キャンプのお話最終話になります。
「さあみんな!じゃんじゃん食べてねー」
「おいしいー!」
「いい焼き加減ね」
「ハルさん、バーベキュー上手ずらー」
「そうだねー」
「その褒め言葉、初めて聞いたわ」
誰かの拳により気絶させらた俺だが、その後美渡さんに水をかけられて起こされたのだった。
そしてすぐにバーベキュー準備に取り掛かり、こうしてみんなに食事を提供しているというわけである。
「ハルくん、おかわりー!」
「肉が欲しかったら美渡さんに言ってくれ。こっちは火加減とか見るので手一杯なんだ」
「ハルさん、ずいぶん慣れてるのね。こういうの結構経験があるの?」
「まあちょっとね」
その話は後日機会があれば彼女たちに話すこととしよう。
今はどうでもいいことだ。
そもそも、肉をうまく焼いているのはどちらか言うと俺よりも美渡さんである。
現在の役割分担は、俺が火の調整と食材を焼く係。
美渡さんが焼けたものを取っていく係である。
「みんな、肉を食べるのはいいが、野菜もちゃんと食べるんだよ」
「そうだよみんなー。肉ばっかりだと太るよー」
「「「「「「!!」」」」」
一部が美渡さんの言葉に反応しているようだ。
「でも食べれるときに食べておきたいずら〜」
「私、食べてもあんまり太らないんだよねー。動いてるからかな」
「わたーしも太らないでーす」
花丸ちゃん、果南ちゃん、マリーちゃんが言う。
「ぐぬぬぬぬぬ…スタイルいい組は余裕持ってるわね…」
「はあ…羨ましい」
「全部胸に行ってるのかなあ」
「「「?」」」
スタイルについてはノーコメントとしておこう。
ちなみに3人はあまり自覚は無いようだ。
聞く人によれば結構煽っているようにも受け取られそうなものだが。
「まあまあ、みんなまだまだ成長期なんだから。気にせず食べてくれ」
「そうそう、ほら、これでも飲んでさー」
「いや、余計なこと言ったの美渡さんじゃないですか」
「あれ?そうだっけ?」
そう言いながら、美渡さんがみんなに飲み物を配っている。
缶ジュースみたいだ。
「はい、ハルくんも」
「ありがたいですけど、まだ火番してるんで、その辺に置いといてもらえますか?」
「ほーい」
それから30分ほどだろうか。
しばらく食材を焼き続けていた俺だが、みんなの食事ペースが少し落ち着いてきたので自分も頂くことにする。
「さて、俺も食事を…ん?」
今気づいた。
渡された飲み物、あまり見覚えのないデザインだ。
というか、これって…
「…アルコールって書いてあるんだけど」
まさか、これをあの子達に…?
嫌な予感がして、机の方で食事をするみんなのところへ行く。
「ちょ、ちょっといいかいみんな」
「ん?どうしたんですか?」
「…いや、実はね、飲み物がね…」
「飲み物?特におかしいところはありませんでしたよ?」
「うん」
「…そうかい。俺の気のせいだったみたいだ」
いや、おかしい。
確信した。
彼女達はアルコールを摂取している。
だって。
「…千歌ちゃん。その口調はどうしたんだい?」
「え?なに言ってるんですかー。私、いつもこうじゃないですかー」
「そうだよハルくん。どうしたのー?」
千歌ちゃんが、丁寧語でしゃべっている。
すぐに、美渡さんに事情を聞くことにした。
「ちょっと。どうなってるんですか、これは」
「あー。私が渡したやつ、間違えてたみたい。まあ、そんなに強いやつじゃないし大丈夫でしょ」
「そういう問題じゃないでしょうが」
「とりあえず、飲んでない人探した方が良いんじゃない?」
「…はあ…。そうします」
机の上の空き缶を見る。
それぞれの前に置かれた空き缶達。
いずれもフタが開いている。
「全員飲んでるね」
「全員飲んでますね」
って、そうじゃなくて。
「美渡さん、責任をとってちゃんと面倒見てください」
「あの子達次第かなー」
「はい?どういう意味…」
そこまで行った時だった。
「ちょっとー、いつまで私たちを無視するのー」
「そうよー。かまってよー」
そんな声がかかった。
声の発信源は、果南ちゃんとマリーちゃんだ。
