【未完終了】魔法少女リリカルなのは ━三途川に落ちる少年━ 作:針鼠
一旦合流して、さあ机仕事だと思っていた所にシャーリーから招集を受ける。なんでも近頃の訓練をみてそろそろ新人達に新しいデバイスを渡したいとの話だった。揃って開発室へと足を運ぶと、相変わらず物々しい機材で埋め尽くされた鉄の城。
この城の主たる眼鏡っ娘は俺達がやってくるなり待ちかねたと笑みを溢す。分厚い眼鏡を光らせて自信満々に示したのは台座のデバイス。
「これが」
「あたし達のデバイス」
スバルとティアが
「設計主任、私。協力はなのはさん、フェイトさん、レイジングハートにリイン曹長」
「えっへんです」
どこからともなく現れた空色髪の小人は胸を張る。
「リインってばちっこいけど、もしかして凄い奴なのか?」
「ちっこいってなんですかー!」
しまった。また口が滑った。突進してくるリインを人差し指でいなしているとティアが呆れたように息をつく。
「あんた、リイン曹長はあたし達の上官よ?」
「そうなんだよなぁ。でもつい忘れちゃう」
「もー怒ったです! はやてちゃんに言いつけるです!」
「まあまあ。ほら、チョコ食べるか?」
「わーいですー!」
あぁ、チョロい上司だ。これからはリインの為にもチョコは常備しておこうと密やかに決意する。
チョコを抱えた上司は自分の役目を思い出したのか説明に戻る。
「その4機は六課のスタッフが技術と経験の粋を集めて完成させた最新型。それぞれの使用目的、個性に合わせて設計された間違いなく最高の機体です! 大切に、でも上手に限界まで性能を引き出して存分に使ってあげてください!」
優秀な人材が多いらしい六課の自信作となれば多分上等なもののはずだ。そういえばデバイスってひとつどれくらいの値段するんだろうか。ハイテク過ぎて聞くのが怖い。
『というわけですユキカゼさん。大切にしてくださいね! まずは誓いのキスから』
「チェンジで」
『酷いですよー。散々いいようにしたあげくいらなくなったらポイですか。都合の良い女ですか』
「チェンジで」
『ぶれない!?』
飾り物のような羽根で周りをフヨフヨするルビー。元々デバイス持ちだった俺の場合はみんなと違って新しい支給は無し。
「シャーリー、どうせだからルビーの頭も直してくれよ。故障してるって絶対」
「ルビーは特殊過ぎて開発部でも手が出せなかったんだ」
苦笑しつつ、どこか悔しそうにルビーへ向ける視線は開発者としての彼女なりのプライドの表れなのだろうか。なんにせよ、この余計なことしか言わないデバイスとこれからも付き合っていくのは確定らしい。非常に不満だ。そして不安だ。
「ごめんごめん。お待たせー」
「なのはさーん!」
扉が開くなり一番に駆け寄るリインはなのはさんの胸に飛び込む。ああいう無邪気さはマスコットキャラの特権だ。俺とかがやれば通報される。エリオなら許されるだろう。おのれイケメン。
リインをあやしながら乱れた呼吸を整えるなのはさん。余程急いできたらしい。この人の場合、教導官として俺達の訓練を朝から晩まで付き合いながら日々の業務もしっかりこなしていると聞く。仕事量でいえば俺達新人の倍ではきくまい。2つしか歳が違わないというのに大したもんだ。
「ナイスタイミングです。ちょうどこれから機能説明をしようかと」
「じゃあお願いしようかな」
なのはさんの様子を見計らって現在までの状況を説明するシャーリー。なのはさんはあっさりその役目を委ねる。リインを肩に乗せて静観モード。
幾分緊張した様子のシャーリーがコホンとひとつ咳払い。虚空を指で撫ぜるとモニターが現れる。
「まず、その子達はみんな何段階かに分けて出力リミッターをかけてるの」
リミッター? と首を傾げる俺へ、
「制限ね。最初はそれで慣らしていって、今の段階を使いこなせるようになったらひとつずつリミッターを外していくの」
「ちょうど一緒にレベルアップしていく感じだね」
シャーリーの説明になのはさんがそう付け加える。
「そういえば」ティアが「出力リミッターっていうと、なのはさん達にもかかってますよね?」
「うん。でも私達の場合、デバイスだけじゃなくて本人にもだけどね。うちの隊長や副隊長はみんなだよ」
「それって自分の能力を下げるってことだよな。なんでそんなことする必要あるんだ?」
至極単純な疑問を口にしただけだったのだが、隣りのティアが『はあ?』とばかりに睨めつけてくる。なんだよ。
「部隊ごとに保有できる魔道師ランクの総計規模って決まってるじゃない」
「…………そうなの?」
「そうなの。常識よ」
無論初耳である。そして惚けた風を装っているがスバルも『初めて知った』って顔してるのを見逃さない。
「ひとつの部隊にたくさんの優秀な魔道師を保有したい場合、上手く収まるように出力リミッターをかけて帳尻を合わせるのですよ」
「まあ裏ワザみたなものなんだけどね」
リインが優等生然とした調子で説明し、苦笑気味にシャーリーが続ける。
なるほど。なのはさん達がリミッターをかける理由はわかった。しかし結局のところそのメリットはなんなんだろうか。優秀な人材にわざわざ枷をはめる管理局の意図がわからない。そして、全力で戦えないとわかっていながら、それでもこれほど優秀な人材をかき集めたはやての意図も同じくらい理解出来ない。――――まさか仲の良い人間を集めたら自然とこうなったとは言うまい。
「ちなみにこれは、はやてちゃんがユキカゼ君を六課に誘った理由でもあるんだよ」
なのはさんの言葉にはてなと首を傾ぐ。
「ユキカゼ君からは魔力が計測出来ない。本当に魔力が無いのか、それともそういう希少能力なのかは置いておいて、少なくとも現状では君に魔道師ランクを付けることが出来ないの。つまり」
「俺が強くなっても部隊のランクを圧迫しない?」
「その通り」
なのはさんのウインクにドギマギする。傍らでティアがにやにやしていた。
「まあ、結局あんたが強くならないと意味ないけどね」
御尤も。この世界における意外な俺の才能に有頂天になっていたものの、ティアの言う通り強くならなければまるで意味が無い話だ。
「大丈夫だよ、ユキカゼ君は強くなれる」
「アタシもそう思う!」
「なのはさん、スバル……」
美少女ふたりに励まされてやる気にならない男がいようか。否! いるはずがない!
