【未完終了】魔法少女リリカルなのは ━三途川に落ちる少年━   作:針鼠

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素人が戦うにはなにがしか能力が必要

 なんというか、不思議な子だなぁ……と画面を見ていたユキカゼ達の教導官、高町 なのはは思う。彼女が眺めている画面は主に二つ。片方の画面では新人4人が5機のガジェットを相手にしている。序盤こそAMFに苦戦していたようだが、要領を掴んでからはティアナを中心に上手く連携している。初顔合わせということを考えればチームの相性は良いようで一安心。――――問題はもう片方の画面に映る新人である。

 

 訓練開始早々、襲ってきたガジェットに対して一目散に逃げ出した少年。確か名前は天野 雪風二等陸士。訓練風景をなのは達が見ていることくらい気付いているだろうに。良い所を見せようとするどころか、いっそ清々しい逃げっぷり。それでいてガジェットの攻撃が当たらないのは彼の実力か、はたまた強運か。

 

 

「あ、ははは……」

 

 

 一緒にモニターしているシャーリーに至っては笑っていた。苦笑いだが。

 

 

「おっかしいですねえ。今回のガジェット達の設定は『逃走』『迎撃』にセットしてあるはずなのに」

 

 

 けれど現にガジェット3機は開始からずっと逃走するユキカゼを追い回している。『あれー?』と首を傾げながら画面と格闘するシャーリーの傍らで、なのははもう一つ画面を出現させる。それは絶賛逃走中のユキカゼのプロフィールデータだった。歳はなのはより二つ下の十七歳。出身地は自分と同じ《第九十七管理外世界》――――地球である。

 故郷を懐かしく思いながら、なのはがさらに画面を先に進ませる。名前の下、そこに表記されているはずのデータに注目する。そこにはこう書かれていた。――――『魔道師ランク:NO DATA』と。

 

 

『せ、すえええええっと、あああああああああっぷ!!』

 

 

 画面の向こうで例の少年が叫ぶ。その言霊を受けてルビーという名の星型デバイスが光の粒となってマスターである彼を包み込む。光が晴れたときユキカゼの姿は一変していた。

 真っ黒だった髪は白金に変わり、訓練着は青と白銀の鎧へ換装される。最後に彼の右手に収まる一本の剣。神々しく、眩い黄金の光を放つ美しい剣をもって、彼は騎士と為り変わった。

 

 

「シャーリー、手が止まっちゃってるよ」

 

「は、はい! ごめんなさい」

 

 

 隣で呆けている同僚になのはは声をかけてやるとシャーリーは慌てて作業を再開する。彼女の仕事は新人達のデバイスの稼働チェックと今後必要となる彼らの専用デバイス作りのためのデータ収集だ。今も尚、他の新人達は全力で戦っている。けれどまあ、彼女の気持ちもわからなくなかった。なのはとて目を奪われた。彼の様相の変化に。そしてあの剣の美しさに。

 目も眩む太陽の光ではない。むしろどこか儚げな、それでいて心奪われる月の光のような輝き。犯し難い幼い聖女の姿が、なぜかなのはの脳裏を過った。

 

 天野 ユキカゼは魔道師ではない。否。正しくは彼には潜在的な魔力が無いというべきか。――――いや、これも正しくない。

 あの少年は現在ミッドチルダで確認されている魔力とはまた別の力を有している。厳密には、彼の体には魔力に似た力があるようで、しかしなのは達とは異なっているため魔力の測定が出来ないのだ。その結果がNO DATAの表記である。だが実際には、ユキカゼはルビーというデバイスを持ち、こうして目の前で魔法使いへと変身している。あの騎士甲冑は間違いなくバリアジャケット呼ばれる防備で、あの剣もデバイスだ。

 

 だがやはりどこか違うのだ。なのはの周りにもはやてやヴィータ達のような特殊な魔道師は多くいる。それでもこのユキカゼという少年はそれ以上に、なにか根本的に自分達と違う存在だとなのはは感じていた。

 

 

「あのユキカゼって子、本当に何者なんですかね?」

 

 

 シャーリーが問いかける。視線をたまにユキカゼが映る画面に向けながらも今度は手を止めていない。

 

 

「デバイスも……さっきフォワードのみんなのデバイスに記録用チップを入れる時もルビーだけには拒否されちゃったんですよね。『私の初めてはユキカゼさんのものなんです』とかなんとか……。あれ本当にデバイスなんですかね?」

 

 

 感情豊かというにも豊かすぎるデバイス。シャーリーの問いに、なのはが答えられるはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おぉ!?」

 

 

 ルビーが砕けて光に包まれたと思ったらいつの間にか格好が変わっていた。訓練着から西洋風の騎士甲冑。無論、生前にこんなもの着たことは無いし、傍目には重いし動き難そうだと思っていたが、白銀の甲冑は羽根のように軽い。動きも阻害されない。きっとこの甲冑が特別なんだとは思うけど。

 

 そして、この剣。――――綺麗だ。それ以外の言葉が出てこない。凝った装飾があるわけではない。宝石が散りばめられているわけでもない。素人の俺になにがわかるわけでもない。それでも思う。これはただただ綺麗なんだ。『剣』というものをとことんまで洗練したひとつの究極を見た気がする。

 

 

『この鎧が《バリアジャケット》と呼ばれる防護服です』

 

 

 呆けていた俺を引き戻したルビーの声。改めて己の姿を確認。なるほど。

 

 

「つまりこれでもう、あの卵から逃げ回らなくてだぶッッ!!!」

 

 

 振り返った瞬間、腹部に突き刺さる衝撃。悶絶。

 

