はい。朝です。
俺も男なので朝は朝なりに朝なのだが、今日はどうやら別の理由で朝のようだ。
状況を整理しよう。
俺は昨日、ナツメにかなしばりをされつつ別々のベットで眠りについた。流石にここまで信用がないと、俺も怒るぞ。
いやいや、今はそんな事でどうこう言っている時ではなくて。
単刀直入に言うと、朝起きたらロングストレートヘアーの美少女が、俺の隣で寝ていた。
何を言っているか分からないと思うが、俺も分からん。
(かなしばりは解けてるし……誤解されぬよう、今の内に離れねばっ)
するーりするーり。
若干ナツメと肌が擦れ合うが、今は我慢だ。猛獣になるわけにはいかんからな。
「なんとか脱出せいこ…………」
ふと、視線を感じた。
わなわなと震えている女の子の方を振り向きながら、俺は苦笑いで返した。
「おはようさん」
「……何故私が、お前のベットで寝ている…………」
「寝ぼけて入ったんじゃねーの」
「な……に……?」
今にも爆発しそうな真っ赤な顔で俺をにらむと、そそくさと自分のベットへと戻ってしまった。
ぶつぶつと自己暗示をかけているが、今は気にしないことにしよう。
時計を見ると午前八時。今日は起き次第朝食を取って出発の予定だったので、こっちはこっちで荷物を整理しておこう。
「なあ、先ずはどうするよ」
「あ、ああ、そうだな。もう次の街を目指していいんじゃないか?」
「なあ、なんで今さら布団に包まってんだ? 早く準備しねーと……」
「う、うるさい…………」
「んじゃ俺も、愛する義妹の匂いが残っている布団を今暫く…………」
べっちーん。
そんな乾いた音と共に、俺は意識を途切らせた。
再び俺が目を覚ますと、床で無様に転がっている俺を見下ろしながら、手足を組んでいるナツメが視界に入った。
「え、今何時ですか」
「十時だ馬鹿。さっさと起きろ、出るぞ」
「いやいやいや、まだ朝飯も食ってないんだけど」
「私は食べた」
「俺が食べてないんだって」
一々うるさい男だ、などと呟きながら俺の横になった視界から消えると、暫くして一つの皿を持ってきた。
床に置かれる白い皿。その上に乗っていたのは、二個の皿と同じ色をしたおにぎり。
両方ともへんてこな形をしている。誰かが適当に作ったのか、それとも慣れないなりに頑張ったのか。
「まさかナツメが作ってくれたのか?」
「勘違いするなよ、私はさっさと次の街へ出たいから作ったのであって、決してお前のためなどとは思っていないからな」
(無意識かは知らんが、またツンデレ発動してやがる…………だが、また赤面してぶたれるのは簡便なので、俺は硬く口を閉ざす……)
「聞こえているんだよ間抜け!!」
218ばんどうろ
つりびとが勝負をしかけてきた。
つりびとが勝負をしかけてきた。
つりびとが勝負をしかけてきた。
「多い!!」
「弱音を吐くな。交代でバトルしてやっているんだ」
「いやだってさ、時間食うんだよ結構! なんだよさっきのトレーナー! 無駄にコイキング四体くりだして!」
「こういうのも経験だ。文句を言うな」
早く行くぞ、と首根っこをつかまれる勢いで進まされる俺。
確かにポケモンも鍛えられるし、バトルも学べるからそれほど愚痴愚痴文句を言いたい訳じゃないんだけど。
ぶつくさ呟いていると、不意に先々歩いていたナツメが足をとめた。
当たらぬよう横にそれて視線をナツメと同じ方向に向けると、そこには盛大なため息を吐いているふなのりAが。
なんだ? 何の変哲もない、普通のトレーナーだろう?
