【未完終了】魔法少女リリカルなのは ━三途川に落ちる少年━   作:針鼠

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シリアスだってたまにある。たまに

 いつも通り午前中の練習メニューを終え、今日はこれから久しぶりになのはさん達との模擬戦が行われる。

 

 

「さあて、じゃあ2対1の模擬戦やるよー」

 

 

 六課配属当初は全員でも歯がたたなかったものだが、今では2対1か1対1。もしくは隊長陣達との集団戦など。前よりは俺達も成長しているということだろうか。負けっぱなしでわからんが。

 

 組み合わせはほぼ全て試すわけだが、大抵はよくペアになるスバル・ティア、エリオ・キャロとやってから俺と誰かといった順番になる。今日もその通り、先にスバルとティアがなのはさんと戦う。

 

 

「まずはスターズからやろうか。ユキカゼ君も見学ね」

 

 

 指示を受けてスバル達以外が建物の上へ移動する。すると開始直前に訓練着に着替えたフェイトさんが慌ててやってきた。

 

 

「もう模擬戦始まっちゃってる?」

 

「今はスターズの番」とヴィータ。

 

「最近なのは疲れてるだろうから、スターズの分も私が代わろうかと思ってたのに」

 

 

 気遣わしげになのはさんを見上げるフェイトさんとヴィータ。

 ひよっこの俺達の面倒をみるだけでも大変だろうに、なのはさんはその上で人一倍通常業務や鍛錬もこなしている。心配も頷けた――――のだが、

 

 

「そういうフェイトさんだって全然休めてないでしょうが」

 

「そんなことないよ」

 

 

 笑って誤魔化そうとするフェイトさん。この人だって忙しさでいえばなのはさんとどっこいなのだ。

 

 するとヴィータがにやりと笑って見上げてくる。

 

 

「安心しろ。オマエはアタシとタイマンだ。遠慮しなくていいんだぜ」

 

「安心したよ。ヴィータなら遠慮なく撃ち落とせる」

 

「はっ、精々いつもみたいに失神しないよう気張りな。ひよっこ」

 

「チビ」

 

「軟弱」

 

 

 く、相変わらずの生意気幼女め。しかし毎回こちらが気絶させられているのも事実。いつか撃ち落としてやる。

 

 

「――――始まった」

 

 

 フェイトさんの声にじゃれあいをやめて戦いを見る。

 

 まず先手を取るのは――――正しくは取らせて貰ってる――――ティア。陣形は彼女達が最も得意としているクロスファイヤーシフト。

 

 

「クロスファイヤー・シュート!」

 

 

 周囲に待機させていた9つの魔法弾。オレンジ色の魔力光を帯びた弾は一斉に空中にいるなのはさんに向けて放たれた。

 

 

「あれ?」

 

 

 なんだろうか。なにか違和感があるような。

 

 

「気付いたか?」俺の疑問顔に気付いたヴィータが「コントロールは良いがキレがねえ。ティアナの奴、調子でも悪いのか?」

 

 

 ヴィータが言うように、ティアの射撃にいつものキレが感じられない。本当に調子が悪いのだろうか。でも午前中の訓練じゃあそんな感じはしなかったのだが。むしろここ数日は鬼気迫るものを感じていたくらいで。

 

 当然なのはさんもティアの不調に気付いているだろう。訝しげに顔を曇らせながらティアの攻撃を躱す。そこへ空色の魔力光を灯す道が伸びる。ウイングロード。スバルだ。だが、

 

 

「おいおい」

 

 

 スバルは真正面からなのはさんへ突撃。いつもなら大抵こういった攻撃は幻影なのだが、今回はフェイクじゃない。紛れもない本物だ。

 いくらなのはさんが砲撃主体の後衛タイプといえど、決して接近戦が不得手というわけではない。生粋の前衛職であるスバルといえど今の実力差では無謀でしかない。

 

 牽制の意味合いも込めてなのはさんが魔力球を放つ。スバルはそれを前面にシールドを張って強引に突破。ますます無謀だ。案の定、ようやく間合いに捉えてもまともな体勢を維持出来ず弾き飛ばされる。

 

 

「こらスバル。ダメだよ、そんな無茶な機動」

 

 

 実戦を想定した模擬戦といえど、目に余る戦法になのはさんから叱責が飛ぶ。

 

 

「すみません! でもちゃんと防ぎますから!」

 

「なにやってんだスバルの奴!」

 

 

 個人訓練でスバルの相手をしているヴィータが苛立たしげに言う。

 

 それにしても本当にどうしてしまったのだろうか。確かにいつもとは違う戦法に面食らって、一見なのはさんが押されているように見えなくもない。だが実際は危ない綱渡りをしているのはスバル達だけで、いつ足を踏み外して落下するかもわからない。なのはさんは至って冷静に対処している。

 

 

「ティアはどこだ?」

 

 

 いつの間にか、戦闘はなのはさんとスバルの一騎打ちになっていた。辺りを見回す。――――いた。

 

 そこはティアの射程より大きく離れたビルの上。

 

 

「ティアナが砲撃魔法!?」

 

 

 フェイトさんまで困惑した声をあげる。

 

 

「でりゃあ!」

 

 

 当惑するなのはさんにスバルが再度アタック。それもまた正面から。ティアの援護も無く。

 なのはさんの防御を単独で突破する力はまだスバルには無い。ならばこれも囮なのか?

