モンスターハンター 老年の狼   作:まるまる

13 / 56
第四章 分かれ道へ
其の壱


 寒冷期を乗り越えた密林は繁殖期へとのめり込み、数々の生物たちがその数を激増させていた。

 故にハンターもその数に比例するように活発に狩り場へと赴いた。

 北をクシャルダオラが、南をナルガクルガが占拠してからかなりの月日が経った。生物たちの動向は当然のように重なり、北と南のちょうど中心部、ジャンボ村周辺へと密集し始めていた。

 繁殖期も重なって、特にランポスの数が群を抜いていた。それはもう見飽きるほどに。この原因をジルバは密かに結論付けていた。

 この全ての事の幕開けを握る、イャンクック。あの異常性を同種のランポス達が逸早く敏感に感じ取ったのであろう。

 ジャンボ村は脅威に包囲網を張られ、その数は尚も増え続けている。ジルバに限らず、村長や古龍観測隊もこの危険性を察知していた。最悪のケース、村の崩壊に繋がりかねない。

 よってジルバ、エレナ、アル、ハザンの四人は今日も狩り場を奔走していた。

 

「ハザン! エレナの援護だ! ワシはアルの傍に付く」

「了解です!」

「いえ、私一人でも大丈夫です!」

「ハザン、構うなッ」

 

 目まぐるしく飛び交う言葉。そして狩人らと敵対する桃色の獣、コンガ。

 群れの動きに惑わされて、完全に行き場を失ったエレナは視線を激しく巡らせながらも虚勢を張ってみせた。それを強く否定するようにジルバの指示が飛び、それにハザンが従う。

 手当たり次第に鉄刀【神楽】を振り回し、道を抉じ開けてエレナの応援に向かう。

 

「私一人でも大丈夫なのに……」

「そう言うな、エレナ」

「あー……もぉっ!」

 

 捨て鉢な言動と共にエレナが唐突に飛び出し、刃に怒気を漲らせた。一振り、続いてもう一振りと矢継ぎ早に剣を振るって威嚇と攪乱を同時と行う。

 エレナの粗野な動きをハザンが細かい動きで器用に補う。目の前の一頭を斬り付けるのに夢中なエレナの背後を常に付いて回り、ハザンが次々と敵を斬り伏せていく。

 

「くそっ」

 

 彼女の応戦と自分の身命に手一杯で的確な叱咤さえ思い浮かばない。荒々しい攻勢で群れを攪拌させていくエレナは一見目覚ましい立ち回りのようで、しかし、内部をとって見れば仲間さえも攪乱させてしまう迷惑な動きでしかない。

 ハザンの動きを好評すべきか、エレナの動きを修正すべきかはジルバにとって明瞭であった。詰まる所、現状にハザンの精神が擦り切れるような動きは本来、必要ないのだ。

 かく言うジルバもまたアルへの懸念があり、手一杯であった。

 

「集中力が乱れているぞ、アル!」

「え、あっ。はい……! すみません!」

 

 アルの側方から飛びかかったコンガの進路を突きで曲げ、転倒したところを即座に叩く。この一連の動作をした直ぐ後に振り返って柄の先端でコンガを牽制しつつ、横殴りで吹き飛ばした。

 エレナに限らず彼、アルもまた問題視すべき点がある。彼のは技術的ではなく、ある事件による精神的な問題である。一つの出来事に一憂し、狩り場に持ち込もうものなら狩り場に連れて来ない方向も考えねばなるまい。

 そして、現在は露わになっていなくともハザン、彼にも問題視すべき点が二つもあるのだ。

 先が思いやられる。そんな怒りも少し入り混ざった感情を鉄鎚に乗せてコンガに叩き込んだ。

 そろそろ、余裕が出るくらいに敵の数が減ってきた。彼らの頭領であるババコンガの生息情報はないので、もう勝利の瞬間は近い。ふと、気が緩んだ時だった。

 ジルバの視線の先、エレナが度外れた動きにジルバは衝撃を受けた。

 エレナをコンガが三角形に囲んで、数に物を言わせた猛攻を繰り出している。しかし、凄まじい即断力と洞察眼を武器にエレナは有らぬ動きでその全てを避けるか、受け流すのだ。いや、反撃できずに防戦一方と言った方が適切か。

