【未完終了】魔法少女リリカルなのは ━三途川に落ちる少年━ 作:針鼠
はやての言に従って施設の中へ入った俺。入ってすぐのロビーには同じ制服を着込んだ男女が群れていた。無論知った顔などいない。向こうも声をかけてこないということは、そういった仲の人間はここにいないのだろう。
そんなことを考えながら、しかし念の為、目立たないように端っこへ。まずは何よりも先に現状確認だ。この世界については聞いてあるので次の問題は俺自身のこと。この世界における俺の立場だ。悲しいかなそれを訊けるものはあの奇天烈スターしかいないのだが、
「もういっぺん言ってみろ」
『ユキカゼさんは今現在、管理局の局員で、本日より設立される《機動六課》の新人のひとりとして派遣されますてへぺろ』
「一言一句綺麗に言い直してんじゃねえよ!!」
渾身の力でルビーを壁に叩きつける。物凄い音に周囲の人は何事かと思っているが近付いてこない。そりゃそうだ。
『なんでそんなに怒っているんですか?』
まるでダメージが見えない。無駄に耐久力が高い。常識力低いくせに。
「なんでだと? お前からさっき管理局の役割をちょっと聞いたけど、警察っていうより軍人じゃねえか! 俺は普通の学生だぞ!? 高校生だぞ!!?」
『ノープロブレム。ワタシが完璧にサポート致します!』
「よーし、ならお前が今までどんなサポートしたか言ってみろ言えないよなだってしてないもんね!!!」
軍人。昨日まで学校通ってた一介の男子高校生に、いきなり軍隊入れだなんてそんな無茶な。
そう思いつつ、改めて建物内にいる制服の人達を観察する。若い。軍隊なんてものをイメージでしか知らない俺だが全体的にあまりにも若すぎるんではないだろうか? しかも男女比でいえば大まかに半々というのも違和感ある。
「わかった! 軍隊って言っても事務系とか食事係とかマーチングとか、あんまり危なくない系なのか」
『いえ、ユキカゼさんは前線です』
スカーン! と再び壁に投げつけた。
「――――あ、あの?」
「ん?」
いい加減ツッコミで体力的にも精神的にも疲労してきた頃合いで、声と共に袖を引っ張られる感触を覚える。振り返って……いない。
「あの!」
いや下だ。とても低い位置に声をかけた人物の頭があった。ピンク色の頭頂部。まん丸な目をした可愛らしい少女が俺の袖を引いていた。
見下ろす視線の先で、見上げる少女の瞳にはありありとした不安。それでも少女は意を決したように尋ねてくる。
「えと、天野 雪風二等陸士ですよね?」
「んあ……ああ……うん。…………多分」
己のことであるはずなのに曖昧な態度をとる俺に、少女は不思議そうだった。仕方あるまい。名前は兎も角その後に続く『二等陸士』とやらに覚えがないのだから。
それでも確認が取れたとばかりに、少女は俺の袖から手を放し、体をピシッと直立させて額に片手をあてた敬礼のポーズをとった。
「初めまして。キャロ・ル・ルシエ三等陸士であります!」
「同じく、エリオ・モンディアルです!」
おや、もうひとりちびっ子が。キャロと名乗った桃色の髪の少女から遅れてやってきたのは、凛々しい顔立ちの気品ある少年。この時点ですでに背丈と年齢以外に勝ってるところが見当たらない。そして小学生くらいの少年に張り合ってる自分に気付いてさらに凹んだ。
エリオが先に敬礼の手を下ろす。
「いきなりすみません。あの、総隊長の挨拶が始まる前に一度《フォワード》で自己紹介しておこうという話になりまして。……よろしければ天野さんにもお願いしたいのですが」
窺うように上目遣いをするエリオに、俺はまったく関係のないことに感心していた。
エリオは見た目だけでなく言葉遣いもしっかりしている。俺が彼くらいの年齢のときに、年上相手にこれほどまで見事に敬語を使えていただろうか。使えてないな、と脳内で自己回答。
ふと視線を先にやると、こちらを見ていた二人組の少女が目が合うと同時に敬礼。どうやら彼女等、そしてこの二人のちびっ子達と俺を合わせてフォワードと呼ばれるチームらしい。そんな編成までもう決まってるのかよ。
不安と同時に安堵。建物に入れたはいいものの、はやてもおらずこれからどうしたらいいのかわからない俺には、彼女達から声をかけてくれたのは僥倖だった。一先ず同じチームなら固まって動いていれば良いだろう。
