CYaRon!とのお話になります。
とある月曜日。
そんな日の午前10時頃。
「宿題がね!やばいの!」
バンッと、叩き割らん勢いで千歌ちゃんが机を叩く。
「話は聞くから、机を叩くのはやめてくれるかい」
「今言った通りだよ!宿題がやばいの!」
「君は俺の話を先に聞こうか」
言いながら机を叩く千歌ちゃん。
もう何度目ともしれない注意を口にしつつ、事情を聞く。
本日うちへやってきたのは千歌ちゃん、曜ちゃん、ルビィちゃんの三人。
Aqoursのユニットの一つであるCYaRon!のメンバー達だ。
騒がしさ…ではなく元気が売りの彼女達は、今日も今日とてその元気っぷりを見せつけてくれている。
でも、いい加減机がかわいそうなので少し遠慮して欲しいところだ。
ちなみに、俺と千歌ちゃんのやりとりを見て、曜ちゃんルビィちゃんは苦笑い気味である。
今日は祝日で学校はないらしく、Aqoursの練習もお休みらしい。
そんな日に午前から来るのは珍しいなと思ったら、この状況である。
「宿題が…どうしたんだい?」
「全然終わってないの!」
「…それで?」
「手伝って!」
思わず言葉を失う。
別に宿題をやってないことについてどうこう言うつもりはない。
自分が高校生だった頃に似たような経験はあったしね。
言葉を失った理由はそこではないのだ。
思わず呆れてしまった理由。
それは。
「…俺の学力を知ってるだろう。最低限教えることはできても、宿題を効率よく手伝えるほどの能力はないよ」
「それでもいいから!」
「いやまあ、君がいいならそれで構わないけどね」
「本当に!?」
「うん」
店も今日は休日で、特に断る理由もないしね。
と、そこでとあることに気付く。
「そういえば、千歌ちゃんはわかるけど、曜ちゃんとルビィちゃんはどうして来たんだい?」
曜ちゃんも、勉強が特別得意というわけではない。
しかしながら、部活のこともあるし最低限課題はこなすタイプだ。
ルビィちゃんは言うまでもなく根が真面目。
ダイヤちゃんから言われることもあるだろうし、本人がそもそも課題とかそういうのをサボるタイプではない。
要するに、千歌ちゃんと一緒に宿題で悲鳴をあげる二人ではないはずなのだ。
はずなのだが…。
「あー…あはは」
「その…すいません」
バツの悪そうな顔をする二人。
君たちもかい。
「君らが宿題をやってないというのは珍しいね」
「いやー最近いろいろ立て込んでてさー」
「まあ忙しかったのはわかるよ」
「お、わかってくれる?さすがハルくん!」
「でも、やらなくていい理由にはならんからね」
「うげー。わかってるよおー」
口を尖らせる曜ちゃん。
かわいい。
「わ、私は自分なりにやったんですけど…やる場所を間違えてました」
半泣きで言うルビィちゃん。
なんというか…らしいといえばらしい。
「やる場所って…何ページくらい間違えたんだい?」
「10ページほど…」
「なんというか…お疲れ様。手伝うから、一つずつ終わらせよう」
「はい…」
そんなわけで彼女達の宿題を手伝うことになった。
「とりあえず三人とも奥の部屋に行っててくれ」
お茶を取りに冷蔵庫へ。
ついでにメモ帳とシャーペンを持って和室へ行く。
部屋に入ると、すでに三人とも課題を開いていた。
「今更だけど、宿題で手伝うことってあるの?」
「普段ならないんだけどねー。今回の数学の宿題さ、答えが用意されてないんだよ」
「そうそう。なのに全問解いて来いって言われててさー」
「…言いたいことはわかるけどね。もう少しこう…自力で解こうという気概をだね」
「え?そもそも宿題って答え見ないでやるものじゃないんですか?」
「「…………………」」
「後輩に何か言ったらどうだい、君たち」
ルビィちゃんの素直な質問に、目線を逸らす先輩二人。
まあこの子らの気持ちも分かるけど。
早い話、彼女達では解けないところを解いてくれってことだろう。
「でも俺、正直全部の模範解答考えられるほど勉強はできないよ。それはいいのかい?」
「それでいいんだよ!私たちが全問正解なんてしたら、それこそ誰かのやつ写したって思われちゃうでしょ!」
「いや、実際に俺のやつ写すんだよね?」
「ハルくんは生徒じゃないから大丈夫」
「そんなもんかい」
「うん!」
というか間違えるのが前提になってるのか。
否定は仕切れないけど、若干腑に落ちない。
