【未完終了】魔法少女リリカルなのは ━三途川に落ちる少年━   作:針鼠

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乗るならやっぱり運転したいもの

 危うくシグナムに鼻を削ぎ落とされそうになっていたところに現れた女神――――もといなのはさんの指示で、俺は訓練を早抜けすることになった。なのはさんマジ女神!

 

 

『今日の分の訓練は明日に持ち越しね』

 

 

 なのはさんマジなのはさん……。

 訓練場から去り際にかけられた言葉は明日の俺への死刑宣告だった。すまない、俺の鼻よ。

 

 明日をもしれぬ身となった俺を待っていたのははやて。そうして彼女に連れられてきたのは《陸士108》の隊舎。なんでもここははやての古巣ということだった。加えてここの隊長はスバルの父親らしい。いやはや世界は狭い。

 

 

「まあ実際はそんなことより、お前が車の免許を持ってることに驚いてる。決して羨ましいとかではなく」

 

「乗り物に関しては一通り取ったんよ。持っておいて損はないしな」

 

 

 えっへんと胸を張って免許を見せびらかしてくるはやて。くぅぅ、俺だって運転したい。ああいう大きな車を走らせたい。

 元の世界でも自衛隊は乗り物の免許を無料で取得出来ると聞いたことがある。こちらでもそうなのだろうか。今度ティア辺りに聞いてみよ。

 

 それにしても、この世界に転生してはや1ヶ月だがわかったことがある。目の前の少女だけでなく六課の連中はみんな優秀であるということ。それも生半可な優秀さではない。真面目で、誠実で、頭も良く器量も良い。誰も彼もキラキラして見える。

 ちょうど目の前にいるはやてにしても、俺とひとつふたつしか違わない年齢で隊長を務め、こうして多くの免許やらを取得している。おそらくは乗り物に限らない知識と技術も持っているのだろう。俺のいた元の世界ならば考えられない高スペックだ。

 

 優秀で努力家なんて、凡人の俺にはルビーの補助があってようやく足を引っ張らないようにするのが精一杯だ。毎日が必死過ぎて気後れする余裕も無いほどに。

 まあ、普段からいい加減な性格をしている俺にはなんだかんだと良い環境なのかもしれない。たまにはお休み欲しいけども。

 

 そんなことを考えながら守衛に通された部屋で待っていると、俺達も入ってきた扉が開かれた。

 

 

「悪ぃ悪ぃ、待たせちまったか?」

 

 

 軽い調子で謝罪を口にしながら入室したのは、初老を迎えたといっていい中年のおっさん。

 

 ソファーに座っていたはやてが男の入室に合わせて立ち上がる。俺も倣って立った。

 はやては背筋をピンと伸ばして敬礼。

 

 

「いえ、本日は突然の訪問に応じてくださってありがとうございます」

 

 

 何時になく畏まった様子のはやてに、最敬礼で対応された男は『へっ』と鼻で笑う。といっても全然嫌味っぽくはない。むしろ、友人の小芝居に思わず笑いが漏れてしまったかのような。

 

 

「そういうのは無しにしようや。今更畏まった挨拶交わす仲でもねえだろう、八神よう」

 

「ですね」

 

 

 はやてまでも小さく笑うと、あっさり体を崩した。わからないのは俺ばかり。

 ひとしきり挨拶を終えると男の興味がこちらへ向く。

 

 

「こっちの坊主は? 新顔か?」

 

「はい」俺が答えるより先にはやてが答え「天野 ユキカゼ二等陸士。六課の新人フォワードで、期待の新人です」

 

「ほう」

 

 

 コイツ……。余計な一言を付け加えやがった。おかげで上官らしきおっさんの目にはありありと興味の色が濃くなった。

 初対面の相手には無難な印象を好むというのに、無駄にハードルを上げるんじゃないはやてめ。俺なんて新人の中では期待値なんてダントツのドベだろうが。絶対面白がってるだけだ。だってこっち見てクスクス笑ってやがるものこんちくしょう。

 

 そしてこのおっさん、迫力ありすぎだろ。敵意なんて無いのに眼光だけでチビリそうなほど怖い。背丈は俺の方が高いが、さすが軍人というのか背筋がピンと伸びていて体も鍛えられている。年齢を感じさせない雰囲気にたじたじだ。

 蛇に睨まれた蛙が如く硬直しっぱなし。そろそろはやての後ろに隠れようかなとか思っていたら、不意におっさんは表情を綻ばせて右手を差し出してきた。

 

