今回はダイヤちゃんと梨子ちゃんとのお話になります。
最近、なんだか『鈍感』という言葉を聞くことが多くなった気がする。
理由は残念ながら分からない。
でも、言われることが多くなったのは確かだと思う。
別にそれについて何かする必要があるわけではない。
ないが…
鈍感と一言呟く子の多くが恨みがましい視線を向けてくるので、若干考える必要があるんじゃないかと思い始めている。
今度誰かうちに来た時にでも軽く相談してみようか。
※
「確かに、いい加減ハルさんの鈍感っぷりはなんとかするべきだと思いますわ」
「そうなのかい」
「あはは…でも、確かにちょっとくらい改善してもいいかもね」
「そうはいっても、何をどう改善すべきなのかね」
「自らの鈍感っぷりに気づかないことが、鈍感の鈍感たる象徴ですわ」
「…哲学的な話かい?」
本日うちへやってきたのはダイヤちゃんと梨子ちゃん。
ここ最近は珍しい組み合わせで来ることが多いなあ。
「何か言いたいことでもありまして?」
「いや、そういうわけじゃなくてね。珍しい組み合わせだなと思って」
「んー…確かに、ハルさんのとこにダイヤさんと来るのは珍しいかも」
「そうですわね。でも、そんなに珍しい組み合わせでもないですわ」
「ほう」
「梨子さんは、比較的やかましい2年生組の中では一番大人ですから。話しやすいのです」
「なるほど。でも、やかましさだったら君らも負けてな…ぐえ」
そこまで言ったところで、ダイヤちゃんからクッションが投擲された。
痛くはないけど、言葉はそこで途切れてしまった。
「何か言いまして?」
「…心当たりがないよ」
「それならよろしいですわ」
「あ、あはは…」
それを見て梨子ちゃんは苦笑い気味である。
というか、この行動そのものが、ダイヤちゃんががやかましい側にいる証拠になっている気がするんだけど。
もちろん口にはしない。
口にしたらクッションとは比べ物にならないものが投げ込まれそうだし。
「はあ。まあいいですわ。話を戻しましょう」
「梨子ちゃんとダイヤちゃんが意外に仲が良いって話かい?」
「それよりもう少し前ですわ」
「鈍感の話のところね」
「ああ、そういえばそういう話だったね」
「もう。その話を振ったのはハルさんよ」
「そうだったね。忘れていたよ」
「鈍感の原因は頭の悪さにありそうですわね」
「否定はできないけど、それだと解決もできなさそうだ」
「いえいえ。逆に、鈍感が治れば頭もよくなるかもしれませんわよ」
「それは魅力的な提案だね。それじゃあ頭をよくするためにも、鈍感を治すのに協力しておくれ」
「結局そこに戻るのね」
ダイヤちゃんからの皮肉が一段楽し、またしても梨子ちゃんが呆れた様子を見せてくれた。
かと思えば、すぐにダイヤちゃんとヒソヒソ話を始めるのだった。
「…ダイヤさん、ハルさんの鈍感って治るんですか?」
「…やる前に諦めるのはポリシーに反しますが、正直ほぼ不可能だと思いますわ」
「…やっぱりそうなんですか?」
「鈍感の治療はこれまでにも私たちは取り組んできましたわ。でも、微塵の効果も見せませんでしたわ」
「ある意味、鈍感ゆえにってことなのかな…」
「ですので、今回は直接鈍感を治すのは諦めますの」
「ええ?じゃあどうするんですか?」
「それは…」
内緒話が終わったらしく、二人がこちらへ姿勢を向き直す。
相談は終わったらしい。
「話し合いは終わったかい?」
「ええ。鈍感を治すのは不可能という結論に至りましたわ」
「それは困ったね」
「もう少し困った感じを出してもいいんじゃ…」
「そう言われてもね」
「仕方ないので、まずはハルさんの中にある『人を好きになる気持ち』に火をつけることを目標としましょう」
「ほう」
「まずは人の気持ちに気付く前に、自分の気持ちに気付く必要があると思いますので」
「ああ、なるほど」
「遠回りにはなってしまいますが、このアンポンで朴念仁のハルさんではこれくらいのとこから始めるしかありませんし」
「そうですね」
「最後の一言はいらなかったね」
そう言う俺の一言は軽くスルーされた。