 事実、彼女の動きには関節の限界を思わせるものがあり、そう長くは続かないはずだ。そんな過酷な状況であの包囲網を抜けようなど無謀極まりない。

 腰を低く落とし、駆け出した。低位置から強引に抜け出そうという魂胆なのだろうが、ジルバは確実な予見をもった。

 危ない。

 

「うぅ、わぁッ!」

 

 突如響いた獣たちの鳴き声とは違う、少女のか細い声。

 飛びかかったコンガに倒されたエレナが出した悲鳴に似た声であった。ハザンはその光景を目の当たりにしながらも動けない状況にある。

 危機的状況と判断するや否やジルバが鉄鎚を放り投げて、駆け出した。

 

「ジルバさん!?」

 

 放り投げた鉄鎚がコンガの脳を揺らすのを見ながら、驚異の声をアルが上げる。頭だけが振り向き、アイコンタクトで任せたぞと伝えてくる。

 アルは慌てて照準を覗いて覚束無い足取りのコンガに狙いを定めた。刹那、銃が四度、鳴く。

 アルの方は無事殲滅できたようだ。問題なのは。

 

「間に合うか……っ」

「っ! っっ!」

 

 乗りかかってきたコンガを押し退けようと剣を振り回すも、腕もろとも弾かれ柄を握っていた感触が消える。赤い得物が宙を舞った。

 牙が露わになり、涎が垂れ落ちる。エレナは口の奥に底知れない暗い影を見た。冷や汗をこらえ、歯を食いしばるも恐怖が恐ろしく湧いて止まらない。

 瞬間、エレナを覆っていた影が桃色の毛をひらひらと残して消えた。次に現れたのは木々の合間から漏れてくる陽の光。そして、次には手が差し伸べられ、その先に汗まみれのジルバの顔があった。

 辺りは先ほどの熱戦の残像がないぐらいに静かであった。

 大きな手を掴むと同時にふわっと体が起き上がる。見ると、ジルバのもう片方の手には血塗れのナイフが握られていた。

 ――ああ、また助けられたのか。――頑張ったのに朝も、夜も、今も。――でも、また。

 

「怪我はないか。エレナ」

「……」

 

 言葉が出ない。悔しくて堪らなかった。

 

「……エレナ……?」

 

 不意に伸びてきたジルバの手を避けて、弾き飛ばされた剣を見つめ、遅々と拾い上げる。

 

「大丈夫です……さ、今日も終わりましたね! 疲れたぁ! 明日もこんな感じかなぁー」

 

 作り笑い。空元気。――こんなに難しかっただろうか。――もう、涙が零れそうだ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 疲弊し切った狩人たちは今日もまた狩り場へ赴くはずであった。

 いつも通りに酒場に朝早くから集合した。装いはいつも通り、昨日の熱戦を疑わせない手入れした武具を身につけている。その思いが向く先もこの数日間と同じである。

 準備は万端。まだ残る疲れを隠しながら集合した三人であったが、ジルバはいつもの依頼書を持ってきてはいなかった。

 代わりに三人の知らない顔がそこにあった。

 

「今日から暫く滞在することになったハンターの方達だ。暫くの間、彼らにモンスターの掃討を頼むことにした」

「えっ……。ジャンボ村の専属は私たちで! ……あっ――力不足……ですか?」

「はぁ……そうじゃないぞ、エレナ。お主たちには違う仕事をやってもらう」

「違う仕事、ですか?」

 

 アルが不思議そうにつぶやく。この大変な時期の違う仕事が彼には思い当たらないらしい。それは彼に限ったことではなく、エレナ、ハザンも同様であった。

 

「ハザンとアル。お主ら二人にはポッケ村の救援に行ってもらう」

「えッ!?」

「俺が……ですか?」

「そうじゃ。不満か?」

「あ、いえ……」

「察しの通りだが、二人はフルフル討伐戦に参加してもらいたいんじゃ」

「ジルバさん……」

 

