【未完終了】魔法少女リリカルなのは ━三途川に落ちる少年━   作:針鼠

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美人に説教

 さて突然ではあるが朝練である。

 

 本当に突然なので、まずは順を追っていこうと思う。

 

 先日辛くもアグスタ防衛をやり遂げた俺達。しかし俺が地下駐車場で虫人間と戦っていた間、どうもティアがポカをやらかしたらしい。なんでも危うくスバルを誤射しかけたそうな。スバルは気にしていないと主張したが、現場にいたヴィータにこっ酷く叱られたティアの落ち込みようといったらなかった。

 ついでに、またも独断専行でなのはさんに個別訓練を課せられた俺はそろそろ命の危機を感じていた。

 

 ……まあ、正直それだけだったなら、またいつもみたいに愚痴って訓練して、風呂入って寝れば次の日を同じに迎えられただろうと思う。

 

 スバルからティアの過去を聞いた。

 

 ティアには兄がいたこと。その兄も管理局に所属し、将来を有望視された優秀な航空魔導師だったこと。――――その兄が、任務中に死んでしまったこと。

 当時のティアの兄の上司は、そんな彼を無能だと罵り、その死を無意味だと断じた。

 

 俺には兄妹はいない。両親も元気に生きているし、爺ちゃん婆ちゃんだってそれぞれ元気にしてる。それでも、辛かったとはわかる。

 大好きだった兄貴が死に、挙句それを貶されたとき、はたして悲しさと怒りとどっちの感情が勝るのだろうか。

 

 ティアは悔しかったのだという。兄貴の死が無駄ではなかったと、兄貴は決して間違ってなどいなかったのだと証明するために彼女は魔導師となった。自分自身がのし上がることで、それを証明するために。

 

 その為に彼女は努力する。無茶をする。結果を求める。強くなろうとする。

 早く、もっと早く兄貴の汚名を晴らす為にと、いつも焦りながら自分を追い詰めるのだ。

 

 

「馬鹿だよなぁ……」

 

 

 もしティアが弱かったなら、か弱い女の子であり続けたのならこうはならなかったはずだ。しかしそうはならなかった。勉強して、体を鍛えて、誰よりも努力している。

 それは彼女が強すぎたが故に。

 

 

「俺には真似できねえよ」

 

 

 肉親が、或いは友人が死んで、世間がそれを中傷したとき、俺は果たしてティアのように怒れるだろうか。悔しさを噛み締めて、努力し続けることが出来るだろうか。

 多分無理だ。俺はそんなに強くない。強くなれない。

 

 嫌なことがあれば逃げたくなる。辛いことはやりたくない。

 

 

『ならなんでこんな朝早くにこんな場所にいるんですか?』

 

 

 ルビーが尋ねられて、しかし俺は答えに窮する。

 

 

「……だってさ、なんかあんな話聞かされたらなんかやらなきゃって思うだろ、普通。もう少しくらい真面目にやらないと、かっこ悪い」

 

『ツンデレ萌え』

 

「俺いまいい話ししてるんだぜ?」

 

 

 相変わらずこのポンコツデバイスは台無しだった。でも、おかげで暗い気分になりっぱなしにならずに助かってたりして。絶対言わないけども。

 

 

『あとどうしてこんな人気の無い場所でやるんです? もっと広い場所とか、訓練場を借りればいいじゃないですか』

 

「……誰かに見られたら恥ずいから」

 

『ユキカゼさんはワタシを萌え死にさせるつもりですか?』

 

「マジでかち割れてくれねえかな、とは思ってる」

 

 

 ほんと、絶対感謝してるなんて言わねえ。

 

 

「とにかく! 今日から朝練するぞ!」

 

 

 理由はどうあれ、誰よりも才能の無い俺はやって損は無い。損するのは貴重な睡眠時間くらいだ。……ああ、大事な睡眠時間が。

 

 

「って言っても、一体なにやりゃいいんだ?」

 

 

 いざ朝練だと意気込んではみたものの、なにをしたら良いのか全然わからない。いつも訓練はなのはさんに言われたことを必死こいてこなしているだけだから自分でなにかをしたことが無い。

 

 

『まあ、無難に基礎体力作りがいいと思いますよ』

 

「それって走ったり、筋トレしたり?」

 

 

 なにそれ超地味じゃん。

 

 

『ユキカゼさんの場合、キャスター時以外は魔力制御を除いて戦闘技術は全て備わっています。これはつまり新しい技を編み出したりする必要が無いってことです』

 

 

 ここまでは理解出来るとふむ、と頷く。

 

 

『ですがユキカゼさんの体がその技術に追いついていないため、未だほとんど使いこなせていません。ぶっちゃけスタミナもパワーも圧倒的に足りないってわけですよー』

 

 

