Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは。

この話からアニメ2期のお話に入っていきます。
そのため、深刻な本編ネタバレを含みます。
閲覧の際はご注意ください。




アニメ本編(2期)
2ndシリーズの幕開けと布屋さん


『ザッザッザ』

 

早朝。

いつものように店前を竹箒で掃きながら、俺はある方向を眺める。

 

眺める先にあるのは、店にとって重要なお客様である浦の星女学院。

つい昨日まで夏休みだったこの学校は、本日よりめでたく二学期の幕開けを迎えた。

 

高校生諸君にとっては、めでたくないかもしれないけどね。

俺にとっては、もうこれでもかってくらいに待った日である。

 

校舎に入っていく女子高生たち。

眠い目をこすりながら歩く子や友人と話しながら歩く子。

 

いずれも、昨日までは見ることができなかった景色だ。

 

「何を満足した表情してるんですの」

「どうせハルのことだし、女子高生見てニヤニヤしてたんでしょ?」

「2ndシーズンになっても、ハルは相変わらずでーす」

 

ニヤニヤ、もとい、ニコニコしながら校舎を眺めていた俺の横から、そんな声が聞こえてきた。

ダイヤちゃん、果南ちゃん、マリーちゃんの三人組。

 

Aqoursの三年生メンバーたちだ。

 

「おはよう三人とも。今日も早いね」

「おはようございます。今日は始業式の準備もありますからね」

「準備って、何かやることがあるのかい」

「椅子とか出すわけじゃないから、ほとんどないけど…一番の仕事はあれかな、ほら、みんなの前で話すやつ」

「理事長挨拶とかそういうのかな?」

「イエース!今日は私が、理事長としてお話ししまーす!」

「一応、私も会長として挨拶はしますけどね」

「なるほどね。それはぜひがんばってくれたまえ」

 

まあでも、その手の話ってなんだかんだ生徒はあまり聞いてないんだよね。

聞いてても一週間もしたら忘れるって感じだったし。

 

「そんなことありませんわ。私はちゃんと全て聞き入れています」

「ダイヤは真面目だなあ。あ、私は全然聞いてないよ!」

「俺と同じだね」

「ああでも、今日は鞠莉が話すし、ちょっとくらい聞いてもいいかも」

「全部聞いてください。あと、鞠莉さんだけじゃなく会長であるわ、た、し、の、は、な、し、も!」

 

果南ちゃんに顔を近づけて迫力たっぷりに言うダイヤちゃん。

 

「りょ、りょーかい…」

 

さすがの果南ちゃんもその迫力には太刀打ちできないようだ。

果南ちゃんが目線で、助けてくれとこっちに訴えかけているので、テキトーに話題を変えることとしよう。

 

「そういえば、そういうのって原稿は用意しておくものなのかい?」

「普通はそうですわね。もちろん私も用意してありますわ」

「もちろん私はそんなものナッシング!フィーリングとその場の雰囲気でお話しでーす!」

「さすがと言えばさすがだね」

「何感心してるんですの!鞠莉さんも、用意するようにってあれほど言ったではありませんか!」

「んー…。忘れてた」

「忘れてたではありません!」

 

今度は怒りの矛先がマリーちゃんに向いた。

まあでもあしらってるっぽいし、これはこれでいっか。

 

…ダイヤちゃんにはちょっと申し訳なかったけどね。

 

 

 

 

三年生組とバイバイしてから数十分。

生徒のほとんどは既に学校に入っており、もう歩いている子はいないような時間。

 

店の中の掃除をやっていた時だ。

窓の向こうに、知っている人影を発見。

 

ていうかあれ、どう見ても千歌ちゃんだね。

…遅刻かな、あれは。

 

 

 

 

「練習場所?」

「イエース。秋からはバスの終電時間がチェンジしちゃうので、長く練習できないんでーす」

「それで、時間いっぱいまで練習できる場所を探している、と」

「オフコース」

 

夕方。

Aqoursの練習を終えたマリーちゃんがうちにやって来ている。

 

「んー…協力したいのは山々なんだけど、あまり力になれそうにないね」

「ですよねー」

「その分朝早く練習するとかはどうだい?」

「うん、その案も出たんですけどねー。どれだけ早くても、あと1時間多く練習するのが限界でーす…」

「確かにね」

「駅の方からのバスならあるから、そっちの方で練習をしようっていうのが、今のところは最有力かなー」

「なるほど。俺もそれに賛成かな」

 

とはいえ、これから日が沈むのはどんどん早くなっていくのだ。

その辺踏まえて、安全には配慮して欲しいとも思う。

 

「何かあったら連絡しておくれ。その時は力になるからね」

「………………」

 

俺の一言に、マリーちゃんは言葉を返さなかった。

無視、というよりはなんだか他のことを考えている様子だ。

 

「…マリーちゃん」

「…あ、うん、なんだった?」

「ぼーっとしてたみたいだけど、大丈夫かい?」

「あ、うん。あはは。ソーリーソーリー」

 

笑顔でそう返すマリーちゃん。

それがいつもの笑顔じゃないことは、鈍感な俺でもよくわかる。

 