 一昨日のことであった。アル宛に届いたポッケ村からの手紙にはフルフルの種ツボとハンターが重傷を負った、という情報が書き込まれていた。無論、アルが故郷を心配する筈がなく、それが昨日のアルの精神にも多大な影響を及ぼしていた。

 これはアルのことを考えてのジルバの決断であった。早くに察したアルは目の色を変えて次には頭を深く下げた。

 

「ありがとうございます」

「当然のことをしたまでじゃ。それで……エレナ。お主は少しの間、休憩じゃ」

「え……私……?」

 

 エレナの表情が手に取るように分かりやすく失望する。

 

「少しの間だけ。そう言ったじゃろう? そう悲観するな」

「……はい」

「今日はこれで終い。二人は明日の出発に備えてくれ」

「「はい」」

 

 久方ぶりの新鮮な日を期待する二人の傍で肩を落とすエレナをジルバはじっと見つめていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 長かった頭痛の種は昨日のうちにすっかり無くなってしまった。

 代わりに芽生えた種からは伸び伸びと決意が育っていた。やがて実るその先を目指して。

 彼、アルフレッドは期待で満ちていた。が、薄氷を踏む思いがあった。彼らを前に自分は堂々としていられるだろうか。認めてもらえるだろうか。決意はあれども、やはり、彼の意志には迷いがあった。

 出発は今日の朝方。もうすぐ、陽が覗く。

 

「あー、緊張するなぁ」

 

 緻密な自身で改良したショットボウガン・白を手入れする。備蓄しておいた大量の弾丸を皮袋に流し込み、二つの背嚢を背負った。

 着替えは済んでいる。慣れてきた借家と暫しの別れである。部屋を憂いの目で見回したのち、眦を鋭くする。

 

「それじゃ、行ってきます」

 

 誰もいない借家へ、普段とかけ離れた声を出す。

 普段のように道を歩んで、道行く人たちへ会釈を交わす。ジャンボ村の朝は早い。陽が昇るや否や人が動き出すのだ。

 いつもの様子とは随分違うのを感じた村人たちの視線が明るい。そんなことを知らずに軽い足取りでアルは集合場所である門前を目指した。

 既に到着していたジルバが御者と会話している。アルは駆け足で、大げさに手を振って見せた。

 

「ジルバさーん!」

「おお、アルか。早いの」

「すみません。張り切ってしまいまして……」

「そうか、そうか」

 

 彼、ジルバの表情はいつも緩やかだ。温厚な雰囲気を纏っていてその周りにはいつも人がいる。年齢にそぐわない英気は彼の頼もしさと直結する。

 彼には数え切れないほどの知識を無償で頂いた。道具の活用法からモンスターの癖まで。腰に佩いてあるこの片手剣も彼の意向で身に付けたものだ。

 狙撃手が最も困難とする近接戦を考慮し、対応すべく片手剣。軽装でありながら身を守る盾が使え、扱いやすさに長けるので適任の武器だと彼は言った。

 前の自分とは明らかに違う。それを具体的に証明できるからこそ、独りでに自信がついてきた。

 

「御者の方ですか? アルです。よろしくお願いします」

「おお、よろしくな!」

「後は……ハザンじゃな」

「ああ。そうです、ね……」

 

 帰郷で浮かれ過ぎたあまりアルは肝心なことを忘れていた。

 

「お。噂をすればじゃのう」

「ジルバさん。お早うございます」

 

 さっぱりとした顔で現れたのは太刀と荷物を背負ったハザンであった。

 

「おう、アル」

「あっ……おはよう」

 

 アルは同性でほぼ同年齢であるはずのハザンとは口数が明らかに少ないほど、相性が悪いのだ。

 

(ああ……心配だ……)




まるまるです。
 
今回の後書きはジルバの名前についてお話を。

ジルバ・セイブル。
セイブルはsableという英単語でして意味は黒色。彼の二つ名である「黒狼」からとりました。ジルバはシルバーからとったことは覚えているのですが、理由はあまりよく覚えてないです。当時の設定が銀髪だったからだったような気もします。

あとの三人の名前も追い追い公開していこうかなと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。