今回は2年生組とのお話になります。
雨の日と布屋さん1
「やってしまった…」
目前で止む気配を見せない雨を眺めつつ、そんなことをぼやく。
今俺がいるのは駅。
商売の話で隣町に用事ができたのが先週。
そのために今日電車を使ったのだが、せっかく天気もいいので歩いて駅まで行こうと考えたのが今朝。
そして、天気予報を見てなかったためにこの雨の中で帰る術を無くし、雨宿りしているのが今である。
「傘を買う…いや、お金がもったいないしな…」
まあ要するに、雨が降る可能性を失念しており、傘を持ってくるのを忘れたのだ。
駅とうちの距離的に、歩くのは余裕だが、この雨ではさすがにびしょ濡れになるだろう。
しかしながら、傘を買うには少々お金がもったいなく感じてしまう。
最近金欠なのだ。
「仕方ない…か」
覚悟を決め、構えをとる。
この雨の中をダッシュして帰ろう。
そう決めた直後だった。
「おーい!ハルくーん!」
少し遠くからそんな声が聞こえた。
そちらに目をやると、傘をさしたままこちらに駆けてくる少女が視界に入る。
あれは…曜ちゃん?
その向こうには千歌ちゃんと梨子ちゃんの姿が見える。
そんな3人がこちらにやってくるまで、時間はそんなにかからなかった。
「3人とも、こんにちは。どうしたんだい?」
「ハルくんが遠くから見えたからねー。慌ててこっち来たんだよ」
「よくあの距離から俺の姿が分かったね」
「雨の中で飛び込みの姿勢とるような人、ハルくんくらいだし」
「飛び込みじゃなくてクラウチングスタートだよ」
「いや、それもおかしいから」
梨子ちゃんにそう言われる。
「ハルくん、どうせ傘忘れたんでしょ」
「おや、よく分かったね」
「それ以外の理由で雨の中で走ろうとする人はいないでしょ」
「そういう趣味かもしれないじゃないか」
「そんな人見たことないわ」
「それもそうだね」
そんな会話の後。
「えっと…じゃあハルくん、私の傘、入ってく?」
千歌ちゃんがそんなことを言った。
「それはありがたいけど…いいのかい?」
「う、うん///私もその…嬉しいし」
最後の方が小さくてよく聞こえなかったが、相合傘を許可してくれるようだ。
思わぬ提案である。
「じゃあ失礼して…」
入れてもらう以上、傘を持つのは俺の役目だろう。
そう思い、千歌ちゃんから傘を受け取ろうとした時だった。
「「ちょっと待ったー!」」
曜ちゃんと梨子ちゃんからそんな声が飛んできた。
なんだろうか。
「な、なんで千歌ちゃんと相合傘なの!?」
「え、なんでって…千歌ちゃんが許可してくれたから…かなあ?」
「だ、だったら、わ、私も大丈夫よ!」
「もちろん私もだよ!」
「いや、そう言われてもね」
なんと反応すればいいのか。
よく分からないけど、彼女達も傘に入れてくれるらしい。
みんなあれかな、傘を持ってくれる人が欲しいのかな。
とはいえ、当然だが傘は一つあれば十分なので、誰かのに入れればいいのだが…。
「千歌ちゃんの傘じゃちょっと小さいでしょ?ほら、私のなら二人余裕だよ」
「ああ、梨子ちゃんずるい!」
「梨子ちゃんのじゃ女の子っぽ過ぎるんじゃない?ほら、私のなら男の子が持ってても大丈夫なデザインだよ!」
「曜ちゃんまで!で、でも、最初に言ったのは私なんだよ!私のに入るべきだよ!」
「「「ぐぬぬぬぬ〜」」」
…なんでこうなるんだろうか。
いくら傘持ちが欲しいにしても、二人で入れば濡れやすくなってしまうだろうに。
そんなに傘持って歩くのが嫌なのか?
