モンスターハンター 老年の狼   作:まるまる

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一か月も空いてしまいました。申し訳ありません。
PCは無事修理されてデータは何とか消えずに済みました。


其の肆

 昼の密林。

 密林の住人でない狩人たちが堂々と足を踏み入れ、空気は自然の荒れを敏感に感じ取って張り詰める。樹木が騒めき、生き物たちが来訪者たちを避けていく。

 一行は昼食を済ませて狩り場の東へと歩みを進めていた。狩人たちは端から東にいると予想していた。これには信憑性がある。鬼謀の書士隊が並べた知識と、経験と実力の充分な歴戦の狩人が導き出した答えである。

 その証拠に狩人たちが東に向かうに連れてナルガクルガが住んでいる痕跡が多くなっていた。地面の不自然な凹凸、血に塗れたアプトノスの死骸などがそれだ。

 ギルドを通じた正式な依頼であるために制限時間が設けられ、また道具も厳しく制限される。時間が惜しく、また有力な道具も使えないのだ。だが、狩猟を目的として訪れた狩人たちは以前とは違い、総力でナルガクルガを殺すために戦う。逃げるのが目的ではない。

 それこそ生死を決定づけるまで終わらないだろう。差し支えることがあるなら嫌らしく泥臭い戦いでも平然と熟す覚悟が狩人たちにはある。

 だが本能的な死への恐怖がない訳ではなかった。引き返したい気持ちを無理矢理に胸の奥に押し込んだし、昨夜の睡眠の具合も快眠とは言い難い。と、言っても寝始めたのは深夜なのだが。

 ハザンもそうであった。しかし、それ以上にナルガクルガを仕留める映像を頭の中で数え切れないほど繰り返し流した。他の三人とは圧倒的に異なる意志を宿して、ハザンは東を目指している。

 狩るというより 殺す。職務というより義務。根底にある物が違った。ゆえに目が違い、気迫が違う。これを犇々と感じ取っていたジルバ、エレナ、アルは出発から今までずっと強張っている。

 

「……近いな。皆、落ち着いてかかるように」

(俺に……言っているのか。悪い気は、しないな……)

 

 ジルバの鋭い視線を受けてハザンが悟る。ハザンは力んでいた筋肉を緩め、結んでいた口が緩む。

 しかし、近い。復讐の時が近い。この事実が感情の坩堝をつくって冷静な脳内を過熱する。しっかりしろ、と一喝を入れるようにハザンは首を横に振り、ジルバの視線を確りと受け止めた。

 ジルバが頷く。安心したようだ。ハザンもゆっくりと深呼吸を重ね、視界を明晰にする。

 

「いた……」

 

 エリア3を抜けた先、ジルバが手を水平に払って呟いた。見繕った岩陰に身を潜め、続いて三人も木の幹や岩に背中を密着させる。

 ナルガクルガは音に敏感だ。物音に気を付けていればこの距離からして気付かれることは無い。ハザンは恐る恐る盗み見た。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 今夜は暗い。月が雲に隠れているのだ。

 ジャンボ村のハンター達は準備を周到に済ませて深夜に出立してしまった。大きな荷物である大タル爆弾などはギルドの肩入れでベースキャンプに予め送り届けられている。

 夜道の安全も確保されているようだが、念には念をということで狩人たちのみで狩り場に向かっている。すなわち、移動手段は歩きである。それほどまでにナルガクルガの根城は近い 。

 ミラが予測するに明日は快晴。明後日は定かではない。ジルバ達は明後日の夜までに決着を付けるつもりなのだろう。ミラもそれを大いに賛同する。

 主のいなくなった借家を出て周囲を確認する。人影は見当たらない。ジャンボ村を出て獣道を迷いなく突き進んで物寂しげな小屋に慣れた様子で入っていく。

 

「待っていたぞ。ミラ・レスカラー二等書記官」

 