ぱっと見、そこまで普段とは差がないように見えるが…
「こっち来てよー」
「ほら、ご指名だよー」
「……………………」
「他の子の相手しとくから、そんな目しないでよ」
「…はあ…」
仕方なく彼女たちのところへ行く。
美渡さんの他人事のような顔が、どうにも恨めしかった。
〜酔いどれ3年の場合〜
「ハル〜。うふふ」
「あ、果南ずるい〜」
「あの、どこにも逃げないからとりあえず放してもらえないだろうか」
「「いや!」」
左に果南ちゃん、右にマリーちゃんがいる。
二人に腕を組まれており、これ自体は男としては嬉しい状態である。
ちなみに目の前にダイヤちゃんがいる。
なぜか無表情で何も言わずにこちらをずっと見続けている。
正直怖いのだが、両側の二人のせいでそれどころじゃない。
「もー。普段は私だって我慢してるんだから、今日くらいいいでしょー」
「我慢ってなんだい」
「ふふふ」
ニコニコしている果南ちゃん。
「ハルー。えへへー」
「君もずいぶん甘えるね」
この状況で考えるのもなんだが、果南ちゃんとマリーちゃんはアルコールが入ると甘えん坊になるみたいだ。
普段は彼女らなりにお姉さんをやっているのだ。
たまには、甘える側になりたいのだろうか。
それはいい。
それはいいんだ。
でもね。
「…腕が、感覚を失い始めてるんだけど」
「「うふふ〜」」
普段はそれなりに加減してくれているんだなあと思わされる。
リミットの外れた彼女たちの腕組みは、それはそれは尋常じゃないくらい締まっている。
というかもはや極まっていると言うべきなのか。
「…たりとも…」
「ん?」
ダイヤちゃんが何かを呟いた。
なんだろうか。
助けてくれるんだろうか。
そう思ったのだが。
「…二人とも…ずるいですわあああ!」
そう叫んで、飛びついてきた。
ものすごい泣きながら。
「私だって…私だって甘えたりないのですわああ!」
「ぐおおおおお。い、痛い痛い」
ダイヤちゃんは泣き上戸のようだ。
泣いて飛びついてきた彼女を受け止めたのは良いが、案の定力加減が一切されていない。
「あー!ダイヤずるい!」
「のー!私もー!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ二人とも。君ら三人に今抱きつかれたら、さすがに俺も限界に…」
「いやー、ハルのエッチ〜」
「も〜。ハルも男の子なんだから〜」
「いや、そっちじゃなくて。命の…ってー」
悲鳴が、木霊した。
〜酔いどれ1年の場合〜
「ハルさん、大丈夫?」
「大丈夫ずら〜?」
「ほら、痛いとこ教えて。冷やしてあげるわ」
「ありがとう。とりあえずは大丈夫だよ」
悲鳴を聞いた美渡さんに救出され、今度は1年生の相手をする事になった。
1年生のみんなは、そこまで強い影響を受けてはいないようだ。
「あんまり我慢しちゃダメよ。あの子達、加減を知らないんだから」
「いや、まあ、あの子達の愛情表現って事でね」
「…ハルさん、ああいう事したら愛情を感じるずら?」
「正に痛いくらいの愛情をね」
「ふ〜ん…えいっ」
「むぐっ」
「なっ!」
「ピギャっ!?」
突然、花丸ちゃんに抱きとめられてしまった。
思わぬ行動に、何もできず彼女の胸に顔を埋める形となってしまう。
「ふふふ。ハルさん、愛情感じるずら?」
とても優しい声が聞こえる。
心を落ち着かせてくれるような、そんな声だ。
愛情…きっと、家族に向けるような愛情なのだろう。
暖かい気持ちを感じる。
「は、花丸ちゃん…いいな…今くらい、良いよね…」
「ん?どうしたんだい、ルビィちゃ…」
「え、えいっ!」
「おっと」
背中に、誰かの体重がかかる。
多分、ルビィちゃんだろうが。
「ま、前は花丸ちゃんが担当してるので…う、後ろからは私が愛情を注いであげますっ」
「なるほど…それは嬉しいね」
「そ、その…はい」
「ていうか、胸に顔うずめてどうやって声出してんのよ、あんた」
「企業秘密だよ」
花丸ちゃんの胸に顔を沈めつつ、背中にルビィちゃんがくっついているという妙な絵面になってしまった。
