【未完終了】魔法少女リリカルなのは ━三途川に落ちる少年━   作:針鼠

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プライドなにそれ美味しいの?

『みんな良い調子だね』

 

 

 俺が3機目のガジェットを撃破した頃、救援に駆けつけたスバル達と合流する。その後間もなく声と共に宙空になのはさんが映る画面が展開された。なんでもないように使ってるこういう技術ひとつとっても俺的には驚きの対象だ。

 

 

「ちょっと!? ユキカゼ聞いてるんでしょうね!!?」

 

「テ、ティア~落ち着いて落ち着いて」

 

 

 決して今スバルに羽交い締めにされているティアからのお叱りからの現実逃避とかではなく。

 

 さてそうしてなのはさんから次の訓練内容が発表されようかというとき、見覚えの無い二人組が訓練場へ降り立った。

 

 

「少し待ってもらえるか?」

 

 

 なのはさんの言葉を遮ったのは、ピンク色の髪をポニーテールにしたモデルのような長身の女性。それを追って三つ編みを二房に分けた髪型のキャロくらいの少女。共に局員の制服を着用しているので同僚だろうとわかる。

 ちなみに、なんの道具も無しに空から現れたことに関してはもう驚かない辺り、俺も結構この世界に毒されてきてる。

 

 

『シグナムさんにヴィータちゃん?』

 

 

 長身の女性をシグナム、ちっこい方をヴィータと呼んで驚いた様子のなのはさん。気付けばスバル達の顔もどこか強張っているようにも見える。

 はて、一体誰だったか。よくよく記憶を辿ってみるとどこかで見たような気がしないでもないようなそうでないような……。思い出せない。こっそり隣りのスバルに訊いてみようかと思ったそのとき、

 

 

「おい、そこのお前」

 

「……え? 俺?」

 

 

 美人が故に迫力あるシグナムの真っ直ぐな視線は俺へと刺さっていた。何故に。

 

 

「そうだ。天野 ユキカゼといったか……。どうだ? 一度私と手合わせしてみないか」

 

 

 手合わせっていうと戦えってことだろか。名前以外なにも知らない美女からの申し出。いくら美人だからって戸惑ってしまう。いくら美人だからって。

 

 

「なんであんた鼻の下伸ばしてんのよ」

 

 

 ボソリ、とティア。マジか。思わず鼻の下を手で揉みほぐす。

 

 

「へー、ユキカゼはああいうのが好みなんだぁ」

 

 

 今度もボソリとスバル。

 

 

「いやいやスバルさん? 男って生き物はみんな美人相手にはこうなるのだよ。だから呆れ顔でこっち見ないで凹むから」

 

「エリオ君も?」

 

「え!? ど、どうだろう」

 

 

 以上全て小声のやり取り。

 

 

「おいシグナム、なに考えてんだよ」

 

 

 一同の視線が再び前の二人へ。シグナムを諌めるように前に出てきたのはちっこい方の、確かヴィータ。

 

 

「先ほどの剣に興味が湧いてな」

 

「こんなひよっこが相手になるわけねえだろ。ただでさえ手加減出来ないくせに」

 

 

 むか。

 

 

「おいこらそこのチビっ子」

 

「ち、チビっ……子?」

 

 

 信じられないものでも見たかのようなヴィータの顔。

 

 

「どこの子供か知らねえけど、年上にはしっかり敬語を使え。なんだその言葉遣いは。生意気なのは元気の良い証拠だけど、小さい頃からそういうこと覚えとかないと後々痛い目にみるぞ」

 

「ちょ!!? ユキカゼその人――――」

 

 

 慌てて止めに入るスバルを押しのける。わかってるさ。

 

 

「大丈夫大丈夫。俺だってこんなんでも大人だ。ガキンチョ相手にマジになったりしねえよ」

 

「ガキン、チョ……」

 

「泣かせないよう気を付けるさ。なーに小さい子の相手は意外と慣れてるんだぜ?」

 

 

 長い長い静寂の後、『はぁ』とティアがため息をついた。

 

 

「……馬鹿」

 

「あん? ティアなにか言ったか?」

 

「だ、誰が」不規則に震えているヴィータが「誰が年下でガキンチョだってぇ……? テメエの方が年下――――」

 

「まだ言うか。てい!」

 

「!!!!?」

 

 

 チョップ。もちろん手加減してます。

 

 ………………。

 

 …………。

 

 

「……………………あれ?」

 