 椅子から立ち上がった糸目の男がソファに腰かける。机を挟んでその反対側のソファにミラへ着席を促した。「失礼します」と事務的な言葉を落としてミラが礼儀正しく座る。

 男は茶髪の髪を弄ってから両手を組んで顎を置き、打って変わって鋭利な視線をミラへ刺した。

 

「今、彼らは何処に?」

「ナルガクルガの 狩猟へ向かいました」

 

 糸目の男は淡々と質問を続ける。ミラも一切の私情を挟まずに機械のように答えた。

 

「こちらに疑いをかけている様子は?」

 

 ふと、思い出される言葉の数々。ミラはしっかり記憶した通りに頭の中に声を流した。

 

『村長が雇ってくれた三人のハンターがいたじゃろ。あの三人、何度もランポスの狩猟依頼を受けているというのに、今回エレナの遭遇したランポスの数が多すぎるんじゃ。さらに、村の農場を襲うまで近くに来ているときた……だから――』

『こんな時間にどこに行っていたんだ? 忘れ物……何も持ってねぇようだけど? 話したくないなら良いけどさ』

 

 これを疑いと表現すべきか、否か。少なからず、すっかり信頼しているようには思えない。疑いと断定せずとも報告すべき内容。ジルバに関しては三人の狩人を不審に思っている――が。

 

「いえ。今のところは何も」

 

 何故。喉までは出かかっていた。だが、口が無意識に動いて喉まで出かかった報告すべき言葉の数々は飲み込まれてしまった。

 今ならまだ間に合う。修正できる、言い直せる。脳内には確りと分かり易い説明が並んでいるのにもう遅い、と誤魔化してミラの口から出ることは無かった。

 

「そうか……あの事に勘付いている様子は?」

 

 思い出されるのは資料室でのこと。ハザン、彼は確かに何かを調べていた。しかし、不確定過ぎる。あの事を調べていたとは断定できないが、彼が何かを調べていてそれを急いで隠したのは事実。つまり、報告すべきだ。

 

『約束だ』

 

 ミラの脳裏に彼の顔が過ぎって、言葉が閃いて、報告しようと思っていた言葉たちが濃い靄にかかる。 

 

「いえ。全く」

「……そうか。定期報告はこれで終わりだ」

「了解です。……では」

 

 ミラが一礼し、ソファから立ち上がり小屋を出ようと扉に手を伸ばした時――糸目の男が思い出したように呼び止めた。

 

「そうだ、ミラ書記官」

「はい、何でしょう?」

 

 ミラは不変の冷たい表情で振り向く。

 

「僕は君には期待しているんだ。完璧な成功をね。だから君にこの任を授けたし、昇格も約束した。くれぐれも私たちを裏切るような……失望させるようなことはしてくれるなよ?」

 

 意と眼の男が細い片目を見開き、鋭利な視 線でミラを射抜く。心の内を見透かしているような圧力さえ感じる眼光。

 ミラはこれを真正面から受け止め、眉の一つも動かさず冷たく返答した。

 

「勿論です……以上ですか?」

「ああ。呼び止めてすまなかった」

「いえ。では……」

 

 糸目の男はミラが扉を開けて閉め終わるその瞬間まで鋭い視線を絶やさず射続けた。

 ミラは氷のような冷徹な光を瞳に湛え、足音も立てず、暗い夜に紛れて消えて小屋を後にした。

 

 

 

「……間違いない。彼の言ったとおりだ」

 

 ほんの少し開けたカーテンの隙間を閉め、ジャンボ村の村長がそう呟く。外見は若人であるがその年齢は未知数。竜人族は人間より遥かに長寿で人間の常識は通じないのだ。

 カーテンの外は暗闇の夜。この時間帯に出歩くのは不審である。

 やはり書士隊には何かがある。村長はジャンボ村への忍び寄る影を予感して、ぞわりと足元が寒くなった。

 

