【未完終了】魔法少女リリカルなのは ━三途川に落ちる少年━   作:針鼠

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いってらっしゃい! ママじゃねえよ!?

 聖王医療院。

 

 聖王教会と呼ばれる、管理局と双璧を成す大組織が管理する病院がここらしい。俺は気絶後、諸々の事情からここへ運ばれたとのことだった。過去形なのは運ばれたのが昨日のことだから。

 戦闘後気を失ってここへ搬送されるも毎日鍛えているおかげかすぐに意識は取り戻せた。スバル辺りは大騒ぎしていたが、その後の精密検査も問題無しと診断されたものの、大事を取って1日安静を言い渡されたのだった。

 今朝の検査も問題なく終わり、今日にも退院である。

 

 

「おばちゃん、そこのチョコちょうだい」

 

「はいよ!」

 

 

 病院の売店でチョコを購入。

 

 体が治ったなら仕事をしろってなもんだが、先程連絡があり、なんでもなのはさんとシグナムがこちらへ向かっているとのこと。どうやら本命は俺の御見舞いというわけではないらしいが、どうせならと乗っけてもらうことになっている。別に悲しくないし。ほんと。

 兎に角、荷物も特に無いのでこうして病院内を徘徊して回っているわけだ。

 

 銀紙を剥がしたチョコを口に放り込みながら、昨日の戦いを思い返す。

 

 後に聞けば、ナンバーズと呼ばれているらしいあの全身スーツの奴等。

 人を殺すことになんら躊躇の無い非情さを持ち、なのはさんフェイトさんと対峙して逃げおおせた実力は推して知るべし。

 

 現在確認出来ているだけでもヘリを撃った砲撃手と幻術使い。彼女等をなのはさん達から逃した奴。レリックのケースを強奪した――――実際はティアの機転によって偽物の入ったケースだったが――――地面を潜る能力者。そして、俺が対峙した半月型の武器を持つ女。

 

 

「ありゃ強えわ。勝てる気がしねえ……」

 

 

 今思い出しただけでも、こうして生きていられることが我ながら幸運だったと言わざるを得ない。それほどまでに強かった。強さだけなら六課(うち)の隊長格に匹敵すると思う。

 

 今回の作戦、レリックはこちらが確保。入院するほどの負傷者も俺以外は無し。結果だけ見ればこっちの圧勝だったが、内容はそう楽観出来るものでは無かった。

 

 レリックはティアの機転があって守れたが、実際ケースは奪われている。捕縛寸前だった召喚士も逃してしまった。ヘリだって、今回はなのはさんが奇跡的に間に合っただけであって、撃墜されていてもなんらおかしくなかった。

 総じて俺達は運が良かったのだ。

 

 レリックが奪われるだけならまだいい。一歩間違えれば仲間の誰かが死んでいたからもしれなかった。それだけは絶対……絶対に嫌だ。

 

 その為に出来ることは強くなること。みんなの足手まといにならないよう、そしていつか、俺がみんなを守れるように――――。

 

 

「どこの熱血主人公だって。似合わねぇ……」

 

 

 自分で言ってて恥ずかしくなってきた。でもそれが現実問題を解決する方法なのだから、つくづくここは異世界なのだと実感する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ時間かな、と病院の正面ホールにやってくるとすでになのはさん達は到着していた。シグナムと、それと聖王教会のシャッハさん? だったか。それと……。

 

 

「………………」

 

 

 見られてる。じっと見られている。

 なのはさんの腰辺りにしがみついている金髪の、キャロよりも小さな女の子。左右で違う色をした瞳の少女は警戒するようになのはさんに隠れるようにしながらやってきた俺を見ていた。ふむ。

 

 

「なのはさんの隠し子ですか?」

 

「怒るよユキカゼ君」

 

 

 あ、やばい。怖いときの笑顔だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにこれどういう状況?」

 

 

 目の前で繰り広げられるドタバタ。

 困り顔のなのはさん。泣きじゃくりながらなのはさんに必死にしがみつく例の女の子。そしてそれを宥めようとあれやこれやとしているフォワード陣。

 

 隊舎へと戻ってくるなりの出来事だった。隊舎の共有スペースでもある広めの休憩室でなのはさんとスバル達と合流した。何故ここだったのかというと、なのはさんはこれからまたすぐ出る用事があったので、スバル達にオッドアイの少女――――ヴィヴィオを預けていこうと思ったらしいのだが、号泣した。それはもう盛大に。