 

 ようやくこの場の空気がおかしいことに気付いた。

 

 

「――――す」

 

「ん?」

 

「――――ぶッッッッ潰す!!!!」

 

 

 怒声と共にヴィータが懐から取り出したのは金槌の形をした珍しいアクセサリー。それを高らかな宣言と共に掲げた。

 

 

「アイゼン!!」

 

 

 ヴィータの格好が一瞬で変わる。うさぎ(?)のぬいぐるみが括り付けられた帽子の真っ赤なロリータファッション。その手には先ほどのアクセサリーに似た形の槌。

 

 俺がそれらを認識したのと同時、ヴィータは槌を横に振りかぶった。俺に向かって。

 

 

「っていきなり!?」

 

「ハンマァァァアアアー!!!」

 

 

 ルビーの変身を解いていなかったのは幸いだった。咄嗟に剣を盾にして向かってくる槌を受け止めるが――――重い! 幼女の見た目からは想像も出来ない衝撃に踏ん張る足が浮いた。

 

 

「うっそん!?」

 

「ぶっ飛べ!!」

 

 

 言われる通り後方に吹き飛んだ。そのまま背中から訓練場の壁に激突するも、流石は魔法世界の防弾服。痛いで済む辺りマジカルファンタジーである。

 

 

「いきなりなにすんだチビ! 危ねえだろうが! いい加減にしないとおにいちゃん怒っちゃうぞ!?」

 

「まだ言うか! ってか誰がおにいちゃんだ誰が!!」

 

『……あのー、ヴィータちゃん?』

 

 

 周囲の誰もがどうにも出来ずにいる中、この場の責任者であるなのはさんが申し訳なさそうにヴィータに声をかけるが、

 

 

「なのは! 他の連中退けてくれ!」

 

 

 聞く耳持たず。気圧されたなのはさんは諦めたように返事をした後、周りを下げさせた。こちらとて望む所。

 

 

「ひよっこのド新人が。特別に訓練つけてやるよ!」

 

 

 重量感ある鉄槌を片手で持ち上げるヴィータ。犬歯を剥き出しにして笑う彼女からヒシヒシとプレッシャーが伝わってくる。正直かなり怖い。怖いが、こんな小さな女の子相手にビビったなんて男のプライドが許さない。……年下の女の子相手にマジになっておいて今更威厳なんてあったもんでもないが。

 

 

「ごめんなさいって言葉教えてやるよ、チビっ子」

 

「土下座って知ってるか、ひよっこ」

 

 

 挑発の応酬。合図は特に無かったと思う。

 

 

「泣かす!」

 

「ぶっ潰す!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

 

 目を開けたら見覚えの無い真っ白な天井が視界に広がっていた。そのまま静止して数秒考える。何処ここ?

 

 

「あら、起きたのね」

 

 

 背中に伝わる柔らかな感触から自分がベットの上にいるということぐらいしかわからない。一先ず上体を起き上がらせたところで声を掛けられた。

 

 壁や天井と全体的に白色で統一された清潔感のある部屋。広さはそこそこあり、今俺が使っている他にもベットがいくつか並んでいた。薬品が陳列された棚。なにに使うのかまるでわからない機材諸々。想像するにここは治療室といったところのようだ。

 

 俺に声をかけた人物は、部屋に唯一ある机に向かっていた。一段落ついたのか、キャスターの椅子を回してこちらへ正対する。

 

 

「大丈夫? どこか痛いところはないかしら」

 

「えー……と。はい」

 

 

 白衣を羽織った金髪の美女。ただでさえ起きたてで頭が回っていないところに気遣わしげな美女の顔。思考が停止する。白衣の天使なんて言葉は聞いたことがあっても実在するとは驚きだ。

 

 

「ああ、そういえば」ポン、と女性は肌の白い手を合わせて「初めましてだったわよね? 私は六課の医務官を任されているシャマルよ。よろしくね」

 

 

 俺の沈黙を初対面故の戸惑いだと受け取った様子の自己紹介だった。まさか見惚れていましたとは言えないので便乗しておくことにする。

 

 

「天野 雪風です」

 

 

 名乗り返すとシャマル先生は嬉しそうに微笑む。眼福眼福……ではなくて。

 

 

「あのー」

 

「なあに?」

 

「俺はどうしてこんなところで寝てるんでしょう?」

 

 

