【未完終了】魔法少女リリカルなのは ━三途川に落ちる少年━   作:針鼠

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ドキドキ!特別訓練!?

「じゃあ今日から個別スキルに入ろうか」

 

 

 そう言ったなのはさんの両隣に、今日はヴィータとフェイトさんの姿がある。

 

 

「それぞれのポジションで分けるからね。スバルはヴィータ副隊長と。エリオとキャロはフェイト隊長。ティアナは私とね」

 

 

 接近戦が得意でフロントアタッカーを任せられるスバル、中衛からの射撃が主な戦闘スタイルのティアといった振り分けだろう。フェイト隊長はどちらかといえば近接戦闘が主体のイメージだが、俺達レベルなら多少ポジションが違っても教えられるだろうし、それにエリオ達と一緒にしてあげようというなのはさんの心遣いだと思う。

 

 ……おや? と俺は首を傾げる。

 

 

「俺は?」

 

「お前はアタシが直々にボコボコにしてやりたかったんだが、特別講師がつくんだ。有難く思えよな」

 

 

 ヴィータが相変わらずの生意気口調でニヤリと笑う。なんだこの意味深な笑み。

 

 近接、補助と意外とはっきりしているフォワードメンバーの中で、唯一万能型の能力持ちといえるのは俺だ。だが俺もどちらかと言えばセイバー、アーチャーモードの近接戦が多い。実際作戦も、大半がスバルと組むことが多いのでてっきり一緒なのかと思っていたのだけど。

 特別講師って誰だろう?

 

 

「私がお前の担当だ」

 

「シグナム?」

 

 

 後ろからかけられた声に振り返ると、モデルのように長身のすらっとしたプロポーションの女性の姿があった。ピンク色の長い髪を後ろで一纏めに縛り、意志の強そうな目はこちらを真っ直ぐ見据えている。

 

 

「全員揃ったね。それじゃあ始めようか」

 

 

 全員が揃った事を確認したなのはさんの号令で、それぞれが教官の指示に従ってばらけていく。この場にはシグナムと俺以外がいなくなった。

 

 

「お前とはこの間の食事以来か」

 

「そういやそうだな」

 

「ありがとう。主も楽しそうだった」

 

 

 ふっと見せた彼女の意外なほど穏やかな笑顔に不意を突かれてドキリとする。

 

 

「まあ、俺も楽しかったし」

 

 

 照れ隠しに笑って応える。シグナムも特に深くはつついてこなかった。

 

 

「さて、では始めるが」彼女は今一度俺の姿を見て「お前はたしか複数のバリアジャケットを持っているのだったな」

 

「ああ。とりあえずどれになればいい?」

 

 

 訓練の内容によって使用するモードも変わってくる。

 シグナムはふむ、と一瞬考えて、

 

 

「なら今日はセイバーにしておけ」

 

「わかった。――――モード・セイバー」

 

 

 近頃は割と慣れてきた詠唱を淀みなく唱えて、俺の姿が甲冑姿に変わる。ルビーの展開が問題なく完了したのをさっと確認して、顔を正面に戻す。

 

 

「うっし準備オッケー。じゃあこれからどうす――――」

 

 

 ズバンッ! という空気の破裂した音と衝撃が、それぞれ耳と頬をうつ。頭の中が一瞬で真っ白になる。

 首元のひんやりとした感触を無表情で辿っていく。冷や汗が背筋をタラリ。

 寸止めされた剣を辿った先には、当たり前というかシグナムの目があった。

 

 

「えーと、あの、シグナム……さん?」

 

「ぼーっとするな。そんなことでは実戦ですぐに撃墜されるぞ」

 

 

 言いながら、彼女は突きつけた剣を引き戻し、再び大きく振り上げた。ここで正気に戻る俺。

 

 

「でええっ!!?」

 

 

 本能的に体が動いて剣を頭上に掲げる。数瞬後に襲い掛かる衝撃に堪えられず膝が折れた。

 

 

「ほう、なかなか良い反応をする」

 

「ちょ、タイムタイム!」

 

「実戦にそんなものはない」

 

「これ訓練だろっ!?」

 

 

 俺の叫びも虚しくシグナムは尚も上から押し込んでくる。彼女の実力ならそのまま押し潰す事も容易そうだが、そこは手加減してるのかもしれない。今は激しくどうでもいいけど。

 

 

「ひ、一つ質問が……教官殿」

 

「言ってみろ」

 

「これは一体なんの訓練?」

 

「…………模擬戦闘訓練、ということにしておくか」

 

「なにその曖昧な言い方! それとその前の間はなんだこら!!」

 