 

『防護服と言っても無敵じゃありませんよー? バリアジャケットは魔力の鎧。あくまでダメージを減衰するだけです』

 

 

 ぷるぷる。そうだよな。今のは俺が悪い。早とちりした俺が悪かった。

 考えてみれば防弾チョッキなるものだってどんな銃弾も跳ね返す無敵のものでは無い。当たれば骨折くらいはするらしいし。

 むしろレーザービームが直撃してて風穴あかなかっただけこの鎧の凄さが実感出来るってもんだ。痛い。

 

 視界がふっと暗くなる。それがガジェットの影だということに思い至ると同時、俺の体は動いていた。屈んだ体勢から上体を起こす。勢いのまま右手の剣を切り上げる。

 感触はほとんど無かった。気付いた時には足元に、斜めに両断された火花散るガジェットが転がっていた。

 

 

「へ?」

 

『ほらほらユキカゼさん、次来ますよ』

 

 

 間髪入れず次のガジェットが襲い掛かってくる。追ってきていたのは全部で3機。必然残りは2機だ。

 

 ガジェット達は左右から挟み込む挟撃。五つある黄色ランプの複眼、そのひとつから青白いレーザーが放たれる。――――それを確認するより先に俺はその場から一歩ずれていた。眼前を光が通り過ぎる。だが怖くない。当たり前だ。何故なら、俺にはここに撃たれるというのがわかったいたのだから。『見えた』のではない『わかった』のだ。

 

 

『一気に撃墜しちゃいましょう!』

 

 

 片方のガジェットを見据える。間合いは十数メートル。レーザーなんて武器を持っている敵には絶望的な距離。それでも近付けばなんとか出来るかも。そんな一心で俺は地面を強く蹴った。景色が吹き飛んで、

 

 目の前にはすでにガジェットがいた。

 

 起こっている出来事に困惑する脳とは裏腹に体は気持ち悪いくらいスムーズに動く。剣を握った手が――――いや手だけではない。踏み込む足。威力を生む腰。体のあまねく部分が淀み無く動く。知識には無いのに、この体は剣の振り方を知っていた。

 

 あまりにも呆気なく2機目も撃破。これはもう偶然などではない。

 

 

「ま、まさか……俺に眠る剣の才能が転生と共に開花して――――」

 

『違います』

 

 

 断言された。知ってたけど。生憎竹刀の一つも振ったことのない俺が剣を振るなんて、ましてや鋼鉄の機械をそれで両断するなんて真似出来るはずがない。今は黄金の剣となったルビーが説明する。

 

 

『これがユキカゼさんにワタシ以外で唯一与えられた力です。力と言っても、物を浮かしたり火を出したりといった直接的な異能力でも、身体能力の向上でもありません。――――記憶です』

 

「記憶?」

 

『はい。ただし脳に蓄積される記憶ではなく、肉体の記憶です!』

 

 

 例えば俺は自転車に乗れる。生まれながらに乗れたわけではない。練習をして今では自然と乗れるようになった。ならばしばらく自転車に乗らなかったとき、俺は乗り方を忘れてしまうのだろうか? 答えはNOだ。

 泳ぎも同じ。俺に限らず、一度泳げた者がたとえしばらく泳ぐ機会が無かったとしても、下手になることはあっても泳げなくなることはあるまい。

 これが肉体の記憶なのだとルビーは言う。知識や思い出とも違う、肉体の刻まれた経験と反射。

 

 

『ワタシにはユキカゼさんのサポートの為に3つのモードが解放されています。ユキカゼさんには転生に伴いその記憶が与えられているのです!』

 

「さっき俺がこの剣を振れたのも、その記憶のおかげ……?」

 

『はい!』

 

 

 確かに、さっきは頭で考えて動いたというより体が先行して動いていた。一種操られているのではと勘ぐってしまうほど脳と体が乖離していた。それでもそこに俺の意志は確かにあったのだ。

 

 最後のガジェットを見据える。卵型ロボットは逃げない。敵ながら見上げた根性だと内心で褒める。余裕が出てきたらしい。構える。

 『斬る』という俺の意志に対して肉体は最適な動きを選択し実行する。意識は後から付いてくるだけ。

 

 右から左の薙ぎ払い。完全に俺の動きはガジェットのそれを上回っていた。爆発的な速度の踏み込みにガジェットはまるで動けないでいる。

 

 はたして自転車のペダルを漕ぐように。或いは水の中で手を掻くように。

 

 剣は吸い込まれるようにガジェットを捉える。一瞬、重い手応えが両の手にかかる。見えない壁に剣が阻まれたのだ。しかし確信する。いける!

 

 

「ぅ、らあッ!!!」

 

 

 障壁に走った亀裂。破砕音。そのとき剣はすでに振り切られていた。




閲覧ありがとうございましたー。

>少し短め……というかかなり短めとなってしまいましたがとりあえず投稿。今は兎に角書いて投稿あるのみ!

>素人主人公にはなにがしかの能力が無いと戦っていけません。
頭脳プレイ→作者の知力が試される!
労働→もうバトル作品放棄!

>というわけでユキカゼ君の能力はFate作品の能力コピー(?)となります。バリアジャケットの換装で戦うスタイルだと認識される予定です。

>実際特に鍛えていない素人が真剣を振り回すと数回も打ち合えずダウンするとかなんとか。竹刀すら振ったことの無い私なんて多分3回素振りで限界だと思ってます。頑張れユッキー!

ではでは、次は別作品の投稿予定(ただし短編)ですので、こっちはその後の更新になります。文字数少なくてすみません!
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