結局。
3人が交代で入れてくれる事になった。
適当なタイミングで交代しつつ、傘を持って彼女達と帰り道を歩く。
なんでもない事を話しながら歩く帰り道。
こういうのも悪くない。
「よし、そろそろ交代だよー」
「うーん…まあ仕方ないかあ」
「ルールだからね」
「最後は…梨子ちゃんが入れてくれるのかな?」
「ええ。ど、どうぞ」
「ありがとう。失礼するよ」
「あ…う、うん///」
傘を受け取り、梨子ちゃんを最大限カバーしつつ自分も傘に入れる位置をキープする。
自然に距離は近くなる。
「…カップルみたい」
「ねー…」
後ろからなんだか恨めしい視線を感じる。
「ふふふ///」
梨子ちゃんはあまり気にしてないらしい。
なぜか嬉しそうにしているし。
それから数分歩いたくらいの時だ。
『ブオオオオン』
歩道のない細い道を歩いていた時、後ろからトラックがやってきた。
「おっと」
「ひゃっ」
ほとんど減速もせずにやってきたもんだから、思わず大きく避けてしまった。
それがまずかった。
「今のトラック、危なかったねー…」
「そうだねー。ハルくんたち、大丈夫…」
後ろから声をかけてくれる二人の言葉が、途中で止まる。
おそらく、この光景を見たためだろう。
トラックを大きく回避した俺は、当然すぐ横にいた梨子ちゃんにぶつかった。
そして、倒れそうになった梨子ちゃんを思わず抱きとめてしまったのだ。
つまり。
千歌ちゃんと曜ちゃんから見たら、俺は今梨子ちゃんを抱いているように見えるわけだ。
「あー…えっと、その…これにはわけがあってだね」
「〜〜〜っ///」
梨子ちゃんは言葉を発しない。
というよりは、言葉が出ないといった感じである。
そして、これを見た千歌ちゃんと曜ちゃんは。
「…何、してるのハルくん」
「…これ、どういうこと?」
黒いオーラを身にまとい、明らかに怒りの色を見せている。
…まずい。
「…弁明の時間をくれると嬉しいんだけど」
「…5文字でどうぞ」
「…ごめんなさい」
その後。
千歌ちゃんの家で正座をさせられてお説教をされた。
「いくらトラックを避けるためだからって、急に抱きつくのはだめだよ!」
「抱きついたつもりはなかったんだけどね。反省してるよ」
「女の子にだって、心の準備が必要なんだから!」
「心の準備?」
「で、でも、私はその…ちょっと嬉しかったかな…って///」
「ん?梨子ちゃん、もう一回頼むよ」
「な、なんでもないのっ///」
「むー…梨子ちゃんだけずるい!」
「そうだそうだー!」
「…抱きつくのはダメって話だったよね?」
「急に抱きつくのがダメなの!」
「…どう違うのかがよく分からないんだけど」
「こ、心の準備があれば、その…わ、私は大丈夫だよ!」
「いや、大丈夫と言われてもね…」
それでどうしろと。
まさかと思うけど、ハグしろという訳ではあるまい。
「は、ハルくん」
「ん?」
気付いたら曜ちゃんが後ろにいた。
どうしたんだろうか。
振り返ろうと思ったけど足が痺れていてうまく動けなかった。
結構痺れてるな。
そんなことを思った瞬間。
「えい」
「おお?」
「なあ!?」
「曜ちゃん!?」
後ろに感じる体重。
曜ちゃんが…抱きついてきたのかな?
「えへへ…ど、どうかな?///」
「どうっていうと」
「か、感触…とか?」
「…それは、どう答えるのが正解なんだい」
「や、やっぱ忘れて!///」
感触…
胸の感触があるような無いような…
いや、あまり深く考えるのはよそう。
「曜ちゃんずるい!わ、私だって!」
「ぐえ」
曜ちゃんを押し出すようにして千歌ちゃんが飛びついてきた。
背中にかかる体重が2倍になる。
「あ、千歌ちゃん!今は私の時間だよ!」
「曜ちゃんはもう楽しんだでしょ!次は私だよ!」
「「むむむむ〜」」
「あの…背中で争うのはやめてほしいんだけど」
重すぎる…というわけではない。
でも、長時間の正座のせいでもう足が痺れまくっているのだ。
ここに彼女達の体重がかかっているので、正直限界が近い。
これ以上重みが加わったら、痛みで悲鳴が出そうだ。
「足の痺れがすごいんだ。できればどいて欲しいんだけど…って、ん?」
目の前に落ちる影。
少し振り返ると、梨子ちゃんの姿がそこにあった。
「ああ、梨子ちゃん、二人をどかすのを手伝ってくれるのかい?」
多分そうなんだろう。
そうであってほしい。
ここにもう一人分の体重はまずいのだ。
「わ、私だって…っ」
「え、ちょ、梨子ちゃん…?」
「え、えーい!」
「ちょ、ちょっと待っー!」
悲鳴が、木霊した。
なんで彼女達は抱きついてきたのか。
そんな疑問がふと思い浮かんだが、この痛みで分かった。
女の子に気安く抱きついてしまった俺に罰を与えるために、こうして抱きつくことで痛みを与えようとしたのだろう。
そんなことを考えていたら。
「ハルくんの鈍感!」
その一言とともにさらに体重をかけられたのだった。
違うのか…。
じゃあ、なんで抱きついたりしたんだい…。
そんな疑問。
もちろん答えをくれる人はいなかった。
ご視聴ありがとうございました。
普段に比べると若干短めでした。
が、中身の薄さはいつも通りですね。
平常運転です。
今回は2年生組だったので、できれば1年生と3年生の方もやりたいなと考えております。
それでは何かありましたらお願いします。