【未完終了】魔法少女リリカルなのは ━三途川に落ちる少年━   作:針鼠

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エレベーターに乗ったときの浮遊感で酔う

 キャロ・ル・ルシエという少女は生まれた時から孤独だった。彼女は竜召喚士として類まれなる才能を持って生まれ、それ故に故郷を追われた。幼い身に宿った過ぎたる力は村人達に無根拠な恐怖を抱かせたのだ。

 その後少女は管理局に保護されるのだが、それは彼女の人生を変えることは無かった。

 

 幼い頃の迫害から精神的に不安定なキャロが自身の強大な力を制御する術を持つはずも無い。結局管理局でも『欠陥品』の烙印を押され施設をたらい回しにされるのだった。

 

 深い悲しみと孤独を覚えながら、しかしそれでもキャロは決して竜達を恨むことはなかった。疎まれる原因である力の暴走。それはひとえに竜達がキャロを守ろうとしているのだと知っていたから。

 常に怯え、拒絶するキャロの心に反応した竜達はただ主を守ろうとする一心で全てを排除してしまう。時にそれは味方さえも。

 

 誰も悪くない。竜も、みんなも。

 悪いのは自分の力すらまともに扱えない自分だ、と。

 

 その考えがさらに少女の心を閉ざし、また竜達の暴走を引き起こすことを少女は薄々わかっていた。

 

 そんなキャロを救ったのがフェイトだった。フェイトは各地の施設を転々としていたキャロの保護者となり居場所を与えた。人の温もりを、優しさを目一杯与えた。

 それは凍りついたキャロの心を徐々に溶かしていった。

 

 フェイトの存在はキャロの心を優しく包み込んだ。だからこそ少女は不安に襲われている。六課は今のキャロにとってかけがえのない場所である。フェイトはもちろん、同年代で初めて友達になってくれたエリオや他の仲間達は、かつて知りえなかった幸福を申し訳なくなるほどたくさん与えてくれている。――――また、傷つけてしまわないだろうか。自身に宿る強大な力は、フェイトやみんなを傷つけてしまわないだろうか。

 キャロが最も恐れているのは敵ではなく、己の力に他ならない。

 

 

「キャーロ」

 

「は、ひ?」

 

 

 語尾が崩れたのは頬を左右に引っ張られたから。痛みの無い絶妙な力加減でみょんみょんと引っ張るのはいつの間にか対面の座席から近寄ってきたユキカゼだった。

 

 

「おぉ……キャロのほっぺめっさ柔らかいのな」

 

「ゆ、ゆひはへふぁん?」

 

 

 屈んで高さを合わせたユキカゼの真っ直ぐな瞳は困惑したキャロを映していた。

 

 

「なんだよキャロ、緊張してるのか? 大丈夫だって。いざとなったらエリオが助けてくれるから」

 

「ええっ!? 僕ですか!!?」

 

 

 まさかのフリに驚くエリオ。

 ようやく解放された頬を擦りながら、キャロは隣りにいるエリオを見た。

 

 

「ほんとう?」

 

 

 無垢な瞳に顔を真っ赤にして俯くエリオ。やがて意を決したように顔を上げ、体ごとキャロの方へ向くと作った拳で胸を叩く。

 

 

「うん。絶対にキャロのことを守るよ。約束する」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、キャロの心はすっと軽くなった。今までずっと言って欲しかった言葉。この人の傍にいていいんだという安心。

 誰かを傷つけるのは怖い。でも、寂しいのは嫌だ。もう嫌なのだ。

 

 

「よしよし」

 

 

 人任せな約束を取り付けたユキカゼ(本人)は満足そうに唸ってふたりの頭に手を置く。

 

 

「まあエリオでも駄目だったら俺が助けてやるよ。っていうか、俺ひとりで全部倒しちまうかもな!」

 

 

 『なんてな。がっはっはっはっは』なんて漫画みたいなふざけた笑い声をあげながらキャロ達の頭を乱暴に撫でる。それでキャロは気付いた。

 

 

(手……震えてる?)

 

 

 頭を撫でるユキカゼの手は震えていた。よく見れば膝も。ヘリの揺れなどではない。彼の体が震えているのだ。何故? その理由が恐怖だとキャロはすぐに理解した。

 

 ユキカゼは不思議な人だ。キャロ自身、生い立ちから大概世間知らずを自覚しているが、彼はそんな自分よりもっとものを知らない。以前、召喚士に自分もなれるかという質問をされたときは答えに困ってしまったものだ。

 けれど彼は大切なことだってたくさん知ってる。

 

 訓練中、ユキカゼはよくよそ見をして撃墜されてティアナやなのはに集中力が足りないと注意されている。しかしそれは少し違うのだ。彼はいつも他人を気遣っている。心配のあまりつい仲間を目で探してしまいその間に撃墜されている。

