ナツメの義兄へ転生   作:アステロイドベルト

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十一話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハクタイシティ。昔を今に繋ぐ街という代名詞を持った、いかにもな歴史ある場所だ。

 それは街へ踏み入れた瞬間から見える、巨大なポケモンの像からも察することができる。

 

 そんな伝説のポケモンを祀っている都市で一日の終わりを過ごした俺たちは、毎度お馴染みの駆逐したい敵NO1の明朝を迎えていた。

 だが、そんなミスター低血圧は既に卒業している。朝っぱらのアホみたいに寒い外へ足を運び、両手を擦り合わせながら三つのボールの開閉スイッチを押した。

 

「さて。今日はお前たちに頼みがある」

 

 ハッサム、メタング、ジバコイル。三匹一様にこくりとうなずくと、俺が懐から取り出した道具に視線を向ける。

 

「昨日森で拾ったわざマシンだ。今からコイツで、ただの爆弾に過ぎなかったジバなんとかさんに、遂に攻撃わざを覚えてもらうことになった」

 

 おー! と盛り上がるジバコイルとメタング。ハッサムはクールに無反応だ。今まであいつの妙ちきりんな仕草は見たことがない。

 

「んでもって、力量底上げのために朝から特訓といこうと思う。こういうスポ根みたいなノリは柄じゃないが、このままだといざって時に困るからな」

 

 わざマシンをジバコイルに使用し、空になったわざマシンを放り投げる。

 これで大爆発しか芸のなかったジバコイルも、立派な戦闘要因だ。

 

「よし。んじゃ始めるとするか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 肌寒い曇り空の下、メタングとジバコイルが目をバッテンにして、地面にへたれ込んでいる。

 疲れた素ぶりも見せずに立っているのは、ハッサムだけだ。

 

「よくやるなあ、お前」

 

 まだやれる、とでも言いたげな表情でハサミを開閉するが、既にメタングとジバコイルはバテバテ。

 特訓相手がいないため、今日はここまでとしか言いようがない。

 

 すまんな、と言いつつボールに三匹を戻してやると、少し離れたところでその様子を見ている女の子が視界に入った。

 年はナツメより少し下くらいか? 興味津津といった表情の少女は、せわしない足つきで俺の方へ走り寄ってきた。

 

「お兄ちゃん、今のポケモンよね!」

 

「そうだよ。ていうか、こんな朝早くから何してんの、お嬢ちゃん?」

 

「肝試し!」

 

「へぇー」

 

 何言ってんだこの子。

 さくらんぼみたいなポケモンを頭に乗っけてる辺りを見ると、どうやら彼女も一人のトレーナーのようだ。

 

「私、小さいころからお化けが怖くて…………だから、それを"こくふく"したいの!」

 

「ほー、偉いな。ウチの妹なんて、ビビって近づこうとすらしないぞ」

 

「誰がビビっているのかしら」

 

「オマエ」

 

 背後に指をさすと、そこには不機嫌そうに腕を組んだままのナツメが立っていた。

 どうやらこいつも朝は苦手らしい。いや、常時不機嫌にみえるんだけどな。

 

「昨日、兄ちゃんとこの姉ちゃんが行った"もりのようかん"なんてどうだ?」

 

「そこ! 今からそこに行こうとしてたの!」

 

「何? この朝から元気な子……」

 

「そいや名前は?」

 

「ナタネ!」

 

「そっか。俺はアンバーだ」

 

 どっかで聞いた事が有るような無いような。

 

「よし、なら今から俺が着いてってやるよ。ナツメはまだホテルに残ってていいから」

 

「ホント!?」

 

「…………そう」

 

 ナタネちゃんとやらは喜んでいるが、怖い思いをしないようにと思って言ってやったのに、ナツメの方は何故か釈然としない顔のままホテルに戻って行った。

 何か気に食わないこと言った? 俺。

 

「それじゃ早く行こうよ、アンバー!」

 

「ああ、引っ張るな引っ張るな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再度舞い戻ってきた薄暗い森の入口付近で、俺とナタネちゃんは立ち止まっていた。

 いや、俺は立ち止まってるんじゃなくて、万力のように腕を絞め付けられながら引かれているだけだ。

 

「おい……やっぱ辞めとくか……」

 

「大丈夫大丈夫大丈夫、私は大丈夫だから早く行こうっ」

 

