【未完終了】魔法少女リリカルなのは ━三途川に落ちる少年━   作:針鼠

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出来れば次は彼女と来たい

 ホテル・アグスタ。

 

 今回六課が警備をしているこの立派な建物の名だ。

 

 名の通りここは宿泊施設であると共に、ロストロギアのオークション会場にもなっているらしい。今日もそのオークションが行われる。六課はその警備を任されているのだ。

 無論、六課が回収対象にしているレリックや、危険度の高い代物は市場には出ない。それでも金持ちというのは唯一無二の物を、己が所有したくなるというのはどうやらこちらの世界でも一緒らしい。

 

 残念ながら、生まれてこの方金持ちになれたことが無い俺には縁遠い娯楽である。ゲームとか美味しい食べ物ならともかく、何に使うのかもわからんものに大枚はたく意味がわからん。

 

 さて、レリックこそ無いものの、ロストロギアは等しく不思議な力を有している。例の卵型兵器がレリックと勘違いしてやってきても良いように今回俺達は派遣されている。はたして、無駄足感が半端ないと思うのは俺だけか。

 そも間違ってやってくるという想定からして、さすがにありえないのではないかと思うのだ。

 

 だというのに、今回は護衛対象が自然、金持ち=権力者達ということもあって六課のほぼフルメンバーでの出動なのである。俺達新人組をはじめ、なのはさんはもちろん。総隊長のはやてに、ヴィータ、シグナム、シャマル先生まで。大盤振る舞いだ。

 

 でもいくらなんでも犬のザフィーラまで連れてこなくても。……もしかしてザフィーラもフリードみたいに戦えたりするのだろうか。

 ああ、もう一度あのモフモフのお腹を触りたい。

 

 

『ユキカゼさんユキカゼさん、新婚初夜はこのホテルにしましょう!』

 

「誰と来てもいいけどお前とだけは二度と無いな」

 

『もう、相変わらずツンデレさんなんですから』

 

 

 喧しい相棒の戯言をいつものように一蹴していると、ティアから念話が飛んできた。

 

 

『ユキカゼ?』

 

 

 未だにこの突然頭に声が聞こえてくる感覚だけは慣れない。ビクッてなる。

 

 

「どうした?」

 

『どうしたじゃないでしょ! 定時連絡!』

 

 

 あ、やべ。忘れてた。

 

 指揮官であるティアに各自定時連絡を入れるという取り決めがあったのだった。うっかりしていた――――と思って時間を確認してみると、決められた時刻よりまだ少し早い。

 

 

「悪い悪い、忘れてた。こっちは異常なし」

 

 

 でもまあ忘れてたのは事実だし、とりあえず謝っておこう。

 

 

「他はどうだ?」

 

『今のところどこも異常はないわ』

 

 

 答えるティアの声にはまだ不満というか怒気がこもっている。まだ怒っているらしい。相変わらずの真面目っ子め。

 

 

『大体あんたはいつも気を抜きすぎなのよ!』

 

 

 ああしまった……、お説教モードに入ってしまった。

 

 

『訓練だっていつもそう! それに何回注意しても隊長達のことも呼び捨てで呼んでるし。礼儀云々より一般常識だって――――』

 

 

 ガミガミと怒鳴りつけてくるティアの声で頭がガンガンする。電話と違って受話器を耳元から離すということも出来ないことは、念話の欠点だと言える。

 

 

「あ」

 

『なによ? まだ言いたいことはいっぱい――――』

 

「ちょっとトイレに」

 

『馬鹿ッ!!』

 

 

 ブチッ、と念話が遮断された。耳がキーンとする。

 

 ……それにしても、最近のティアは少し様子が変だ。怒りやすいのはいつものことだが、ここ最近は特にカリカリしている。いい加減な俺が怒られるのはまあ当然だとして、スバルなんかもしょっちゅう怒鳴られている。時にはキャロやエリオにまで厳しい指示が飛ぶこともある。

 訓練中も視野が狭まっていることが多々あり、容赦のないなのはさんにそこを突かれることもしばしば。そんなときなんかは特に機嫌が悪くなるのだ。

 

 

『はぁ、ユキカゼさんは女心がわかっていませんねえ』

 

「そもそも人でもないお前に言われたくはねえけど一応聞いてやる。ティアが機嫌悪い原因わかるのか?」

 

『もちろんです! おそらくティアさんは今日女の子の日――――』

 

 

 即刻床に叩きつけてやった。

 

 

『乱暴者はモテませんよ?』

 

「デリカシーないよりマシだ」

 

 

 先程の自分自身の発言を思い出したが丁寧に棚上げだった。

 

 まあ、こうして考えていても仕方ない。また適当に付近を巡回でもするか。そう思い立ち、携帯している売店のチョコをひとつ口に放り込む。

 

 

「ちょっとそこの君」

 

 

 そういえばトイレどこだろ。さっきは方便だったけど、考えてたら本当に行きたくなってしまった。でもここ広いから探すの面倒くさそうだなぁ。

 

 

「そこのデバイスと漫才してた君」

 

 

 大変遺憾だが足を止めざるをえない。

 

 振り返ると、そこにいたのは白いスーツを着た長身長髪のイケメン。気品漂う出で立ちは、おそらくホテルに泊まるどこぞの御曹司だろう。俺とは正反対の人種だ。

 キラキラ眩いイケメンスマイルをつきつけてくる御曹司は、甘い声でこう言った。

 

 

「そのチョコ美味しそうだね。良ければひとつくれないかな?」

 

 

 金粉とかトリュフとかじゃないですけどいいですかね? 俺は無駄に不安に駆られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく!」

 

 

