【未完終了】魔法少女リリカルなのは ━三途川に落ちる少年━   作:針鼠

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モッフモフやー

 食堂は24時間――――さっきそれとなく訊いてみたら時間の概念は同じようだった――――利用可能だそうだ。仕事柄、不規則な時間帯労働のため局の食堂は支部も大体そうらしい。

 今夜のメニューはパンにポテトサラダにビーフシチュー。幸いだったのはこの世界と元の世界の食べ物が概ね同じだということ。異世界特有の得体の知れない肉や葉っぱを食べなくていいことには心底安堵した。

 

 

「はい、ザフィーラの分」

 

「ザフィーラ?」

 

 

 シャマル先生が自分のとは別に配膳されていたものをテーブルの下へやるのを見て、俺は下を覗き込む。

 

 

「うぉ……」

 

 

 藍色の毛並みの大きな犬だか狼だかが下に寝そべっていた。というか気付けよ俺。

 

 

「すっげー大きな犬!」

 

 

 実は無類の動物好きと評判――――どこで? 知らんけど――――の俺はほとんど反射的に手を伸ばす。あー、モッフモフや。しかもこの犬とても大人しい。吠えることもしなければ身じろぎもしない。ただただ為すがまま。下が床だというのも構わず犬の腹に顔を埋める。うちは猫を飼ってたけどやっぱこういう大型犬も憧れてたからテンション上がる。

 

 

「ゴホン……ユキカゼ、食事が冷めてしまうぞ」

 

 

 シグナムの声で我に返る。

 

 

「ああ、そうだな。毛も飛ぶし、食べ物が出てるときは駄目だったよな。ごめん」

 

「ん……そういうことではないのだが……まあ、いいか」

 

 

 ん? なんでみんな俺を見る目が微妙な温度をしているんだ。テーブルの下で誰かのため息が聞こえた気がしたが多分気の所為だろう。

 

 

「あ」

 

 

 と、視界の端に見知った顔がひっかかる。通路を歩いてきた人物もこちらに気付いた。

 

 

「はやてじゃん」

 

「え! はやて!?」

 

 

 は? なに今の甲高い可愛い女の子みたいな声。今俺の視界に映る赤毛の三つ編み少女がなんかもう別人なくらい目をキラキラさせてる。誰?

 

 

「おー、ヴィータ。みんなも。……あれ? ユキカゼ君も一緒なん?」

 

 

 左手でヴィータの頭を撫でるはやてに、一先ず俺は手を振っておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パンを噛み千切りながらテーブルを見渡す。はやてを加えた食事はさっきまでとは一変していた。最早別人に等しいヴィータはもちろん、出会ったときから近寄り難い硬い空気を纏っていたシグナムや、表情はにこやかながらあまり内心は知れなかったシャマル先生も、今はみんな柔らかい空気と優しい目をしている。そう変えたのは間違いなくはやてだ。

 

 なのはさんの訓練前にスバルに聞いた話だったが、新設されたこの六課は優秀人材を集めたという以前に、総部隊長であるはやての身内や知人が多く集められているらしい。なのはさんやまだ会っていないがもうひとりの隊長さんもはやての幼馴染なのだそうだ。他の局員も、知り合いの知り合いといった具合らしく、俺みたいな完全な部外者の方が少ないとのこと。この部隊の平均年齢がやたら低いのもそういった理由からかもしれない。

 

 

「ヴィータ達はどういう関係なんだ?」

 

 

 それは純粋な興味から出た質問だった。ぱっと見の外見からはまるで共通点が見えない彼女等。年齢もバラバラ。かといってこうして近くで感じる印象は『友達』とも違うようだから。はやては質問した俺の目を真っ直ぐ見て答える。

 

 

「家族や」

 

 

 はっきりと、噛みしめるように。ヴィータ達がくすぐったそうに笑む。だから、

 

 

「そうか」

 

 

 俺も妙に納得してしまった。外見の特徴はまるで違う。そも日系のはやてと異国人らしいシグナム達。可能性としてゼロではないにしても、血の繋がりがあるようには見えない。それでも彼女が答えた『家族』という表現が、俺から見た彼女等の印象と重なった。だからそれが正解なのだと納得してしまった。

 

 

「そんでこの子が家の末っ子や」

 

 

 ゴソゴソと大きめのバスケットを取り出したと思ったら、そこからニュゥと顔を出したのは眠たげに目を擦る女の子だった。

 

 

「うー……いい匂いがするですー」

 

 

