【未完終了】魔法少女リリカルなのは ━三途川に落ちる少年━ 作:針鼠
「訓練終了。それじゃあちょっと集合しようか」
なのはさんの号令に従って俺達は集まるとその場に腰を下ろす。ほっ、と息をつく中にはスバルとティアの姿もあった。
あの一件からかれこれ2週間あまりが過ぎた。シャーリーや他の隊長陣のフォローもあって、なのはさんとティア達の仲は元通りになった。いや、それどころか以前にも増して絆が深まったように見える。本音を吐き出せばこの通りだ。元々諍いの原因も、すれ違いみたいなものだったし。誰しも自分の気持ちは言葉にしないと伝わるものも伝わらないのだから。悶々とするのはよくない。
まあなんにせよ、仲直り出来てよかったよかった。
ちなみに俺は、体が動くようになって出くわした場面が涙を流すティアをなのはさんが抱きしめるという、この件でいえば最期の最期。肝心なところにいなくて置いてけぼり感が半端なかった。情けないとか言わないで。
「今朝の訓練と模擬戦は終了」
そう、今朝はいつもの訓練に加えて模擬戦というハードメニューだったのだ。なのはさんの隣りには訓練を手伝ったフェイトさんとヴィータ、シグナムがいる。
相変わらず俺の相手はシグナムだったわけだが。キャスターモードではまだ手も足も出ないが、最近ではセイバーとアーチャーならどうにか逃げ回るだけじゃなくて反撃も出来るようになってきた。まあどのみち最後は大体ぶった斬られるんだけど。あの人容赦がなさすぎる。
「それとね、実は今日の模擬戦が第二段階クリアの見極めテストだったわけなんだけど」
この人可愛い顔してとんでもないこと言い出した。抜き打ちとかずるい。
今日のシグナムがいやにテンション高かったのは……いやいつも通りか。でもわざわざ全てのモードを試したのはこれが理由だったのか。
「結果は」
なのはさんが左右の教官達を見やる。代表してフェイトさんが頷いて、
「合格」
こんなにあっさりとしてていいのか。突然の合格通知に戸惑うばかり。
「そんな適当でいいの?」
「なんだユキカゼ」とシグナム「物足りんのならもう一度するか? 実は私もまだ動き足りない――――」
「いやっほううう!! 合格じゃあああ!!」
シグナムが残念そうな顔をしている。彼女が満足するまで戦ったら冗談ではなく俺の体は細切れにされてしまう。
「ま、こんだけみっちり鍛えてやってんだ。問題あったら大変だぜ」
「ヴィータは可愛くねえなぁ」
「シグナム、アタシもユキカゼの模擬戦付き合うぜ」
しまった! 余計なことを言って敵を増やしてしまった。
騎士コンビがにじり寄ってくるのでなのはさんに視線で助けを求めてみたが、彼女は『にゃはは』と笑うばかり。誰か助けて。
「デバイスリミッターも一つ解除するから後でシャーリーの所に持って行ってね」
「明日からはセカンドモードを基本に訓練するよ」
フェイトさんとなのはさんの言葉を聞いて、俺は首を傾げる。
「明日から?」
「そうだよ」フェイトさんは優しく微笑み「みんな入隊日からずっと訓練漬けだったしね」
「つまりはお休み?」
「うん」
そういえばこちらに来てから休日って無かったなぁ。毎日の密度が濃すぎて、そんなことを考える余裕もなかった。生来土日はのんべんだらりとぐーたらしていたくせに。今更ながらよく六課続けてるな、俺。よく頑張ってる。
ということで、転生後初休暇。
★
「といったところで、突然言われてもやることねえなぁ」
絶賛暇を持て余していた。
最初は二度寝をしようかとも思ったが、訓練後で冴えた頭はふとんに潜っても容易に眠れはしないだろう。それにせっかくの初休暇がもったいない。かといってどうしようかと悩みながら、さっき無意識に筋トレを始めてたときはいよいよ俺もシグナムみたいな脳筋戦士になるのかと恐ろしくなった。習慣てば怖い。
さてさてどうすっかなー。
「あ、ユキカゼさん!」
前方からエリオとシャーリーがやってきた。珍しい組み合わせである。ニマニマしたシャーリーが気色悪いがなにか良いことでもあったのだろうか。
「ユキカゼさんは今日のお休みの予定は決まってるんですか?」
「んー、考え中」
エリオの問いに困り顔で応えると、なにやらエリオの顔がぱぁ、と嬉しそうに変わった。
「それなら僕達と街に行きませんか?」
「街?」
「はい! キャロも一緒なんですけど」
なるほど、街か。思い返してみれば任務で色んな場所に行くことはあったが、まともな観光なんてしたことなかったな。エリオ達がいるならこの世界の常識知らずでも安心だし。
「ああ、それなら一緒に――――」
「だめええええええええええ!!」
突如大きな声を出すシャーリー。
「び、びっくりした。なにが駄目なんだよ?」
「ユキカゼくんは行っちゃダメです!」
「なんで?」
「ええと……ええと……そう! ユキカゼくんはルビーのメンテナンスがあるから!」
「そうなんですか?」
しゅん、と悲しそうな顔をするエリオ。俺も初耳だから。
「ならルビー預けるから、俺はエリオ達と観光に――――」
「ダメ! ユキカゼくんもいないとダメなメンテナンスなんです!」
それどんなメンテナンスだよ。いいよ渡すよ。ていうかあげるよあの奇天烈デバイスなんて。というかなんかシャーリーの目が怖い。俺なんか悪いことしたか?
