【未完終了】魔法少女リリカルなのは ━三途川に落ちる少年━ 作:針鼠
セイバー、アーチャー、そしてキャスター。3つあるルビーのモードの中で俺は最もキャスターを苦手にしている。
まず飛行魔法。最初こそ飛べるというのは楽しそうだとはしゃいでいたが、見るのとやるのでは全然違った。いくら高所恐怖症でないとはいえ、いきなり身一つで地上数十メートル数百メートルを浮くというのは問答無用の恐怖が付き纏う。実際に落ちたこともあれば尚更だ。なのはさんには『怖い内はまだまだ』なんて言われたが、これはもう数をこなして慣れる他無い。
そしてもうひとつ、キャスターを苦手とする理由――――魔法がある。
視界に収めた3機の飛行型ガジェット。速い。卵型よりずっと。おまけに地上と違い空中戦には立体的な『目』が必要になる。前後左右だけでない。正しく縦横無尽の選択肢が存在するのだから。
幸い敵は真正面。編隊を組んで飛ぶ奴等を視界に収めるのは難しくない。
『ロックオンでーす!』
「いっけ!」
ルビーの合図を受けて指示を飛ばす。すると蝶の羽のように左右に広げたローブの幾何学模様が一層の光を放ち、直後紫色の魔法弾が放たれた。その数は5発。俺の魔法攻撃の現状最大数だ。
魔法にもいくつか種類があるらしい。攻撃魔法、防御魔法、付加魔法等など。そしてこれは攻撃魔法……その中でさらに分けると誘導制御魔法。術師の精神にリンクして魔法弾を操れるもの。なのはさんやティアがよく使っている魔法でその厄介さは身をもってよーく知っている。……だがまさか、これが
これがまた非常に操作が難しい。例えると凧揚げに似ている。手元から離れた本体を長い糸で操るあれは実際やってみると中々難しいものだ。空にあげるだけならまだしも風を呼んで左右に振るのなんて特に。――――それを5ついっぺんにやるってどうよ。
『ユキカゼ君、落ち着いて』
念話によるなのはさんの声。
そうだ集中しろ……集中……集中……。放たれた魔法弾と俺の指先に繋がる糸をイメージ。弾は勝手に飛んでいく。だから俺は糸を引っ張って、時には弛めて、それらを左右に上下に動かしてやる。今までのモードは剣を振るという単純動作だったし、ルビー曰くの肉体の記憶とやらで勢いでやれていた部分があった。しかし思考で操るこの魔法は肉体の記憶なんて使いようが無い。つまりこれは、キャスターの魔法だけは正真正銘俺の力で制御しなくてはならないのだ。
紫色の魔法弾はガジェットの一団を正面から捉える。当然向こうは回避するわけだが、俺もそれを予測して弾の軌道を変える。5発の内、4発が命中。2機を撃墜するものの、1機は翼を掠めるだけ。1発は制御し切れずあらぬ方向へ。
生き残ったガジェットが真っ直ぐ突っ込んでくる。放つのは青白いレーザー。
『プロテクション』
顔目掛けて飛んできた攻撃は目の前に展開された魔法陣に直撃し、四散。キャスターはバリアジャケットの耐久度こそ一番低いが防御魔法はセイバー以上。
その防御は全面的にルビーに任せている。今はまだ攻撃と防御を同時になんて器用な真似は出来ないのだ。
「助かった。ありがとう」
『ユキカゼさんのことはワタシがパーフェクトに守ります! 貞操的な意味でも!』
「よし黙れ。集中出来ない」
たまに感謝すればこれだ。――――などと無駄口を叩いている間に生き残った1機に加えさらに5機のガジェット軍団が現れた。というか囲まれた。
「やべっ!?」
腹の底が急に冷えるような嫌悪感。為す術なく硬直する目の前で、攻撃態勢に入っていたガジェット達のどてっ腹に桃色の魔法弾が着弾。爆発。
「うん。今のはなかなか良かったね」
念話ではなく肉声。見ればいつも通り優しく微笑むなのはさんがいた。訓練と変わらない、本当に
「――――ってなのはさんあぶな、」
俺を安心させようと微笑みかけるなのはさんの背後。新手のガジェットがこちらに砲身を向けていたのだが、俺が叫ぶより早く雷の刃で両断されていく。目で追うことも困難な速度で動くのはフェイトさん。
「……くなかったです」
よく考えれば、俺が気付くものをなのはさんが気付かないはずがない。彼女にはフェイトさんの動きもしっかり見えていたのだろう。
雷の鎌を一払い。フェイトさんも合流。
「前に見たときよりずっと上手くなったね、ユキカゼ」
「でも油断は駄目だよ。ユキカゼ君」
「……うっす」
まったく、なんて頼もしい美人さん達であろうか。自由自在の飛行魔法は当然として、俺は全神経費やして5発で精一杯の魔法弾を雨あられと生み出し、かつ完璧に制御するなのはさんの技量。アーチャーモード以上のスピードと背筋を寒くさせる斬撃を振るうフェイトさん。
次々と落ちていくガジェット。俺も必死に数機を落とす。
でもまあ、これならなんとかなりそうだ。……あ、まずい。これはフラグだ!
