今回は千歌ちゃんと鞠莉ちゃんとのお話になります
「ラーメン?」
「イエース!」
「ほら、この前新しいとこできたでしょ?一緒に行かない?」
目の前でそんなことを言っているのは、千歌ちゃんとマリーちゃん。
時刻は夕方。
ちょうどこれから晩御飯の準備に取り掛かろうかと考えていた時だった。
今から行くねというメッセージから約2分。
準備も何も全くさせる気がない早さで二人はやってきた。
「もちろん行くのは構わないんだけど…なんというか、珍しいね」
「珍しい?」
「うん。君らが二人でいることもだし、その君たちにラーメンに誘われることがだよ」
「そうだっけ?」
「鞠莉さんと二人っていうの、結構あるよ?」
「そうなのかい」
「おかしい?」
「いや、おかしいってことはないよ」
よくよく思い返せば、マリーちゃんはこれでも後輩の面倒見はかなりいいし、千歌ちゃんも持ち前の明るさで誰とでも仲良くなれるタイプだ。
案外波長の合う二人なのかもしれない。
「それで、ラーメンというのは?」
「あれ?ハルくんラーメン知らないの?」
「ラーメンっていうのは、古くは明治時代に中国人が初めて日本でお店を開いたことが発祥とされるフードです。中華麺と呼ばれる麺と、スープをメインにして構成されているんでーす」
「いや、そういうことじゃなくて。ラーメンは知ってるから」
ていうか知らない日本人てほとんどいないだろう。
「なんでわざわざ誘いに来たのかって聞いてるんだよ」
「今日練習の時にね、ちかっちとラーメンの話で盛り上がったのよ」
「うん」
「それで、二人で行こうってなったんだけど…女子高生二人だと、ラーメン屋さんってちょっと入りにくくて」
苦笑い気味にそういう千歌ちゃん。
「なるほどね。まあ確かに…わからんでもないよ」
とはいえ、ここ最近は牛丼屋とかラーメン屋とかでも、女性だけで来ているのはそこそこ目にするが。
それでも、女子高生二人だと入りにくいというのはあるかもしれない。
「そういうわけで、ハルを誘いに来たんでーす」
「それ自体に特に何かを言うつもりはないんだけどね。生憎、あまりお金がないんだ」
「アイシー、アイシー。ハルが常時金欠なのはこっちもよくわかってまーす」
「お金に余裕のあるハルくんなんて、もうハルくんじゃないもんね」
「おやおや、言ってくれるじゃないか」
悲しくなるからやめてほしい。
事実なのでなおさらだ。
「お金なら心配ないでーす。普段お世話になってるからーって、マミーにギフトカードを渡されてるからねー」
「お世話にって…むしろ贔屓にしてもらってるのはこっちなんだけどね。ていうか、ギフトカードてラーメン屋でも使えるのかい」
「最近はそういうお店もちょくちょくあるみたいだよ?」
小原グループの所有する淡島ホテル。
そのホテルは、うちの大のお得意様の一つだ。
そのため、昔から家絡みで付き合いがあり、向こうも俺のことを知っている。
それもあってか、こうしてお食事の助けを得ることはちょいちょいあったりするのだ。
とはいえ、いくら彼女自身がお金を出すわけではないと言っても、理由もなく奢ってもらうというのは気がひけるなあ。
そんな考えを、マリーちゃんには読まれていたらしい。
「断るのはノーだよ。人の厚意を無碍にするのは、返ってマナー違反だからね、ハル」
「そう言われてしまうと、こちらとしては反論できないね」
ギフトカードをくれたのは彼女の親御さん。
理由は普段のお礼。
それを理由に、自分を納得させることにする。
「…わかった。ありがたく厚意に甘えるとするよ」
「オッケー!」
「ハルくん来てくるの?やったー!」
そんなわけで、3人で最近できたらしいラーメン屋に向かう。
車で移動すること15分程度で目的地に到着した。
「わー…さすがにちょっと混んでるね」
「できたばかりで、明日が土曜日だからね。しかも夕飯時とくれば、それなりには混むだろう」
「まー大人しく待ちましょ」
行列というほどでもないが、店から若干はみ出る程度に人が並んでいる。
パッと見る限り、俺たちの前に三組ほどのお客さんがいたようだ。
とはいえ、ラーメン屋だったらそこそこ回転率はいいだろうし、待ちくたびれるってことはないだろう。
適当に雑談でもしてればすぐかな。
「そういえば、今日はなんでラーメンの話になったんだい」
「最初は、ラーメンっていうよりはカップ麺の話だったんだよ」
「そこから、最近できたこのお店の話になったの」
