「どうぞ」
3回ノックをし、中の返事があってから扉を開ける。
「こんにちは、ダイヤちゃん」
「ええ。こんにちは、ハルさん」
やってきたのは、浦の星女学院生徒会室。
頼まれていた物品の配達である。
台車に3つの段ボールを積み、ここまで運んできたのだ。
「暑い中でご苦労様ですわ」
「仕事だからね。とりあえず確認をお願いするよ」
「ええ」
そんな話をしていた時だ。
『バッターン』
そんな音ともに、ノックもなく生徒会室の扉が開けられた。
「シャイニー!ダイヤー!って、あれ?ハル?」
「こんにちは、マリーちゃん」
「こら鞠莉、ちゃんとノックしないとまた怒られるよ…って、ハルじゃん」
「果南ちゃんもこんにちは」
やってきたのはマリーちゃんと果南ちゃん。
「ハル、何か用でもあるの?」
「うん。物品の配達だよ。君たちこそ、ダイヤちゃんに何か用だったかな?」
大事な用事だったりするなら、早々にここを立ち去らないといけないが…
「ノー。教室じゃ暑いから涼みに来たんだでーす」
「あはは。まあそういうことだよ」
立ち去る必要はなさそうだ。
「まったく…ここは生徒会室であって遊び場ではないのです。涼みたいなら図書館でもどこでもあるでしょう」
「図書館じゃトークができないでしょー」
「ここもそういう場所ではありませんわ!」
「そんな堅いこと言わずにー。ほら、ダイヤだって私たちが来て嬉しいんでしょー」
「なあっ。そ、そんなことありませんわ!」
「あはは。ダイヤは分かりやすいなー」
「ぐぬぬぬ…」
ダイヤちゃんが唸っている。
まあ、この二人を相手に口先勝負は分が悪いだろう。
マリーちゃんも果南ちゃんも、ダイヤちゃんの扱いは大層心得ているわけだし。
「まあまあ、ダイヤちゃん。せっかくだし仕事の手伝いでもしてもらおうじゃないか」
「ハルさんまで…はあ。分かりましたわ。他の生徒に示しがつきませんから、あまり騒がないようにしてくださいね」
「シャーイニー!」
言いながら備品の箱を元気よく開けるマリーちゃん。
ダイヤちゃんの話は聞いていなかったらしい。
「さ、わ、が、な、い、で、く、だ、さ、い、ね」
「ジョークジョーク」
鬼の形相のダイヤちゃん。
これはマリーちゃんが悪い。
その後、物品確認を4人で行い、俺の本日の仕事は終了した。
ダイヤちゃんがお茶を出してくれたので、今は生徒会室でお茶を飲んでゆっくりしている時間である。
「んー。お茶美味しいでーす」
「そうだね。喉も渇いていたから尚更だね」
「いくらエアコン効いてても、さすがに作業すると少し汗かくもんねー」
「この部屋はエアコンは弱めにしてありますからね。少しだけ強くいたしましょうか」
そう言ってエアコンのコントロールパネルに向かうダイヤちゃん。
なんとなくその後ろ姿を眺めていたら、マリーちゃんに小声で話しかけられた。
「ハル」
「なんだい、マリーちゃん」
「ダイヤ、シャツ透けてる」
「………………急にどうしたんだい」
「いや、なんとなく」
「なんとなくで男に振る会話じゃないね、それ」
「この時期は気をつけないとねー。まあ下着じゃないからいいんだけどね」
「俺の話を聞いてくれよ」
「鞠莉とハル、何コソコソ話してるの?」
「どうせ大したことじゃないんでしょう」
ダイヤちゃんが戻ってきた。
「否定できないね」
「大事なことなのにー」
内容については俺の口からは話せないので、適当に流すことにする。
「あ、ダイヤ、お茶の二杯目もらっていい?」
「ええ、ちょっと待っていてください」
「ああいいよ。それくらい自分でやるから」
そう言って席を立つ果南ちゃん。
その後ろ姿を見ていたら、またしてもマリーちゃんに声をかけられた。
「ハル」
「今度はなんだい」
「果南、下着透けてる」
「……………」
いやいや。
「て、Tシャツの見間違いじゃないかな?」
「いやいや、あれブラ線だヨ」
「ほら、キャミソールというやつじゃないかな?よく知らないけど、女性は制服の下にそういうのを着るんだろう?」
「ハルさんと鞠莉さん、何をこそこそ話していますの?」
「またくだらない話?」
果南ちゃんが戻ってきた。
「もう。くだらなくなんかないよー」
「いや、俺もくだらないと思うよ」
ここで深く話を掘り下げると、最悪俺の命にかかわるので適当に流しておく。
ブラ透けとかそういうのはね、ばれないように楽しむものなんだよ。
仮に見つけても、それは口にせずに心の中で小さくガッツポーズするのが、紳士の嗜みなのさ。
「ハル、なんでドヤ顔してるの?」
「自分の紳士っぷりに感心しているのさ」
「あっはっは。馬鹿みたいだヨー」
「やかましいよ」
そんなやりとりをマリーちゃんとしていた時だった。
「ああ、そういえば果南さん」
「ん?」
ダイヤちゃんがそんな一言を発する。
「今日は泳ぐ用事でもあるんですの?」
「そうそう。曜に頼まれて水泳部の練習手伝うんだよ」
「水泳部の練習?手伝うことなんてあるのかい?」
「張り合う相手がいる方がいいタイム出るんだってさ」
「なるほど」
曜ちゃんらしいね。
にしても。
「ダイヤ、よく果南が水泳の用事あるってわかったね」
「当たり前ではありませんか。水着、ずっと透けてますわよ」
「え?あ、ほんとだー。校則違反だっけ?」
「まったく…あまり感心できた行いではありませんわよ」
「あっはっは。次は気をつけるよ」
なるほど。
透けていたのは下着ではなく水着だったのか。
残念だったような、安心したような。
少し複雑な気分になった。
ちなみにマリーちゃんは
「下着をチラ見せして誘惑する作戦じゃなかったのねー」
と呟いていた。
誰を誘惑したいかは知らないけどね。
心臓に悪いからやめていただきたいものである。
ご視聴ありがとうございました。
書いてて思ったのは、今回の話、ラブコメ要素ほぼ無いなってことです。
まあ、その、本当に日常の一コマってことでご容赦願います。
それではなにかありましたらお願いします。