 頭痛に似た怒りを覚えながら、ティアナの表情に徐々に陰りが差していく。

 

 六課ははっきり言って異常だ。隊長は全員がオーバーS。副隊長ですらニアSランク。本来ならAランク相当で部隊長を任せられることを考えれば異常さは理解出来るはずだ。

 他の隊員にしたって、管制、救護、運搬に至るまで全ての隊員が将来を有望視されているエリート達だ。一体どんなコネクションを駆使すればここまでの人間を集められるのか。そして、これだけの戦力を集めた理由とは本当にレリックの回収だけなのだろうか。

 

 しかしティアナにとっては理由も方法も興味はない。気にはなるが、所詮下っ端の自分がそれを知ってどうこう出来るものでもないからだ。だから彼女が思い悩んでいるのは別のこと。

 

 六課の過剰戦力は新人にも及ぶ。竜を操る希少技能の召喚士であるキャロ。あの歳にしてBランクを取得しているエリオ。

 スバルにしたって、彼女の将来性は長く組んできた自分がよく知っている。いずれはなのはのようなエースストライカーとして管理局で活躍するであろうと確信している。

 

 それに比べて自分はどうだ。先日やっとこさBランクを取得したものの、魔力は平凡。身体能力もさして優れているわけではない。得意の幻影魔法も、スバルのウイングロードのような魔法と比べれば、はっきり言って燃費の悪さが目立つ使い勝手の悪い色物だ。

 唯一勉強には自信があるが、そんなものその気になれば誰でも出来る。決して強みにはなりえないとティアナは自嘲する。

 

 平凡。凡庸。

 自分を表す言葉はここらへんが適当だ。

 

 ティアナ自身はこう思っているが、実際の周囲の評価は少し違う。確かに単騎戦力で見た時、フォワードの中で彼女の序列は下位だろう。しかし蓄えた知識量もさることながら、元々の頭の回転も早く、なにより決断力がある。

 例えば新人組をツーマンセルで分けた模擬戦などをすれば、組み合わせに関わらずおそらくティアナがいるチームが勝つ。それほどに新人組の中での彼女の指揮官としての能力は図抜けている。実際なのはなどはその才能を見抜いており、指揮官訓練を積ませたいとも考えているのだ。

 

 だが、周囲の眩い才能を前にしたとき、劣ってはおらずとも華に欠けるそれが、ティアナに優劣を誤認させた。彼女自身に才能が無いのだと。

 

 だからこそ、

 

 

「……なんでよ」

 

 

 だからこそティアナにはユキカゼのことが理解出来なかった。彼もまたなのはやスバルのように()()()()()()の人間。それどころか新人達の中では最も光ある才能の持ち主だとすらティアナは思っている。

 

 魔力値こそ計測出来ないが、ユキカゼが時折見せる圧迫感はなのは達隊長格に決して劣らない。加えてフォームチェンジから、異なる魔法を操る希少技能――――否、あれは最早単一技能(ユニークスキル)と呼べる代物だ。

 

 それだけじゃない。なのはをはじめ、はやてやシグナムといった者達はどこか彼を認め、期待していることがわかる。エリオやキャロは親であるフェイトに抱くような信頼を寄せている。スバルだって。――――それに、ティアナ自身も。

 

 あれほどの能力を、才能を、信頼を得ていながらどうして……。何故あいつはいつも本気じゃないのだろう。訓練をサボったりするわけではない――――が、いつも必死さに欠ける。

 ティアナが喉から手が出るほど欲する才能を持ちながら、自分より頑張らないユキカゼが腹立たしくて仕方がない。そんな彼を最後に頼りにしてしまう自分が情けなくて。

 

 

「……いや、これは身勝手な嫉妬ね」

 

 

 ふぅ、と大きく息をつく。気分を入れ替えるように空を見上げる。

 

 本当はわかっているのだ。ユキカゼは決して不真面目なわけでも、才能にあぐらをかいているわけでもない。彼の本質は明るく、とても優しい人間。

 だからこそ、彼はいつも輪の中心にいる。

 ティアナ達新人組がこれほどの短期間で信頼を築けたのも、ユキカゼというムードメーカーがそこにいてくれたからだと。

 

 

「少し大袈裟かしらね?」

 

 

 そう言って、思っていた以上に自分も彼に依存していたことに気付いて驚く。それと共におかしくて笑った。

 

 わかっていたことだ。こんな嫉妬はない物ねだりに他ならないと。この苛立ちは無意味だと。いくら羨んでも手に入るものではない。望んで得られるものではない。

 それなら凡人たる自分はどうすればいいか。非凡なる彼等にどうやって追いつけばいいのか。

 人一倍の努力。そして結果を残し続けること。

 それだけが非凡な彼らに追いすがる唯一の方法。

 

 立ち止まらず、走り続けること。

 

 

「あたしは証明しなくちゃならないんだ……ランスターの弾丸は必ず敵を撃ち抜けるんだって」

 

 

 あの日そう誓った。――――兄は、決して間違っていなかったのだと。




閲覧ありがとうございますー。

>前回更新より、思った以上にルビーちゃんの出番をお待ちしていた人がいて驚きと共に笑ってしまいましたw
ユッキー一人の時は饒舌だけど、他の人がいると口数が減る実はシャイなルビーちゃんですどうでしょう萌えましたか萌えませんかそうですか。

>ユキカゼ君を呼び止めた人物は次話でわかります。というかアニメとか原作ご存知の方はわかってしまうでしょうが。わからない人は次話をお待ちを!

>一応原作通りに着々と闇を抱えていくティアナさん。真面目っ子ほど思い詰めてしまうの!適度に休むの大事!

>てな感じですが、今回短めで申し訳ない。また次回にてー
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