ナツメの義兄へ転生   作:アステロイドベルト

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七話

 

 

 

 

 

 

 

 さて。俺は今、反抗期の妹と一緒に釣りをしている。

 理由は簡単。水上を移動できなければ、行動圏も限られてくるからである。

 

「釣れねぇ」

 

「もう少し静かに待てないものか……」

 

「だってもう三十分はこうしているぞ? 海に飛び込んで探した方がマシなんじゃないのか?」

 

「釣りとはそういう物だろう。私はそう学んだが」

 

 ぷらーんと垂れた釣り糸を眺めながら、俺は貧乏ゆすりを高速化させていく。

 今なら鍾乳洞のしずくもびっくりな勢いで穴を空けられそうだ。

 

「やべぇよこのままじゃ地面に風穴が…………おお?!」

 

「来たか」

 

 ぐいぐいっ、と俺とナツメの竿が揺れる。なんかいやらしいな。

 ナツメに冷たい視線を向けられるのは御免なので、今回は横線へ逸れることないよう気をつけよう。

 

「くっ……中々手強いな……」

 

「ユンゲラー、サイケこうせん!」

 

「え、ちょま……」

 

 どっぱーん、と盛大な水しぶきと共に海水が巻き上がり、俺はもちろんびちゃびちゃ。

 せめてナツメの濡れ濡れスケスケの姿を見ようと目をこらしたが、どうやらバリヤードの空気の壁で、水は浴びていないらしい。

 

「浴び損だよ……」

 

「無駄口叩いていないで、お前もさっさと手持ちを出せ」

 

 そういうナツメの視線の先には、星型のポケモンがこちらを向いて構えていた。

 

 ヒトデマンだ。

 

「え、俺が釣ったポケモンは?」

 

「そいつだ」

 

 ナツメが指差す先では、ぴちぴちと儚く跳ねるコイキングの姿が。

 三十分待ってこれかよ。

 

 俺がコイキングを海へリリースしているうちに、ナツメはヒトデマンを捕まえてしまっていた。

 早いな本当。

 

「はぁ……俺は結局また待つハメに……」

 

「お前はメタングに乗って移動できるのだから、問題ないんじゃないのか?」

 

「あ」

 

「どうやら、本当に頭の中に脳みそがあるのか確かめねばならんらしいな」

 

「いやちゃんとあるから。それよりどうするよ」

 

「何をだ」

 

「何って……これからだよ。今のところ、目標なんてないしさ。だらだら進んでいくってんならそれでも良いけど」

 

 元々大それたゴールがある訳じゃない。成長って名前の、極普通の冒険だ。

 ナツメは釣竿を俺のバックに収めながら、口元に手を当てて考える素振りを見せる。

 

「この地方には、ミオ以外にも港がある町は?」

 

「キッサキだな」

 

 ナツメが言いたいのは、他の地方へ向かえる港。そこを一区切りの目的地にして、シンオウを回ろうと言うことだった。

 流石我が妹。冴えてやがる。

 

 だとすれば、ルートは?

 

「それはお前に任せる」

 

「んじゃ、とりあえず北のソノオタウンに行くとするか。デケー花畑があるらしいぞ」

 

 花畑という言葉を出すと、ナツメは少し頬を緩ませて「そ、そうか。花畑か」と見て分かるように楽しみにし始めた。

 何でニヤけてんの? と年頃の少女に尋ねるのも無粋なので、とりあえず気づかぬフリをしておくことにしよう。

 

 ほぼスキップ調のナツメに、俺は少し早足で後ろから着いていった。

 

「ナツメもそれなりに女の子だな」

 

 

 

 

 

 

 

 ソノオに向かう途中の俺たちは、暗がりの洞窟立ち入ろうとしていた。

 足元が不安だ。こんなことなら、電気タイプのポケモンも手持ちにいれておくべきだった。

 ここを出たら捕まえるか。

 

 俺がぶつぶつ呟いていると、くいくいと何かが服の袖を引っ張ってきた。

 どうしたのかと視線を向けてみると、そこにはさっきのスキップが嘘のように顔を青くした義妹の姿が。

 

「なぁ、ここで提案がある」

 

「くっついて進む以外なら聞く」

 

 しゅんとするナツメ。ああ可愛い。

 もっといじめてみようかな……いやいや、俺はドS鬼畜野郎ではないぞ。

 

「ほら、行くぞ。どうせ出口はすぐそこだって」

 

「そ、そうか……」

 

「ゴーストタイプの一匹や二匹は出るかもしれんがな」

 

「え、えぇ?!」

 

 いやぁ面白い。

 こうしてビビってる時は集中できないのか、心を読まれることもないし。

 

 ハクタイの森に在る「もりのようかん」には絶対寄ろう。

 

「超能力が使えて、悪夢まで消し去れるってのに、何でお化けなんざ怖がってんだか……」

 

