【未完終了】魔法少女リリカルなのは ━三途川に落ちる少年━   作:針鼠

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出だしはいつだってこんなもの

「えー……天野(あまの) 雪風(ゆきかぜ)さん。享年十七歳、と」

 

「ちょっと待てええええええええ!!!!」

 

 

 全力で叫ぶと、目の前の男は怪訝に眉を顰めた。クリップボード片手に、いやに立派な万年筆でこめかみを掻く。

 

 

「何ですか?」

 

「なんですかじゃねえよ! 急展開過ぎてついていけてねえの!」

 

 

 何故だ。何故こうなった?

 俺は必死に記憶を探った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――どこだここは?」

 

 

 まず自分が草っぱらに寝そべっているのを確認する。次いで周りを見回す。

 何も無い。

 他に人はいない。動物もいない。草原が続く割には木の一本も見えない。

 白く霧がかっただけの世界は、酷く孤独だった。

 

 …………。

 

 しばし呆然としていると波の立つ音が聞こえてくる。

 手がかりもなし。立ち上がり、音のする方へ。

 

 川だ。

 

 靄がかった景色は変わらないが、大きな川が現れた。そしてそこには一艘の木船と、白いローブの人。

 

 回想終了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今に至る。

 

 

「必死に思い出すほどイベントが起こってなかった!」

 

「満足しましたか? 先進めていいですか?」

 

「よくねえって! ちょっと待っとけ!」

 

 

 凄く嫌そうな顔をする男。くすんだ金髪。鼻の上にのった丸眼鏡の向こうには、眠たげに垂れた瞼と濁った瞳。白いを通り越して青白い顔色も相俟って、今にもぶっ倒れてしまいそうな優男。

 そう、まずはこの男は誰なんだ。

 

 

「誰なんだ、お前」

 

「はぁ、困るんですよねえ。こちらの進行を無視しておきながら自分の要求はするユーザー。こちらにも手順でものがあるんですから……ぶつぶつ」

 

 

 なんかすっごい負のオーラ出しながらぼやいている。

 

 

「まあいいでしょう。……此処が何処か。見てわかりませんか? ――――三途の川ですよ」

 

「…………は?」

 

「あの世というやつですよ。そして私はここで船頭を任されているヒバナと申します。以後お見知りおきを――――といっても、以後なんて無いですけどね」

 

 

 どうしよう。俺には男の――――ヒバナと名乗った男の言葉が理解出来ない。ここが三途の川で、あの世?

 

 

「え、なにこれマジで俺死んでんの?」

 

「はい、お気の毒でしたね。心中お察し致します」ヒバナは淡々と「で、次に進めていいですか?」

 

「察する気ゼロか!」

 

「本当に五月蝿い人ですねえ」

 

 

 あー……面倒くさい、と目の前で言いやがった。

 

 

「ちょっと待て。死因はなんだよ。俺はただ――――」

 

 

 そう、俺は確かあの日、母親が買った『サマージャングル宝くじ』のハズレくじを宝くじ売り場に持って行ったのだ。それで、

 

 

「そうだ!」

 

 

 急速に甦る生前の記憶。ジーパンのポケットに手を突っ込むと、指先にカサリと紙の感触。

 

 

「ハズレだと思ってた宝くじが当たってたんだ!」

 

「あのー、差し出がましいようですがその先はあまり思い出されない方が――――」

 

「ちょっと黙ってろ!」

 

 

 思い出してきた。売り場に着く前に拾った新聞。そこには渡された宝くじの当選番号が掲載されていた。一等の六桁の番号がちょうど俺の誕生日と同じで、凄い偶然もあるもんだと、ふと手にある宝くじを見てみると――――あるのだ。何度見返しても同じ番号が手元の宝くじに連なっているのだ。

 

 狂喜乱舞。不審者通報待ったなしなぐらいのテンションで、誰もいない公園で右往左往していたとき、悲劇は起きた。

 

 バナナの皮。

 

 

「………………」

 

「それはもう見事でした。昭和のコントも真っ青なほどの滑り具合。そして洒落にならない鈍い音。――――即死でした」

 

 

 言葉が、出ない。

 

 

「死因……恥ずか死、と」

 

「変な死因名付けるのやめてくれる!?」

 

 

 いや、まあ正直否定しずらいけども。なにこれ。バナナに滑って死んだの俺?

 

 

「頼む。殺してくれ」

 

「安心して下さい。もう死んでますので」素っ気ない言い草で「それでは先を続けます。役所も五月蝿いので続けますよ」

 

 

 御役所なの!? というツッコミをする余裕は今の俺には無かった。

 

 

「貴方にはこれからこの船に乗っていただき、向こう側――――死後の世界に渡ってもらいます。その間、これまでの人生でも思い出していてください」

 

「思い出って」俺は涙目で川向こうを見てから「どんだけ距離あんだよ。こんな手漕ぎボートで本当に着くのか?」

 

 

 よく見れば向こうに薄っすら対岸が見える。とはいえ、川幅は随分ありそうだ。船を漕いだ経験は生憎ないが、一時間やそこらで着くとは思えない。そしてお世辞にも体育系とはいえない体格のヒバナ。

 

 

「ああ、あれは演出ですので。実際は漕がずとも、流れに乗るだけで一分少々あれば着きます」

 

「人生振り返らせる気もねえじゃん!?」

 