「じゃあ次は個別の機能説明を――――」
シャーリーの声を遮って突如鳴り響くけたたましい警報。なのはさん達の顔付きが変わる中、新人達は一瞬なにが起きているのかわからず呆けていた。部屋に大きく表示されるレッドアラートを見てようやく理解が追いつく。俺達の初任務だった。
★
やばい。非常にやばい。どうしよう。
新デバイスのレクチャーを受けていたところに鳴り響いた緊急出動のアラート。六課ロングアーチメンバーパイロットのヴァイス・グランセニックによって駆けつけたヘリへ、俺達はなのはさんの指示のもとすぐさま乗り込んだ。
生まれて初めて乗るヘリコプター。外観も男心をくすぐるフォルムで小躍りしながら騒ぎまくり、ティア辺りに叱られてしまう。――――いつもならば。今の俺にそんな余裕は無い。
どうしようどうしようどうしよう。
初任務? 初出動? 初実戦?
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや無理でしょ。どう考えても無理ですはいありがとうございますなにが!?
本当にやばいくらい緊張してる。どれくらいかというと心の声がテンパるくらい。
手は震えてるし足もガクブルだ。というか今揺れてるのってヘリに乗ってるからじゃなくて自分自身が揺れてるからじゃなかろうか。
「――――ゼ――――カゼ」
ああ……そもどうして俺はまだこんなところにいるのだろうか。さっさと逃げ出して、アルバイトでもしてひっそり生活していればよかったのではないか。存外居心地が良かったせいで流されるままになってしまった。考えればすぐ気付けたことなのに……いや、俺は気付いていながら気付かないふりをしていたんだきっと。
「ユキカゼ君!」
「わっひゃい!?」
耳を引っ張られて鼓膜に叩きつけられる大きな声。外部からの刺激によって逃避していた意識が現実に戻ってきた。真正面には美人の怒った顔。可愛い。
「私の話、聞いてた?」
「あ……あ、はははー」
笑って誤魔化す。優しいゲンコツをもらった。なのはさんは『もう』と可愛らしく頬を膨らませた。
「緊張するのはわかるけど話は聞いてくれなきゃ駄目だよ」
「……すんません」
「わかればよし。じゃあもう1回説明するね?」
今度はしっかりなのはさんの顔を見る。なのはさんが指を振るといくつかの画面が機内に現れる。画面には列車とガジェット、それと球体のなにか。
「今回の作戦は列車内、及び飛行型ガジェットの破壊。それと――――《レリック》の確保」
レリックというのはこの世界でロストロギアと呼ばれる大変に危険な物らしい。なんでも未知の科学で作られた道具らしいとかなんとか。前に教えてもらったのだが難しくて忘れた。それにしても俺からすれば管理局の機械も充分にハイテクなのに、それらの技術レベルを以ってしても解析出来ないロストロギアなどそれこそ魔法と見分けもつかない。
そも六課とはこのロストロギアを回収することを目的に設立されたらしい。
そして今回のガジェット。画面に映っているのは訓練で見慣れた卵型ではなくひし形。前に映画でみたステルス機のような形をしている。
飛行型ガジェットは最近現れるようになった新型とのことだ。
「練習通りやれば大丈夫。危ないときは私やフェイト隊長、リインがフォローするから」
「はいです!」
新人達を気遣って安心させるように笑むなのはさん。今回の作戦には俺達新人を除いてなのはさんとリイン、パイロットのヴァイス、それと別ルートからこちらへ向かっているフェイトさん。確認されている敵の戦力を考えれば十二分の人員とのこと。――――とは言われてもやはり不安は消えないのだけども。
手のひらに『人』の字を書いて飲み込んでいるとふと気付いた。俺ほどではなく幾分か緊張しながらも装備を点検するみんなの中で、じっと凍りついたように固まっているキャロの姿に。
閲覧、感想ありがとうございますー。
>予告通り繋ぎ回になってしまいました。でも必要なので仕方がないのです。本当は一万字くらいを一話にして投稿していきたいのですが、そうすると更新速度が毎回失踪レベルになりかねないのでご了承下さい。
>一応今回でユキカゼ君が優秀な六課にお呼ばれした理由が判明しました。まあ実際は推定とかでランクを定められてしまいそうなものですが、そこはまあ……ご都合主義ということで!!(作者的な意味の)
>次回で遂に三つ目のスタイル……までいけるかな?(嘘予告を回避する曖昧な感じ)
ではではまた次話にてー