「まあいいか。それで、ルビィちゃんは俺にどうして欲しいのかな?君は答えももらっているだろうし、あっても仮にあってもそれを写したりはしないだろうに」
「は、はい。ただその…答え見てもわからなかったところを教えてもらいたくて」
「ああ、なるほど」
表現は悪いが、宿題ごときでそこまでやる必要はあるんだろうか。
いや、勉強ができる子はみんな宿題とかも真面目にやってるんだろう、きっと。
「よし、じゃあ始めようか」
「「おおー!」」
「が、がんばるびい!」
これだけ気合が入っていれば、3、4時間くらいは集中が続くかな。
※
「うう〜…疲れた」
「私も〜…」
「…2時間で潰れるとは思わなかったよ」
「だって〜」
「もう、数字は見飽きたよ〜」
「じゃあ…ほら、このページをやったらどうだい。文字がいっぱいだよ」
「ぎゃあああ!こんなのも残ってるの!?」
「いやあああ!やりたくなああい!」
「二人ともやかましいよ。ルビィちゃんは真面目にやってるんだから邪魔しないようにね」
「あ、大丈夫ですよ」
苦笑いしながらそう言ってくれるルビィちゃん。
いい子である。
とはいえ、時刻は正午。
そろそろお腹も減る頃だろうし、休憩のタイミングとしては悪くないだろう。
「あれ?ハルくんどうしたの?」
「お昼ご飯を用意しようと思ってね。軽く何か作るよ」
「おー!いいねいいねー」
「あ、何か手伝いますか?」
「いや、大丈夫だよ。勉強しながら待ってておくれ」
「うへー。りょうかーい」
「りょうかーい」
不満顔で敬礼をしている2年生二人。
こんなペースで終わるんだろうか。
「はい、今日はオムライスにしたよ」
「いえーい!」
「いえーい!」
「い、いえーい?」
「無理に先輩に合わせなくてもいいんだよ、ルビィちゃん」
冷蔵庫に余っていた食材を使って作ったオムライス。
評判はいいみたいだ。
「んー、おいしいー」
「いやー、疲れた体に染み渡るねえ」
「すごい美味しいです」
「それはよかったよ」
「ハルくん、ご飯作るの上手だよね」
「君らの好みを知ってるだけだよ。万人受けするほど美味しくはないさ」
「そうかなあ。これならうちの旅館でも出せるよ!」
「ほうほう。じゃあ店が潰れたら千歌ちゃんのところで働かせてもらおうかな」
「ほ、ほんとに!?」
「ん?まあ、潰れるようなことは極力避けるけどね」
「お、お店が潰れればハルくんがうちに…」
小声でよく聞こえないけど、なんだか千歌ちゃんが物騒なことをつぶやいている気がする。
「むー…」
「どうしたんだい、曜ちゃん」
「なんでもないもん!」
「?」
よくわからないが、曜ちゃんが口を尖らせている。
んー…ここは話題を変えたほうが良さそうだ。
「そういえば、今日はなんでうちに来たのかな?」
「なんでって…勉強するためでしょ?」
「ああいや、それは分かるんだけどね。君たちの場合は勉強を教えてくれそうなメンツが周りにいるだろう?」
千歌ちゃんの場合は姉が二人いる。
ルビィちゃんも同じく優秀な姉がいる。
曜ちゃんにしても、梨子ちゃんとかAqoursの先輩とか勉強を教えてくれそうなメンバーはそれなりにいるはずなのだ。
「なんでわざわざうちだったのかな、って思ってさ」
「決まってるでしょー。その周りの人たちが教えてくれなかったからだよ」
「教えてくれなかったって、志満さんや美渡さんがかい?」
「そうそう。自業自得だーって言われてさー」
「まあそれも正論だけどね」
「でもー」
「ちなみに梨子ちゃんも教えてくれなかったよ。というか、ダイヤさんが禁止したんだけどね」
「ダイヤちゃんが?」
『スクールアイドルであることを理由にして、勉強ができないなどと言うことはあってはなりませんわ』
『まして、学校に与えられた課題で人のものを写すなど問題外!』
『というわけで、みなさん必ず自力で解くように!』
「だってさー」
「なんというか…さすがダイヤちゃんだね」
「真面目すぎるのも困り者だよー」
「まあそれも彼女のいいところだからね」
「あはは…あ、そういえばハルさんは宿題とかは真面目にやってたんですか?」
「俺?んー…そうだね。わりと真面目にやってた方だと思うよ」
「そうなの!?」
「嘘!?」
「…失礼な反応だね君たち。うちはばあさんが厳しかったからね。なんだかんだで真面目にやってたよ」