「まあ、話を持ちかけたのは俺の方だしね。感謝の証としてお茶でも入れるよ」
「あら。ありがとうございます」
「あ、手伝おうか?」
「いや大丈夫だよ。少し待っててくれ」
冷蔵庫からお茶を取り出し、プラスチックのコップに注ぐ。
適当なお茶請けと一緒にお盆に乗せてダイヤちゃんと梨子ちゃんの元へ。
今日のお茶請けはカステラだ。
一応お菓子屋さんで買ったものなので、結構美味しい…はず。
「さて、それじゃあ具体的にどうするのか聞こうかな」
「先ほども言ったように、まずはハルさんが人を好きになる気持ちを理解する必要がありますの」
「そういえばハルさん、好きな人いるの?」
「そういう話は以前にもあったような気がするよ。あ、それと好きな子ならいるよ」
「ええ!?いるの!?」
「そんなに驚くことかい」
「…梨子さん、気持ちは分かりますが話は最後まで聞いた方が良いですわよ」
これでもまだまだ若い男子なのだ。
好きな女の子の一人や二人、いても当たり前というものだろう。
「そ、その好きな人というのは…?」
「女子高生」
「……………へ?」
「案の定ですわね」
「隠す気もないからね」
「外で口にしたら捕まりますわよ?」
「君たち以外の前ではしないさ」
「私の方から警察に連絡いたしましょうか」
「手厳しいね」
「って、そうじゃなくて!」
俺とダイヤちゃんが話していたら、梨子ちゃんが間に入ってきた。
こうして机をバンバンされるのは少し久しぶりな気もする。
別に机をバンバンしてもらいたいわけではないんだけどね。
そんなことを考えている最中、梨子ちゃんが話を続ける。
「こういう話の時に好きな子が女子高生って、話が進まないでしょ!」
「そう言われてもね。好きなものは好きなんだよ」
「そうじゃなくて!もうちょっとこう…いるでしょ!特定の人が!」
「うーん…あ、そうだね」
「誰か心当たりが!?」
「Aqoursのみんなが大好きだよ」
「だからそうじゃなくて!」
「梨子ちゃん、今日はずいぶんテンション高いね」
「誰のせいだと思ってるの!?」
いつもに比べて大きな声を出しながら、やっぱり机を叩く梨子ちゃん。
机がかわいそうではあるが、たまにはこういう梨子ちゃんも新鮮でいいかも。
などと思っていたら、ダイヤちゃんがそれをなだめにかかっていた。
「梨子さん落ち着いてください。ハルさんがこんな感じなのは今に始まったことではありませんわ」
「でもこれだと…」
「ええ。このままだと埒があきませんので…ちょっと趣向を変えていきます」
「ほうほう。それはいい案だね」
「…誰のせいだと思ってますの」
ダイヤちゃんは完全に呆れている様子。
「こちらから『ロマンチックな状況』を提案します。ハルさんは、それに対して見合うと思う女性を考えてください」
「大喜利みたいだね」
「妄想の中ででも、誰か一人を『ヒロイン』として考えるのは恋愛を意識する重要なステップなんだそうですわ」
「な、なるほど」
「面白い考え方だね。どこかで聞いた話なのかい?」
「恋愛心理学の本に載ってましたわ」
「…まあ、勉強熱心なのはいいことかな」
図書館とかに置いてあったのかな。
というか、その恋愛心理学の本を俺に貸してくれればよかったんじゃないかな?
そんなことを考えたけど、口にはしないことにした。
「では早速…目を瞑ってください」
「ん」
「…ハルさんは今、夜景の綺麗な展望台位の上にいます」
「うむ」
「今日一日、ショッピングデートを楽しんだ最後の締めとしてそこにいるのです」
「うんうん」
「満天の星空と、地上を明るくしているビル群。天然の光と人工の光が同時に存在するその場所。さあ、横を向いた時…横にいるのは誰ですの?」
「…果南ちゃん…かなあ」
「ええ!?」
「な、なんでですの!?」
「なんでって…昔からちょくちょく天体観測する仲だしね。星空っていうと、彼女が出て来やすいかなあ」
「な、なるほど…」
「ぐぬぬ…悔しいですが、確かに果南さんのアタックの仕方は有効だったようですわ…」
アタックってなんのことだろう。
打撃的な話かな?