「んじゃ、そこで根張ってないでさっさと行くぞ」

 

 引っ張り上げ、一先ず抱きかかえながら入口は通過した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

[んじゃ、そこで根張ってないでさっさと行くぞ]

 

 少年が、自分より少し小さい女の子を"お姫様だっこ"とやらで抱きかかえるイメージが浮かび上がる。

 他にも、ビックリして少年に抱きつく女の子の姿や、倒れた女の子に手を貸す少年の姿。

 

(別に…………見たくないのに……)

 

 勝手に頭の中へ入ってくるイメージに、少女はギリ、と苛立ちを隠すように俯いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日の電気ポケモンがいなくなったのが切っ掛けなのか、館全体にゴーストタイプの気配が充満していた。

 だがゴースのガスより何より、今の俺には右腕部の安全が第一優先事項だった。

 

「痛い痛い痛い、いい加減絞めるのヤメロ」

 

「大丈夫だからね、アンバー、私がいるから怖くない怖くない怖くない」

 

 お前のおかげで身の安全が保障されないんだけどな。

 にしたって怯えすぎだろうこれは。ナツメを優に凌駕してんぞ。

 

「一旦腕を離してくれ、ナタネちゃん。いざって時に立ち回りできな――――」

 

 言い切ろうとした瞬間、俺たちの周りを霧を纏う三つの怪しい光が旋回し始めた。

 ごうごうと燃え盛る鬼火のようでありながら、確かな輪郭がチラつく姿を見るにポケモンが身を隠しているのだろう。

 

「な、なにコレ?!」

 

「伏せろッ」

 

 ナタネちゃんを抱え込み、頭を引っ込めて体を引っ張り下げる。

 同時に、三つの光が頭上で爆音を鳴らしながら激突した。なんつー連中だ。実際のポケモンって人間にも容赦ねーな。

 

「に、逃げようよアンバー!」

 

「ゴーストタイプに、人間の足が敵う訳ないだろう? ジッとしてろ」

 

「無理だよこんな……それに、アンバーのポケモンは二匹ともバテバテで、一匹しか戦えない!」

 

 ナタネちゃんの頭を掻き回し、虚勢を張って笑って見せた。

 

 前回はこの状況下で一度失敗したが、一度は成功しているんだ。やれる、やってみせるさ。

 女の子の前で良いカッコしたいのは男の性《さが》なんだ。

 

「全部倒して見せるさ」

 

 一個のボールから、赤い影が飛び出す。

 鋼の爪はゴース、ゴーストの二匹をなぎ倒すと、最後の一匹へ向かった。

 

(こらえやがった……)

 

 ダメージは通っているように見えるが、どうやら戦闘不能にまでは至らなかったらしい。

 直後、ハッサムへ反撃が行われた。

 シャドーパンチ。残ったポケモンは、その技名にもあるようにシャドーポケモン。

 

 ゲンガーだ。

 

 特訓直後の消費した体力じゃキツイか……?

 だけどコイツにやってもらわねば、他に奴を仕留められそうなメンバーは残っていない。

 ジバコイルだって、爆弾扱いはできない。わざのタイプ相性的にな。

 

 敵は迷う暇を与えない。両目を妖しく光らせながら、こちらへ向かって突っ込んできた。

 ハッサムも迎え撃つ。さぁ、どう出る?

 ゲンガーの方が早い――――――、

 

 刹那、ハッサムの腕が弾丸に変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は、一人ベットの上でうずくまっていた。

 唇をかみしめ、溢れる感情を押し殺すように……。

 

 シーツを掴み、何かに堪えるように引っ張る。

 

[伏せろ!]

 

(やめて……)

 

[ジッとしてろ]

 

(私以外に、優しくしないで!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間に思い出したのだろう? が正直な感想である。

 くたくたになったナタネちゃんと一緒にもりのようかんを出て、ハクタイシティに戻ってきている最中である。

 

 確かに、あの時ゲンガーに放った技は"バレットパンチ"だ。しかし、本来あの技はLv1の時に覚える物であって、訓練を積んで習得でるような特技ではない。

 

「ハッサム、最初から覚えていたんじゃないの? アンバーが知らなかっただけだよねー?」

 

 こくこくとうなずくハッサム。え、マジで?