「そうなんですか」
「でもハルくん、成績って中の中じゃなかった?」
「元がよくないんだよ。だから真面目にやったところで、特別いい点はとれなかったのさ」
「へー。でもなんかハルくんっぽいね」
「自分でもそう思うよ」
そんな雑談をしつつご飯を進める。
それから2時間ほどして、再び勉強を開始するのだった。
※
「お、終わったあああ…」
「つ、疲れた…」
「うゅ…」
そんな声とともに机に突っ伏す三人。
あれからさらに数時間かけてようやく全員が宿題を終えたのだった。
「お疲れ様三人とも」
「う〜い…」
突っ伏しながらガッツポーズを見せてくれる千歌ちゃん。
もう顔を上げる力も残ってないらしい。
「…冷蔵庫に羊羹があるんだけど、食べるかい?」
「食べるー」
「私もー」
「る、ルビィもいいですか?」
「そりゃもちろん。三人分持ってくるよ」
冷蔵庫を開けて羊羹を取り出す。
あらかじめ切り込みが入れてあり、ちょうど3分割されている。
お盆に取り分けようの皿と爪楊枝を乗せて奥の和室へ。
三人ともさっきまでと変わらず机に突っ伏していた。
「持ってきたよ。取り分けるからちょっと待って…」
そこまで言った時だった。
「ハルくん」
曜ちゃんの一言に遮られた。
「どうしたんだい」
「私、今、とても疲れてます」
「そうだね」
「手を動かす元気、もうないの」
「それは困ったね」
「でも、羊羹は食べたいのです」
「…どうしたいんだい?」
多分何か伝えたいんだろうけど、俺にはまだ分からない。
考えていたら、曜ちゃんが顔だけ上げてこっちを向いた。
「手が使えないけど、口は開きます」
「そうだね。喋れてるもんね」
「そして、羊羹が食べたいのです」
「…それで?」
「さすがに分かるでしょー。ほらー」
そう言って口を開けている曜ちゃん。
その姿はさながら、餌を待つ雛鳥である。
まあ要するに、食べさせろと言うことだろう。
断る理由もないし、役得ってことでやらせてもおうじゃないか。
「はい、じゃあ口開けてね」
「あ、う、うん」
「どうしたんだい。もしかして間違ってたかな?」
「え、あ、いや、そうじゃなくてね。うん、こ、心の準備が…」
「なんのことさ。ほら、あーん」
「あ、あーん…ん」
口に入れてまたすぐ下を向いてしまった。
気のせいか耳が赤い気がする。
「味はどうだい?」
「…あんまり分からない」
「もうちょっと味わっておくれよ」
「うるさいバカ」
「なんでさ」
頭に疑問符を浮かべていたら、裾を掴まれたことに気づく。
掴んでいるのは…
「ルビィちゃん?」
「は、ハルさん」
「どうしたんだい?」
「…ルビィも、手が動かないです」
「…ふむ」
「…でも羊羹は食べたいのです」
「…あー…顔、上げられるかい?」
「はい」
曜ちゃんと同じく、口を開けるルビィちゃんにあーんをしてあげる。
曜ちゃんよりさらに小動物っぽさが見える。
「おいしいかな?」
「うゅ…はい…」
「あれ?」
ルビィちゃんまで顔を突っ伏してしまった。
さっきからどうしたんだろうか。
そんなことを考えていたら、また裾を掴まれた。
「今度は千歌ちゃんかい」
「二人だけずるい」
「君も羊羹食べたいのかな?」
「そういう事じゃないけどそれでいいよ」
「えっと…じゃあほら、口開けてね」
「うん!はい!あーん!」
「…どう見ても元気いっぱいに見えるんだけど」
「気のせいだよ!ほら!」
「まあいいけどさ。はい、あーん」
「ん…んー、おいしい!」
「それはよかった。じゃあこのあとは自分で…」
「あーん」
「…何をしてるんだい?」
「何って、まだ羊羹あるでしょ?」
「あるけど」
「だからほら。あーん」
「…あーん」
「ん。えへへ」
満面の笑みを見せてくれる千歌ちゃん。
なんというか、羊羹でここまで喜んでくれるというのはありがたいものだ。
「ってちょっとハルくん!こっちもまだ羊羹残ってるよ!」
「こ、こっちもです!」
「ええ?君たちもかい」
「ほら!」
「ハルくん!」
「あーんです!」
そう言いながら机をバンバンする三人。
どう見ても元気余ってるよね。
そう思いつつも、可愛らしい三人を前に文句は言えないのだった。
ご視聴ありがとうございました。
いつも通り日曜日に投稿したつもりになってたらできてませんでした。
申し訳ないです。
それでは何かありましたらお願いします。