「ああなるほど。千歌ちゃんはともかく、マリーちゃんはあまり来なさそうなイメージだよ」
「イエース。だからとっても楽しみです」
「私もー!最近はあんまり行ってなかったからね!」
ちなみに俺もここ最近はラーメン屋に行った記憶がない。
まあお金ないし、外食自体が非常に少ないんだけどね。
あ、でもカップ麺ならよく食べてるな。
「…ハルくん、カップ麺はラーメンとはもはや別の別の食べ物だと思うよ」
「相変わらず人の心を読むのが上手だね」
「相変わらず考えを外に出すのが上手ね、ハル」
「返す言葉もないよ」
そんな話をしていたら、どうやら俺たちの番まで回ってきていたらしい。
店員さんにテーブル席へ案内され、メニューを開く。
そこに掲載されている様々なラーメンたち。
思っていたより種類が多い。
その全てが、空腹のこの状態では魅力的に見える。
「ハルくんのオススメは?」
「この店は初めて来るしなんとも言えないね」
「じゃあオススメのラーメンの味は?」
「あえて言うなら全部だね」
「あはは。ハルくんらしい答えだね」
誰が答えることになっても同じことを言いそうだけどね。
そんな会話をしていたら、メニューを見てマリーちゃんが一言。
「んー…ラーメンって、思ってたより安いのねー」
「そう?どこもこんなもんじゃない?」
「そうだね。俺にも普通の値段に見えるよ」
「へー…」
ラーメンの値段は、だいたい600円から900円程度。
人によって若干の感じ方に違いはあるだろうが、それでも十分常識の範囲内の値段だと思う。
だが、マリーちゃんにはそう見えなかったらしい。
「そういえば聞き忘れていたけど、ギフトカードはいくら分のを持ってきてるんだい?」
「んー…もっと高いものだと思ってたからねー。これくらい?」
そう言ってギフトカードを見せてくれる。
その金額は…
「いち、じゅう、ひゃく、せん…十万…十万円…」
「…十万円のギフトカード」
「…何を考えているんだい君は」
「だって相場がわからなかったんだもん!」
「十万円のラーメンてどんな味するんだろう?」
「そもそもこの世にあるのかい、そんなの」
「パパに頼んで探しとくよー」
「いや、そんなことをわざわざ頼まんでもいいよ」
「大丈夫大丈夫。見つけたらハルにも食べさせてあげるから」
「そういう心配じゃなくてね。というか食えんよ、そんな高いもん」
あれ?ギフトカードってお釣り出ないんじゃなかったっけ?
だとしたらこれ、相当勿体ないことをしてるんじゃないのか…?
そう思ったけど、マリーちゃんがニコニコしながらメニューを見ているのを見て口を開けないことにした。
まあもしもの時は俺が払おうじゃないか。
予算はうん、なんとか、ぎりぎり、紙一重で、足りるとは思う。
結局のところ。
俺が味噌、千歌ちゃんが塩、マリーちゃんが醤油ラーメンを頼むこととなった。
待つこと数分程度。
三人揃ってお食事が到着。
箸を割り、いただきますの言葉とともに、三人仲良くラーメンに手をつける。
「うん、おいしい」
「おおー!これはいいよ!」
「ん〜デリシャス!」
三者三様の反応ではあるが、全員おいしいと感じたのは同じのようだ。
「ハルくんもこれ味見してみてよ!ほら」
千歌ちゃんがそう言いながら自分のラーメンをこちらへやってきた。
一緒に入っているバターの香りが鼻腔をくすぐる。
「いいのかい?じゃあ一口いただくよ」
そう言って蓮華でスープを一杯だけいただく。
うん、これはこれでとてもおいしい。
千歌ちゃんにお礼を言おうとした時。
なぜだかその顔が赤くなっていることに気付いた。
「千歌ちゃん、どうしたんだい?」
「そ、それ…わ、私の蓮華…」
「え?ああ、俺のを使うとスープの味が混ざっちゃうと思ったからそうしたんだけど…まずかったかい?」
「ええ!?い、いや、そ、そうじゃないけど…か、間接キス…」
声がどんどん小さくなってしまって最後の方がほとんど聞こえなかった。
顔は逆にどんどん赤くなっているが。
とはいえ、確かにこれはよくなかったのかもしれない。
そんなことを思った直後。
「ハル!ちかっちばっかりずるいよ!こっちも味見してちょうだい!」
「何がどうずるいのさ」
「いいからほら!」
「まあ、くれると言うならいただくけどさ」
さっきの反省を活かし、今度は自分の蓮華でスープを掬う。
「って、なんで自分の蓮華を使うの!?」
「ええ?いや、さっきの千歌ちゃんとのやりとりから反省したんだけど…」
「反省するのはその鈍感さだけでーす!