 それは多分ユキカゼの優しさの表れだ。そしてこれも多分なのだが、そのことをみんなも気付いている。だからティアナもなのはも本気で怒らないのだ。

 

 誰とだってすぐに仲良しになれるユキカゼのことが、キャロはずっと羨ましく思っていた。明るくて優しくて面白い。そして強い人。

 ユキカゼには怖いものなんて無い、そう思っていた。

 

 しかしそうではない。そうではなかった。ユキカゼだって怖いのだ。戦いが、或いはキャロと同じように他人を傷つけてしまうことが。それなのに、そんな状態でありながら彼は他人を案じている。緊張と恐怖に震えていた自分を見つけ、こうして励ましてくれている。

 それが嬉しかった。その精一杯の優しさが暖かかった。まるでそれは、

 

 

「お兄ちゃんみたい……」

 

「へ?」

 

「……え? あっ」

 

 

 慌てて口を手で塞ぐキャロだったが時既に遅い。心の声が思わず外に出てしまったのだ。

 顔を赤くするキャロとどうしていいかわからず戸惑っているユキカゼ。そんなふたりを見て、なのははクスリと笑った。

 

 

「それじゃあ格好いい『お兄ちゃん』にそろそろお願いしようかなぁ」

 

「なのはさん……」

 

 

 茶化されているとわかったのか、恨みがましく名を呼ぶユキカゼの顔は赤い。

 

 

「にゃはは――――航空型のガジェットが来たみたい」

 

 

 一転真面目な顔をしたなのはの視線を一同が追う。モニターに映し出されたひし形の飛行編隊。

 

 

「ユキカゼ君、モード3……ちゃんと練習してあるよね?」

 

 

 なのはの質問にぎこちなく頷くユキカゼ。モード3とはセイバー、アーチャーに続くユキカゼの最後のフォームスタイル。

 

 

「じゃあユキカゼ君は私とフェイト隊長と一緒に空戦。他のメンバーはリイン曹長と一緒に列車内のガジェットをお願いね」

 

『はい!』

 

 

 ユキカゼの強張った表情に気付いていながらなのはは敢えて無視する。はたしてそれは教導官としての厳しさなのか、それとも彼女個人の厳しさなのかはわからない。なのはは皆に向かってグッと拳を握って微笑むと、開かれたハッチから身を投げ出す。

 

 

「キャロ」ユキカゼはもう一度少女に向き直り「本当に怖いなら無理しなくていいんだぞ?」

 

 

 それが心から心配するが故の言葉だと理解しながら、キャロは今日一番の笑顔で応える。

 

 

「大丈夫です。わたしも頑張ります!」

 

「――――そっか。よし頑張れ!」

 

 

 ユキカゼはその顔を見てそれ以上言葉を重ねなかった。その笑顔にもうキャロは大丈夫だと確信できたから。もし仮になにかあっても絶対に自分が助けに行くと決意を固めて。

 

 

「かっこいいところ悪いけど『おにいちゃん』」ティアナは茶化すような物言いで「とりあえずそこから飛べるの?」

 

「………………」

 

 

 かっこをつけたお兄ちゃん(仮)は開けっ放しのハッチの前でいきなり冷や汗ダラダラだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分のビビリを棚に上げてキャロを励ましたのはいいものの、俺は開け放たれたハッチの前で硬直していた。当たり前だ。ハッチから転げ落ちればそこは空。足場なんて無い。地上まで真っ逆さまなのだ。人生初のヘリの次はそのまま人生初のスカイダイビングだと? 詰め込みすぎだよ馬鹿野郎。

 確かに俺にはここから落ちても助かる術がある。パラシュートは無いがそれに近い手段がある。でも考えてみてくれ。世界中の人間が、パラシュートがあるならスカイダイビングなんて楽勝でしょ……なんて言うわけが無い。何故か。怖いからだよ。普通におっかないんだよ。

 

 

『ユキカゼくーん』

 

 

 先に飛んだなのはさんからの念話だ。

 

 

『早くしないと明日の訓練の量倍にしちゃうよー』

 

「今すぐに行きます!」

 

 

 猶予もなければ容赦も無い。今飛ばなければきっと明日千回飛ばされる。マジで。

 

 

「ユキカゼさん!」

 

 

 呼ばれて振り返ると、キャロが握った両の手の拳を胸の辺りまで上げて、

 

 

「頑張って下さい!」

 

「ユキカゼさんなら出来ます!」

 

 

 エリオとキャロからのエール。

 半泣きだった目元を腕で拭う。まったく、これじゃあ立場が逆だ。覚悟を決めろ雪風。お前は男だ。やれば出来る男だ!