 震える四本の手に持つのはジルバから受け取った手紙。送り主は彼の旧友であり、元古龍観測隊の者であるらしい。 

 村長は青ざめた顔で手紙の追記にあたる文章を黙読した。

 

『ドンドルマで書士隊の黒い噂が立っている。何でも生物兵器を作っているとか。兎に角、気を付けろ。奴らが重大な何かを隠していることには違いない』

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 心臓がばくん、と跳ね上がった。

 それはもの凄い存在感を放ってそこにいた。

 黒い体毛に覆われ、飛竜種に属しながら翼を失った迅竜。夜の狩人なんて俗称が頷けるほどに全身は漆黒に包まれている。漆黒の裏には底知れない筋肉が敷き詰められていてそれが成し得る高速移動は過去の恐怖を沸々と湧き上がらせる。

 ハザンはそれが復讐すべき仇なのだと認識するのに時間など必要なかった。失いかけていた感情が腹の底から噴き返してくる。

 ハザンは徐に太刀の柄へと手を伸ばす。殊更に企んだ訳ではない。手が無意識に動くのだ。

 

「アルは予定通り、高い地点から射撃。開戦はお主の発砲を合図とするぞ」

「はい」

 

 アルが足音に気を付けてその場を離れていく。ハザンは呆然とその姿を目で追っていた。

 予め叩き込まれた作戦が見る間に霧の中に隠れていく。

 ――先程ジルバは何を言ったのか。――アルは何処へ行ったのか。――自分は何をしているのか。

 ここはどこだ?

 理性が吹き飛び、視界がぼやける。視界にはっきりと映るのは漆黒の竜だけ。凝視する。視覚以外の感覚が忘我の最中に失われる。脳が勝手に不必要とでも思ったのだろうか。

 遠くて近く、辛くて苦しい記憶が徐にハザンの脳裏に流れる。

 黒い影が悲鳴を上げる狩人を踏み潰し、爆弾が爆発し炎の帳の向こうから断末魔が聞こえる。血が弾け、悲鳴が飛び交い、視界が真っ黒に染まる。離れてゆくのは、聞こえるのは慣れ親しんだ父さんの声。

 築き上げた死体(かぞく)の山の上で吼えるのはアイツだった。

 ――止めロ。――ソレは俺の家族ダゾ。――踏むナ。

 記憶のシルエットと目の前のシルエットが重なる。

 

「――ザン。 ハザン。聞いているのか?」

 

 声? これは声なのか。解らなイ。

 俺は見える。俺は記憶と同じ竜が見える。

 全身を纏うのは底知れぬ殺意。疼く心は復讐の衝動に支配された。五感の視覚を除く四つの感覚がある境を経て完全に断たれる。

 足が勝手に立ち上がる。腕が勝手に太刀を引き抜く。目がアイツしか見ない。仇敵との再会を口は笑みで表現した。

 ――憎イ。全部、壊したアイツが――憎イ。

 理性吹き飛ぶ直前、最後に訳も分からず俺は謝罪する。

 

「ジルバさん。スみまセン」

「ハザンっ? 待っ――」

 

 すみませんジルバさん。俺はもう何も聞こえません。

 きっと、俺はジルバさんが知恵を振り絞って練り上げた作戦を踏みにじり、アルやエレナを危険に晒そうとする悪い奴なのだろう。

 ――デモ。

 

 全部ヲ奪っタ。罪ナキ人達を沢山殺しタ。オマエガ――一番悪イカラ。

 

「――殺シテヤル」




まるまるです。

今回はハザン・カローゼラについてお話を。
まず苗字のカローゼラについてですが、作品の主要人物の苗字は色に関わってきましたが、今回はゼロカラー(0色→無色)を入れ替えました。理由としては両親が不明であることからきています。ちなみにこの苗字はエーランドと一緒です。名前のハザンですが、太刀を使う点から武士的なイメージを思い浮かべて和風っぽい名前にしようとした末路です。
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