「いえいえ、案外皆様、一分振り返るほど充実した人生を過ごされておりませんので」

 

「すっげー嫌なこと聞いた!」

 

 

 若くして死んだとはいえ俺だって十七年間の思い出があれば一分くらい……あれ? いやでも記憶があるのって幼稚園入ったときくらいからで……あれ? 思い出? いやほら本番は小学校とか中学の青春が……あれ? 俺の高校生活ってば……あれ? バナナ。

 

 

「大体皆様向こう岸に着く頃にはそうして死んだような顔をなさいます」

 

 

 だって死んでるんだろ? とは最早ツッコめない。俺の十七年間ってば一体。

 

 

「さて、ですがチャンスがあります。地獄の沙汰も金次第という言葉がありまして」

 

「ここ地獄だったのか」

 

「三途の川を渡るも金次第とありまして」

 

 

 無視して訂正しやがった。

 

 

「お金さえあれば生き返らせることもやぶさかではございません」

 

 

 ヒバナは親指と人差指で丸を作ってみせる。

 

 

「死んだ奴からも金取るのかよ」

 

「お金はなんでも買えますからね。命だって買えます」

 

「そんな条件を作った奴ほど地獄に落ちればいいのに」

 

 

 ――――とはいうものの、ヒバナが言うように俺にとってこれはチャンスだ。しかし俺の格好はTシャツにジーパン。財布も持っていない。仮に持ってたとしても、今時漫画でもあり得ないバナナの皮でこけて死んだ男子高校生の命がはたして如何ほどかは知らないが、まさか一介の高校生が払える額ではあるまい。……ないよね?

 

 いや、ちょっと待てよ。

 

 

「これでどうだ!!」

 

 

 俺は思い出した。ここにやってくる経緯を。

 バナナの皮によって頭を打つまでの衝撃的な出来事を。

 

 突き出した紙は今まで強く握りしめ過ぎていたこともありクシャクシャだ。鼻をかむにも不便なこんなモノはしかし、ただの紙ではない。死ぬ直前に身に着けていたもの、持っていたものはここにも引き継がれているらしく、意識が戻ってからずっと持っていたこの新聞と合わせることでこの紙くずは屑ではなくなる。

 

 そう、一等三億円の宝くじ!

 

 最初こそゴミでも渡されたとばかりに嫌な顔をするヒバナだったが、一緒に渡された新聞で意図を察したらしく眺め始める。眠たげだった目が、数字を追うごとに鋭くなっていく。

 

 しばらくして。

 

 

「天野様、紅茶など如何でしょうか?」

 

「あからさまだな」

 

 

 薄ら笑いで手もみである。金の亡者め。

 

 

「命の価値ってのは知らねえけど、充分だったみたいだな」

 

 

 良かった。それで足りなかった場合、俺にはもう出せるものが無い。

 

 

「それではこれより復活の準備に入らせていただきます。こちらへ立っていただいて宜しいでしょうか?」

 

 

 促されるまま川縁に立たされる。つい覗き込んで見るも、水面に自分の顔が映るばかりで底は見えない。

 

 

「一点だけ注意点をば。新天地では前世の話などされませんよう。度が過ぎると大変頭のおかしい扱いを受けますので」

 

「へいへい――――ん?」

 

 

 今ヒバナは聞き逃せないことを言った気がする。前世? 新天地?

 

 

「おいおい、元の世界に戻してくれるんじゃねえのかよ!?」

 

 

 振り返るとほぼ同時に……ドンッ、と胸を押された。体が後方に傾く。即ち、川のある方へ。

 隈の酷い守銭奴は最後まで淡々と言い放った。

 

 

「いや無理ですよ。だってもう体、火葬されちゃってますもの」

 

 

 背中から盛大に水に落ちる。衣類を着ているとはいえ、人並みには泳げるはずなのに何故か体は沈んでいく。なのにヒバナの声だけはやけにはっきり聞こえる。

 

 

「では、良き第二の人生を」

 

 

 暗転。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

 

 雪風を送り出したヒバナはひとつ息をつく。その顔は、面倒事を追っ払って肩の荷が下りたと言外に語っている。

 

 

「あー……喧しいお客様でしたねえ」

 

 

 いやはっきりぶっちゃけてた。

 

 何にせよ、天野 雪風の行き先は転生とクリップボードの紙に記入していると、ふとそれが目に入った。先ほど彼が渡してきた、『サマージャングル宝くじ』の紙と、宝くじ当選番号が掲載された新聞。新聞に大きく載る『サマージャンブル宝くじ』という見出し。

 

 

「………………おや?」

 

 

 黄泉の船頭は首を傾げた。




閲覧ありがとうございます。

>初めましての方もそうでない方もこんにちわ。新作(という名の実はリメイク)です!

>最近めっきりと小説を書くことが出来なくなった結果、もういっそ新作を二つ出してしまえと開き直った作者です。はい。

>転生。オリ主。一人称小説。なのは世界にFateの能力。もうありとあらゆる地雷を詰め込んで、もうこれ足の踏み場も無いなHAHAHA!的な作品です。無いのはハーレム要素くらいかもしれません。こってこての二次小説好きな方で無いとあかんかもしれません。ご注意!

>とりあえずはもうひとつの新作と交互に投入します。都合どちらも4,5話くらい出来ているので微調整しながら一日置きに、といった具合です。

それではまた次話でー
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