果南ちゃんのお話になります。
やっぱりのったりしながら進みますが、読んでもらえれば幸いです。
「はい、これで修繕完了」
「ありがとー。おおー綺麗な縫い目。さすがハル!」
「一応、裁縫もサービスの一つだからね、うちは」
デザインとか持ってきてもらえれば、衣類やクッションなどの小物の裁縫も受けるのが、うち、淡屋のお仕事だ。
実際は、一から作るよりは、今回のように修繕を求められることの方が多いのだが。
今、俺と話しており、修繕依頼を持ってきてくれたのは松浦果南ちゃん。
呼び方は果南ちゃんだ。
浦の星女学院に通い、千歌ちゃん、曜ちゃんと長い付き合いで、彼女たちの一つ上、今年から高校3年生の女の子である。
彼女は小さい頃から随分アクティブに動きまわっており、結構な頻度で服に穴を開けていた。
その度に、彼女の母が服を持ってきていたのだが、いつしか自分で持ってくるようになった。
いい加減に服を大事にしろと怒られたのがきっかけらしい。
そら怒るわ。
「果南ちゃん、今回は何したんだい。女の子がシャツに穴開けるって、何してたか想像できないんだけど」
「いや、ランニングしてたら木に引っ掛けちゃって。あはは」
「あー…なるほど」
確かに、この町には木が多い。
歩道が狭いとこもあるので、木に服を引っ掛けるというのは、あながちおかしいことではないだろう。
ただし
「…穴、背中に開くもんなのか…?」
どんなランニングをすれば、背中に木を引っ掛けるのか。
バク転しながら走ったのか?
怖くて聞く勇気はないが。
「そういえば学校、まだ休んでいるのかい?」
「…うん。まだお父さん、よくならないから」
「そうかいそうかい。いや、申し訳ないね、こういう話題を出してしまって」
「ああ、いや、大丈夫だよ。ハルが心配してそういう話してくれるの、よくわかってるから」
「俺だけじゃない。千歌ちゃんや曜ちゃん、マリーちゃんも心配はしてる」
「うん。そうやって考えてくれてること、感謝してるよ。お父さんの調子、だいぶ良くなってきてるからね。早ければ5月中くらいには復帰できるよ」
お父さんの体調が悪くなり、仕事に支障が出始めたのが去年の冬頃。
自営業の彼女の家は、お父さんが働けないのはかなりの痛手だった。
そこで、一番仕事をよく見てきた果南ちゃんが、急遽代役を務めることになったのだ。
その間、学校は休学となっている。
2年から3年、それも高校。
人生をかけたとても大事な時期だ。
文句の一つも言いたくなるだろうに。
それでも、誰も責めることなく、彼女は本当によくやっていると思う。
「って、なんでそんな深刻な顔してるの?復帰できるって言ってるのに」
笑顔で言う。
「ああ、ごめんよ。ついね」
「そんなに考えなくてもいいよ。多分、ハルが思ってるほど、重いことじゃないし。みんなはちゃんと待っててくれる。…離れたところにいる友達まで、ちゃんと気にしてくれてる」
最後の友達というのは、マリーちゃんのことだろう。
2人はかつて、同じグループで活動した、最大の親友だ。
「それに」
「それに?」
そこまで言って、すぐ近くまで来る果南ちゃん。
人差指をこちらに向けて、彼女は続ける。
「勉強は、ハルが教えてくれるんでしょ?」
また、笑顔になる。
その笑顔は見ているこっちまで笑顔にさせるような、魅力的な表情だ。
「もちろんだよ。俺にできることなら、なんでも教えるさ」
「ふふ。頼もしいね」
「と言っても、正直君に教えられることはだいぶ減ってきているよ。君、飲み込みいいしね」
「そんなことないよ。まだまだ、教えてもらいたいことたくさんあるもん」
「そうかねえ」
基礎教科に関しては学校のカリキュラムはある程度教えたし、彼女本人は非常にストイックだ。
必要とあれば自分で進めていく能力もある。
「わからないとこ、あるのかい?」
「うーん…そうだねえ…」
「保健体育、とか」
そう言って、肩をはだけさせる果南ちゃん。
ここまでは走って来たと言っていた。
そのためか、うっすらかいた汗が、彼女の綺麗な肌をより妖艶に見せている。
って、ちょっとちょっと。
「ダメだよ果南ちゃん。運動して暑いのはわかるけど、まだ冷えやすい季節なんだ。服はちゃんと着ないと」
女の子として、色気を出すのも大事だ。
けどここには俺しかいないんだし、そういったことより体調を優先してもらわないと。
「…はあ。そういうとこ、ほんとに変わらないね」
「これでも歳上なんだから、君の体調に気を使うのは当然だろう」
「いや、そうじゃなくてね…まあいいや。直接言えない私にも責任はあるし」
「何の話だい?」
「なんでもないよー」
何事もなかったように服を着なおす果南ちゃん。
なんだったんだろうか。
「…チカたちも、苦労してるんだろうなあ」
「ああ、そうだね。東京は、俺たち田舎民にはかなり疲れる場所だろうからね」
「ああ、うん。もうそれでいいよ」
そういう意味ではなかったらしい。
会話が噛み合っていない気がするが、おそらく気のせいだ。
「チカたち、いつ帰ってくるって?」
「昨日のメールだと、明日には帰ってくるそうだよ。随分テンションが上がってたみたいでね、文章がめちゃくちゃだったよ」
まあ、文体がおかしいのはそんなに珍しくもないのだが。
だが今回は、理由がはっきりわかっていた。
「スクールアイドル、見てきたんだそうだ」
「!…そうなんだ…」
「…心配しなくても大丈夫さ。千歌ちゃんたちに、君たちのことは言わないよ」
「本当?」
「俺、嘘はあまり言わないつもりだけど、そういう信用はあるのかな?」
「…ん。そうだね。ごめんね、気使わせて」
「たまには歳上に甘えなさいよ。いつも頑張りすぎるんだから」
「…言われなくても、いつも甘えてるよ…」
ん?
最後、声が小さくて聞き取れなかった。
「よっし!気持ち切り替えて勉強しよ!教えてくれるんだよね?」
「え、今?まだ仕事中なんだけど」
「え〜。さっき、なんでもするって言ってなかった?」
「ちょっ、そこでそうくるのかい?」
「あはは。冗談だよ。奥の部屋、借りるね」
そう言って、奥の和室に行ってしまった。
こういう時、あっさり引いてくれるのが彼女の良いところだ。
良いところだが…
「もう少し、わがまま言っても良いんだけどなあ」
時刻は昼の3時半。
予約があった分の商売は、すでに済ませた。
入り口のとこの看板を返し、休憩中にする。
「さて…。暇だし、勉強でもしようかな」
ご視聴ありがとうございます。
これで、アクアの8人目と主人公の関係が描かれました。
最後梨子ちゃんですが、転校生というのもあって悩んでいます。
苦情等ありましたら、お願いします。
それでは。