 なのはさんと離れると知るやしがみついて必死の抵抗。少しの間だけだという話も聞こえているかも定かではないほどに泣いていた。そういえばこの子、病院からの帰り道もずっとなのはさんから離れなかったもんなぁ。ちなみにこの少女が例のキャロ達が保護した女の子でもある。

 

 困り顔のなのはさんと目が合う。

 

 

『ユキカゼ君助けてよー』

 

 

 念話によるヘルプコール。いやそんなこと言われても。

 実は珍しく戸惑っているなのはさんが可愛くて静観していたというのは秘密だとして、真面目な話、どうしろというのか。ヴィヴィオがなのはさんに特別懐いている、というのもあるだろうが、見知らぬ人間がたくさんいるこの状況なら、唯一心を許している者に泣きつくのは自然とも言える。

 

 さてどうしたもんかと考えながら、なにかなかったかと自分のポケットを漁って、はたと思い出す。よし。

 

 とりあえず慌てふためくスバル達を離れさせて、俺だけでヴィヴィオに近付く。警戒の色が見えるヴィヴィオの瞳。綺麗な色だな、と関係ないことを考えながらどっこいしょと膝を折ってしゃがんだ。目線の高さを合わせる。黙ってじっと見つめる。それだけでとりあえず泣き喚くのはやめてくれた。それでもなのはさんの服を掴んで放さないが。

 向こうがこっちの存在を認識したのでまずは自己紹介。

 

 

「初めまして。俺はユキカゼっていうんだ。ユ、キ、カ、ゼ」

 

「……ゆきか、ぜ?」

 

 

 おお、警戒は解けないが一先ずこっちのことを認識してもらえた。

 

 

「そうユキカゼ。お名前は?」

 

「……ヴィヴィオ」

 

「そっかー、初めましてヴィヴィオ」

 

 

 まずは会話だけ。怯えている子供に対していきなり触ろうものなら泣かれるのは目に見えているから。そして秘密兵器登場。

 

 

「ヴィヴィオ、これなんだからわかるか?」

 

 

 ポケットから取り出したのは、先程病院の売店で購入したチョコだ。銀紙に包まったひとつを目の前で剥がしてみせる。

 

 

「あーんしてみ。あーん」

 

 

 自分で口を開けて、真似するよう促す。すると幾分警戒が解けていたヴィヴィオは怪訝な顔をしながらも控えめに口を開ける。そこへチョコをヒョイと投げ入れた。

 

 

「むぐ!? あ――――、あまい」

 

 

 最初はびっくりした様子だったが、口に広がる甘味にふやけた顔になる。

 俺は更に銀紙に包まれたチョコをひとつ手のひらに乗せて、ヴィヴィオの目の前に。

 

 

「いいかヴィヴィオ、よーく見てるんだぞ」

 

「うん!」

 

 

 俄然興味を持ってくれたらしく食い入るように差し出した手のひらのチョコを凝視している。俺は手のひらを握り込み『むむむー!』とかわざとらしく念じる風にしながら、『はっ!』と仕上げに気合を込める。開いた手のひらには、チョコが2つに増えていた。

 

 

「わぁ!」

 

 

 目をまん丸にして驚いてくれるヴィヴィオ。後ろでスバル達の驚いた声も聞こえたが今はヴィヴィオが優先。

 もうヴィヴィオの目には涙も無ければ警戒している様子も無い。ずっとなのはさんの後ろに隠れるようにしていたのに、今は夢中になって身をさらけ出している。

 

 

「ほい、半分こ」

 

 

 そう言いながら今度は包み紙のままひとつをヴィヴィオにあげる。ぼーっとしているヴィヴィオに見せるように包み紙を開けて食べてみせる。

 すると恐る恐るながらヴィヴィオも真似をして包み紙を剥がし、出てきたチョコを自分の口に入れた。また幸せそうに顔がとろける。

 

 

「すごいすごーいユキカゼ!」

 

「なにそれ。あんたそんなキャラだったの?」

 

 

 スバルからは弾けんばかりの称賛を、ティアからは褒めてんだか馬鹿にしてんだかわからん評価を受けた。

 