 シャマル先生が医務官と名乗っていたことだし、この部屋は想像通り六課の医務室らしい。しかし何故こんな場所に俺がいるのかはさっぱりだった。確かさっきまでなのはさんの初訓練を受けていたはずなのだが。

 

 素直な疑問からの質問だったのだが、訊かれたシャマル先生は目に見えて顔を強張らせた。しばらく悩む様子を見せていたが、やがて観念したように答えてくれた。

 

 

「ユキカゼ君、訓練中に気絶しちゃったの……」

 

「気絶?」

 

「覚えてない?」

 

 

 うーむ。気絶……気絶……。目を閉じていると奥底に眠っていた記憶が少しずつ浮上してきた。

 

 なのはさんの訓練中に乱入してきた二人組。最初に絡んできたのはモデル顔負け長身美女のシグナムだったが、なんやかんやでもう片割れのチビっ子――――もとい、ヴィータと戦うことになったのだ。この場にいる以上、彼女もまた魔道師だというのはなんとなく察しがついていたが、直前にガジェットを撃退していた俺はいい気になって受けて立ったわけだ。結果は、

 

 もうボッコボコにされた。

 

 

「ゆ、ユキカゼ君? 部屋の隅で蹲ってどうしたの!?」

 

 

 ……ああ、死にたい。自分の腰上ほどしかない小さな女の子にフルボッコされたというのも精神的に大ダメージだが、なによりもそんな小さな女の子相手に暴力を振りかざしたことが情けない。恥ずかしい。

 

 

「……俺は屑です……最低です。シャマル先生、どうぞ俺を罵って下さい」

 

「ええぇっ!!?」

 

 

 もう自分で自分がなにを言っているのかもわからなくなっていた。そうしてしばらくシャマル先生は俺を励ましてくれていたようだがこのときばかりは反応することも出来なかった。

 

 

「そうだ! ユキカゼ君、お腹空いてるでしょう? 私もまだ食べてないの。お夕飯食べに行きましょう」

 

「…………夕食?」

 

 

 ふとその言葉に違和感を覚えた。だってこの世界の時間の概念を俺はまだ知らないが、それでも訓練をしていたときはまだ陽は昇りきってもいなかった。なら夕飯というのは流石に早すぎないか――――と思いながら部屋の窓を見やると、窓の向こうは真っ暗だった。

 

 

「もう夜!?」

 

 

 どんだけぐっすり寝てたんだ俺は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体とは現金なもので、今が夜だとわかると途端に腹の虫が鳴った。なにせこの世界にきてからはもちろん、思い返してみれば今日は置きてからなにも食べていなかった。シャマル先生に連れられて食堂にやってきた俺達。そこには先客がいた。

 

 

「げ」

 

 

 思わず声が出た。

 

 

「ああ、シャマルか。それと」

 

 

 テーブルに座っていたのはシグナム。そしてもちろんもうひとりはヴィータだった。

 

 

「暴力チビ!」

 

「ヴィータ副隊長だ! もっかいノすぞ!!」

 

 

 隠す気もない嫌そうな顔だ。多分鏡を見れば俺も同じ顔をしているに違いない。

 

 

「ヴィータちゃん」窘めるようにシャマルさんが「ユキカゼ君に謝りなさい。やりすぎだよ。新人相手に大人気ないんだから」

 

「ハンッ。この礼儀知らずがヘッポコ過ぎんだよ」

 

 

 ぬぬぬ、可愛くない。そしてシャマル先生の言葉はどちらかというと俺に突き刺さっているのだが。

 

 

「ほらほら、みんなでご飯食べましょう。ユキカゼ君も」

 

 

 シャマル先生がそう言うならと俺は大人の対応で我慢する。しかしヴィータがシャマル先生の『ユキカゼ君も』という部分に心底嫌そうな顔をしたのを見逃さない。いつか泣かす。絶対泣かす!




閲覧ありがとうございますー。

>てなわけで6話。ユッキー幼女(外見年齢)にボコられるの巻。

>作者はなのは作品を書くにあたって原作アニメを一度見ただけなのですが、ヴィータちゃんは局内でどれくらいの強さの立ち位置なのでしょう。いや、局内っていうよりは六課内か。シグナムやなのはさん、フェイトさんよりは弱いけど、ザフィーラよりは強いんですかねえ。実際の能力的にはシャマル先生がいっちゃん恐ろしいですが、

>意外とこの作品は日常的なシーンが多くなりそうな予感がします。

>ではでは次話にてー。
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