 

「ゲンヤ・ナカジマだ。宜しくな」

 

 

 ニヤニヤと笑っている辺り、もしかしたら試されていたのかもしれない。引きつっているだろう顔で笑顔を作り右手を取る。

 

 

「あ、天野です。よろしくお願いします」

 

 

 前もって聞いていたが、この人物こそスバルの父親らしい。しかし俺的にはこのおっさんの雰囲気に、スバルではなく別の人物の顔が浮かぶ。というかすぐそこにいるはやて(あいつ)だ。

 

 くつくつ笑う似た者同士。

 孤独感と怒りに震えていたらさらなる入室者の気配。先に気付いたのははやて。

 

 

「ギンガ!」

 

「八神二佐!」

 

 

 振り返ると扉の前に立っていたのは、湯呑みを載せたおぼんを運ぶロングヘアーの女性。彼女の顔を見て、俺は目を丸くした。

 

 

「スバル……?」

 

 

 いや違う。違うのはすぐにわかったが、似ていた。スバルに。

 髪型こそ違うが、青みがかった髪の色や顔立ちは瓜二つ。きっと2、3年後のスバルが髪を伸ばせばこんな感じになるだろう。

 

 これもまた事前にはやてに聞いている情報を思い出せば、おそらく彼女の名はギンガ・ナカジマ。捜査官にしてゲンヤさんの娘。そしてスバルの姉で間違いないだろう。

 

 

「あれ? もしかして……君がユキカゼ君?」

 

 

 ゲンヤさん同様、はやてとの再会を終えたあとはこちらへと興味が移る。しかし突然名前まで呼ばれたことには驚いた。

 

 

「え? あ、はい」

 

「ふむふむ。ほうほう」

 

 

 ジロジロ。まじまじ。

 

 時折頷いたり、意味深な笑みを浮かべながら無遠慮に観賞される。なになにこれなに!? どうでもいいけどそのおぼん先に置いた方が良いのでは?

 

 

「スバルの手紙によく名前が出てからたどんな子なのかな、って思ってたから一度会ってみたかったの」

 

「ちなみにスバルはどんな風に俺のことを書いてたんだ?」

 

「訓練とかでよく最後に気絶する、私と同い年くらいの男の子がいるって」

 

 

 …………よし、帰ったらあいつは頭グリグリの刑だ。己の書いた手紙を洗いざらい吐かせた後に頭凹むまでやってやる。泣いて謝っても許してやらん。

 なにが悲しくて初対面の美人に気絶キャラなんて情けない覚え方されねばならんのだ。許すまじ。

 

 

「改めまして。ギンガ・ナカジマです。いつも妹がお世話になってます」

 

「初めまして。天野 雪風……です」

 

「敬語、無理して使わなくていいわよ? 歳も近いみたいだし仲良くしましょう」

 

「助かる。早速ひとつ訊きたいんだけどさ。――――なんか後ろでゲンヤさんが睨んでない?」

 

 

 ひしひしというより、もうチリチリと。殺気に近い視線を背中に感じる。

 なんでどうしてと思う。さっきまでやたら気の良いダンディなおじさまだと思ってたのに。ギンガがスバルの手紙がどうこうとか話していた辺りからだったか? 一体なんだというのか。

 

 

「さあ? 振り向いて確認してみたら?」

 

「知ってるか。視線で人は死ぬんだぞ?」

 

「ならやめといた方がいいかも」

 

 

 他人事だと思って憚り無くギンガは笑う。ギンガとの会話が弾む度に背中に突き刺さる視線が強くなっている気がするのは気のせいだろうか。

 はぁ、とため息が漏れる。そうして改めてギンガの顔を見る。

 

 

「なにかしら?」

 

「いや、似てるなって。やっぱり姉妹なんだな」

 

「そりゃ正真正銘、姉妹ですもの」

 

 

 誇らしげに胸を張るギンガ。本当に彼女は、スバルと家族であるということを誇りに思っているのだろう。

 

 

「でも強面のゲンヤさんからどうやったらこんな美人姉妹が生まれるんだ?」

 

「大きなお世話だ!」

 

「馴染み過ぎや!」

 

 

 上官ふたりからのツッコミを受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、打ち合わせも済んだことだし……おう八神、飯でも行くか?」

 

「はい。ご一緒します」

 