「わかった」
五つ以上は年下のキャロ達に連れられて、もう一組の少女達と合流する。
「初めまして。それじゃあ始めましょうか」
切り出したのはキャロ、エリオではない二人組の少女。ツインテールの女の子だ。
「ティアナ・ランスター二等陸士。魔道師ランクはB。魔法体系はミッドチルダ式。それと希少魔法の幻術が使えます。戦闘は主に銃を使った中距離射撃」
「お、同じくスバル・ナカジマ。魔道師ランクはB。魔法体系は近代ベルカ式。えっと、魔法はウイングロードが使えて……あ、あと戦い方は主にシューティングアーツの近接格闘です!」
ツインテール少女に睨まれる形で、ショートカットの青い髪の少女が順番を引き継ぐ。しどろもどろなのは緊張からというより、礼節云々が理由のように思える。多分頭を使うより体を動かす方が得意なタイプっぽい。反対にティアナという少女の方は生真面目そうな感じがある。クラスだと学級委員とかが似合いそうだ。
どうやら、雰囲気から察するに彼女達はここ以前からの知り合いのようだった。そして個人的な感想は、どっちも可愛い。
――――とか言ってる場合じゃない! やばい。なにがやばいって、二人の自己紹介の内容で最初の名前以外何言ってるのかわからない。ランクは兎も角、魔道師? え、みんな魔法とか使えるの?
誰も指摘しないということは、本来それで充分伝わるものだったということだ。とか言ってる間にエリオ達も自己紹介を始めている。そしてさっぱりわからない。
この流れをぶった切ってでも質問するべきだろうか。さっき言ったでしょ、的なことを言われかねないし。でも誰も質問しないイコール一般常識を質問するのは俺の立場的に躊躇われる。キャロが肩に乗せた白い小竜をフリードと紹介している。本物のドラゴン!? とか驚きたいけど、誰もつっこまないから平静を装って『うむ』とか唸って誤魔化す。誤魔化せてんのかこれ。
「――――あの、天野二等陸士?」
……ああ、そうこうしている内にとうとう俺の順番が回ってきてしまった。わかってる。わかっているんだが……。誰か教えてくれ。
俺ってどんな魔法使えるの?
キャロが気遣わしげな目で見ている。スバル達も、黙り込んだ俺に不思議そうにしている。
こうなったら。
「も」
「「も?」」
「もっとフランクにいこうぜ! 俺敬語苦手だし。エリオ達はちょっと歳離れてるけど、せっかく若者同士同じ部隊になったんだしさ! 俺のことも気軽にユッキーなんて呼んでいいんだ、ぜ……なーんて」
やってしまった。四人の視線が痛い。追い詰められたからとはいえこれは無い。軍隊っていうのは体育会系の極致。上下関係の煩さは人一倍であるだろうことは想像出来る。それを、俺は階級も年齢も垣根を取っ払っちまおうぜ、なんて。
終わった。これで俺は通報。逮捕。そして病院エンドだ。
「それもそうね」
「…………え?」
「わたしはティアでいいわ。スバルもそう呼んでるし」
聞き間違いか? いの一番に俺へ指摘してくると予想していたティアナがまさかの同意。流れは続く。次はスバル。
「あーよかったー! アタシもこういうのはすっごい苦手だったんだよー」
「違和感バリバリだったわよ、あんた」
「ひ、酷いよティア」
凝った体をうん、と伸ばすスバル。
急に砕けた態度の二人に俺の方が面食らってしまう。それはキャロとエリオのキッズ組もだ。
「キャロちゃん?」
「えと、えと……キャロ、でいいです。あの」
「雪風でいいよ。エリオも」
二人は互いの顔を見合わせて、やがておずおずと俺の方を見上げて、
「「ユキカゼさん?」」
「おう。宜しく。キャロ、エリオ」
名前を呼んで応えると途端にパァ、と顔を明るくする二人。一体なにがそんなに嬉しかったのか。こっちまで嬉しくなって思わず二人の頭をわしわしと撫でくり回してやる。
「わたしもユキカゼって呼ばせてもらうわ」
振り返るとティアナ。
「間違ってもユッキーとは呼ばないわよ?」
「ティアって案外順応性高いのな」
「あんたも同じでしょ? それにわたしの場合、柔軟にならなくちゃ生き残れなかったのよ。人付き合いも、戦いもね」
自嘲じみた笑みを浮かべる。ん? なんか地雷踏んだ?
