【未完終了】魔法少女リリカルなのは ━三途川に落ちる少年━   作:針鼠

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目玉焼きは醤油派です

 まさかあんな女の子がトップだとは。しかも歳は俺より二つ上だった。なんかショック。

 

 色々な意味で驚き覚めやらぬまま挨拶は終了。フォワードチームは訓練着――――ジャージみたいなの――――に着替えて海岸線集合と指示を受ける。

 整列する俺達の前に立つ女性が二人。こちらから見て左の女性が口を開く。

 

 

「さて、改めて自己紹介しようかな。私の名前は高町(たかまち) なのは一等空尉です。六課ではスターズの分隊長と、君達フォワードの戦技教導を任されてます。よろしくね」

 

 

 サイドポニーテールのにっこり笑顔がパーフェクトなこの人が、部隊にいる間、俺達の直接の上官になるらしい。やっぱり若い。多分はやてと同じくらいの年頃だろうと予想する。

 つくづくこの世界の軍人の平均年齢が低いことに驚く。そしてとんでもなく可愛い子が多いのはどういうことだろうか。嬉しいけども。

 

 そういえばさっきスバルに聞いたが、なのはさんはこちらの世界では知らぬ者はいないと謂われるほどの有名人らしい。なんでも管理局にスーパーエースなんだとか。そしてスバルは幼い頃なのはさんに命を救われ、彼女に憧れて管理局に入ったらしい。ちらりと横を見ると、キラキラと光が幻視出来るくらい目を輝かせている。

 

 

「それとこっちはメカニックのシャーリー」

 

 

 なのはさんに促される形でもう一人の眼鏡を掛けた女性が前へ。

 

 

「メカニック兼、通信主任のシャリオ・フィニーノ一等陸士です。みんなにはシャーリーって呼ばれてるからそう呼んでください。あとデバイスに関してもバッチリ管理するから相談とかあったら是非言ってね」

 

 

 彼女とは一度喋っている。といっても個人的にではなく、彼女自身が名乗った通りメカニックとして一度デバイスを預からせて欲しいとはやての挨拶後すぐのことだ。そしてそれらをシャーリーが返し始める。

 

 

「デバイスに記録用のチップを入れたから、ちょっとだけ大切に扱ってね」

 

『扱って下さいね、ユキカゼさん』

 

「シャーリー、俺のデバイスが故障したまま直ってない」

 

 

 シャーリーに訴えると苦笑された。いやいや俺にとっては笑い事ではない。

 

 その際シャーリーがなにかを言いかけるが、『やっぱりなんでもない』と黙ってしまう。なんだろうか。もしやルビーがなにか余計なことを言ったのだろうか。

 

 そんなことを俺が考えている間に、チーム全員にデバイスが戻ったことを確認したなのはさんが説明を始める。

 

 

「それじゃあ訓練を始めようか」

 

「訓練て」俺は辺りを見回して「ここで?」

 

 

 あるのは海だけ。最初の訓練は水泳なのだろうか。そんな俺の質問になのはさんは楽しそうに笑って、シャーリーに目で合図を送る。受けたシャーリーがひとつ頷き、右手を振って空中にウインドウを出現させるとその上で軽やかに指を走らせた。

 

 

「ステージセット!」

 

 

 その声と同時に空中にキーをタンと叩く。すると突如海の中から現れた六角形のパネル。それがいくつも連なって出来た浮島に、今度はビル群が聳え立った。あまりにも現実離れした光景に俺は口を半開きにしてしまう。

 この世界の科学技術は俺のいた世界とは一線を画している。それに加えて魔法があるのだからとんでもない。

 

 

「五分後の合図で始めるから準備整えて置いてね」

 

 

 

 

 

 仮想都市に降り立って、俺は目の前の壁に手を伸ばす。おお! 手のひらに硬質さばかりかひんやりした温度まで感じられる。ホログラフィどころの話ではない。一体どんな技術なのか見当もつかない。

 

 

「ほらユキカゼ、ティアが睨んでるから早く早く!」

 

 

 スバルに背を押されながらも、俺の意識はこの仮想都市から離れられない。ティアが大きく咳払い。

 

 

「まずは役割を決めましょう」

 

 

 切り出したのはティア。

 

 

「まず指揮は誰が執る?」

 

「ティアでいいんじゃねえの?」

 

 

