ナツメの義兄へ転生   作:アステロイドベルト

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一話

 

 

 

 暗がりの部屋。テンプレート的な展開が待たないことを期待していた俺の視界は、自然と望んでいないものを映し始めていた。

 

「揺りかごから落ちてしまったみたいですね」

 

 不意に、背後からそんな声がした。

 

 電球ひとつみたいな部屋だったのに、そっちの方へ向いた瞬間に花火が上がったみたいに明かりがはじけた。

 跳ねている光を目で追いながら、俺は首をかしげつつ呆れてやる。

 

「死にました、だなんて言わないでくれよ…………こちとら楽しみにしていた修学旅行だ、途中の飛行機で落下してあなたは死にました、なんて待ってねーんですが」

 

「残念」

 

 フードを目深に被っているせいで顔は見えないが、どうやら笑っているらしい。何だ? 諦めろという意味かそれは?

 

 兎角俺はどう言われようが屈することはない。ここで地獄に行くか天国に行くかの烙印を押しつけられるっていうんなら、死に物狂いで逃げてやる。

 

「別にすぐ地獄へ叩き落としましょうって訳じゃありません。ただ、貴方が死んだのは色々と都合が良いので、今回は特別にキャンペーンの実験台になって貰おうと思うのです」

 

「ビックリするくらい話が全然見えなくて俺は困っています」

 

「理解できなくても構いません。とにかくあなたには一度元の世界とは別の場所へ生まれ変わってもらいます」

 

「いやいやいや、待って待ってくださいよ……ちっとくらい説明してくれ、三行くらいでいいから」

 

「三行もダラダラと説明するわけにはいきません。そろそろ時間なので身構えておいてください。一瞬で視界が0になりますから」

 

 怖いなオイ。

 

 ていうか、生まれ変わるだの何だのと言うのは百歩譲って納得するとして、できればどんな場所に飛ばされるのかくらい教えてくれたっていいのではないだろうか?

 それを聞いても面倒くさいの一点張りなので、俺は自然と質問するのを諦めていた。

 

 俺は高校二年の冬、いざ修学旅行な普通の人間だった。

 とくに突飛した部分もなければ褒め称えられるような人間でもない。

 家にはいてもいなくても同じ。帰宅を待ってくれる家族はいないし、別に必要でもなく。

 

 友達だけならアホみたいに出来たが、家族だけは一人もいなかったんだ。

 

「何一人で語ってるんですか」

 

「口には出してなかったはずなんだけど……」

 

「丸聞こえですよ。それよりなんですか今の経歴は。同情して欲しいんですか?」

 

「同情してっ! さびしいからっ!」

 

 無様に跳ねまわるなんてことはしないけど、慰めてほしいのは事実だったのかもしれない。

 我ながらなんともつまらない人間である。

 

「そういえば、アンタは神様かなんかってことで良いのか?」

 

「…………さっきから気になってたんですけど、あなた常識人の割には異様に物事を飲みこみますよね。頭ごなしに説明してくれって顔もしてませんし」

 

「百聞は一見に如かずってことわざあるだろ?」

 

「使いどころが正しいのかどうだか」

 

「つまり、目の前で起こった事象について、俺はとやかく疑ったりするのは無駄だと思うんだよ」

 

「まあ、そっちの方が私にとっては好都合ですが。これからのあなたにとっても」

 

「はい」

 

「なんですか『はい』って……」

 

「いや、一々事細かに返答するの面倒だったからさ」

 

「……そうですか。あなた、本当にこの状況飲み込めてるんですか?」

 

「三分の一くらいのどにつっかえてる」

 

「吐きだしてみてください」

 

「嫌だ」

 

 ムスッ、とした態度が陰に隠れていても伝わるぞ。

 明らかに不機嫌になってしまった自称神様は、腕を組んで俺に背を向けつつ最後に呟いた。

 

 そろそろ時間ですよ、と。

 

 そういえば俺、今から生まれ変わるんだっけ?

 一度やってみたかったんだよね、この高校生の知識を持った状態で小学生時代。異様なほど進んだ課題解いちゃったりして。

 

「はぁ……下らない……」

 

「また勝手に覗き見しやがったな自称神様」

 

「無駄口叩いてないで、そろそろ目を閉じたらどうですか? 来ますよ寒波が」

 

「いやぁ怖い。最後に女の子を抱きしめてみたかったなぁ……」

 

「仕方ないですね……ほら、どうぞ」

 

 ん?

 

 何を言っているんだこの真っ黒クロスケは。いや、ローブとそのフードのせいで全身黒尽くめなだけなんだが。

 そんな泣く子も黙る小さなアヤシイ人物が、俺に向かって手を広げている。何を考えているのだろうか。

 

「何をしているんでしょうか」

 

「最後に女の子を抱きしめてみたかったのでしょう? どうぞ、遠慮なく」

 

「いや、女の子? 女? ♀? 女性なのオマエ?」

 

「いい加減にしてください。結構恥ずかしいんです」

 

「全然凹凸ないから、そんな気が起こらない……」

 

「ぶち殺しますよ」

 

 物騒なことを言いつつ、神様は不貞腐れ気味に手を畳んでしまった。勿体ない事したか?

 いや、初対面の少女を腕に収めたって何も面白くないだろう。ちゃんとしたお付き合いの上で云々。

 

 暫くすると、俺の目の前に身長より少し高いくらいの扉が現れた。

 赤、青、緑の装飾が施してあり、それ以外にメッキのようなテカテカ光る宝石が所々はめ込まれている。

 

「これからこれを潜る者のが味わう困難の数だといわれています」

 

「いや、多すぎだろう。自殺しかねんぞ」

 

「つまらない冗談は止めて、さっさと開けちゃってください。私も早急に片づけたい債務が腐るほどあるんですから」

 

 俺ってこんな冷たい神様の作ったルールの上で生きていたのか……。

 まぁ、いいか。これからどんな場所でどんなルールを課せられて生きていくのかは別の話だし、今思い悩んだって分かるようなことでもない。

 

 ドアノブに手をかけると、意外とずっしりして重かった。向こう側が拒絶しているみたいに思えて、なんだか悲しくなってくる。

 

「よっこらしょ」

 

 バキン、という扉が開くというよりカギが折れてしまったような音と共に、扉が開いた。

 向こう側に広がっていたのは、豪勢なシャンデリアみたいな世界。見るのも嫌になるほど、まぶしい光の世界。

 

「まぁ、精々頑張ればいいです、人間さん」

 

 送り言葉と共に俺は足を踏み入れた。おおう、温かいな。

 ふわっとした温暖な空気と共に髪が煽られ、一気に太陽が落下していく。

 

「お邪魔しまーすっと……」

 

 ノックはしなくてよかったんだよな?

 

 

 

 

 

 

 

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