普段なら、ダイヤちゃんあたりに破廉恥だと一蹴されそうな状態である。
「…ハル、思ったより落ち着いてるわね」
「こういう役得な幸せを経験しているときは、下手に動かない方が良いだろう。幸せを噛み締めてるんだよ」
「…役得って、なんの役よ」
「何って…兄みたいなものじゃないのかな」
「…まあ、あんたはそうよね」
「あれ?違った?」
「…普段なら、鈍感って言って終わらせるとこだけどね…今日はヒントをあげるわ」
「ほう」
「その子たちがあんたに伝えている『愛情』っていうのは、家族愛とかじゃないわよ」
「そうなのかい」
「そうよ。…それと、ね」
「ふむ」
「私も、同じ気持ちを持ってるわ」
「へえ…」
「これ以上は、自分で考えてちょうだい」
愛情。
俺に対する、家族に向けるそれとはまた別のもの。
それは、一体どんな種類の感情なのか…。
…………………………………………………………………………
だめだ。
まったくわからない。
そんな結論を出した瞬間。
「ずら!」
「うゅ!」
「てい!」
「痛!」
花丸ちゃんからチョップ。
ルビィちゃんから頭突き。
善子ちゃんからパンチをもらった。
「な、何をするんだい」
「「「なんとなく」」」
ひどいじゃないか。
〜酔いどれ2年の場合〜
「ハルさん、なんだか疲れてますね」
「どうしたの?さっきまでなんかイイコトしてたんでしょ?」
「言い方が若干いやらしいよ。そりゃ、心は癒されたがね」
残念ながら、頭と心は休んでいないのだ。
状況の著しい変化と、普段はあり得ない状態への対応。
心がどれだけ癒されようとも、物理的な疲れは取れないのだ。
…自分で言ってて情けないな、これは。
ちなみに、今は2年生3人と共にいる。
1年生に理不尽なアタックを食らった少し後、2年生だけ何もないのはずるいと言われてここにやってきたのだった。
「あらあら…それは大変ですねー」
「…そうだね」
相変わらず敬語の千歌ちゃん。
違和感が半端じゃない。
「あっはっは!ハルくん、体力ないもんねー!」
そして曜ちゃんは何か事に笑っている。
しかも少々おっさんテイストだ。
笑い上戸みたいだ。
「……………………」
そして梨子ちゃんはさっきからだんまりである。
ダイヤちゃんとはまた違い、なんというかずいぶん色っぽい目でこちらを見ている。
例えて言うなら、ダイヤちゃんがじーっとこっちを見ていたのに対し、梨子ちゃんはぼーっと見ている感じだ。
「…梨子ちゃん、どうかしたかな?」
「ふふふ…いえ、見とれているだけです」
「…そうかい」
「ふふふふ」
何か話しかけてもこんな感じである。
ある意味一番怖い。
「あらあら、梨子さん、ハルさんにお熱なんですね」
「あっはっは!若いねー」
「ふふふふ」
「…………………」
シュールというか、もはやカオスな領域である。
特に何かされるわけでもなく、こちらから何かをする必要もない。
しかし、3人が3人ともこちらを見ている状態。
それが、普段通りなら問題はないのだが…
「あらあら〜」
「あっはっは」
「ふふふ」
この有様である。
「ねえ、ハルさん」
「な、なんだい?」
「1つ、お願いしてもいい?」
「お、俺にできる事ならね」
「ふふふ。ハルさんはじっとしてればいい事よ」
「ほう」
一体何をすればいいのか聞こうとしたら、梨子ちゃんがこちらに近づいて来る。
かなり近い距離まで顔が来たところで、指を自身の唇に当て、呟いた。
「キス…しましょ?」
「…はい?」
耳を疑った。
が、すぐに正気に戻った。
理由は、梨子ちゃんの行動が予想より遥かに早かったため。
何かを聞く前に、梨子ちゃんの唇がすぐ前まで迫ってきたのだ。
「ちょ、ちょっと待つんだ」
「あら?嫌だった?」
「そういう問題じゃなくてだね」
彼女のおでこを押さえ、なんとかそれを止める。
この子は、今正気ではない。
そんな状態の女の子の唇を奪うなど、俺には残念ながらできんのだ。
「おいおいハルくーん!そこは男らしくガバーっと!」
「あらあら…妬けちゃいますねえ」