「何があったんだい。話せるなら話してくれ」

「…何かあったのかい?じゃないのね」

「そう聞いて欲しいなら、もう少しうまく隠してくれよ」

「ううん。…ハルには、話さないといけないと思うから」

「話してくれるなら聞くけど…あまりいい話ではなさそうだね。お茶を汲んでくるから、気持ちの整理でもして待っててくれ」

「ん。…ありがとね」

 

冷蔵庫からお茶を取り出し、湯飲みに注ぐ。

季節を考えると、そろそろ暖かいお茶を用意する必要もあるかも。

 

そんなことを考えつつ、注いだお茶を持ってマリーちゃんの元へ戻る。

一口だけ口をつけた後、マリーちゃんが話し始めた。

 

「学校説明会の話って聞いてる?」

「ああ、そういえばダイヤちゃんが言っていたよ。気合も入ってるみたいだった」

 

確か9月の終わりだか10月の頭頃だったはず。

千歌ちゃんも、その参加希望者が増えてきたって喜んでた記憶がある。

 

「うん。その学校説明会。…それがね…中止に、なるの」

「…………」

 

なんとなく。

なんとなく、彼女の雰囲気からそれは察していた。

 

学校説明会の話題、それでいて話しづらそうなマリーちゃんを見ていれば、予想はできない話じゃない。

でも、やっぱり、それをはっきり口にされてしまうと、心に来るものがある。

 

「…延期とかではなく、はっきりと中止、なんだね」

「…うん」

「…そうかい」

 

学校説明会の中止。

はっきりとは公言されていないものの、それは事実上の廃校決定だ。

 

これまで、廃校阻止を目標としてやってきたマリーちゃん、そしてAqoursにとってあまりに重すぎる決定。

 

「それを、みんなには話してあるのかい?」

「…まだ誰にも話してないよ。ハルが初めて」

「そうかい。光栄なこと…とは、ちょっと言い辛いね」

 

Aqoursのみんなに、話さないわけにもいかないだろう。

とはいえ、これを彼女の口から言わせるのは、どうにも気がひける。

 

「俺の方からみんなに話そうか?」

「え?」

「君からだと言いにくいだろう。彼女たちがマリーちゃんを責めることはないだろうけどね」

「…ううん。大丈夫。理事長なんだから、これくらいはしないとね」

「君がそう言うなら無理にとは言わないけど…あまり一人で抱え込まないようにするんだよ」

「ん。ありがとね、ハル」

 

また、作った笑顔でそう言ってくれるマリーちゃん。

どうにもならない現実をぶつけられて、それでも受け入れようとするその姿。

 

…放っておけというのは、無理な話だ。

 

「みんなに話す時、俺も呼んでくれるかい?」

「え?いいけど、どうして?」

「一応、みんなの反応を見ておきたいんだ」

「…あんまり、楽しいものじゃないと思うよ」

「それも含めて見ておきたいんだよ。それに…」

「それに?」

 

椅子に座るマリーちゃんの側に立つ。

そして、彼女の右肩に手を乗っけて一言だけ、告げておく。

 

「君が心配だからね」

「…ふふふ。こういう時は、頭にポンって手を置くものじゃないの?」

「髪を乱すのも悪いと思ってね。それにほら、さすがにそこまで度胸はなくて」

「千歌っちたちにはやってたくせに。相変わらず、肝心な時にカッコつかないでーす」

「返す言葉もないよ」

 

結局その後、マリーちゃんに手を引っ張られて、彼女の頭を撫でることになった。

頭ポンポンは、こういう時にやるにはまだ少し難易度が高いかなあ。

 

 

 

 

「やっほー、ハル」

「こんにちは、ハルさん」

「おや、こんにちは、二人とも」

 

翌々日、うちに果南ちゃんとダイヤちゃんがやってきた。

時刻は夕刻。

 

普段の練習終了の時間に比べて、まだ早いくらいの時間。

今日は練習はお休みなんだろうか。

 

「お茶でも飲んで行くかい?」

「いえ。今日はこの後練習がありますので」

「おっと、そうなのかい。新しい練習場所、見つかったんだね」

「そうそう。なんかね、曜のお父さんが見つけてくれたんだってさ」

「なるほどね。それはよかったよ」

「というか、なぜハルさんがそのことを知っているのです?」

「この前マリーちゃんが教えてくれたんだよ」

「ああ、その時に学校説明会のことも聞いたんだ」

「そう言う反応ってことは、君達も聞いたんだね」

「鞠莉さんは隠そうとしていましたけどね。あまり、隠し事は上手くないようですわ」

「君も大概だと思うけどね」

「…ごほん。まあそれはともかく、鞠莉さんからは、ハルさんには既に話してあると伺ってますわ」

「で、今日みんなにも話すから、ハルも呼んでって頼まれたんだー」

「なるほど。呼びに来てくれたんだね。マリーちゃんは?」

「ああ、えっと…」

「…もう一度、お父様と電話をすると言っていましたわ」

「…了解だよ。ちょっとだけ待つことにしようか」

 

電話の内容は、おそらく抗議だろう。

学校説明会の中止をなしにしてもらえないかの抗議。

 

今この場で、俺は何もできない。

だからせめて。

 

「あの子を笑顔で迎える準備だけしておこうか」

 

 

 





ご視聴ありがとうございます。

アニメ1話につきこちらは2話ずつくらいで行こうと思っています。
可能な限り、シリアスは薄めで。

それでは何かありましたらお願いします。

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