結局俺はエリオの誘いを断り、ちょっと寂しげなエリオの背中を見送ることになった。
★
「まったくわけがわからん。シャーリーのやつ」
仕方ないので自室に置きっぱなしのルビーを取りに部屋に戻る道中、今度はティアに会った。彼女もいつもの訓練着や制服ではない、初めて見る私服姿だった。
「なんだ。ティアも出掛けるのか?」
「ええ。スバルと一緒にね」
やれやれ、といった風に言うティアだが別に彼女とて嫌ではないのはわかってる。本当にこの2人は仲が良い。
「そか。んじゃ気をつけてなぁ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
立ち去ろうとした俺を呼び止めるティア。なんだ?
言われた通り立ち止まるが、視線をそらしてこちらを真っ直ぐ見ようとしないティア。なかなか用件を言い出さないことといい、即断即決が常の彼女にしては珍しい姿だ。
「ティア?」
「~~~ッ!!」
名前を呼ぶと驚いたようにビクッと体を跳ねさせてまた俯く。どうしたどうした。本格的に心配になってきたぞ。心配して近付こうとしたところで『あー! もう!』と突然大きな声を出すので、今度はこっちがびっくりした。
「ひ、暇なら一緒に行かないかって言ってるのよ! ………………す、スバルが」
俺はその言葉を理解するのに幾度となくティアの言葉を反芻する。
誘われた。女の子に一緒に遊ぼうと。女の子に遊びに行こうと誘われたのだ。プライベートで。お休みの日に。ホリデー。落ち着け俺! つまりは? つまりはこれは、
デートのお誘いなのか!!?
別に女の子と喋るのも恥ずかしいというほど免疫が無かったわけではないが、それでも休みの日にわざわざ遊ぼうと誘われたこともなかった。精々クラス会のように『みんな』でいるくらいだ。しかしこれは違う。遂に、遂にこれは俺にも来たのではないか、モテ期が!!
――――なーんて、そこまで自惚れるつもりはない。そも3人だし。でも女の子に遊びに誘われたのは素直に嬉しい。いいじゃないか嬉しくて浮かれたって。
なので早速オーケーと返事をしようとして、
「あ」
思い出した。シャーリーにメンテナンスで呼ばれていることを。
思わず出た声でティアも察したのか、ようやくこちらへ顔をあげた。
「なにか用事があるの?」
「……ああ、すまん」
「そう……」一瞬、ティアは沈んだように顔を伏せたように見えたが「ふん、女の子の誘いを断るなんて良いご身分ねえ」
「言うな。めちゃくちゃ残念なんだから」
意地悪げに口端をつり上げて言い寄ってくるティア。気落ちしたように見えたのは錯覚だったようだ。
「次の休みのときはあんたからスバルを誘いなさいよ。あの子、一緒に出掛けるの楽しみにしてたんだから」
「おう。そんときはどこ行きたいかお前も決めとけよ。お詫びにおごるから」
そう言った瞬間、きょとんとした顔の後ものすっごい顔で睨まれた。
「な、なんだよ?」
はぁー、と盛大なため息を吐いたあと彼女は呆れたように笑って、
「ばーか」
そう言い放って去っていった。なんで馬鹿?
★
「ユキカゼくんのばかあああああああ!!」
「うえぇっっ!!?」
ルビーを持って整備室のシャーリーのもとに訪れて、ティアとの一件を話した瞬間シャーリーから本日二度目のお叱りを受けた。
「なんでティアナ達の誘いを断るんですか!」
「だ、だってシャーリーがルビーのメンテナンスがあるって……」
「メンテナンスなんてユキカゼくんがいなくたって出来ます! というか、そもそもルビーにメンテナンスなんて必要ありません!!」
もうわけがわからん。今日のシャーリーは10割増しでハイテンションだった。
閲覧ありがとうございましたー。
>一応前もって言っておきます。この作品は微ハーレムです←
>てなわけで初休暇。そしてお出掛けフラグです。次話では一体誰とお出掛けするのか?選り取りみどりでうらやまけしからんですね。
>恋愛脳が激しいシャーリーちゃんは今日も元気です。意外と書いてて楽しい子。ユキカゼ君とはすでに結構打ち解けており、お互い口調も砕けております。
ではまた次話にてー