【未完終了】魔法少女リリカルなのは ━三途川に落ちる少年━   作:針鼠

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若者はすぐキレるというが若者だけじゃないと思うの

「あっぶねー……」

 

 

 アギトは冷たい汗を拭った。

 一瞬の隙をついて拘束から逃れたアギト、ルールー、ガリューは地上へと逃れ、先程まで自分達もいた地下道への入り口を見下ろしていた。

 隣りのルールーことルーテシアを窺う。

 

 

「ルールーは大丈夫か?」

 

「……うん、大丈夫。ガリューは?」

 

 

 彼女の使い魔であるガリューは無言で頷いて大丈夫だと示す。しかしその体はルーテシアを庇い、またあの赤い騎士との戦いで深く傷付いてる。

 それを見たルーテシアの表情が辛そうに歪む。長年付き合いのあるアギトだからこそわかるほどの変化だったが。

 

 ルーテシアが手を掲げる。その手に嵌められたデバイス、アスクレピオスが発光する。

 

 

「地雷王」

 

 

 少女の声に導かれて現れた巨大な召喚虫。頭部から後方に伸びる金色の二本角の間に、電気に似た光の球が発生。それに伴って地雷王を中心に地面がひび割れた。

 地雷王の能力は自らを中心に超重力の力場を発生させるもの。そして今、あの召喚獣の真下には地下道が存在する。

 

 ルーテシアの思惑に気付いたアギトが慌てる。

 

 

「マズイよルールー! ケースも埋まっちゃうし」アギトはちらりと向こうをみやり「あいつらだって、死んじゃうかもしんないぜ!?」

 

「たぶん、あのレベルならへいき。ガリューももどっていいよ」

 

 

 アギトとは対照的にルーテシアは落ち着いていた。いや、アギトにはわかる。彼女は友達であるガリューを傷付けられたことに怒っているのだ。

 無言のプレッシャーに、しばらくルーテシアと地雷王に視線を交互にやっていたアギトだったが、もう一度彼女を説得しようとしたそのとき。

 

 

「あ」

 

 

 地雷王の体が大きく沈む。それはつまり地下の空間が崩落したことを意味していた。

 

 

「やっちまった……」

 

 

 額に手をあてて天を仰ぐ。

 

 

(旦那になんて言おう……)

 

 

 もう一人いる仲間の男の顔を思い浮かべながら悩んでいたアギトだったが、視線の先、地雷王の周囲に桃色の魔法陣が展開される。そこから出現した鎖が巨大な召喚虫の体を絡め取る。

 

 アギトは咄嗟に周囲を見回す。いた。ビルの上。小さな竜を従えた少女。おそらくはルーテシアと同じく召喚士。

 そしておそらくは生き残ったのが彼女だけ、というわけもあるまい。

 

 その考えを肯定するように、どこからともなく2本のウイングロードが伸びてくる。さらにガリューを圧倒した赤い騎士が正面から突っ込んでくる。

 ルーテシアを守るように身構えるアギトだったが、視界の端で、銃使いの少女がこちらを狙っていることに気付く。

 

 

「ルールー!」

 

 

 弾を回避。反撃に放った炎は、しかし割り込んできた人物により防がれる。それは先程地下道にてアギトをチビ呼ばわりした少年だった。しかし格好が赤い外套から漆黒のローブ姿に変わっている。格好だけではない。その手に双剣は無く、ルーテシアのようなグローブ型のデバイスが紫色の光を発光している。

 明らかに先程までとは違う、魔道士然とした姿。

 

 

(どうなってんだあいつ!)

 

 

 困惑を、歯を食いしばることで心の中にとどめる。

 

 

(ルールーは!?)

 

 

 同じく弾を回避したルーテシアはちょうど真下の欄干へと着地したところだった。無事だったことにほっ、と安堵したのも束の間、光の塊がルーテシアに迫る。光の正体は赤い髪のルーテシアと同じくらいの歳の少年だった。少年は武器である槍をルーテシアに突きつける。

 急いで助けに行こうとして気付く。自らも、氷の槍に囲まれて身動きが取れなくなっていた。

 

 

「ここまでです」

 

 

 自分と同じ小さな少女の宣言に、アギトは反論することも出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユキカゼ、お前はそのまま空から周囲を警戒しろ」

 

「了解」

 

 