 

 そのとき、ティアナの体が光の粒子となって消えた。

 

 

「あっちが幻影!? ならあいつどこに……」

 

 

 今までどこに潜んでいたのか。ティアはウイングロードを駆け上る。その両の手に構えられたクロスミラージュの銃口から、彼女の魔力光と同じ色の刃が飛び出した。明らかに近接を目的にしたもの。あんなモードは俺も見たことがない。

 

 射撃型として、常に中距離から味方の援護をしていたティアの接近戦。確かにこれ以上無い奇襲となった。なのはさんの背後も取れた。でも――――、

 

 

「一撃必殺!!」

 

 

 ――――ちょっと強引すぎやしねえか!?

 

 

「レイジングハート」

 

 

 寒気が走った。だから俺はその声がなのはさんから出たものだと理解するのが遅れた。

 

 

「モードリリース」

 

 

 背面、それも頭上からのティアの一撃。余波で撒き散らかされる衝撃に一瞬目を閉じてしまい、再び瞼を開いた時には決着が着いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決着は着いた。全員の視線が集まる先でなのははスバルの拳を、ティアナの斬撃を素手で止めていた。

 

 

「おかしいな……ふたりともどうしちゃったのかな?」

 

 

 直接言葉をぶつけられていないエリオとキャロが後ずさった。それほどまでに、今のなのはが纏う空気はいつもとは違っていた。

 

 普段ののんびり口調は消え去り、訓練中叱るときだって優しい声音を崩さなかった彼女の声に、今はまったくと言っていいほど温かみを感じなかった。

 絶対零度の冷たさをもって、なのはは言葉を紡ぐ。

 

 

「頑張ってるのはわかるけど、模擬戦は喧嘩じゃないんだよ?」

 

 

 ティアナの刃を受け止めたなのはの手から血が滴る。しかしなのはは気にかけてもいない。

 

 

「練習のときだけいうこと聞いてるフリで、本番でこんな無茶するなら、練習の意味……ないじゃない」

 

 

 言葉を投げかけられたティアナとスバルがビクッと体を震わせる。なのははふたりの目を真っ直ぐ見た。

 

 

「ねえ、私の言ってること、私の訓練――――そんなに間違ってる?」

 

「う、うわああああああああああ!!!」

 

 

 なのはの視線に、言葉に耐えきれなくなったティアナが掴まれている刃を解除して後退。距離を取って銃口をなのはに向ける。

 まだやめない。否、ティアナはもう止められなかった。

 

 

「わたしは!」

 

 

 ティアナの目から涙が溢れる。泣きながら銃を構えていた。

 

 

「もう、誰も傷つけたくないから! 無くしたくないから!! だから……だから……」

 

 

 もう負けられない。もう失敗出来ない。

 出来なければ全てが終わる。証明出来なくなる。

 兄の無念を……兄の正しさを……!

 

 

「だから! わたしは強くなりたいんです!!」

 

「やめろティア!」

 

 

 ユキカゼが叫ぶ。しかし今の彼女の耳には届かない。

 

 ティアナをここまで追い詰めてしまったのがはたしてなんなのか。それは今となってはわからない。だが今この瞬間、彼女が冷静でないことは明白だ。

 自責と、混乱と、後悔と焦燥と。

 

 ぐちゃぐちゃになった思考の中で子供のように泣き喚くティアナとは対照的に、なのはは囁くように告げた。

 

 

「少し、頭冷やそうか?」

 

 

 血に濡れた右手を掲げる。

 

 

「ファントムブレイ――――」

 

「クロスファイヤー……シュート」

 

 

 勝負にすらならなかった。ティアナが射撃を完遂する前に、なのはの魔力球が四方八方から殺到する。

 

 

「ティア!!」

 

 

 悲鳴混じりに友の名を叫んだスバルが駆け寄ろうとして、しかしその身はバインドによって封じられる。

 

 

「なのはさん!!」

 

「じっとして。よく見てなさい」

 

 

 爆炎が晴る。まだティアナは立っていた。しかし意識が無いのか、虚ろな目は虚空を仰いでいる。すでに構えることも出来ない少女に、なのはは再び手を掲げた。

 冷たい汗がスバルの背を撫ぜる。

 