「なんでこのタイミングで鈍感の話が出るんだい?」
「ハルが鈍感だからです」
「堂々巡りだね」
意図は分からないが、言われた通りにマリーちゃんが渡してくれた蓮華を使ってスープをいただく。
うん、こっちもやっぱりおいしい。
「…これ、思ってたよりだいぶ恥ずかしいですねえ…」
「あ、鞠莉さんもやっぱそう思う?」
「ラーメン食べながらドキドキさせられるなんて思ってなかったでーす」
「なんの話をしてるんだい?」
「「うるさい鈍感」」
ラーメンは温かいのに、この子たちが少し冷たい。
全員が食事を終えるのに、そんなに時間はかからなかった。
箸を置き、仲良くご馳走様。
まだまだ人が並んでいる様子もあったし、早々に席を立つことにする。
「美味しかったね!」
「ミートゥー!また来ましょう」
「そうだね。賛成だよ」
適当な話をしつつ帰路を辿る。
なんでもない話をしながらちょっとおいしいものを食べる。
たまにはこんな一日もいいだろう。
車で三人と話しながら、そんなことを思ったのだった。
※
ちなみに。
お会計時にお金は俺が払った。
さすがに、三千円もかかってない食事のために十万円分のギフトカードなんて使えません。
マリーちゃんには気にするなと言われたが、半ば強引にこちらから財布を出したのだ。
その結果…
「あれ?ハル、これ、ギフトカードよね。どうしたの?…かなり高い額のものみたいだけど」
「封筒に入ったものを勝手に見るのは感心しないが…善子ちゃんもやっぱりそう思うかい」
「そうだよ、よっちゃん。どれどれ…ってうわ!十万円分!?。どうしたのこれ」
「曜ちゃん、君もやってることは同じ…まあいいや。それ、小原家からいただいたんだよ。この前のお礼ですってね」
「お礼って…あんた達が言った場所ってラーメン屋でしょ?そんなたくさん食べたの?」
「そんなわけないだろう。金額なんてせいぜい三千円ってとこだよ」
「どういう経緯でこれがお礼として出てくるのよ」
「もともとこれで払うつもりだったから、受け取ってくれって言われちゃってね」
「どういうこと?」
大雑把に経緯を話す。
マリーちゃんが十万円のギフトカードを持ってラーメン屋に連れて行ってくれたこと。
さすがにお釣りの出ないそれで払わせるのは気が引けて、結局俺が払ったこと。
「なるほどねー」
「じゃあそのまま受け取ればいいじゃない。悪いことしてるわけじゃないんだし」
「悪いことじゃないかもしれないけどね。三千円払ってお返しに十万円のギフトカードもらうって、もうこれほとんど窃盗だよ」
「いやいや、マイナスに考えすぎでしょ」
「とりあえずは大事に保存しとくことね」
「まあうん…そうさせてもらうよ」
目の前の封筒に入っている高額ギフト券。
その後金庫に入れられたこいつが、本来の役割を果たす日が来るのか。
それは、今の俺には分からない。
ご視聴ありがとうございました。
今回はラブコメ臭がちょっと薄かったですね。
もうちょっとラブコメっぽくしたかったのが本音です。
それではなにかありましたらお願いします。