 友達の弟妹なんかの相手をするときに身につけた手品だったが、まさかこんな異世界にきて披露することになろうとは。人生一体なにが役に立つかわからないものである。

 

 

「いやー上手いもんやね」

 

「はやて」

 

 

 部屋に入ってきたのは新たに2人。はやてとフェイトさんだった。そういやなのはさん、用事があるって言ってたけどはやてと出掛けるのか。

 

 見知らぬ人物の登場に再びなのはさんにしがみついてしまうヴィヴィオ。するとフェイトさんがそっと近寄る。床に落ちていたぬいぐるみを拾い上げ、ぬいぐるみ越しにヴィヴィオと話す。

 

 

「ごめんねヴィヴィオ。ほんの少しの間だけ、なのはさんを貸してくれないかな?」

 

 

 最初こそ泣きそうだったヴィヴィオだったが、流石フェイトさん。徐々にヴィヴィオの警戒心を解きながら交渉を進めていく。そして遂に、なのはさんの服を固く握っていた手が解かれた。

 

 

「いいなぁ、美人ママ」

 

「ならユキカゼもフェイトちゃんにお願いしたらええやん。そういうプレイ」

 

「多分俺社会的に死ぬと思うそれ」

 

 

 今でさえティア達の方から冷たい視線を感じるもの。冗談だってば。ほんとに。

 

 

「ありがとね、ヴィヴィオ。すぐ戻ってくるから」

 

 

 頭を撫で付けそう言うなのはさんだったが、ぬいぐるみを抱きしめてじっと泣くのを堪えているヴィヴィオの姿に後ろ髪を引かれているようだった。まあ、そりゃそうだわな。

 

 

「ヴィヴィオ」

 

 

 と、最後のお節介をしようとヴィヴィオにあることを耳打ちする。

 

 

「ヴィヴィオが悲しい顔するから、なのはさんも悲しくなっちゃうってよ」

 

 

 そう言われたヴィヴィオはなのはさんの顔を見上げ、心配そうにするなのはさんの顔を確認するとまた今にも泣き出しそうになる。続けて耳打ち。

 

 

「だからさ、なのはさんに笑ってもらうために――――」

 

 

 俺が耳打ちを済ませると、ヴィヴィオはごしごしと涙を拭って、震える唇を結んでなのはさんの顔を真っ直ぐ見る。精一杯の勇気と根性を振り絞って、

 

 

「いってらっしゃい!」

 

 

 まだ少し震える声でその言葉を伝えた。

 

 なのはさんは驚いたように目を見開き、しかしすぐに微笑んで手を大きく振る。

 

 

「うん、いってきます!」

 

 

 なのはさん達が部屋から出ていく。残されたのはフォワード陣。

 

 

「さて」と切り出したのはティア「じゃあ交代でこの子の面倒を見ましょう」

 

 

 なのはさん達がいない為、訓練こそ無いものの、俺達にはデスクワークもある。今回は加えてヴィヴィオの面倒も見なければならないのだ。しかしまあ全員で付きっきりになる必要もないので、人数を分けて順番にここでヴィヴィオと一緒にいればいい。

 

 

「あ、でも俺休んでた分の報告書書かなくちゃいけないから最初はパスで――――ってあれ?」

 

 

 裾を引っ張られてる感覚に視線を下すと、ぬいぐるみを左手で抱え、右手で俺の服を掴んでいるヴィヴィオの姿が。それで俺を除く全員の意見が固まった。

 

 

「とりあえずユキカゼはずっとここで」

 

「いや俺報告書が」

 

「大丈夫ですユキカゼさん! 僕達もお手伝いします!」

 

 

 ああ、ありがとうエリオ。つまりお前も俺がここに残るのことには賛成ということだな?

 

 机に資料等を取りに行く際、せがむヴィヴィオをおぶっている姿を局員達に温かい目で見守られていたのはこの後すぐの話だったりする。はずい。

 

 

「…………ユキカゼ」

 

「なんだ?」

 

「…………ママ?」

 

「ちょっと待て」




閲覧どもでしたー。

>てなわけで、ヴィヴィオちゃん初登場回です!かわいいっすよね。

>子供をあやすのが意外と得意なユキカゼ君。エリオ、キャロとも仲良くなれたのはこういうとこだと思います。まあ、餌付けとも言う←

>次話はまだこの続きとなります。はやて成分が足りない今日この頃……

ではではまた次回にてー
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