『エンカウント! 新型……大型です!!』
バックヤードからの通信。シャーリーの
周囲を見渡すもそれらしいものはいない。――――ということは、誰か他の連中が大型と遭遇したということだ。
『エンカウントはライトニング3、4!』
っ……。エリオとキャロだ。
『ユキカゼさん!』
集中が途切れて飛行魔法の制御が乱れる。体勢が崩れたそこにガジェットの攻撃が降り注ぐも全てルビーが展開したシールドが防いでくれた。反射的に直射型の魔法を撃ちまくって敵を追い払う。
「悪い。助かった」
『無問題です!』
駄目だ。今の俺には他人を心配しながら戦う余裕なんて無い。旋回して再び襲ってくるガジェットの群れはしかし、黄金の光の軌跡に呑み込まれた。光は俺の前まで来ると止まった。フェイトさんだ。
「大丈夫?」
頷いて返すとほっとした顔を浮かべる。
「大丈夫。エリオもキャロも強くなったから」
バレバレだった。そんなに顔に出やすいタイプだったのか俺。なんて恥ずかしがっていたが、気付く。励ましてくれたフェイトさんの顔が最初よりずっと険しい。
いくら俺が足を引っ張っているといっても空の戦いは完全にこちらの優勢だ。フェイトさんにしてもこの程度の敵物の数ではない。ならば彼女が冷静でいられない理由はなにか。そんなもの明らかだ。
エリオとキャロは大丈夫――――、口ではそう言っていても心配に決まってる。だってフェイトさんはあいつらの家族なんだから。子供の心配をしない親はいない。
「フェイトさん……」
俺に出来ること。今出来ることは。
「さっさとここ片付けて、あいつら助けに行きましょう!」
一瞬、フェイトさんは驚いたような顔を見せて、次には今まで見た中でとびっきり嬉しそうな笑顔を見せてくれた。光を纏ったフェイトさんはガジェットの群れに飛び込む。本当に全部倒しそうな勢いだ、あの人。
ええい。見え張ったからには俺も負けていられない。次の敵は――――と、周囲を見渡したとき偶然それが見えてしまった。その光景を、バックヤードからの叫びにも似た声が伝えてくる。
『ライトニング3落下! ライトニング4……飛び降り!?』
エリオが落ちた。それを追ってキャロも。
「ユキカゼ君!?」
気付けば俺は頭から真下に急降下していた。なのはさんの声が聞こえた気がしたが無視。今はただ速く! 速く速く速く!! 落下しているふたり目掛けて真っ直ぐ駆ける。その耳元を青白い光が掠めた。ガジェット達だ。
背中を向けた俺は格好の的。しかも向かっている方向が明らかな為狙いもつけやすい。今までやられていた鬱憤を晴らすとばかりに光が頭上から落ちてくる。でも、
そんなもん知ったことか!