 素直に答えると、ティアはますます目を細めて睨んでくる。怖い。しかしこれはなにも責任ある立場を押し付けたいだけではない。

 図らずもこのメンバーで話し合うとき、彼女が進行役になっている。俺は当然無理だとして、エリオとキャロも年齢的に除外して、残る二人を見比べたときスバルには悪いがティアが相応しいと思う。まあもしもスバルが、実は高い指揮能力を持っているのならば他ならぬティアがそう言うだろうし。

 

 そんなことを説明したのだが。

 

 

「そんなこと言って、面倒だから押し付けたいだけなんじゃないの?」

 

 

 無いとは言わない。

 

 

「アタシもティアが良いと思う」

 

「わたしも」

 

「僕も賛成です」

 

 

 スバル、続いてエリオ、キャロと意見が出る。

 結果全員から推薦を受けた形になったティアは、考え込むように閉じていた目を開ける。

 

 

「オッケー。わたしがやるわ」

 

 

 ティアはまずスバルとエリオを見る。

 

 

「スバルとエリオは前衛」次いで視線をキャロに「後衛はわたしとキャロでいいわね?」

 

「はい!」

 

 

 胸の前で小さな拳を作ったキャロが大きく頷く。

 

 なんだかんだ言って決まったとあらばティアの判断は早い。やはりリーダーに向いている……なんて一人感心していると、そのリーダー様に苛立たしげな目を向けられた。

 

 

「ちょっとユキカゼ! 結局あんたどんな魔法使うのよ? 専用のデバイス持ってるんだし結構やるんでしょうけど。教えてくれないと作戦が立てられないでしょ」

 

 

 尋ねられて、油断していた俺は思わず答えてしまう。

 

 

「うん? 俺って魔法使えるの?」

 

 

 ………………あ。

 

 心が痛くなるほどの沈黙を経て、このときフォワード陣の心が初めてひとつになった。

 

 

「「へ?」」

 

『じゃあ始めるよー』

 

 

 なのはさんの穏やかな声と共に訓練開始のブザーが鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 若い人がいっぱいいる部隊。可愛い女の子や、キャロやエリオみたいな子供までいる。この世界はきっと元いた世界よりずっと平穏なものなのだろう。そんな世界なのだから軍隊みたいなところだとしても、血反吐出るまで走らされたり筋トレしたり、ましてや命がかかった事には縁遠いだろうと。優しい世界で可愛い子達と笑顔の絶えない穏やかな訓練。そんな風に考えていた俺、――――今すぐ逃げろ。

 

 

「ぎゃあああああああああああああ!!!!」

 

 

 脇目も振らず全速力。字にするなら『必死』と書いてその通り。仮想都市を駆け抜ける俺の耳元を、青白い光が掠めた。光は数メートル先の壁に当たると、底の見えない横穴を穿った。

 

 

「ぎゃあああああああああああああ!!!!」

 

 

 兎に角叫ぶ。走る。逃げる。

 

 しかし無情にも悪魔どもは追いすがってきているらしい。走るスピードが落ちるとわかっていても恐怖に耐えきれず振り返れば『奴ら』がいた。卵型のフォルムをしたそれは、地面から数センチ宙に浮いていた。ウネウネ触手のように動くコード。あれがなんなのか、どうやって浮いているのか、そんなこと俺は知ったこっちゃない。ただ今は一言。

 

 

「助けてくれええええええええ!!!!」

 

 

 俺のうっかり発言から間もなく、訓練開始を告げるブザーと共にあれらは現れた。《ガジェットドローン》と呼ばれる機械らしいそれは、当面機動六課が戦う可能性が極めて高い機械兵器だとなのはさんは説明した。もちろんここにあるのは本物を分析して作ったコピー品で、制御は完璧だと言う。俺はそれに今全力で物申したいわけだが。

 

 現れた訓練用ガジェットに、フォワード部隊の新人達はすぐさま臨戦態勢を取る。用意されたガジェットは8機。開始と同時にガジェットは逃走を始め、俺達がそれを撃退するというのが大まかな訓練内容だったようだ。――――なのに、内3機のガジェットが俺達に向かって直進してきた。しかしそこは新人とはいえ正式局員達。各々は素早く回避する。素人の俺を除いて。

 そして今の逃走劇に至る。

 

 

『ちょっとなにやってるのよユキカゼ!』

 

