Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは
本編合流2話目になります。
本編を見てない方は、先にそちらのご視聴をお勧めします。


海の音と布屋さん

ピアノを弾く手が、震える。

こんなことが、最近はだいぶ増えてきた。

楽しくて、嬉しくて、始めたはずのピアノなのに。

ここでこうして弾くそれは、そんな感情とは程遠いものを、私に供給する。

お客さんが見ているのに。

指が、思うように動かない。

詩を、思うように追えない。

思うように、弾けない。

 

そして。

 

 

※

 

 

「ごめんなさい」

 

今日、もう幾度となく聞いたセリフだ。

どれだけスクールアイドルのいいとこをアピールしても、梨子ちゃんはそう返してくるのだった。

でも、絶対作曲してもらうんだからー!

 

 

「…で、やっぱり大敗だったと」

「あー…あはは」

「はー…前途多難すぎるよお…」

「梨子ちゃんの件に関しては、まあコメントを控えるけどね。μ'sの件に関しては、千歌ちゃんにも問題があるよ」

「だってー。あれがuじゃなくてμだなんて思わなかったんだもん」

 

あれで、ダイヤちゃんはμ'sの大ファンなのだ。

それも、崇拝のレベルで。

そりゃ、名前の読み方を間違えれば怒られるだろうさ。

ダイヤちゃんはそれを隠してるつもりらしいが。

 

「あ、そういえばね!ここに来る前に、花丸ちゃんって子と、ルビィちゃんって子と会ってね、すっごい可愛いの!きっとあの子達もスクールアイドルに向いてると思うんだけどなあ」

「ああ、あの2人かい」

「え?ハルくん知ってるの?」

 

これは曜ちゃんの質問。

 

「ちょっとご縁があってね」

「なにそれ!聞いてないよー!じゃあじゃあ、ハルくんからも2人を説得してほしいな!」

「残念ながら、時間外労働は受け付けてないんだ」

「じゃあ今度みかん持ってくるから!」

「…そもそも、会ったことがあるというだけで、そんなに話す仲ではないんだけど」

「そこをなんとか!」

「まあ、考えておくよ」

 

ルビィちゃんはともかく、花丸ちゃんとはこの前初めて会ったのだ。

とても説得なんてできる間柄ではない。

 

「あ、あと梨子ちゃんの説得もお願い!」

「君は俺の仕事場をどこだと思ってるんだい」

 

花丸ちゃんと同じだ。

会って間もないというのに、何をどう説得しろというのか。

 

その後、バスが出るということで2人は帰って行った。

学校がある日に彼女たちが来るのは、だいたいこのパターンだ。

目的があってうちに来るというよりは、バスがくるまでの暇つぶし。

今日も、10分ほど居座ってから帰ったのだった。

 

 

翌日、夕方に千歌ちゃんの家へ向かった。

千歌ちゃんのお家は大きな旅館なのだが、そこで使っている布団に穴が空いたので、修繕依頼を受けていたのだ。

きっちりと品物を渡し、滞りなく仕事を終える。

帰る前、千歌に会っていきますか?とお姉さんに言われたが、いつでも会えるのでと断った。

 

帰ろうとしたとき、海に人影が見えた。

体育座りをしているようだがあれは…梨子ちゃんかな。

 

「夕焼けに染まる海、それを眺め、ため息をつく美少女。いい絵だね」

「は、ハルさん!?ど、どうしてここに!?」

「随分悩ましげな背中が見えたんでね。知らない人ならいざ知らず、君みたいな美少女を放っとくことはできないよ」

「あ、あんまり美少女とか言わないで///」

 

思ったことを言っているだけなのだがね。

嘘をついたり、オブラートに包んだりというのは、得意ではないのだ。

 

「『海の音』、聞けたかい?」

「…いえ」

「そうかい。ピアノ、弾くんだったかな」

「ええ。小さいときから、ずっとやってきたの。…でも、最近はスランプで。それで、環境変えてみれば…『海の音』が聞ければ、変われるかなって」

「なるほど。そういうことだったのか」

「なんだそれって、笑われても仕方ないことだけどね」

「笑わないさ。というかね」

 

何も笑うことなんてない。

失敗続きでもやめずに、自分なりに活路を見出そうとしているのだ。

俺よりずっと立派じゃないか。

梨子ちゃんの方を向く。

 

「変われるさ。梨子ちゃんなら、絶対」

 

会ってそんなに経ってはいないけど。

なんとなく、そう思ったのだ。

 

「……ふふっ」

 

一瞬キョトンとして、笑顔を浮かべる梨子ちゃん。

はて?