 じゃあ教えてくれりゃ良かったじゃん。だって俺、十数年間ずっと一緒にいるけど、こいつが"バレットパンチ"使ってるところ一回も見た事ないんだぞ?

 

 確かに毎回毎回、ビックリするくらいのスピードで敵に飛んで行くけど、それは全部メタルクローだったし。

 

「アンバーはおバカさんねー?」

 

 ハッサムに向かってニコニコしながら訊ねるナタネちゃん。おい、なんで深々とうなずいてんだコラ。

 

「それに……えっと……」

 

「なに急にしおらしくなってんだ」

 

 さっきまでは子どもらしくぺちゃくちゃと喋っていたくせに。年下はこういうところがよく分からない。

 一生理解出来そうにもないが。

 

 俺がハッサムと同意したようにうんうんと頷くと、不意にナタネちゃんが俺の顔を引き寄せた。

 んちゅー、と。頬っぺたに柔らかい感触があばばばばbbbbb。

 

「あ、アンバーもカッコよかったよ! じゃ、じゃあね!」

 

 呆けている俺に、小さな女の子はそう告げて去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れ時。一体何時間あそこで右往左往していたか思い出したくもない。

 夕日色に染まったハクタイシティの一角にある大きなホテルに、俺は足を踏み入れていた。

 

 頬に残った湿りを再認識すると顔が熱い。こんなんだから童貞臭いだとか馬鹿にされるのだろう。

 非常に遺憾だが、今の俺に否定はできなかった。一目見れば自分を童貞だと直感で分かるレベルである。

 

 部屋の前でいつものような雰囲気で戻れるように、顔を目覚ましのようにぱんぱんと二度叩く。

 

「ただい……ま……?」

 

 帰宅するような勢いで扉を開くと、そこには俯いたまま無表情のナツメが。

 ドアの前でずっと立っていたのか? 犬じゃあるまいし。

 

「…………だった……」

 

「ん?」

 

 吹けば消えそうな声で、ナツメが何か呟いた。

 

 よく聞き取れなかった。なんと言ったのだろう。

 

「……嫌、だった……」

 

「聞こえな――――」

 

「嫌だったの!!」

 

 突然声を張り上げた。いつもは冷静に言葉を繋ぐ、あのナツメが。

 

「あなたが他の女の子をお姫様抱っこしたり、楽しそうに会話したり、二人きりで笑い合ったり触れ合ったり守ってあげたり!!」

 

「お、おい……ナツメ……」

 

「優しく他の女の子の名前を呼ぶだけで、苦しいの…………あなたの笑顔が、私以外に向けられてるって思うだけで……嫌な感情が爆発してしまいそう……」

 

 私、おかしいのかしら…………。

 

 最後の言葉を聞いて、俺は思わずナツメを抱き締めていた。

 ポロポロ涙を流すか細い少女を支えるために。

 

「もうずっと動きっぱなしだったから、疲れてるんだよ。もう休め……」

 

「違う。違うの。ずっと今日のあなた達を見ていて、狂ってしまいそうだった…………分かったのよ。私は、私はあなたの事が…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レポート

 

 

 名前 アンバー

 

 

 手持ち

 

 ハッサム Lv39 特性 テクニシャン

わざ メタルクロー れんぞくぎり きりさく バレットパンチ

 

 メタング Lv36 特性 クリアボディ

わざ メタルクロー ねんりき てっぺき どくどく

 

 ジバコイル Lv33

わざ だいばくはつ こらえる

メモ もうどうにもならん。

 

 

 名前 ナツメ

 

 

 手持ち

 

 ユンゲラー Lv33 特性 シンクロ

わざ サイケこうせん かなしばり めいそう じこさいせい

 

 バリヤード Lv29 特性 フィルター

わざ サイケこうせん リフレクター ひかりのかべ みがわり

 

 スリープ Lv28 特性 よちむ

わざ さいみんじゅつ ねんりき サイケこうせん

 

 ラルトス Lv22 特性 トレース

わざ ねんりき しんぴのまもり おんがえし かげぶんしん

 

 ヒトデマン Lv26 特性 しぜんかいふく

わざ じこさいせい みずてっぽう こうそくスピン スピードスター

 

 

 

 

 

 

 

 

 日記 アンバー

 

 俺はどうすればいいのだろうか。

 

 

 

 日記 ナツメ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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