 ヴィータの指示に従って上空で待機。兎にも角にもようやく一心地着いた。

 地下道に入ってから戦闘の連続。

 正直疲れた。虫野郎ガリューとの再戦に、召喚士の少女。それと悪魔っぽい見た目のアギトとか名乗ってた奴。どれも一筋縄ではいかなかった。今回は人数の有利とギンガがいてくれたからこその勝利だ。

 

 そういえば、最初のキャロからの報告にあった少女というのは何者なのだろうか。聞けばギンガが追っている事件とも関わりがありそうだとのこと。

 

 人造魔導師。フェイトさんやエリオと同じ、誰かの記憶を植え付けられたクローン体。

 しかし映像で見る限り、普通の女の子にしか見えなかった。一体管理局はあの子を保護した後どうするつもりなのか。それが一番の気がかりだった。後でこっそりはやてに訊くか。――――ん?

 

 

「なんか下が騒がしいな」

 

「――――てんめええええええええ!!」

 

 

 会話は聞き取れないが、なにやら激昂したヴィータが召喚士の少女に掴みかかっている。なんだってんだ。

 

 一旦降りようかと思ったところに、ロングアーチからの通信。

 

 

『し、市街地に魔力反応!』

 

 

 市街地っていうとこっちじゃない。なのはさん達の方か?

 

 

『推定Sランクの砲撃魔法! 狙いは……うそ!? ダメ! 今すぐ逃げてください!!』

 

「おいシャーリー! アルト! どうした!?」

 

 

 何度も怒鳴りつけるが、取り乱しているのかまともな反応が返ってこない。否、その余裕が無いのだ。

 

 通信を通じて叩きつけられた爆音に思わず顔をしかめる。ザーという耳障りな音。沈黙するロングアーチが、無常な事実を示していた。

 ようやく、ポツリとシャーリーが声を発する。

 

 

『砲撃が……ヘリを直撃?』

 

「――――は?」

 

 

 ヘリ? どこの? キャロの報告にあった女の子が乗った? いや、いやいやいや! 女の子だけじゃない。ヘリには操縦士のヴァイスに、シャマル先生も乗ってんだぞ。

 砲撃が直撃した? 撃墜? それってつまり、

 

 

「エリオ君!」

 

 

 混乱収まらないところに届いた地上からのギンガの声。視線を下に落とすと地面から謎の女の子が飛び出してきた。全身青いスーツの少女はエリオからケースを奪取。そうして飛び出してきたように、穴をあけるでもなく地面に潜った。

 魔法。物質をすり抜ける。

 混乱に乗じて召喚士の少女達も消えている。

 

 このタイミングを狙ってた? ってことはつまり砲撃の犯人はあいつらの仲間か?

 

 その考えに至った瞬間、頭にカーっと血がのぼった。

 

 

「ルビー探知!」

 

『反応ありません』

 

「ならここら全部吹き飛ばして無理矢理にでもあぶり出す!」

 

 

 言うやいなや翼を模したローブに魔力を込める。真下にいるスバル達にだけは当たらないように、それ以外は考えない。

 

 

「ヘカティック・グライアー!」

 

 

 翼から無数の光が撃ち出される。眩い光の雨は、無差別攻撃となって周囲一帯を破壊する。

 元々廃墟だった景色が、さらに無残な姿に変わる。

 

 だが、敵の姿は見えない。

 

 

「ルビー!」

 

『反応ありません』

 

「くそっ! ならもう1回だ!」

 

『だ、ダメですよ! これ以上は消費が激しく、ユキカゼさんに深刻なダメージが残る可能性がありますよ!?』

 

「やれよ! 俺の体なんて知ったことか!」

 

 

 そんなことより、今はあいつらを逃がすことの方が我慢ならない。

 

 

「もう一度だルビー! …………頼む」

 

『――――了解です、マスター』

 

 

 再び翼に光が集る。と、同時に激しい痛みが頭に走った。ヘカティック・グライアーはセイバー・モードのエクスカリバーと同等の大技だ。かつて俺はエクスカリバーを1発撃って気絶した。それと同等の技を連発しようものなら体に異常が出てもおかしくはない。

 それでも。それでも俺は、

 

 

「これ以上はやらせません」

 

 

 声は真横から。次いで衝撃。

 空中で体勢を立て直す。だがせっかくチャージした技はキャンセルされてしてしまう。膨大な力の消費に比した疲労感だけが残った。ダメージが少ないのは、魔法行使に意識を集中していた俺は奇襲に気付けなかったが、気付いたルビーが張ったバリアのおかげで直撃は避けられた。