 空色の長い髪。前髪を留める髪留めははやてと御揃いのようだ。寝ぼけ顔でもわかる顔立ちは非常に端正である。

 小さな少女。文字通り、バスケットから出てきた少女は『小さい』のだ。手のひらほどしかない大きさの少女は羽根も無しにふよふよと浮かぶ。

 

 

「妖精?」

 

 

 正しくそれは絵本に出てくるような妖精のようだった。しかし俺の言葉に少女は反論する。

 

 

「妖精じゃなくてリインはリインですー!」

 

 

 ふわふわと目を剥く俺の目の前までやってきた少女は無い胸を張って訂正を求めている。いやこのサイズだと胸があるのか無いのかもよくわからんけど。

 まじまじと見ていた俺は、思わずリインを指で小突いた。

 

 

「あう~」

 

 

 あ、落ちた。

 

 

「な、なにするですかー!?」

 

 

 復活も早く、再び俺の眼前に戻ってくる。頬を膨らませている辺りどうやら怒っているらしい。

 

 

「いやぁ、悪い悪い。なんか不思議な生き物だったからつい、な」

 

「不思議生物とはなんですかー! リインは曹長で、ユキカゼより偉いんですよー!!」

 

 

 マジかよ、これ上司なのかよ。びっくりだよ異世界。

 

 

「悪かったって。このトマトやるから」

 

「わーいですー」

 

「リイン……」

 

 

 注意されたのにも拘らず、懲りずに餌をやる感じでサラダについていたプチトマトを差し出すとリインの機嫌はコロリと直った。見た目だけでなく精神も幼い。チョロいぞこの上司。ヴィータが頭を抱えている。

 

 

「そういや」俺達のやり取りを楽しげに見ていたはやてが「ユキカゼ君、今日の訓練でヴィータにのされたんやて?」

 

「この上司……忘れかけてた傷を抉ってきやがった」

 

「駄目やで。ヴィータはユキカゼ君達の上司なんやから、ちゃんと言うこときかな」

 

「ぐぬ……」

 

 

 子を叱る母のような目で俺を諌める。見た目童顔だから忘れそうになるけどはやては俺より年上なんだよなと思い出す。

 

 

「ヴィータも。あんま新人に無茶したらあかんよ」

 

「うぅ……」

 

 

 互いにお叱りを受けて項垂れる。ふとヴィータと視線が合うが、同じタイミングでフンッ、とそっぽを向く。はやてやシグナムがやれやれと首を横に振っていた。

 

 

「ああ、そういえばユキカゼ」

 

 

 リインを加えて一層賑やかになった食事。シグナムがはたと思い出したように、

 

 

「なのはが、今日の分の訓練は明日に追加しておくそうだ」

 

 

 なんか食欲無くなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事後もしばらく談笑してからユキカゼだけ部屋に帰した。慣れないうちは疲れをしっかりとるようにとそれらしい理由をつけて(・・・・・・・・・・・)

 

 

「それで、ユキカゼ君はどやった?」

 

「直接言葉を交わした印象から言って……少なくとも陸の密偵という線は無いでしょう」

 

 

 はやての問いにヴォルケンリッター四人を代表してシグナムが答える。

 

 

「――――ま、そやろな」

 

 

 あっさりとそれを肯定するはやて。真面目な空気は最初だけ。破顔するはやてにシグナム達も苦笑を浮かべる。

 

 

「あんなひょうきんなスパイを、あのレジアス中将が使うわけないもんな」

 

 

 レジアス・ゲイズ中将。首都防衛代表……地上本部のトップたる壮年の男は強き正義の象徴とも謂われる傑物だ。

 

 そんな彼ははやてが設立した六課を酷く疎ましく思っている。元々強大な魔力や希少能力という個人に頼った組織体系を嫌うレジアスは、その確たる象徴であるはやて達を毛嫌いしている。加えて彼は潔癖過ぎるほどに正義を重んじている。《闇の書事件》の発端であるはやて達は、たとえどんな理由を語り、また償う姿勢を見せても決して信用しないだろう。

 

 故にレジアスがこの六課にスパイを送り込むだろうことは想定していた。実際今日だけでも数人目星はついている。

 

 

「情報を漏洩……部隊の粗探しに、あわよくば問題を起こさせて解散に追い込みたいのでしょうね」

 

「ほんま恨まれとるなぁ。…………まあ、それだけのことをしたんやからしゃあないか」

 

 

 シャマルの憶測はおそらく当たりだろう。少しの問題でもきっとレジアスは声を大にして糾弾してくる。待っているのは六課の強制解散だ。

 だがまあ、スパイの自作自演といってもまさか露骨な犯罪までは起こせまい。なんにしても今すぐどうこうすることは無いだろうし、はやてとしてもするつもりは無い。今はまだ見極めの時期。