 虚弱呼ばわりはなかなか傷つくぜ……。

 だがまあ大体わかった。ゲーム風に言えば今の俺は2周目で魔法とかスキルは強いのもいっぱい持ってるのに、MPとか体力が無さすぎてそれらが使えないということだ。確かにもったいない。でも、

 

 

「地味だな。それより強い技とか魔法を使えるようになった方がいいんじゃないのか?」

 

『いえ。仮に一撃だけ全力のパフォーマンスが可能になったとしても、戦闘を継続出来る状態じゃなければ足手まといになりますよ。エクスカリバーのときみたいに』

 

 

 ぐぬ、それは確かに。

 

 

『まあ、次の戦闘が一度切りで、しかも絶対に負けられないとかなら話は別ですけどねー』

 

 

 一発芸で、それも訓練でなのはさんを倒せたところでどうなるってわけでもないしな。

 

 

「つまりは結局地味な訓練が一番ってわけかぁ」

 

『そういう意味で、やはり高町教導官はとても優秀ですねえ。ユキカゼさんの事情を知らず、強さのカラクリも知らないはずなのに、どこか察している風ですし』

 

 

 言われてみれば、これまで俺がなのはさんに課せられている訓練は基本全て基礎能力の向上。個別の課題は魔法の慣れと実戦形式がほとんどだ。

 俺自身が理解出来ていないことを、あの人は数度の訓練で見抜いたということなのだから。

 

 いや、違うか。

 

 数度ではない。なのはさんはきっと俺達の訓練風景を訓練が終わってからも何度も見直して、そしてそれぞれに適切な訓練メニューを考えてくれているんだと思う。ずっと見てくれている。だから気付いてくれる。

 俺は、俺達は多分とても恵まれている。なのはさん達に教えてもらえるこの時間は、とても大切なものなのだ。あんな優しくて、凄い人に教えてもらえるんだから。

 

 

「美人だしな」

 

『浮気は許しませんよ!』

 

 

 パシン、と頬を叩いて気合を入れる。

 

 

「うっし、やるか!」

 

『目標は?』

 

「三日坊主にならないこと!」

 

『ユキカゼさん……』

 

 

 初めてルビーに呆れられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きちー……」

 

 

 夜。風呂上がりに休憩スペースのテーブルに堪らず突っ伏す。ああぁ、ひんやりしてて気持ちいいー。

 

 朝練を初めてから5日。どうにか三日坊主にはならずに済んだ。だがまあしかし、キツイ。朝はランニングと筋トレ。なのはさんの訓練をこなし、デスクワークをこなし、夜の締めにまたランニング。ここ数日はこうして風呂上がりに部屋に戻る前に力尽きることが多い。眠い……。

 

 

「えい」

 

「にょほ!?」

 

 

 奇声が出た。だって半分寝かけていたところに、突然背中に冷たいものを押し付けられれば誰だってびっくりするものだ。強制覚醒した目を見開いて背後を振り返ると、

 

 

「フェイトさん?」

 

 

 長い金髪に整った顔。スタイルも良しと、もう男の理想を詰め合わせたような美人がそこにいた。

 

 

「お疲れみたいだけど、ダメだよこんなところで寝たら。風邪ひいちゃうから」

 

 

 そう窘める彼女の手にはスポーツドリンクが2本。多分先程背中に押し付けられたのはこれだ。フェイトさんはその内の1本を差し出してくる。どうやらくれるらしい。

 

 

「ども」

 

「隣り、座っていいかな?」

 

 

 断る理由も無い。というか是非!

 丸テーブルで、俺達は向かい合うように座る。

 

 とりあえず貰ったドリンクを開けてグビリ。そういえば風呂あがってからなにも飲んでいなかったので、これ以上無いくらいの至福が喉を潤した。

 ふと正面を見やると、フェイトさんも自分で買った飲み物をチビリと飲んでいる。

 

 ふむ、どうしよう。

 

 実は未だにフェイトさんとだけはまともに一対一で会話をしたことがなかったりする。彼女は六課隊員の中でもなのはさんやはやて以上に忙しい人物らしく、執務官という役職に就いているらしい。故に訓練も毎回参加とはいかず、来れても大体がエリオやキャロと一緒にいる。これはまあなのはさんの配慮だと思う。

 

 というかそもそも、フェイトさんみたいな美人と正面向き合って会話するとかそんな度胸がありません。これが本音。

 毎日会ってるなのはさんとかだって未だに真っ直ぐ目を見て話すのは気恥ずかしいのだ。元の世界でも金髪美女なんてものに会ったこともないのに、こんな至近距離で会話するなんてそんな恐れ多い。やばい。緊張で思考がおかしくなってきてる。ああ、てかフェイトさんもお風呂あがりっぽいパジャマ姿だ。気の所為だとわかってるけどなんかいい匂いが――――、

 

 

「ありがとう」

 

 