「もっと速く! もっと速く飛べよ!!」
落下速度も相俟って過去最高速になっている。それでも足りないとばかりに怒鳴りつける。このスピードでは上手く止まれるかわからない。制御を誤れば地面に激突してしまう。そも、背中をレーザーに撃たれればそれだけで終わる可能性もある。
しかしそんなことすら今はどうでもいい。落ちていくエリオとキャロ。あいつらを助ける。間に合わなければ意味が無い。
なら行け。考えるな。そんな余裕あればもっと前へ進め。あいつらだけは、死んでも死なせない。
「竜魂召喚!」
「!?」
なんだ? キャロがエリオに追いついてキャロがなにかを叫ぶと巨大な魔法陣が現れた。次いで桃色の光が繭のようにふたりを包んでしまった。
状況はわからないが、なんにせよ落下は緩やかになっている。俺もまた急制動をかけて空中で停止。途端、キャロ達を包んでいた光が弾けた。中から現れたのは巨大な白竜。――――ってこいつ、
「……フリード?」
名前を呼ぶと、気付いたフリードは大きな牙を見せて鳴いた。間違いない。いつもキャロの周りを飛ぶ肩乗りサイズの竜は今やトラック並の大きさになっている。その背中にキャロとエリオがいた。
「キャロ! エリオ!」
「ユキカゼさん?」
目を丸くしてキョトンとしているキャロ。ぱっと見怪我はしていない。エリオはというと、落下中は気絶していたがちょうどよく意識を取り戻したところだった。こちらも小さな傷はあるが大事はなさそうだ。良かった。
『ユーキーカーゼーくーん?』
……うわぁ。やばい。なのはさんの声が物凄い低い。背中にじっとりと嫌な汗が出ている。
『持ち場放棄。危険行為。上官の命令無視』
追求するでもなくただ羅列されたそれは違反行為の数々。つい今し方俺がやらかしたものだ。
「でも今のは」
『言い訳は男らしくないなー』
「……はい」
駄目だ。もうなにも言い返せない。にっこり笑顔に怒りマークつけてるなのはさんの顔が幻視出来る。ていうか絶対そういう顔してる。散々ぱら無言のプレッシャーを与えてから、なのはさんはひとつため息を挟んだ。
『まあ、今のは状況が状況だったし、規律違反は許してあげる』
「なのはさん」
『でも危険行為は許してあげない。帰ったら飛行回避訓練、個別でやるからね』
「なのはさん……」
回避訓練とはなのはさんからの攻撃を一定時間躱し続けること。反撃はおろか防御魔法も使用不可。躱せなければ時間リセットで永遠と繰り返されるデスマーチ。これを苦手な飛行魔法で行う。ちなみに結末はいつも一緒で俺がボロ雑巾になって強制終了している。
『返事は?』
「……いえっさー」
『オッケー。じゃあユキカゼはそのままキャロ達と協力して大型の破壊お願いね』
元々空はなのはさんとフェイトさんがいれば充分だった。ふたりを気にしている俺の意志を汲んでくれたらしい。なんだかんだ優しい上司である。
「あ、あのユキカゼさん」
「なんだか僕達のせいですみません」
「平気平気。それよりふたりが無事でよかったよ」
俺が地獄を見る分には俺が頑張れば済むことだが、ふたりが怪我をした日には自分自身を殴っても気が済まなくなる。気落ちしたふたりに気にするなと笑いかける。
「うし。じゃあ行くか」
目標は新型。大型ガジェットドローン。
閲覧ありがとうございましたー。
>本格的に任務開始!そして初実戦!
>追尾系の魔法って実際どうやって操作してるんでしょうね。いくつもいっぺんに動かすのって普通の脳みそじゃあ無理そうなもんです。少なくとも2つのことすら同時に出来ない私は絶対無理。
>最終決戦時には怪獣大決戦を演じるキャロちゃんの覚醒シーンでした。実はこの子がなのは世界で一番ヤヴァいんじゃないかと私は思っています。召喚士って憧れる。
ではではー