「違いますわ」
「口にした覚えはないんだがね」
「ハルさん、本当に分かりやすいわね」
「梨子ちゃんとはまだ半年くらいの付き合いのはずなんだけど…よくわかるもんだ」
「私は鈍感じゃないからね」
ため息とともにそんなことを言われた。
多分それが皮肉で言ってるであろうことは、さすがの俺にもわかった。
「はあ…まあ気を取り直して次にシチュエーションに行きますわよ」
「おっと。他にもシチュエーションがあるんだね」
「いくつも異なる状況を挙げて、最も多く登場する女の子が自分の強く意識する女の子なんだそうですわ」
「そういうものなんだね」
「そういうわけで次ですが…」
その後。
ダイヤちゃんと梨子ちゃんから色々なシチュエーションを提案された。
しかし。
しかしである。
「…なんでこうなるんですの…!」
俺の答えをメモしていた紙を、破れんばかりに握りながらダイヤちゃんが言う。
「…見事にバラバラね」
もう何度目かの呆れ梨子ちゃん。
結果的に、挙げられた状況に対して全部で別の女の子が挙がった。
当初の目的であった、強く意識している女の子探しには不適切な回答だったようだ。
「これでは誰が好きかと絞れないではないですか!」
「そう言われてもね」
「しかもハルさん、私とダイヤさんの名前も挙げてたわね」
「そりゃああのシチュエーションならね」
コンサートの後、余韻に浸りつつも勢いで告白する。
和服を着て、手をつなぎながらお祭りデート。
前者は梨子ちゃん、後者はダイヤちゃんといるのが頭に浮かんだのだ。
「まあ根本的に、そういう妄想をしたところで、それが現実になる可能性は皆無だろうけどね」
「…鈍感も全く改善の様子が見られませんわ…」
「はあ…そうですね…」
「ずいぶんため息が多いね」
「誰のせいよ」
今度はジト目の梨子ちゃん。
まあこれはこれでかわいい。
「そんなに深く考えなくてもいいんじゃないかな?むしろ、最初に言っていた通り、Aqours全員が好きということの証明になったじゃないか」
「あのですねえ…じゃあ仮に、Aqoursのメンバーから告白されたらハルさんはお付き合いするんですの?」
「告白?…………………現実離れしすぎて想像ができないね」
「意味ないじゃありませんか!」
「何度か言っているけど、妄想ならともかく、現実で俺が君たちに手を出すのは犯罪すれすれの行為なんだよ」
「女子高生大好きっていいながら今更そんな…」
「手は出さないからね」
「はあ…前途多難ですわね…」
「そうですね…」
相談したのは俺の方なのに。
なぜだかその日、俺よりずっとたくさんため息をつく二人の姿がそこにあった。
※
「ダイヤー!昨日梨子とハルのとこに行ったんだって?」
「どんなトークをしたのー?」
「鞠莉さん果南さん。いつもの雑談ですわよ」
少女は親友二人に昨日の内容を話す。
鈍感という症状は、一切の改善を見せなかったという結論を最後に据えて。
「というか、私と梨子さんに鈍感の治し方を聞いた時点で、ハルさんの鈍感さが顕著に出ているのです」
「ああ、確かにねー」
「治らない病気だねー」
「まあ…そのおかげで、誰かに先を越される心配も少ないんだけどね」
「それもそうですねえ」
「告白しても流されそうなレベルですからね」
「それに、女子高生には手が出せないってことなら、一番早く高校を卒業できる私たちが有利なのかも」
「オー。そういう考えもありですねー」
「果南さんはポジティブですわね」
「そりゃあ長い付き合いだからねえ。…鈍感を治すのは、もう諦めたよ…」
「…ポジティブっていうか…」
「…悟っているんですのね…」
晴れやかな青空を見上げる彼女たち。
その表情は。
少しだけ曇っていたそうだ。
ご視聴ありがとうございました。
書いてて思ったのは、ここまで鈍感だと最早気付いてるけど流してるって思われる方が自然だなってことです。
が、この作品では主人公はみんなの想いに気付いていませんし、今後も気づくことはほぼないでしょう。
それでは何かありましたらお願いします。