ナツメの義兄へ転生   作:アステロイドベルト

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八話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時速二十キロで戻ってきた意識を正確に掴み取りながら、俺は鬱陶しい眠気を払っていく。

 ジグゾーパズルを作るより面倒くさい朝に加えて、ジグゾーパズルのピースくらいの凹凸がある義妹。

 

 清々しいくらい非日常的な毎日を送る俺も、これは流石に難しい状況である。

 メタングに頼み、念力でナツメの体を隣のベットへゆっくり入れてやった。

 

 ひとまずの身の安全を確保したのを確認すると、ベットから跳ねるように起き上がる。

 

「ん?」

 

 ふと最初に目に入ったのは、テーブルの上に置かれたお菓子だった。

 昨日は"ゆうわく"と戦ってて食べそびれたからな。まったく色あせていないところを見るに、上質なものなのだろう。

 

(クッキーの類か……美味いな)

 

 俺はどっちかというと煎餅(激辛)の方が好きなのだが、たまに食べるクッキーも中々イケるものである。

 ナツメの愛情こもったおにぎりの方がおいしかったんですけどねー。

 

「誰が愛情を込めただって……?」

 

 俺が二枚目のクッキーを頬張っていると、ナツメの声が耳に入った。

 頭を押さえながら起き上っているところを見るに、どうやら昨日のことは忘れてしまっているらしい。

 酔いの勢いという奴か。演技だったらそれはそれで凄まじいのだが。

 

「え? ナツメが愛情をこめてくれたおにぎりの方がおいしいなーって」

 

「……ふん」

 

 ぷいっと顔をそむけると、木製の床をきぃきぃ鳴らしながら部屋を出て行った。洗面所に向かったのだろう。

 

「朝からご機嫌斜めだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一通りの身支度を済ませた俺たちは、早急にここから発つために荷物をまとめて下の階へ降りていた。

 

「思った以上に女性だらけだ」

 

「青臭い思考だな」

 

「ナツメが一番魅力的だけどな!」

 

「…………ふん」

 

 そんなやりとりに気づいた店員さんが数人、俺たちの方へ珍しい物でも見たように歩み寄ってきた。

 話を聞くに、どうやらコトブキでのインタビューを見てしまったらしい。振舞いが紳士的だのなんだの言われたが、あれは勿論演技なのです。

 

 なんて答えはできないので、当然のごとく言葉遣いは紳士的に。

 ナツメの冷たい視線が気持ち……じゃなくて痛いっ。

 障壁のようにそびえ立っていたお姉サンたちの質問を一つ一つ対処し終えた俺たちは、最後に昨日の男性にお礼を言って花屋を後にした。

 

 若干やつれ気味の俺を見ながら、昨日のデレデレ空気はコップ一杯分も見えないナツメがため息を吐いた。

 

「何故にため息」

 

「お前が愚かしいからだ……」

 

「容赦ねぇ。そんで、どうするよ。花畑行ってみるか?」

 

「い、行ってやらんこともない」

 

 素直に行きたいって言えばいい物を。

 目を合わせない義妹の視線は、ちらちらとソノオのはなばたけの方へ向いていた。

 

 からかうほど気力も残ってないし、ここは素直に足を運ぶとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで、ブラコンの妹と一緒にお花畑にやって参りました!」

 

「舌を引きぬかれたいのか?」

 

 辺り一面花だらけ。女の子にとっちゃ楽園気分なのだろうが、男の俺から見ればただの草タイプのすみかである。

 ナツメはクールを装ってはしゃぎ回ったりはしないが、時折花に顔を近づけたりしていた。

 

 俺は俺で退屈だ。ボールからポケモンを出してやると、メタングはナツメについていき、ハッサムは俺の横で突っ立っている。

 ちょうど良い坂を見つけ、そこへ寝っ転がった。花の匂いがする。

 

「失礼」

 

「はい?」

 

 突然声がしたかと思ったら、俺の横に金髪ロングヘアーの美人が立っていた。

 吹き抜ける風に揺れながら視界をちらちらする前髪の隙間から顔を見たが、どうにも見覚えのない人物だった。

 花屋の店員でもない。誰だ?