「のおぁ!? ティアの声がする!!?」

 

『うっさい! ただの念話でしょう!』

 

 

 突如耳にティアの声が届く。電話とも違うずっとクリアな声だ。

 

 ここで念話ってなに、とか訊いたら怒るんだろうなぁ。だから賢い俺は言わない。

 

 

『それより、あんた逃げ回ってないでちゃんと戦いなさいよ』

 

「馬鹿かお前は!」

 

『ばっ……!!!!?』

 

 

 反射的に暴言を吐いてしまったがそれほど俺には余裕が無いのだ。

 

 

「今時の高校生はな! レーザービーム撃ってくる卵なんかと戦う方法なんて教わってないんだよ! 精々家庭科で茹でたり焼いたりするだけなの! だから無理! ほんと無理!! だから助けてください割りと早くすーぐーにー!!」

 

『あん、た、なに言、って……』

 

「あれ? ティア?」

 

 

 今度は突然ティアの声が聞こえなくなった。こちらがいくら叫んでもうんともすんとも言わない。ただでさえ細い希望という名の糸は死神が爆笑しながら断ち切ってしまったらしい。

 

 

「おいおいおいおいおい嘘だろ? ヘルプミー、ティア!」

 

『AMFですね』

 

 

 絶望に打ちひしがれていた俺の耳に新たに届く声。そうだ、そうだったと思い出すとポケットからそれを取り出す。

 

 

「さあルビー今こそお前の出番だ! 俺の命を救ってくれ!!」

 

『AMFとはアンチマギリングフィールドの略称です。あれが発動している間は攻撃魔法の減衰は勿論、その他の魔法に関しても範囲内ではシャットアウトされるようですね』

 

「助けろってんだよ!!」

 

 

 この状況で長々とした説明なんていらない。しかもこいつの場合、わかっててやってるっぽいからタチが悪い。

 

 

『クールにいきましょう、ユキカゼさん』

 

「どの口が言うか」

 

『ワタシに口なんてないじゃないですかーやだー』

 

「どの口が言うか!!」

 

 

 こんな漫才の最中にも後方からはレーザーが撃ち込まれている。

 

 

『いいですか。転生したとはいえ、ユキカゼさんの身体能力は並のそれです。もうほんと平凡そのもの。そこをサポートするのがワタシです』

 

「お前本当にサポートの意味わかってるか?」

 

『そもそもデバイスの役割とは魔道師の魔法を補助する機械なのです』

 

 

 綺麗に無視しやがった。そしてまた長々と説明する気か!

 

 

「却下だ却下! これがそんなに余裕ある状況に見えるか? ――――ひぃ!」

 

 

 言ってる側から頭上をレーザーが掠めた。前髪が焦げた臭いがする。

 

 

「長いんだろお前長いんだろどうせ! あったじゃんいっぱい時間! いっぱい説明する時間あったじゃんかよぉぉ!」

 

『気の短い男の子はモテませんよ、ユキカゼさん。ですがワタシは許容します』

 

「お前のことなんかどうだっていいわ! 早くしろ!」

 

『ラジャーです。ではワタシの言葉を復唱して下さい』

 

 

 そうして伝えられた言葉に俺は顔を顰める。

 

 

「はぁ!? んな恥ずかしい言葉叫ばなくちゃいけないのかよ! どこの美少女戦士だ」

 

『戦士ではなく魔法少女ですよ、ユキカゼさん』

 

「俺はれっきとした男だボケェッ!!」

 

 

 とは言うものの、今は一刻の猶予も無い。縋るものはルビーしかいないのだ。このまま逃げ続けていればスバル達が助けにきてくれる可能性もあるが、その前に俺が焼かれるか茹でられるか、はたまたスクランブルされる未来の方が可能性としては高そうだ。決断の刻は今。

 

 

『さあ叫んで下さい』

 

 

 一度の恥を忍んで死ぬわけにはいかない。そして俺は言われた通りの言葉を叫んだ。

 

 

「せ、すえええええっと、あああああああああっぷ!!」

 

 

 半ば自棄糞になりながらルビーを頭上に放る。続けて、

 

 

「モード・セイバー」

 

『承認しました、マイマスター』

 

 

 空中を舞う星型のアクセサリーが一層眩しい光を放ち砕け散った。




閲覧ありがとうございましたー

※あとがき後日
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