「いや、そんな事言ってないで止めてくれよ」
梨子ちゃんはキス魔になるらしい。
俺、酔ってキス魔になるのは都市伝説だと思ってたよ…。
もちろん、逃げ切ったさ。
※
帰り道。
その車内。
みんなすっかり疲れてしまったようで、完全に寝てしまっている。
なので、バス車内は非常に静かだ。
「ハルくん、キャンプどうだった?」
「そうですね…いろいろ衝撃的でした」
「そっかそっか」
「まあでも…楽しかったですね、とても」
「あはは。そっかそっか。それはよかったよ」
「最後のあれについては、必ず反省してくださいよ」
「機会があればねー」
「絶対に次の機会を作らないでください」
美渡さんとそんな会話をする。
反省の色は皆無のようだ。
「しかしあれだね…あの子たちなりに、結構アタックのある2日だったね」
「アタック…?ああ、たしかに結構攻撃されましたね」
主に3年生から。
「いや、物理的な話じゃないんだけど…。つーか気付いてよ。あれで誰の想いも感知できないって、ハルくんの神経どうなってるのさ」
「なんのことです?」
「はああああ〜。こりゃあ、千歌たちの恋、始まるのすら難しいわねえ」
なんの話かまったくつかめない。
しかしかなり大きなため息をつかれた。
帰宅し、キャンプ場では捨てられなかったゴミを処理しているときの出来事。
『カランカラン』
「おっと」
手が滑って、ジュースの空き缶を落としてしまった。
それは、みんながバーベキューのときに飲んだあれの缶だった。
まったく、このお酒のせいで…
そこで、あることに気づく。
…あれ?
缶に書かれている成分表示の欄。
そこには、『清涼飲料水』と書かれていた。
え、アルコールは…
よく見るとそこに書かれていたのは。
『アルコールみたいな風味!』
…………………あれ?
※
「いやー。お酒を飲んだふりをするドッキリなんて、よく考えたねー」
「ねー。しかも大成功だったね!」
「さすがのハルくんも、今回は焦ってたねー。いやー、愉快愉快」
「私は…さすがに恥ずかしかったですわ。いくらクジ引きで当たってしまったとはいえ、泣き上戸なんて…」
「でも、すごい演技だったずら」
「わ、私は気付かれないようにするので精一杯でした」
「私も…というか、よりによって、き、キス魔…なんて」
「それ、一番の当たりだヨー?」
「いや、人によっては一番のハズレだから」
「で、でも、ネタばらしとかしなくていいんですか?」
「ネタばらしをしてしまうと、次が出来なくなりますわ」
「同じ状況にしても、警戒されちゃうもんねー」
「イエース!これは、ハルには内緒にしておきましょー」
「ま、たまには自分の鈍感っぷりを認識するのもいいんじゃない?」
そんな会話が、帰った後でされていた事を、ハルは知る由もないのだった。
(んー…勢い余って強く抱きつきすぎちゃったけど、たまにはいいよね…。また機会ないかなあ)
(やっぱハルの腕は落ち着きまーす。絶対、ネクストチャンスを作るんだから!)
(泣き真似はさすがに恥ずかしかったですが…まあ正面から抱きつけたのは良しとしましょう)
(は、ハルさんを抱きとめてしまった…思い出すだけで恥ずかしいずら…)
(うう〜…す、すりすりしてしまった…ま、まだ感触が…!)
(ハルの事だし、想いはちゃんと伝わってないわよね…いや、それはそれで複雑だけど…)
(私はただの笑い上戸だったしなあ。もっと可愛いのがやりたかったなー)
(お姉さんをやるって、結構難しかったなー。ダイヤさん、普段からあれで話すのはすごいや)
(き、き、キスを迫ってしまった…!こ、これからど、どんな顔して会えばいいの!?)
まして、彼女達の想いなどなおさらだ。
ご視聴ありがとうございました。
長かったキャンプのお話もこれにて終了でございます。
全部付き合ってくださった方、誠にありがとうございます。
前にも記載しましたが、ここから先は更新が不定期になると思われます。
それでは何かありましたらお願いします。
ー追伸ー
花丸ちゃん、誕生日おめでとうございます。