「ふ、ふん。誰が怖がっているだと?」

 

「水滴が落ちる度に跳ねてるオマエだよ」

 

 人が通れるように整備されてはいるが、何せポケモンの住み着く場所だ。

 畑をディグダが通れば耕されて喜ばれるが、こうして人が通るための道においては話が別になる。

 

「段差だ、気を付けろよ」

 

「ああ……」

 

 少し慣れたのか、余裕ができて周辺の地面状況を確かめながら進んでいる。

 

「やっと半分ってとこか」

 

「さっさとこんなところ――――」

 

 

 

ヒチャ…………。

 

 

 

 不意に、ナツメの肩へ何かが垂れ落ちてきた。

 二人同時にゆっくりと暗がりに潜む天井を見上げる。

 

 何が……。

 

 そこにいたのは、大きな体を垂らしながら、それに比例する大きさの口を広げた「マルノーム」だった。

 そこから、半透明の粘着質な液体が糸を引いている。

 

 つか、何でシンオウにマルノーム?

 

「何だ……これは……」

 

「ナツメ!?」

 

 お、おおう、これはエロチック……じゃなくて。

 驚いたナツメは腰を抜かして地面に尻餅をついている。

 見たところ、あの液体は唾液みたいなもんだ。だとすれば、次は丸のみか毛穴からの猛毒液。

 

「メタング!」

 

 叫び声と同時に、青い巨体が俺とナツメの真上に出現した。

 ドロッとした薄気味悪い有毒の液体が、マルノームの全身から噴き出す。

 

 だが、残念ながらメタングには通用しない。

 

「鋼鉄に、ンなチンケな攻撃は効きませんでした。ねんりきだ、メタング」

 

 爆音と共に、マルノームの薄紫の体が天井に激突した。

 落石をメタングが防ぐ。

 

「す、すまない……無様な所を見せてしまった……」

 

「いいさ。むしろごちそうさまでした」

 

「? 何のこと…………!?」

 

 最初は肩だけだったが、今は綺麗な長い髪にも絡み付いている。

 半透明なせいもあってか、やっほい。

 

「こっちを見るなッ!」

 

「眼福眼福」

 

 蹴飛ばされ、俺は無様に地面を転がった。

 その上かなしばりまで掛けられたことは、まぁ言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、マルノームのトレーナーだと名乗る男が洞窟の出口から走ってきた。

 

 なんでも遠方からの旅人から預かったポケモンらしく、散歩でもさせてやろうと思ってボールから出した瞬間、言うことを聞かずにこんなところまで来てしまったんだとか。

 出口から来たということは、ソノオの住人か。

 おそらく、マルノームは花の香りが気に入らなかったのだろう。

 

 聞いてみると、彼は花屋の従業員らしい。

 まだネトネト液体を被った状態のナツメは……俺の後ろに隠れている。

 

「ご迷惑をかけたみたいですし……どうです? 旅をしているのなら、ウチに泊まっていきませんか? 今日はもう遅いですし」

 

「ウチって、花屋?」

 

 俺が訊ねると、男性はこくりと頷いた。

 丁度いい。ナツメもすぐにシャワー浴びたいだろうしな。

 

「それじゃ、お言葉に甘えて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とナツメは、花屋の三階にある客室一部屋に案内された。

 部屋に入るや否やナツメはシャワーへ。どうやらよっぽど気にしていたらしい。

 

「失礼するね」

 

 退屈をもてあましていると、俺より少し年上と見える女性が扉を開けた。

 長い朱色の髪が特徴的。

 中三程度のチェリーボーイとしては、正にドキドキの展開だ。俺はそんな子どもでは断じてないがな!

 

「どうかしたんですか?」

 

「お茶とお菓子をね」

 

 そう言うと、彼女はトレイをテーブルの上に置き、ボールから出しているハッサムとメタングを、珍しそうにまじまじと眺め始めた。

 

「この子、メタングだよね。ホウエン地方で見たことあるよ」

 

「行ったことが?」

 

「一時住んでいたんだ」

 

 懐かしむように撫でている。

 メタングは喜んでいるが、それを見るハッサムは鋭い目で女性を半ば睨んでいた。

 何だ? 自分は撫でられないから膨れてんのか?

 

「君のハッサムは優秀だね」

 

「はい?」

 

 何を言っているのだろう。

 俺がそう思ってハッサムから目を移そうとしたときには、既に彼女の姿はなかった。

 

 何だったんだ?

 

「そういえば、あいつ着替え持っていってないな……」

 

 無論、我が義妹の事だ。

 急いでいたせいだろう。バックの中を覗き込み、寝巻きと下着を取り出す。

 思わず息を飲み。いやだってそうだろう?