そう言ってやろうと思ったが、それより早くナツメが動いていた。
「どうかしたのか?」
年上の相手でもお構いなしの上から目線口調で喋るナツメ。大物なのか、それとも礼儀がなっていないだけなのか……。
俺は義妹の横に並ぶと、同じくふなのりの方へ目を向けた。
ふなのりは突然話しかけられてビックリしていたが、暫くして再度ため息をついた。ナツメの顔をみてため息とは、失礼なやつだな。
「いやね。最近、息子がずっと悪夢にうなされていてね…………"まんげつじま"にいるポケモンの羽根があれば、悪夢を払えると言われているんだが……」
「なら行けば良いんじゃないか。アンタ船乗りだろ?」
「私もそう考えて一度向かってみたのだが、どうにもそのポケモンは"自分と似た者"の前にしか姿を現さないとかで……」
「え……何その設定」
ナツメは真剣に聞いているが、俺は旅の寄り道程度にしか思えない。
何か感じる事があるのかね。
でも、自分と似た者って。流石にそこまで細かいリクエストをするポケモンは知らんぞ。
「ふむ…………その子どものところまで、案内してくれないか?」
「え? か、構わないが、どうするんだい?」
「俺も聞きたい」
「私なら何かしてやれるかもしれないだろう、これも人との関わり合いだ。行くぞ愚兄」
「酷ぇ」
再びミオシティに戻ってきた俺たち。自分の殻に籠った内向的な子だと思っていたんだが、どうやら向上心が高いらしい。
自分から進んで、自分から学ぼうとし、自分から触れようとする。
えらいな、ナツメは。
悪夢にうなされる少年の額に右手を当てたまま両目を瞑っているナツメを眺めながら、俺はそんな兄馬鹿なセリフを胸中で吐いていた。
にしても、ウチの妹は悪夢も対処出来るのか? 本当万能だな。
暫くすると、精神統一の如く集中していたナツメが、ゆっくり両目を開いた。
「ポケモンの悪戯だな。どこかに、この子に悪夢を見せているポケモンがいた」
「何で過去形なんだ?」
「一応、私が払っておいたんだが…………目を覚ますには、別の角度からの刺激が必要だ」
「結局、その"まんげつじま"ってところに行かなきゃならない訳か」
「そうなるな……」
うーむ、と頭を悩ませていると、苦しそうな色が消えた少年の父、ふなのりのナミキが、俺たちの方へ歩み寄ってきた。
「ありがとうございます。息子の苦しそうな顔が無くなっただけで……」
「あ、ああ……」
ナツメに深々と頭を下げるナミキ。我が妹ながら鼻が高い。
何かやるせないような表情で俯いているが、ナミキの方は唸り声が消えただけで満足なようだ。
それ以上は望めない。初対面の人間相手におこがましい。そんなところだろう。
「お礼と言うほどのものではありませんが、これを……」
「え……」
心底驚き、今までにないくらい申し訳なさそうな表情で、ナツメはそれを受け取った。
「なあ……良いことしたのに、何でそんなに落ち込んでるんだよ」
場所は戻り再び218ばんどうろ。水路が続く道をメタングにのって浮遊しながら、俺はナツメに尋ねた。
だってそうだろ? こいつは人に感謝されることをしたんだ。だからあの人はお礼に、と言って道具をくれた。
なんだっけ? いいつりざお?
「だが、私はあの子を救えなかった……」
「救ったさ。あの子の顔、見ただろ? あんな安らかな顔、オマエが悪夢を取り除いてやらなきゃ見られなかった」
「私は最低限のことをしたまでだ」
そう言って、ナツメは苦虫をつぶしたような表情のまま、真っすぐ前へ目を向ける。
俺からは何も言えない。人から感謝されるっていうのを実感出来ないんだろうな。
やり遂げないとダメだと思っている。だから素直に気持ちを受け取れない。
今まで閉じこもっていたツケが回ってきた訳だ。
「オマエは真面目が過ぎるんだよ。もう少し楽観的に物事を見た方が良い」
「そう、なのか……?」
「ああ。肩の力を抜け。きびきび何もかもに真摯に打ち込むのはいい事だが、細かいことに対しても全部それだと身が持たないからな」
「そんなものか……」
ふぅ。
まだまだ、たくさん学ぶことがあるみたいだな。
レポート
名前 アンバー
手持ち
ハッサム Lv30 特性 テクニシャン
わざ メタルクロー れんぞくぎり きりさく
メタング Lv23 特性 クリアボディ
わざ メタルクロー ねんりき てっぺき どくどく
名前 ナツメ
手持ち
ユンゲラー Lv25 特性 シンクロ
わざ サイケこうせん かなしばり めいそう
バリヤード Lv23 特性 フィルター
わざ ねんりき リフレクター ひかりのかべ
スリープ Lv23 特性 よちむ
わざ さいみんじゅつ ねんりき
ラルトス Lv19 特性 トレース
わざ ねんりき しんぴのまもり おんがえし かげぶんしん