 

「なのはさんッッ!!」

 

 

 スバルの絶叫を再度の爆発が掻き消した。

 

 桃色の爆炎を、スバルは呆然と眺めるしか出来なかった。

 

 

(なんで……どうして……)

 

 

 自問に応える者はいない。

 

 確かに自分達は無茶をした。なのは達の教えを無視して、リスクの高い戦術を実行した。

 ティアナは真面目で努力家で、ちょっと口うるさいこともあるけど、いつもドジをする自分を助けてくれる優しい親友だ。いつか彼女は自分なんかよりずっと凄い魔導師になる。

 

 今回だって、己に厳しい彼女が失敗を挽回しようと努力した結果だ。だからスバルは、もしかしたらなのはに褒めてもらえるかもしれないとすら思っていた。間違っていても、無茶だったとしても、挑戦し努力した過程を認めてくれるだろうと。

 

 そうすればきっと、ティアナもまた自信を取り戻してくれると信じて。ただあの優しい親友に元気になってもらいたくて。

 

 

「ひっぐ……な……んで……どう、して……」

 

 

 徐々に晴れてく爆炎。滲んだ視界に映るシルエットは――――ふたつ。

 

 煙を裂くように張られた紫色の障壁。

 涙を溢しながら目を見開いたスバルは、漆黒のローブを纏ったユキカゼの姿を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユキ、カゼ……」

 

 

 スバルがその場にへたり込む。多分ティアの無事を確認して安堵してしまったのだろう。

 

 いてもたってもいられなくて思わず飛び込んじゃったけど、問題はここからだ。

 

 

「ユキカゼ君」

 

 

 なのはさんの調子は変わらなかった。優れない顔色で真っ直ぐこちらを見据えてくる。シグナムとの訓練でもここまでの感覚は初めてだ。こんなに怖いと感じるのは。

 

 

「今はスターズの模擬戦中だよ。入ってきたらダメじゃない」

 

「……もう充分でしょうが。スバルは拘束されて動けない。ティアも戦意喪失。もう決着は着いてる!」

 

「退いて」

 

 

 有無を言わさない。それでも、

 

 

「嫌だ」

 

 

 立ちはだかった。

 

 なのはさんはひとつため息。

 

 

「ユキカゼ二等陸士、上官として命令します。――――そこを退きなさい」

 

「嫌だ!」

 

 

 気圧されるな。ビビるな。

 足の震えが止まらない。喰いしばっていないと歯がカチカチと鳴ってしまう。

 

 本当に、今目の前にいる人はあのなのはさんなのか。

 

 

「たしかに」喋っていないと心が折れる「たしかに今回の件はこいつらが悪い。先に間違ったのはティア達で、それを庇ってる俺も間違ってるのはわかってる。罰があるってんなら後でいくらでも受ける。それでも!」

 

 

 魔力を精製。周囲に5つの魔力球を待機。

 

 

「それでも今だけは退けない!」

 

「…………そう」

 

 

 小さな声でなのはさんは呟いた。諦めてくれ、そう願った俺は目の前の光景に絶望する。なのはさんの周囲に浮かぶ桃色の魔力球。その数は俺の優に3倍は越えていた。しかもひとつひとつの密度が桁違いなのが見ただけでわかる。

 

 

「なら、そこにいていいよ」

 

 

 諸共、か。すまんティア。

 

 

「なのは!!」

 

「……フェイトちゃん」

 

 

 今にもなのはさんの蹂躙が始まるかというとき、俺となのはさんの間に立ちふさがったのはフェイトさんだった。

 なのはさんとフェイトさんが対峙したのははたしてどれくらいの時間だったのか。死刑宣告を受けた死刑囚同然の俺にはすでに時間の感覚などなかった。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 やがて、なのはさんが右手を振ると待機していた魔力球が一斉に霧散する。

 

 

「模擬戦はここまで。今日はふたりとも撃墜されて終了」

 

 

 最後にそう言って背を向けたなのはさんの姿を、俺は多分一生忘れられないと思った。




閲覧ありがとうございましたー。

>タイトル通り、この作品では珍しくシリアス!19話にして!(遅い)

>なのはさんおこの回。普段優しい人がああやって静かに怒ると本当に怖い。

>今回は誰視点で書いたらいいかわからずに何度か書き直してしまいました。シリアス回だと書いてるこっちまで真面目になってしまう法則。故にルビーのセリフはありません←

さてさて、問題児推敲が2章の区切りまでいったので少しの間こっち集中になります。ですが執筆速度が上がるわけでもないので、またのんびりこんと待っていてくださると幸いですー。

ではでは、また次回
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