 おおっと危ねえ、トリップしかけてた。気付けばフェイトさんが真っ直ぐ俺を見ていた。

 

 

「な、なにがですか?」

 

「ガジェットの列車襲撃のとき、ユキカゼはエリオとキャロを助けてくれたでしょ?」

 

「そりゃまた随分前の話を」

 

「本当はね、もっと早くお礼を言いたかったんだけど……なかなか機会がなくて」

 

 

 フェイトさんは申し訳なさそうに笑った。いやそもそもとして、

 

 

「別にお礼言われることじゃないですよ。2人は俺にとって大切な仲間で」

 

「兄妹、なんだよね?」

 

 

 クスリとフェイトさんは笑う。不意打ちの笑顔はずるい。美人ずるい。可愛い。

 それにこういうお茶目な表情はちょっと意外だった。

 

 確かにキャロがあのとき俺のことを『お兄ちゃんみたい』などと言ったが、あれ以来そう呼ばれたことは無い。でもエリオを含め、2人の俺に対する接し方が、仲間や同僚というより()()()()()()に感じるのもまた事実だ。

 別に俺も悪い気はしないし、あんな可愛い妹弟なら大歓迎だ。まあ、優秀な妹弟がいると不出来な兄貴はプレッシャーが半端ないのだけれど。

 

 

「じゃあ、私はユキカゼのお母さんだ」

 

 

 フェイトさんがそんなことを言い出した。

 

 

「フェイトさん俺と歳2つくらいしか違わないでしょ」

 

 

 さすがにお母さんは無いって。冗談かと思いきや、なにが不満なのかとむぅ、とむくれている。実は結構天然さんなのかもしれない。

 

 

「それにしてもキャロ達もフェイトさんも、どうしてみんなそんなに嬉しそうにするんです?」

 

 

 別に、俺は彼女達を特別扱いしたことなど無い。それなのにどうして。

 

 フェイトさんはしばし視線を下に落として、やがて『うん』と小さく声に出しながら頷いて再び顔を上げた。

 

 

「ユキカゼになら、話してもいいかな」

 

「?」

 

「私とエリオはね、君達とは少し違うの」

 

 

 フェイトさんの言わんとすることがわからず益々首を傾げる。

 

 

「人造生命体……クローンって言えばわかりやすいかな?」

 

 

 彼女は穏やかに微笑みながら語る。

 

 

「キャロもね、竜召喚士として才能がありすぎて故郷を追われて、その後も施設を転々としてた」

 

 

 フェイトさんの話を聞きながら、俺は以前エリオとの会話を思い出していた。『星を見たことがない』、そう言ったエリオの言葉を、俺は最後まで理解出来なかった。家族と上手くいかなかった、その程度しか想像出来なかったのだ。

 

 造られた肉体。植え付けられた記憶。

 

 世界は決して万人に優しくはない。それは俺の元いた世界も、ここも変わらないのだろうとわかっていた。わかっていたはずなのに。

 

 キャロだって、ただちょっとみんなより力が強かった。ただそれだけで、たったそれだけの理由で、小さな女の子は放逐されたのだ。

 

 

「……やっぱり、ユキカゼに話してよかったかな」

 

 

 そんなことを、フェイトさんは言うのだ。

 

 

「君は2人を……私達を特別扱いしない。こうして事情を知った今でも、憐れむんじゃなくて、真剣に怒ってくれる」

 

「怒りますよ」

 

 

 そう言っているのに、彼女は笑うのだ。嬉しそうに。それが俺はなによりも腹立たしい。いや、悔しい。こんな当たり前のことを得られなかったのだと知った今、俺は無性に悔しくて仕方がないのだ。

 

 

「禁止です」

 

「え?」

 

「もうこれからは、ちょっと優しくされただけでそうやって喜ぶのは禁止です!」

 

「え、ええっ!?」

 

 

 我ながら無茶苦茶を言っている。でも止まらなかった。

 

 

「だって、」

 

「だってもさってもありません! 禁止! いいですね!?」

 

「う……は、はい」

 

 

 首をすぼめて頷くフェイトさん。やがて彼女は涙を浮かべるほど笑った。その笑顔はどこからどう見たって普通の女の子にしか見えなかった。




閲覧ありがとうございますー。

>さてさて、なんだかんだと20話まであとすこしでした。意外と進んだものです(どの口が言うのか)。

>ユキカゼ君朝練を始めるの巻。修行回ならちゃんと書くべきかな、とも思ったけどランニングと筋トレの描写って誰得だよと気付いて却下。早起きって続かないんですよね。ちなみに私は三日坊主にすら辿り着けないダメダメ人間です。

>意外とヘヴィーな過去が多いこの世界の人々。むしろまともな家庭に育ったなのはさんが順応してるのが一番凄いと思います。

>さてさて次回は……あれや。ティアちゃんが……

ではまた次回にてー
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