「高町教導官からの達しでな。貴様に足りないのは技術ではなく土台である基礎体力と実戦経験だ。それらを鍛えるには実戦あるのみ」

 

 

 な、なるほど。確かにその言い分はもっともだ。俺にはルビーから与えられる能力と戦技があるが、それを活かす肉体も経験も圧倒的に不足している。なにせついこの間までただの高校生だったのだから仕方あるまい。

 

 

「でももっと別なやり方あるだろう!?」

 

「私は知らん」

 

 

 断言と共にさらにシグナムは剣を押し込む。ぐぬぬ。

 ならばと押し込まれる力に合わせてほとんど転がるように後ろに跳んだ。一回二回と転がって、勢いをつけて立ち上がって剣を構える。シグナムは敢えて追い打ちを仕掛けてこず、俺の鼻先へ彼女のアームドデバイス、《レヴァンテイン》をゆっくりと突きつける。

 

 

「私が教えられる事はただ一つ。敵は懐に飛び込んで斬れ」

 

「…………それだけ?」

 

「それだけだ」

 

 

 うっわー、なにこのお姉さんかっこよすぎて怖い。

 

 

「これから毎日、日替わりでモードを変えて私と戦ってもらう。それぞれのスタイルでどう戦えばいいのか、どう動けばいいのかを考えろ」

 

 

 つまりはこれから毎日、熊相手でも正面から切り伏せられそうなお姉さんを相手にタイマンを張り続けろという事らしい。はっはっ。これはもはや訓練というより拷問か罰ゲームだ。否、死刑宣告だと言っていい。

 青い顔をしているだろう俺の顔を見て、彼女は逞しく笑った。

 

 

「なに、私と斬り合えるほどになればその時は強くなっているさ」

 

「それまで生きてられる保障がない。異議を申し立てる!」

 

 

 問答無用とばかりにシグナムが再び剣を振り上げる。

 こうして個別スキル訓練という名の死刑執行が始まった。始まったばかりで死にそうだった。誰か助けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらティアナ、そうやっていちいち避けてたら次に繋がらないよ」

 

「はいっ!」

 

 

 雨のように降り注ぐ魔法弾をティアナが次々と撃ち落とす。

 軌道、速度、効果の違う魔法弾をその場にとどまり相殺していくには、広い視野に加え向かってくる魔法を一瞬で分析し、かつ最も適した攻撃を即座に発動する必要がある。応用力と直感力が必須になる難しい訓練だが、初めてにしてはティアナは中々だった。この分なら次の段階にもすぐ入れるかもしれない。

 教え子の力になのはが密かに喜んでいると通信が入る。相手ははやてだった。

 

 

『やあなのはちゃん、ちょっとええかな?』

 

 

 なのははティアナに一時休憩を言い渡す。

 ティアナが座り込むのを確認して、改めて通信の向こうにいるはやてと向き合う。

 

 

『悪いなぁ、訓練中やのに』

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

『今日から個別訓練やったっけ? どんな感じなん?』

 

「まだ初日だし……」なのはは苦笑し、座り込んでいるティアナを一瞥「でもみんな才能あるからね。呑み込みも早い」

 

 

 そう言ったなのはの顔は自信に満ち溢れていた。同時にどこか誇らしげでもある。教え子達の成長具合に一番喜んでいるのは彼女だというのをはやては知っている。

 だからこそはやても安心していたのだが、その笑顔が少しばかりぎこちなくなる。

 

 

『シグナムは、どや?』

 

 

 実は彼女がなのはに通信を繋いだ理由の一つがこれだった。

 戦場では誰よりも先に敵陣に飛び込み、また堂々と指揮を執る彼女は何よりも頼もしい。けれど普段の彼女は目立つことを極力嫌う。というより、戦闘の場以外で、皆を先導するような役目をあまりやりたがらない。他にも、人にものを教えるよりも自分自身を鍛えることの方が性にあっていると考えている人だ。

 

 ――――なのだが、昔からの武士気質というのか騎士気質というのか、少しでも強い人物を見つけるとつい私闘に走るきらいがあったりもする。

 シグナムは初めての訓練でユキカゼを見た時から、彼の特殊な能力に興味を抱いていた。あの時は結局ヴィータに横槍を入れらてしまったが、どうやら今回訓練の指導を受けてくれた所をみると諦めてはいなかったらしい。

 

 普段は冷静沈着、常識人の彼女だが、こと戦いに関すると容赦がないというか妥協のない人だというのを彼女の家族であるはやては知っている。だからこそ、彼女がちゃんと指導を行えているのか親心ならず心配になってしまったのだ。

 そんな親友の心境を察してなのははクスリと笑う。

 

 

「心配しなくてもちゃんとやってくれてるよ。――――ほら」

 

 

 ――――だああああ! かすった! 今鼻かすったってば!!