 

「あなたアンバー君よね?」

 

「そうだけど。誰?」

 

「あなたのお父さんの古い知人よ」

 

 またかよ。つか顔広すぎだろ父さん。

 どこで何をしていたとか正確な話までは知らんが、一社員として枠を外れたことはしていないはずだ。

 出張と言えど万人に会う仕事じゃねーだろうし。

 

「あら、あまり驚かないのね。あの人ってカントーの人間でしょう?」

 

「ここまで来る船の上で、同じような人に会ってるんだ。それで、何の用? まさかポケモン預かってるとか言わんよな」

 

「ご名答。あなたがシンオウに来たら、この子を渡してくれって頼まれたのよ」

 

 そういうと、女性は懐から一つのモンスターボールを取り出した。またカタカタ震えてやがる。

 俺にポケモンを与えてくれようとしてるのは有りがたいんだけどさ、長い間一人にするのはいかがな物か。

 

「あの子、あなたの彼女さんかしら?」

 

「いや、妹だ」

 

「随分似てないわね……」

 

 ナツメは美形で、俺は美形じゃないってかコラ。

 

「義兄妹なんだよ。母が再婚したからな」

 

「再婚……? どういうこと?」

 

「知らないのか。一年前、父さんが死んじまったんだよ」

 

 告げると、女性は心底驚いたように息を飲んだ。

 そう、とだけ口から絞り出し、暫く黙りこむ。そんなにショックなのだろうか。

 まさか愛人じゃねーだろうな。あの世に行ってしばき倒すぞ。こんな美人さんをうらやまけしからん。

 

「惜しい人を亡くしたわね…………あんなにポケモンに優しく接せられる人、他にはいないもの」

 

「そりゃ人の心構え次第だろ」

 

 優しくしようとすれば、自然と優しくなるもんだ。

 無理に意識しようとすれば空回りするんだけどな。

 

「そうね。じゃ、私はこの辺で失礼するわ」

 

「そいや何してるんだ? 父さんの知り合いっつーことは、どっかの社員?」

 

 女性はふふふ、と頬を緩ませながら笑うと、モンスターボールから大きな翼を持った鳥ポケモンを出しおった。

 バサッ、と翼を広げるそのポケモンの背に乗ると、女性は、

 

「そういうことにしておくわ。私の名前は"シロナ"よ」

 

 一帯の花が揺れるほどの風圧を撒きつつ、鳥ポケモンは空へと去って行った。

 木に隠れて見えなくなったころ、ナツメが戻ってくるのが見えた。

 

「今のは?」

 

「知らん。俺の父さんの知り合いだってさ」

 

「……ふむ」

 

「いやぁ、綺麗な人だったな。俺はナツメの方が好みだけd……」

 

「……そう何度も同じ手は食わないさ」

 

 言い切る前にかなしばりで止められてしまった。

 

 なんと非常な行為! 許すまじ!

 

(ナツメ可愛いナツメ可愛いナツメ可愛いナツメ可愛いナツメ可愛い)

 

「ぐっ!?」

 

 口は開かずとも頭は回るのさ。

 ナツメが赤面したまま花畑から離れていくと、集中力を切らしたせいかかなしばりが解けてしまった。

 

「いやあ、これは案外本当にブラコ……」

 

「それ以上言うと口をふさぐぞ」

 

「私の口でってか」

 

「チッ」

 

「なんで舌打ち?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レポート

 

 

 名前 アンバー

 

 

 手持ち

 

 ハッサム Lv32 特性 テクニシャン

わざ メタルクロー れんぞくぎり きりさく

 

 メタング Lv26 特性 クリアボディ

わざ メタルクロー ねんりき てっぺき どくどく

 

 

 名前 ナツメ

 

 

 手持ち

 

 ユンゲラー Lv30 特性 シンクロ

わざ サイケこうせん かなしばり めいそう

 

 バリヤード Lv26 特性 フィルター

わざ ねんりき リフレクター ひかりのかべ

 

 スリープ Lv25 特性 よちむ

わざ さいみんじゅつ ねんりき

 

 ラルトス Lv19 特性 トレース

わざ ねんりき しんぴのまもり おんがえし かげぶんしん

 

 ヒトデマン Lv17 特性 しぜんかいふく

わざ じこさいせい みずてっぽう こうそくスピン

 

 

 

 

 

 

 

 

 日記 アンバー

 

 赤面したナツメが可愛かった。これからどうやってからかってやろうか。

 グローバルターミナルで募集したい。

 

 

 

 日記 ナツメ

 

 今まであいつに可愛いだの何だのと言われて恥ずかしいだけだったのだが、最近なぜか嬉しいという感情まで現れた。

 意味が分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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