 

 条件でいえばユキカゼもまたそのスパイ候補だった。設立式前のはやてと彼の最初の出会いは偶然だったが、今日シグナムとヴィータがフォワード部隊の訓練を見ていた本当の目的はユキカゼの監視だったのだ。だがまあ結果はスパイとは程遠いお気楽でお調子者で賑やかな少年だった。その結論は先ほど共にした夕食の間でほぼ確信になっていた。

 

 

「じゃあこの話は終いや」はやてはそう言って「じゃあ新人達の実力はどうだったか聞こか。ヴィータはユキカゼ君と直接戦ってるんやろ?」

 

 

 質問されたヴィータは苦い顔を浮かべ一言。

 

 

「強かった」

 

 

 その言葉に僅かばかりはやては驚きを見せた。てっきり彼女のことだから『大したことない』と一蹴するだろうと思っていたからだ。そしてそれはどうやらシグナム達も一緒だったらしい。

 

 

「ほう、お前にしては素直な意見だな」

 

 

 自覚もあるのかヴィータの顔は苦々しい。

 

 

「だけどなんかこう……変なんだ、アイツ」

 

「変て?」

 

「スカッとする攻撃してくるけど狙ってくるタイミングは丸わかりだし。あとすっっっげー体力無い。何回か空振りさせただけで息あがってたし」

 

 

 言ってる本人も言葉に悩んでいるようだった。はやてはシグナムを見る。その場にいた彼女ならばヴィータの言わんとしていることを的確に言葉に出来るかもしれないと。

 

 

「動きが素人臭いのですよ」

 

 

 シグナムが言う。

 

 

「ヴィータの言う通り、剣の腕は間違いなく一流です。剣技だけでいえば私も危ういかもしれません」

 

「シグナムが!?」

 

 

 今度ははやてのみならずシャマルも含めた者達が確かな驚きを示す。闇の書――――否、夜天の書の守護者として果てなき時を戦い過ごした騎士が彼女達ヴォルケンリッターだ。中でもシグナムは近接戦において六課最強といって過言ではない。その彼女よりも上の剣術となれば一流どころか超一流だ。

 

 

「ん? でもさっき動きは素人やって」

 

「なんと言ったらいいのでしょうか」

 

 

 シグナムまでもますます難しい顔をする。

 

 

「動き……ではなく判断能力でしょうか。剣と同じくヴィータの膂力をいなす防御についても、また体捌きも熟達したそれでした。しかし反面、踏み込みのタイミングや斬撃の選択がそれらの完成度に比べてあまりにも甘い。それこそ素人といっていい。それにあれほどの剣に至るならば、その過程で自然と体も鍛えられて然るべきなのに、一見しただけでもユキカゼの体はおよそ鍛えられているようには見えませんでした」シグナムはヴィータを見やり「ヴィータが彼を気絶させてしまったのも、剣撃の割に動きが未熟な為に手加減をしそこねたのでしょう」

 

「うぅー……、それじゃアタシが余裕なかったみたいじゃんか」

 

 

 しかしヴィータも否定しない。つまりそういうことなのだろう。

 

 

「それはつまり場数が足りん……経験不足ってことなんか?」

 

「はい。体力不足についての疑問は残りますが概ねは。山篭りをして、それこそ何年もひとりで剣を振り続けていればああなるやもしれません」

 

 

 剣は一流。体捌きも申し分なし。しかし駆け引きやら他のなにもかもが不足している。身体能力が高く技術が未熟ならばよくある話だが、その逆は珍しい。シャーリーの報告ではあの陽気なデバイスも、開発者開発元共に不明となっている。

 

 ユキカゼについてあまり情報は無い。正確には特筆するべきことが無い。その経歴に裏がないことははやて自身で確認済みだ。

 

 

「ほんま、何者(なにもん)なんやろ?」

 

 

 はやては小声でこぼす。付き従う騎士達もまた揃って首を捻っていた。

 

 まさかユキカゼがこの世界で言う次元世界とはまた違う『異世界』の人間だとは、彼女達は夢にも思わないだろう。

 なにはともあれこうしてユキカゼの異世界生活初日が終わるのだった。内ほとんどが気絶していたというのはなんとも締まらない話ではあるが。




閲覧&感想どもどもですー。

>こうして一日目が終了。区切りとしては一章が終わった感じですかね。

>ユキカゼ君の能力イメージとしては、すっごい沢山の強い魔法覚えているのにMP足りなくて使えませんみたいな感じです。無いのはどっちかといえばHP(体力)か。

>ではではまた次話にてー。
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