 

 さっきまで俺がいた場所に見知らぬ人物が立っていた。長いピンク色の髪。長身で、湾曲した長い武器を持っている。

 誰だ、とは問わなかった。何故ならその人物の格好、藍色のスーツ姿が先程ケースを奪取した奴と同じものだったから。

 

 

「監視の為についてきて正解でした」女は明後日の方向を見ながら口を開く「このまま無差別砲撃を続けられれば、間違ってお姉様達がやられる可能性もありましたから」

 

「おおおおぉぉぉぉ!!」

 

 

 魔法球を撃ち込む。加減などしない。相手が異性だということも忘れて攻撃する。しかし、すでにそこに敵はいない。

 驚く間もなく横っ腹に衝撃。

 

 

「が、はっ……」

 

 

 息が詰まる。ダメージがバリアジャケットを貫通してくる。キャスター・モードはバリアジャケットの耐久度が一番低い。直接攻撃に一番弱いのだ。

 いや、それよりも、目の前の敵は速すぎる。ガリューと呼ばれていた奴よりも遥かに。キャスターでは攻撃も防御も追い付かない。かといって、他では飛行魔法は使えない以上、このままやるしかない。

 

 

「まだやるのですか? 実力の差は明白かと思いますが」

 

「関係、ねえよ。お前を捕まえて、仲間の居場所を吐かせてやる!」

 

 

 そう啖呵を切ったものの、俺は目の前の相手に異常なやりづらさを感じていた。今までずっと敵といえばガジェットだった。明らかに機械だったガジェットと違い、目の前の敵は紛れもない人だ。訓練こそ積んでいるものの、実戦での対人戦は実はこれが初めてだった。

 

 いや、理由はそれだけではない。あいつの目。

 どこまでも冷たい。感情の見えない機械のような目だった。

 

 

「不可能です。仮に私が貴方方に捕まったとしても情報を吐くことはありません。――――それ以前に、私が貴方に負けることはあり得ません」

 

「やってみなきゃわかんねえだろうが。ここでお前まで逃したら……シャマル先生達を殺したお前らが……!」

 

『勝手に殺さないで欲しいなぁ、ユキカゼ君』

 

「っ」

 

 

 衝撃が駆け抜けた。物理的なものではない。耳から届いた声に、全身が震え上がったのだ。

 回復した通信から続きが届けられる。

 

 

『こちらスターズ1。ギリギリセーフでヘリの防御成功!』

 

「なのは、さん? ってことはみんなも……」

 

『うん』優しい声音でなのはさんは答えてくれる『みんな無事だよ』

 

 

 はらりと涙が頬を流れた。すると張り詰めていたなにかが切れた途端、体に力が入らなくなってしまう。おそらく先程の大技の連発が効いたのだろう。怒りで麻痺していたが為に耐えられていたものが一気に襲ってきたのだ。てかやばい。このままだと頭から地面に落ちる。

 

 

「ユキカゼ!」

 

 

 そこをウイングロードで駆け上がってきたスバルに抱き抱えられる。スバルの目からも涙が止めどなく溢れていた。ヘリが無事だったこと。それと、俺への心配も少しくらいあったと思う。

 ふと見た先に、すでにあの女はいなかった。

 

 暗転。




更新遅くなってしまいましたが、閲覧ありがとうございますー!

>先に改変部分をば。最後に出てきたナンバーズはセッテさんです。本来は彼女の登場はもうちょい先なのですが、こちらでは調整を早くに終え、オットーのサポートという形でついてきていた設定です。アニメあんまり登場シーンなくて資料が少ないぜ!

>さてさてここより改めてあとがきです。ようやっとストライカーズの本命の敵が出てきたなぁ、という回。ルールー、アギト達も出てきていよいよ本編のストーリーも進められそうです。

>今話でちょろっと出てきたユキカゼの防御力について補足情報的な無駄設定。文中にあったようにキャスターモードはバリアジャケットの耐久度は一番低いけど、バリアは3つのモード中、一番硬いし大きいのが張れます。セイバーはバリアジャケットは硬め。バリア強度もそこそこですが、範囲は自分がすっぽり収まる程度。アーチャーはどっちも低めで、かつバリアの範囲も一番小さい、といった具合。
特に物語の展開的にどうなるというわけではないので、設定は別に覚えなくても平気っす!

>ではでは、また次話にてー
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