『で?』と向けられる視線は、遠慮が無くなった分鋭い。
「あんたの魔法体系と戦闘スタイルは?」
「おぉ……」
駄目か。こうして打ち解けた風を装いとりあえず名前だけで誤魔化せるかと思ったが。律儀な性格というのは想像通りだったらしい。
「配属前に配られたデータでフォワードの名前と階級、それに顔写真くらいは知ってるでしょうけど」
いや俺は知らないけど、という心の叫びは当然の如く無視される。
「この先このメンバーで訓練や任務を受けることになる。その前にお互い最低限の情報は知っておくべきよ」
ガチガチの勤勉タイプではなかったが、やはり彼女根は真面目らしい。多分散々文句言いながら最後は必ず手を貸してしまうお人好しタイプ。何はともあれ、今はそのおかげで俺が大ピンチである。このまま、もう全員自己紹介終わったよね、という雰囲気でやり過ごすことが出来なくなってしまった。
「あ、天野 雪風です。気軽にユッキーと――――」
「もう聞いたわよ」
ズバン、とツッコミが入る。もう無理だ。誤魔化すことは出来ない。こうなったら正気であることを主張しつつ、正直にどう自己紹介していいかわからないと白状するしか無い。
「――――そこ、総部隊長が来たわよ。整列しなさい」
「やば!」
慌てて散開する面々。ひとり俺は取り残された。
どうやら奇跡的に乗り切ったらしい。根本的な解決にはなっていないが、伊達に宝くじを当ててこんな異世界に来ちゃいない。流石俺の悪運。宝くじ当てたのは母親だが。
「ほらユキカゼ君、はよ列戻り。これから総部隊長様のありがたーい挨拶やで?」
俺を除いて横列で待つみんなの前に設置された壇上。そこに立っていたのは顔見知りの少女であった。ついさっきだ。忘れるわけがない。
というか、はやてだった。
「マジでか」
閲覧ありがとうございましたー。
>就職難なんてなんのその!内定済みでした(異論は認めない)
>元よりそれほど無かったとはいえ、ガリガリと書き貯め分が消費されていきます。こちらの作品のは今回除いてあと2話分です。一応初戦闘終了の区切りっぽいところまではいきます。投稿するぜと嘯いていたもうひとつの新作を直前から書き直しているので、今はそちらにかかりっきり。それでもようやくスランプから脱した……ような気がするようなしないような。
>さてさて、一先ず同僚にあたるフォワードメンバー登場。もしも私自身が六課入れるけど入る?と誘われても全力で拒否します。みんな優秀怖い。自分の不甲斐なさに胃がマッハで溶けてなくなりますよ。ユキカゼ君どんまい!
>原作主要メンバー(敵除いて)全員出せるまではたしてあとどれくらい必要か。はやて一家はそんなかからないけど、問題は金髪美人さんですよ。だって彼女は非常勤!
ではではまた明日をお待ちくだされー