 

 鋼タイプのポケモンを持っているだけあって、俺の理性は鋼鉄のごとく強固だ。

 しかし、年頃の女の子の下着がこんなにもそそる物だとは思わなかった。

 

 どーする。落ち着け俺、落ち着け俺、このままナツメの下着を我が物に……いやいや、それは家に帰ってからでいいだろう!

 

「良くないだろ俺! 全然落ち着いてないじゃねーかっ」

 

 頭を抱えて汗水たらしながら悩んでいると、脱衣所の扉が俺の思考を潰しながら開いた。

 

「なぜ私の下着を握り締めて踊っている」

 

 ヤバイヤバイヤバイヤパイ。

 崩壊しかけた理性の目の前に現れたのは、どこから拾ってきたか知らない学生が着るカッターシャツのような白くブカブカのYシャツを着たナツメだった。

 とてつもなくマニアックな格好だが、よくみると言えばよくみる。透き通るような肌に、今はほのかな赤みが差している。

 

 壁と扉の隙間程に圧迫された理性は、今にも消えてなくなりそう。誰か助けて。

 そんなことすら考え始めた俺が口に出したのは、こんなことだった。

 

「それは……俺がたぎっているからさ」

 

 尋常じゃない冷酷な視線を浴びる未来が見える。僕にも見えるよ。つか、言ってて意味がわからん。

 

 干魃した村の住人が空を見上げるような勢いで顔を上げると、そこにあったのは……。

 

 

「……そうか。なら仕方ないな」

 

「………………え?」

 

 あれ?

 

「罰としれ、わらひにちゅーしろー!」

 

「おわ?!」

 

 突然身を乗り出したナツメ。俺はそれを避けるようにキノガッサもびっくりなフットワークでベットから離れる。

 よく見ると、義妹の顔は何だか高揚としていた。

 もしかして……。

 

「お前、酔っぱらってるのか?」

 

 風呂で酔う奴なんて初めて見たぞ? まあ確かに、今日は念入りに体を洗ったりしたせいで長風呂にはなっていたが……。

 

「おにいちゃぁーん……えへへ」

 

「ッ?!」

 

 理性と義妹の貞操がヤバイッ!

 背中に手を回しながら迫るナツメの顔。火照った頬とトローンとした目が、俺の視界を包む。

 エロいぞ! たぎる! たぎるぜえええええええ!

 

 内心どっかんどっかんだが、残念ながら理性をスパーキングする訳にはいかない。男である前に兄だからな。

 

「おにいひゃんは、わらひのこときらい?」

 

「ナツメのことは好きだが、酔っ払いは嫌いだな」

 

「じゃあ、今のわたひはきらい?」

 

 クソッ! 一々顔を近づけてきやがる!

 想像してごらん、俺。ナツメのトロンとした目が俺を映しながらあばばばばばbbbbb。

 

 俺は今にもタガが外れてしまいそうな理性にてっぺきを命じ、無理やり作ったガタガタの笑顔でナツメを引き剥がす。

 

「ごめんなナツメ、お兄ちゃんって呼んでくれるのは嬉しいけど、今のお前は正気じゃないんだよ」

 

「そんらぁ……お兄ちゃん、やっぱりわたしのこと嫌いなんだぁ…………お兄ちゃんがわらひのこと好きって言った時、とっても嬉しかったのに……うぅ……」

 

「ちちちちち違うぞナツメ。お兄ちゃんはお前のことが嫌いなんてありえないってっ!」

 

「えへへ……」

 

 ああ抱きつかれた。

 今日はこのまま寝るのかな。明日朝起きたら、またかなしばりの感触で目が覚めるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レポート

 

 

 名前 アンバー

 

 

 手持ち

 

 ハッサム Lv32 特性 テクニシャン

わざ メタルクロー れんぞくぎり きりさく

 

 メタング Lv26 特性 クリアボディ

わざ メタルクロー ねんりき てっぺき どくどく

 

 

 名前 ナツメ

 

 

 手持ち

 

 ユンゲラー Lv30 特性 シンクロ

わざ サイケこうせん かなしばり めいそう

 

 バリヤード Lv26 特性 フィルター

わざ ねんりき リフレクター ひかりのかべ

 

 スリープ Lv25 特性 よちむ

わざ さいみんじゅつ ねんりき

 

 ラルトス Lv19 特性 トレース

わざ ねんりき しんぴのまもり おんがえし かげぶんしん

 

 ヒトデマン Lv17 特性 しぜんかいふく

わざ じこさいせい みずてっぽう こうそくスピン

 

 

 

 

 

 

 

 

 日記 アンバー

 

 今日は色々疲れた。以上。

 

 

 日記 ナツメ

 

 あいつをからかってやろうと思って、間違えて着替えに入っていた父のシャツだけを着て出たのだが、思いの他恥ずかしくて目の前が真っ白になってしまった。

 長風呂のせいだろうか……とんでもないことを口にした気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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