筋肉はすべてを解決する   作:素飯

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筋肉


筋肉はビギン

 時の庭園。

 並行世界の狭間に位置するその城は、プレシア・テスタロッサが自身の家に改造に改造を重ね、次元移動を可能にした居城である。

 その一室、というには広すぎる、まるで玉座の間というに相応しい風貌の空間で、主であるプレシアはため息をついていた。

 

「所詮まがい物の人形……たったこれだけのジュエルシードで、果たして到達できるかどうか……」

「いつになく弱気じゃねぇかプレシアさんよ」

「……貴方には傀儡兵と共に侵入者を排除する役目を与えたはずだけれど」

 

 玉座の裏にあぐらをかいている大男に、プレシアは玉座に座りながら言う。

 いつでも殺せるという自信と、絶対に自分を殺すことはできないという自信が、プレシアと大男にはある。それ故の余裕を持たせた会話であった。

 

「あんたの作ったこの機械も、十全に機能してる。それに加えて俺のこの筋肉があれば、あのいけすかねぇ男も、それに付いてくるだろう魔導士共も敵じゃねぇよ。余興ついでに目の前で全員ぶっ飛ばしてやる。目の前で憂いの種が無くなる方があんたも安心だろ?」

 

 不敵に笑って男はプレシアを見る。

 

「……好きになさい。貴方が闘う機会を、先に私の傀儡兵が奪わないことを祈っておきなさい」

「はいよ。その程度の相手なら俺が相手するまでもねぇしな」

 

 男はクツクツと笑って、また玉座の裏に戻っていった。

 プレシアはジュエルシードに魔力を通し、わざとジュエルシードを複数個暴走させる。

 次元は揺れ、世界が滅ぶ兆しを見せ――

 

 

 

 

 

 

 フェイトは捕らえられ、今度は脱走されぬよう厳重に捕縛されていた。

 アースラへ連れていかれたフェイトは、なのは、クロノ、ユーノ、リンディ、そして少年という、戦力過多とも言えるブリッジへと通され、その椅子に座らされている。

 局員数名から子どもとはいえブリッジに敵を入れるなどという反対もあったが、リンディの「ここが一番対処が早い」の一言で納得させられていた。

 

 アルフから教えられた座標へサーチャーと魔導士部隊を先遣隊として飛ばし、映像と音声を拾う。

 道中には教えられていた傀儡兵の存在は無く、そのままいくらか通路を進むと、ひしゃげた重々しい門が映像に映し出された。通路側に転がっていることから、内側からの衝撃によって弾け飛んだのだと推測できる。

 玉座の間に局員が突入し、武装を展開し構えた。そこには物憂げな表情でジュエルシードを見つめるプレシアと、先遣部隊が対峙している映像が写されていた。

 

「プレシア・テスタロッサ! お前はすでに時空管理局に完全に捕捉され――」

「やかましいぞ」

 

 先遣隊の部隊長が、投降の勧告をするかしないかというタイミングで、映像から消える。反応が途絶していないことから死んだということはないが、少なくともサーチャーで座標を追えていないという事は、サーチャーの範囲外にまで押し出されたという事になる。

 

「何が起こったのッ!」

 

 リンディが叫ぶ。

 あわただしくコンソールを叩く局員も何が起こったのかわからず、一人、また一人とサーチャーの範囲外に押し出され、最後の一人が押し出される直前に通信が入った。

 

「プレシア以外に一人、敵対者! 魔法の種類は不明ですが魔力反応はありま――ぐぁッ!」

 

 その通信を最後に、その局員もサーチャーの範囲外へと押し出された。

 

「プレシアにフェイトさんとアルフさん以外の協力者有りと判断。および投降の可能性を破棄。至急、プレシアをとらえます。皆さん、お願いしますね」

 

 ブリッジに居たなのは、少年、クロノ、ユーノ、そして遠巻きにフェイトを見守っていたアルフ、待機していた本隊の魔導士が頷き、転移装置によって時の庭園の入口へと転移していった。

 

「――」

 

 サーチャーがかすかな音を拾った。

 

「……? 少し音声の感度を上げてちょうだい」

「フェイト……見ているのでしょう?」

 

 それはプレシアからの、フェイトへの声掛けだった。

 

「貴女には言っていなかったわね。最後だから教えてあげる。私がジュエルシードを集めていた目的は――」

 

 

 

 

 

 

 その事実は、凄惨なものだった。

 曰く、プレシアにはアリシアという”本当の”娘が居たこと。

 曰く、アリシアは死に、アリシアを復活させようとしてできたのがフェイト・テスタロッサという命であったこと。

 曰く、フェイトはアリシアとは全く別の存在として成長し、プレシアはフェイトを失敗作の人形だと思っていたこと。

 曰く、プレシアはフェイトの事が――大嫌いだということ。

 

 そこからは、語るのも嫌になるような悲劇であった。

 自身が作り物の命であった事実、あまつさえ唯一のよりどころとしていた母から拒絶された事実。それは、9歳の少女の心を壊すのには十分効果的で、フェイトもやはり、それに耐えることができなかった。

 正気を失うように倒れたフェイトを、痛ましそうな目で見つめる局員と、努めて冷静にフェイトを医務室へ運ぶように指示するリンディ。

 ブリッジは、重々しいという表現すら軽々しい雰囲気に包まれていた。

 

 

 

 

 転移した先に待ち受けていたのは、先手必勝と言わんばかりの傀儡兵の群れだった。

 視界が転移の光から晴れたと同時に、眼前へ迫りくる魔力弾をクロノは広域プロテクションで防ぎ、指示を出す。

 

「各自眼前の傀儡兵を屠りつつ前進! 本隊は隊列を崩さず後方から援護をお願いします! 他は余り先行し過ぎないようにッ!!」

 

 そう言うとクロノはプロテクションを解除し、魔力弾で数機の傀儡兵を貫く。が、当然その程度では通路に穴が開くことはなく、同じタイミングで駆け出した少年に攻撃が集中した隙になのはは砲撃で、ユーノはバインドで、クロノは射撃とバインドを絡めて少年を援護し始めた。

 

「先行しないで下さいとッ!」

「近づかなければ殴れもしないし蹴ることもできないッ!」

「それが一番強いからやりにくいですねッ!! すまないが作戦変更だ。遠距離から攻撃しつつ彼を援護ッ!」

 

 一同が苦笑しながら了解し、合戦の幕は上がった。

 




筋肉

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