単刀直入に言うと、俺はヤマブキシティという名の街で、普通に民家の一人息子として生まれた。
この名前で既に察しているとは思うが、どうやら俺はポケットモンスターという名の生物が息づく世界に生まれ落ちてしまったらしい。
いや、別に文句はないんだ。だって楽しいからさ。
家の中には数匹の可愛らしい生物がトコトコ歩いていたり、自分のポケモンを扱って戦わせたり。
バトルは当初何とも気が引ける行為だったのだけれども、どうやらポケモンたちも嫌がってはいないみたいだし、むしろそういうのを望んでいると見える。
ポケモンにとってはスポーツと変わらないらしい。
まあこの流れだと、多分どこかで主人公と出会って、普通に普通のトレーナーとして倒された後に有り金引き剥がされるのだろうな、なんて思い悩んでいた矢先だ。
父がぽっくり逝ってしまった。
別段危険な仕事をしていたわけではない。確かシルフカンパニーの一般社員だった筈だ。
そんな何の変哲もない人間がなぜ急死したのか。俺が知りたい。
さて、そんなわけで内は母子家庭の厳しい毎日を送る羽目になってしまうではないか。
なんてことを考え始めたのは父がいなくなって半年後の話で、それまではベトベターもびっくりなドンヨリ空気を垂れ流しながら布団にくるまっていたのだが。
そんなとき、母さんの家に父の知り合いだという男性が現れた。
最初は俺も警戒心むき出しで威嚇気味だったのだが、知りあうに連れてその人の良い場所ばかりが見えてきた。
悪い人ではなさそうだ。俺がそういうイメージを持った時、既に母さんとその男性の関係は非常に親密になった後。
いずれ結婚してしまうんではないだろうか? と思っていた。構わないんだけどさ。
俺はそんなさくらんぼみたいな空間にいずらく、仕方なく家から足を出した。
だって無理だろう。絶対お邪魔じゃん。そういうの察する年齢なのよね。
まだ十四歳だけども。
俺の手持ちは"ハッサム"一匹しかいない。父さんから譲り受けたストライクを、またまた父さんが持ち帰ったメタルコートで進化させたのだ。
いかつい見てくれのせいで、リビングでモンスターボールから出した状態は母さんがビビるからいないが、こうして街中ではボールの中から放している。
ボールの中は快適らしいけど、こうやって外の空気吸った方が良いだろ。
「家にいずらいって、我が家なのにおかしいよな」
横で歩くハッサムは、心底同意したようにうなずいた。
「そーだ、近い内に旅にでも出るか? こうして外と家を何度も往復する毎日で、偶然帰ったら[ピー]だったら困るし」
興味深そうな表情のハッサム。暫くすると、こくこくと今度は強く何度もうなずいた。
「ならさっそ「おーい! アンバー君!」」
誰だ? 俺の華麗なる門出を遮るのは。万死に以下略。
「ふぅ……やっと追いついた…………。男の子はやっぱりわんぱくだな」
「どうしたんですか? こんなところまで。あと、俺はやんちゃ坊主じゃありません」
「ああ、君に聞きたいことがあってな…………その……」
言うまでもないと思うが、この人が俺の母さんとムフフな関係にある男性だ。
この人、有名人なのか外に出るとやけに注目されている。芸能人か何かか? 確かに整った容姿ではあるが、そういった振舞いは見られない。
どっちかっていうと、トレーナー気質だ。
「私の…………子どもにならないか?」
その後、話は予想以上にトントン拍子に進んだ。
再婚を果たした母さんは前みたいに明るさを取り戻しつあり、なおかつ家の事情も回復している。
まあ、プラスの方向に進んでいるのだろう。別に文句はない。
家族のいなかった俺にとって、その家族にとって何が間違っているのかなんて判断できないのだから。
さて、しんみりした空気は全くなれないので、この話はここまでにしよう。
一つ驚いたことと言えば、あの男性の職業、実はジムリーダーだったらしい。
普通街に住んでいるなら知っているだろう? と自分でも突っ込みを入れたいが、残念ながらリーグ関係に興味のない俺にとって、そのあたりはノーマークだったのだ。
それに、俺の知っているヤマブキのジムリーダーは別の人物だ。
その人物、もっと付け足せば少女は、現リーダーの娘にあたる人物らしい。
病によって命を落としてしまった自分の愛する人。だから、あの人は母さんに優しくしていたんだ。
崩れかけた彼だからこそ、それと同じ境遇だった母さんを支えた、と。
他人だと思えなかったんだろうな。父さんとは友人だったらしいし。
難しい話はここでおしまい。ここからは端的に日常が続いている。
「今日から君の妹になる、ナツメだ…………ほら、挨拶」
そう言って、新しい父さんが横に立つ少女を促した。
長い髪。俺の知っている姿と比べて大分小さい。
「初めまして。宜しく頼む」
無愛想だ。
まあ予想はしていたがな。
そんな出会い方だった。
暮らしていく上で理解できたのは、彼女が普通の人間ではないということ。
超能力者。そういう人間らしい。
だからって注目するわけでもないが、確かに珍しい。
集中すれば心を読んだり、人を探したりとポケモンも顔負けなことまでやってのけてしまう。
ナツメ。いつか、この街のジムリーダーになる少女の名だ。
レポート
名前 アンバー
手持ち
ハッサム Lv22
わざ
メタルクロー れんぞくぎり