「ギンガと一緒に車回してくれ――――ああ、坊主はちょっと残れ」

 

 

 え? 流れ的にはやてについて行こうとしたらゲンヤさんに呼び止められた。はやてとギンガは特に意にも介さず行ってしまう。薄情者。

 

 

「ユキカゼって言ったか。ちょっとそこ座れ」

 

「言われるまま座ると生意気だと怒られ、座らなくても無視をしたと怒られる」

 

「んなわけあるか。いいからとっとと座れ」

 

 

 『冗談です』と挟んでから大人しく座る。まだ出会ってから短いが、この人がそういう理不尽なことを言う大人でないことはよくわかっていた。この程度の冗談に腹を立てないことも。

 それにしてもなんの用だろうか。

 

 

「お前さん、六課の前はどこにいたんだ?」

 

 

 ゲンヤさんの切り出しは初対面の会話としては極々自然なものだったが、俺には結構冷や汗ものだった。なるべく平静を保って答える。

 

 

「色んな部隊を転々と」

 

「ほう」

 

 

 これは別に嘘ではない。俺は俺自身の経歴を調べたのだが、転々と地上部隊の後方支援――――という名の雑務処理――――をしていた。ルビー曰く、誰の印象にも残らずこの世界に『天野 雪風』という痕跡を残すにはこうするしかなかったらしい。

 

 

「それがまたどうしてキワモノの六課なんだ?」

 

「はやてに誘われて」

 

 

 という設定で。

 

 

「なんか俺って特殊らしくって、魔力値が測定出来ないんすよ。部隊のランク保有量を圧迫しないってんで誘ったらしいです」

 

 

 三途の川の船頭が遣わせたルビーは、形態こそこの世界のデバイスに則っているのだがやはり本物とは別物らしい。そこから出力される力もこの世界のものとは別物。故に俺の魔道士としてのランクは測定が出来ないのだ。俺自身は特別な力を持っているわけでもないし。最高に数奇な人生歩んでることは否定しないけど。

 

 

「はっ、相変わらずあの狸はそういった事に関しちゃ頭が回りやがる」

 

 

 はやてらしい、そう言ってゲンヤさんが膝を叩いて笑う。

 

 それにしても狸か。言い得て妙だ。あいつおっとり系かと思いきや、たまに恐ろしくなるほど計算高い。こちらが状況に気付いたときにはすでに詰んでることがある。今度どさくさに呼んでみよ。

 

 

「あのー、結局俺に用ってのは?」

 

「ん? あー、別に用があるってわけじゃねえよ。八神が連れてきたってんで気になっただけだ。それと……」コリコリとゲンヤさんは頬を掻きながら「スバルの奴がどうしてるかも聞きたかったしな」

 

 

 納得だ。親として、娘の近況というのはそれは気になる話だろう。先程の一件で手紙のやり取りはしているらしいが、やはり本人から伝えられる話と、他人から見たものとはいうのはどうしたって違うものだしな。

 

 

「なにニヤニヤしてやがる」

 

「いや、ゲンヤさんて結構子離れ出来ないタイプなのかな、と」

 

「ほっとけ!」

 

 

 痛い。小突かれた。

 

 

「ったく。――――お前、案外八神と似てるかもな」

 

「こうみえても俺は正真正銘男ですよ?」

 

「そういう小憎ったらしいところとかな!」

 

 

 ゲンヤさんはふぅ、とため息。

 

 

「あいつの下にいりゃ十分な経験が積める。昇進のチャンスもあるだろうしな。頑張って損はないぜ」

 

「んー、でも俺別に昇進とか興味無いですし」

 

「ならどうなりたいんだ?」

 

「平穏無事に静かに暮らしたい」

 

「なんで管理局に入ったんだよ」

 

 

 最もな話だ。全てはあの守銭奴の船頭のせいである。

 

 その後ははやてが呼びにくるまでスバルのことを中心に六課での訓練などの日常を話した。逆にゲンヤさんからは当時のはやての話を聞いたが、わかったのはあいつが昔っから凄い奴だってことだけだった。

 食事の後、ギンガさんからもスバルによろしくという言伝を預かって、俺達は帰路につく。

 

 優しい父と姉。そんなふたりと話したからだろうか。ほんの少し、俺は元の世界が恋しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやった? スバルの家族は?」

 

 

 帰りの車中。運転はもちろんはやてだ。

 

 