 

「何かおかしなことを言ったかな?」

「いえ。昨日、千歌ちゃんに全く同じことを言われたなーって」

「なんてこったい」

 

まさかの二番煎じ。

しかも千歌ちゃんの後追いとは。

確かに千歌ちゃんなら言いそうとか思ってはいたが。

なんとも複雑な気分だ。

 

「これはあれだね。俺は今、とてつもなく恥ずかしい状態だね」

「ふふ。そんなことないわ」

 

気恥ずかしくて、思わずそっぽを向く。

直接は見れないが、梨子ちゃんは相変わらず笑っているようだ。

 

「2人とも、本当に変な人だけど…」

 

そのまま、顔が見える位置まで移動して

 

「ありがとう」

 

そう、口にした。

 

 

次の日。

相変わらず長くはないバス待ちの時間に、うちへやってきた千歌ちゃんと曜ちゃん。

 

「ハルくん、昨日うち来たんだって?」

「ああ、仕事関係でね」

「どうして声かけてくれなかったの!?」

「…それに関しては、こちらも反省しているよ」

 

千歌ちゃんから梨子ちゃんのことを聞いておけば、あんな恥ずかしい二番煎じを演じることはなかったのだ。

ちくしょう。

 

「そういえば昨日、梨子ちゃんに会ってね」

「なんか言ってた!?」

「日曜日、『海の音』を聞きに行く約束をしたそうじゃないか?」

「…なんでちょっとやさぐれてんの?」

「ほっといてくれ」

 

どうやら表情に出てしまっていたらしい。

これはよくないな。

 

「ハルくんも、日曜日くる?」

「残念だけど、日曜は休みじゃないからね。君達で楽しんでくるといい」

「そっかー。残念」

「朗報を期待しておくよ」

 

 

※

 

 

日曜。

偶然にも、果南ちゃんのうちから仕事が来てたので、俺もダイビングショップへ向かった。

偶然、あくまで偶然さ。

お父さんがあまり体を動かせない状態だから、店を手伝いに来てくれという依頼だった。

毎週というわけではなく、偶然人が多い時などにこうして呼び出されるのだ。

店で商売するより、こちらの方が収入がいいというのは、なんとも言えない気分になるが。

 

「うち、本格的に何でも屋になった方がいいのだろうか」

「何をいきなり言ってるの?ほら、仕事仕事。ボンベ、運んどいてね」

「りょーかい」

 

 

お客さんが減ってきて、大分手が空き始めた頃、千歌ちゃんたちがやってきた。

潜る、とは直接言ってなかったが、ここに来るのはだいたい予想通りだ。

 

「あれー?ハルくんがいるー」

「ほんとだ!なんでなんで?」

「えと…こんにちは、ハルさん」

「今日はこちらでバイトですお客様方」

 

手慣れたお客、手慣れた店員、互いをよく知る間柄。

そんなわけで、手続きはかなり早く終える。

梨子ちゃんは、果南ちゃんから手ほどきを受けていた。

3人を乗せたボートがスポットに向かう。

大分余裕が出てきたこともあり、俺と果南ちゃんも同乗する。

と、そこまでは流れでそうなったのだが。

 

「確かに君達が少し心配だったのは否定しないさ。だけどね」

 

視界が、揺れる。

足元が、ふらつく。

胃の中身が、本来とは逆方向に…

 

「な、なぜ、船に弱い俺まで乗ることに…うぷ」

「いい加減それ直さないと。まだ乗って3分くらいだよ?」

「ハルくん、相変わらず船ダメなんだねー」

「この町で船に弱いって、結構大変だよねー」

「だ、大丈夫なの?」

 

君達は鬼かい?

まともに心配してくれるのが梨子ちゃんしかいない。

 

「ごめん、やっぱ俺降りるよ。というかここで降ろして」

「この季節でこの距離を、スーツ着ないで泳ぐのはほとんど自殺行為だよ」

「いや、でもやばい。海の音、もうさっきから俺には害悪でしかないもん」

「はーい。じゃあこの辺で潜るよー。梨子ちゃん、心の準備はいいかな?」

「え、あ、私はいいけど…ハ、ハルさんは」

「あーいいのいいの。いつものことだから」

 

鬼3人と天使1人。

とはいえ、彼女達の言うことももっともだ。

こうなることはある程度予測した上で来たのだから。

梨子ちゃんは気にしなくていいのだよ。

 

「大丈夫だよ梨子ちゃん。間違っても、海にはリバースしないから」

 

そういって、手に持ったビニール袋を見せる。

 

「『海の音』聞いておいで。そうだな。せっかくだから明るいところに行くといいよ」

 

 

記憶の限りでは、1回は船に上がってきた彼女達だったが、その後、何かを思いついたようでもう一度潜りなおしていた。

結局、彼女達が海に入っていたのは何分くらいだろうか。

終始酔いと戦っていた俺は、まともなアドバイスなどできなかった。

それでも、上がってきた彼女達の表情は、明るかった。

結果はどうだったとか、聞く必要はなさそうだ。

彼女達の楽しそうな表情を見て、俺は安心して。

ビニール袋にリバース。

3人はこっちを見て何か言っている。

いや。

恥ずかしいからあんまり見ないで。

 

「明るいとこ、行ってきたよ。ハルさん」

 

梨子ちゃんが何か言っていたようだが、さすがに聞きとる余裕は、自分にはなかった。

 

 




ご視聴ありがとうございました。
本編2話の前半部分ですね。
いつも通り、何かご意見ありましたらお願いします。
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