 

 ――――ええいそれしき問題ない! 鼻がもげようと死にはせん!

 

 

「ね?」

 

『いや……なかなかスパルタみたいやね』

 

 

 遠くから聞こえてくる悲鳴に、満面の笑みのなのはとひきつった笑みのはやて。

 彼の鼻が訓練後に無事くっついていることを切に願うはやてだった。

 不意に、イザヤとシグナムが訓練しているであろう方向を見つめるなのはの表情に陰りが見える。

 

 

『どうしたん?』

 

「うん……、ユキカゼ君は少し特殊だからね。私も正直どんな教え方をしたらいいかわからない。だから、少し不安なんだよ」

 

 

 彼女らしくないぼやきにはやては少し驚きながら、しかし内心気持ちは同じであった。

 

 ユキカゼという少年はとても特殊な魔道師だ。

 デバイスの形状を変化させるバトルスタイルの魔道師はいる。なのはやフェイトも、それぞれデバイスを変形させる事で能力を解放させたりする。しかしそれらはあくまで能力の向上であり、基本となる戦闘スタイルそのものはあまり変わらない。なのはは射撃・砲撃がメインだし、フェイトは速度重視の近接戦闘。基本となる戦い方は変わらない。

 

 けれどユキカゼは違う。まったく異なったスタイルを、それも3つも持っている。高い防御力と攻撃力を持つ近接戦闘のセイバー。スピードとトリッキーな動きで相手を翻弄し、近接から中距離、果ては遠距離からの攻撃手段を持つアーチャー。最後に飛行魔法と射撃、砲撃などの魔法を扱うキャスター。ここまで違ったスタイルチェンジをする魔道師をはやては知らない。

 

 もう一つ不思議なのは、彼の能力をユキカゼ自身が把握しきれてない事だ。当初はどんなモードがあるのかさえわかっていなかった。それでいて剣術や体術はシグナムを唸らせるほどに優秀。かと思えば、体力不足や実戦ならではの駆け引きは素人同然。

 ゲームで例えると、最強の呪文や技をいくつも覚えているのにステータス不足で使えないみたいな。

 だからなのははユキカゼの練習メニューを基礎体力の向上、それと実戦経験値をためる方向に定めた。その為のシグナムとの模擬戦闘でもある。

 

 彼は魔力の質こそなのは達と違う為に未だ正当な評価を受けていないが、その潜在能力は間違いなくこの六課でもピカイチだ。

 先日のミッション中に使った光の剣技……精確な測定は出来なかったが、Sランク相当の力があった事をシャーリーは口にしている。当人は急激な消耗にその後すぐに倒れてしまったが。

 無論、可能性の塊であるのはなにもユキカゼだけではない。フォワード部隊は近い将来、それぞれがかけがえのない存在となり多くの人を救ってくれるとはやては確信している。それはなのはも同じ気持ちだろう。けれど将来を期待せずにはいられない有望な新人達だからこそ、彼らを育てる立場にあるなのはのプレッシャーは実は相当に重い。責任感が人一倍強い彼女なら尚更。

 

 

『なあ、なのはちゃん』

 

 

 そんな彼女の心情を察しながら、しかし彼女以外に彼らを任せられない。いや、なのはならばきっとユキカゼ達を強く、正しく育ててくれると信じているから。

 

 

『悪いんやけど、ちょっとユキカゼ君借りてもええ?』




閲覧ありがとうございます。

>更新めっさ滞ってて申し訳ないです。リアルが現在物凄い忙しく、休み=寝てないとぶっ倒れちゃうくらいやばめなのです。
次の更新もおそらくかなり期間が空いてしまうことになりそうです。もう謝りっぱなしになっちゃうのですが、本当に申し訳ないです!!
もしかしたら落ち着いた頃にここらへんで更新したところは手直しというか、推敲入るかもですが、そのときは最新話のところに何話直しましたー的な報告は入れる予定です。

>ここよりあとがき。
シグナム姉さんは頼りになる姉御って感じですよね。でもなんか設定読み漁っていたらバトルマニアだとか色々書かれていて、想像のまま完成したのがこのたくましいお姉さん。誰これ怖い。
ボツ案になったのはみんなの訓練に日替わりでお邪魔する感じのやつ。ヴィータにスバルと一緒にしごかれたり、ティアと一緒に蜂の巣になっていただいたり、年少組とまったり訓練するのも面白いかなぁ、と。

ではでは、次がいつなるのかわかりませんが、停滞中でもコメント送ってくださったり感想入れてくださったり本当にありがとうございます!とりあえず死なない程度に働いて戻ってきますので!
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