 思いっきり自分で頬を叩いた。そして、

 

 

「ライトニング5、天野 雪風いきまああああああああああああああああああああああああ」

 

 

 後半は完全に悲鳴だった。

 

 

「…………っっ」

 

 

 やべやいばうないあびああ!!!!??

 

 下から叩きつけられる風圧で声が出ない。腕の自由が効かない。涙と一緒に景色が上に上にと飛んでいく。妙な浮遊感――――は実際には錯覚で、物凄い速度で下に落下してる。このままではあと数秒か十数秒で俺は地面のシミになってしまう。そんなの嫌過ぎる。

 

 

「ルビイイイイィィィ!! 早く! 早くモードチェンジィィィィ!!」

 

『落ち着いてくださいユキカゼさん。こういうときこそ慌てず騒がずですよ。まずは深呼吸でも』

 

「てんめえええええええ!! わざとだろ!? わざとに決まってる! ぶっ壊す! 絶対ぶっ壊すから早くしてぐだざい!!!!」

 

『言語機能に異常がみられますね。愛嬌ですよ愛嬌。可愛かったですか?』

 

 

 ………………。

 

 

『あれ? 気絶しちゃいました?』

 

 

 もう無理死んじゃう。意識が朦朧としてきた。

 

 

「セッ、ト……うっぷ……アップ…………モー、ド……き、キャスター」

 

『イエッサー!』

 

 

 ルビーが紫色の粒子になって砕け散る。光は俺の元へ。――――直後、今の今まで感じていた胃がとび出そうな不快感が消失する。

 ゆっくり瞼を開ける。景色は静止していた。それはつまり落下は止まったということ。

 

 モード・キャスター。

 

 これがルビー最後のフォームである。3つあるモードの中で唯一飛行魔法が使える。頭まですっぽり被る黒いローブ。指ぬきのグローブ。右手の甲には水晶。もしここに鏡があれば俺の髪色が薄い紫色に変化していたのが見えただろう。

 まるで蝶の羽のように左右に広がるローブには美しくも禍々しい幾何学模様の光が走っている。

 

 

「お、とと」

 

 

 傾いた体を腕でバランスを取って立て直す。やっぱり飛ぶのは難しい。

 当然のことながら人は道具も無しに飛ぶことは出来ない。当然だ。そんな人間に突然羽が生えたからといってスイスイ飛べるわけが無い。こうしていられるのも訓練の成果なのだ。

 こちらの世界でもそれなりに希少な飛行魔法がこのモードに備わっているとわかった日からほぼ毎日、訓練後なのはさんやヴィータの特訓があった。最近どうにか形になってきたが、まだ慣れない。

 

 

「ようやく来たね」

 

「大丈夫? ユキカゼ」

 

 

 まだまだ不安定ながら空中にとどまる俺を心配してふたりが近寄ってきてくれる。訓練時にもよく見る純白のバリアジャケット姿のなのはさん。もう一人は、金色の長い髪をツインテールにした女性。黒のインナーと白のマントを羽織ったバリアジャケットを纏う彼女の名は、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンさん。ライトニング分隊隊長にして、エリオとキャロの保護者だ。

 

 

「――――のわぁ!?」

 

 

 制御が乱れて空中でふらつく。危なげな飛行姿に、わざと突き放すように厳しい母親のような顔で見守るなのはさん。それとは対照的にフェイトさんは迷わず手を差し出してくれる。多分彼女は子供を甘やかしてしまうタイプだ。

 俺はフェイトさんの手を断って自分で体勢を立て直す。どちらも根っから優しさから出た反応だが、それに甘えるわけにはいかない。

 

 

「いける?」

 

 

 見計らったようになのはさんが訊いてくる。踏みしめる大地――――は無いので拳を手のひらに叩きつける。

 

 

「うっす!」

 

 

 その答えにふたりは心強く微笑んでくれる。

 

 

「私達がしっかりフォローするから」

 

「ユキカゼは思う存分動いて」

 

「了解!」

 

 

 女の子に守られるというのは些か情けないが、とにかく今はやれることを精一杯やる。そう心に決めて空へ駆け出した。




閲覧&感想ありがとうございましたー。

>なにやらこの二日間の感想フィーバーに嬉しさを覚えるよりも慄いております。一体なにがあったんですか。
兎にも角にも感想・批評ありがとうございました。読んでいただけるだけでも有り難いのに感謝を伝える言葉もありません。

>さてあとがきです。こうして出ましたモード3はなんとキャスターさんです。まあセイバー、アーチャーときたらライダーだろうと予想くださっていたのですが……あの格好のユッキー見たいですか?(真顔)
空を飛ぶ手段が欲しかったので、世界観にも合っていると思いキャスターさんなのです!異論は……まあ認めましょう!

>次話は空中戦闘!そして初任務決着……させられるといいなぁ。

ではではー
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