「良い人達だった。ギンガは美人だし」

 

「せやろ」

 

 

 くっくっ、と笑うはやて。はやてにとってふたりは師匠と友人。俺が仲良く出来たのがよほど嬉しかったらしい。ふと、俺は気になって質問する。

 

 

「はやての家族は?」

 

「今はヴィータ達だけや。両親は子供の頃に死んでしもうてなぁ。でも後見人のおじさんがおるよ。今はちょい遠いところにおるけどな」

 

「そのおじさんってのも優しい人なんだろうな」

 

 

 詳細は全く知らないが、はやてが複雑な立場にいるというのはそれとなく聞いたことがある。そんな彼女の後見人を買って出る人物なのだからきっと人格者なのだろうと漠然とそう思った。それだけなのだが、

 

 

「なんだよその顔」

 

 

 はやてが目を丸くしてこちらを見ているのだ。何故。

 

 

「あ、いやいや。なんというか、そういう返され方されたのは初めてでな」誤魔化すように笑って「ユキカゼは謝らんね。親がおらんて言ったのに」

 

「辛そうに喋ったんなら謝るよ俺だって」

 

 

 でも、はやてはそんな顔も空気も一切出さなかった。それは両親との思い出が決して辛いものではなかったから。そしてなにより、今が彼女にとって充分に幸せだからなのだろう。

 それなのに、勝手に他人が同情して哀れむのなんて、気遣いではなく失礼だ。

 

 

「ふふ」

 

 

 なんだかご機嫌な様子。ついでにもうひとつ聞いてみようか。

 

 

「なんで今日、俺を連れてきたんだ?」

 

 

 今日一日、ずっと気になっていたことだった。まず階級はぺーぺー。部隊に割り振られている役割にしたって、俺はこういう内政的なものにはそぐわない。ゲンヤさん達と顔見知りだっていうならわかるが、そうでもない。それにそういう理由ならスバルを連れてくればいいだろう。

 

 スバルでもティアでもなく、なのはさんでもシャーリーでもなく俺を選んだ理由。

 

 はやてはたっぷりと時間をかけて、こう答えた。

 

 

「さあ?」

 

 

 答えじゃなかった。

 

 

「さあ……ってお前」

 

「特別な理由なんて無いよ。役に立つとか、話し合いに参加してもらおうと思って連れてきたんじゃないのは確かやけど」

 

「わかってるけどはっきり言われると凹むな」

 

「新人やいうても、戦うだけが全てじゃない。色んな経験を積んでもらいたいってのはあったかな」

 

「でもそれならティア辺りでよくないか? 俺ぶっちゃけ頭使う交渉事とか苦手だし」

 

「そうなんやけどねぇ」

 

「嘘でも否定しろって」

 

「あはは。――――なーんかね、誰か連れてこぉ、思ったとき真っ先に浮かんだんがユキカゼだったんよ」

 

 

 結局、理由なんて無いそうだ。そんなんでいいのか総隊長。

 

 

「まあええやん。ギンガともお近づきになれたことやし」

 

「それについては本当にありがとうございます!」

 

「せやで、感謝しいや。今度なにか奢ってもらおう」

 

「総隊長が部下にたかるのかよ」

 

「そら外聞悪いわ。だから個人的に、今度プライベートのときにでも奢ってもらうことにする。せやないとギンガにあることないこと言いふらしたる」

 

「くっ……これが噂のパワハラか! だがこっちだってゲンヤさんからお前の恥ずかしい話を仕入れられることを忘れるな!」

 

「ぐ、師匠め余計な真似を」

 

 

 ぎゃあぎゃあ言い合いながら、しかし最後は俺が折れる形で着地するのは目に見えたことだった。




閲覧ありがとうございますー。

>相変わらずの亀更新で申し訳ないです。やっとこさの更新。

>今回は個別訓練風景からの、ゲンヤさんギンガ登場でした。ゲンヤさんは渋メンでいいなぁ。ああいうおっさんに私はなりたい。そして可愛い娘達が欲しい。

>はやての心境につきましては各々妄想を膨らませてもらえれば幸いかな、と。未だこの作品にヒロイン枠を立てるかは作者自身はっきりとしていないので。
でもまあ、はやてが好きなのでこうして色々絡ませていたりと私情はダダ漏れなわけです(笑)

>さてさて、次回もなるべく早めに更新出来ればなぁ。それとバトルが書きたい欲求を満たしたい。
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