【未完終了】魔法少女リリカルなのは ━三途川に落ちる少年━ 作:針鼠
「ふいー……さっぱりした」
シュートイベーションの一発クリアで朝の訓練を終え、汗まみれ泥まみれでその後の仕事が出来るわけもなくいつも通りシャワーを浴びた。大浴場なんてのもあるけど朝は時間が限られているので使うのは夜くらいだ。この後はデスクワーク。そうして午後の訓練が待ってる。考えたくない。
「きゅー」
「おー、フリード」
バサバサと羽音が聞こえたと思えば右肩に重み。見れば白い小竜が懐っこい声を出して擦り寄ってきた。この竜の名前はフリードリヒ。なんでも《召喚士》であるキャロのパートナーらしい。ペットではなく。
そういえば前に竜を欲しがった俺が、俺も召喚士になれるのかとか、どうやって竜と出会うんだとか訊いたら凄くキャロが困った顔をしていた。そんなに不思議なことを言ったのだろうか?
「きゅ?」
そんなことを考えながら首を撫でてあやしていたフリードが首を回す。つられてそちらを見ると同じくシャワーからあがったエリオの姿があった。例によって女子組が出てくるのはもう少し後だろう。特にスバルとキャロはいつもゆっくりだし。
今度はエリオにあやしてもらっているフリード。戯れる少年と小竜を横で眺めながら、良い機会だとずっと質問したかったことを思い切って訊いてみる。
「なあエリオ、なんでお前は軍人なんてやってるんだ?」
この疑問はこの世界にやってきてからずっとあった。なにもそれはエリオにだけ訊きたいことではない。キャロはもちろん、スバルやティア、なのはさんやはやてにしたってこの世界の軍人は皆若すぎる。この世界とは別の世界にいた俺だから感じる違和感。……いや、
エリオは少し考えるように間をあけて、やがて恥ずかしそうにはにかんで頬を掻く。
「えーと……フェイトさんのお手伝いをしたかったから。……ですかね?」
この少年にしては珍しくぼかした答え方だった。うーむ?
「フェイトさんってエリオやキャロの保護者なんだっけ?」
「はい」
エリオとキャロの後見人。そしてなのはさんやはやての幼馴染でもあるらしい。金髪ロングのべらぼうな美人さん。何度か見かけたことはあるがまだまともに喋ったことは無い。なんでも執務官という役職にあるらしく、忙しさから六課所属ではあるもののあまり顔は出せていないのだと聞いた。というかあんな神々しい美人相手にまともに喋れる気がしない。絶対キョドる。
「美人のお姉さんかー。羨ましいなぁ……。ん? 保護者ってことは母親になるのか? ま、どっちにしても羨ましいけど」
『どうなんでしょう?』と笑って受け答えるエリオ。
………………。
「エリオは普通に友達とかと遊びたいと思わないのか? 毎日訓練とか仕事ばっかで嫌にならねえ?」
「そんなこと――――」
「まったくない、ってことはないだろ?」
じっと見つめると、エリオは困ったように笑う。俺には信じられなかったのだ。これくらいの歳で働いているというだけでも驚きなのに、その仕事が軍人だということも。そんなことを好んでやっているということもまったくもって信じられない。遊びたくないはずが無い。だってそれが普通だから。
「嘘じゃないですよ」
フリードの顎を撫でながら穏やかな調子でエリオは答える。大人びた顔で語る。――――ああ、そうか。わかった。わかってしまった。俺はいつも感じていた。
「僕、昔は星を見たことがなかったんです。そこには誰もいなくて……本当に誰もいてくれませんでした。毎日が痛くて、辛くて、真っ暗な世界しかありませんでした。でもそんなときフェイトさんが助けてくれたんです」
フェイトさんの名前を出した時のエリオの顔はいつもとは違っていた。心底から嬉しそうなのだ。頬を赤らめて、歯を見せて笑う。子供らしい笑顔。
「フェイトさんは誰も信じようとしなかった僕に凄く優しくしてくれました。だから僕はフェイトさんの助けになりたいんです。あの暗闇から連れ出してくれた恩返しがしたい。それで僕もいつか、僕のような子供を助けてあげたいんです」
「エリオ」
「あ、フェイトさんだけじゃないんですよ? 保護施設の人達も優しくしてくれました。今だってスバルさんやティアナさん、キャロや、もちろんユキカゼさんもよくしてくれてます。だから僕は今のこの生活が大好きです」
『訓練は厳しいですけどね』なんて言いながらおどけて笑うエリオを見る。――――それが俺の限界だった。
「――――エリオッ!」
「は、はいっ!? って、うわあああぁぁぁあああ!!?」
俺はエリオの両脇に手を差し込んで持ち上げる。そのまま高く持ち上げて後頭部へ回して、エリオの両足をがっちりホールド。これでもうエリオは勝手に降りられない。肩車である。
「ちょ、ちょっとユキカゼさん!? は、は……恥ずかしいですよっ!」
後頭部からエリオの弱々しくも珍しく本気の抵抗を感じるが下ろさない。通り過ぎる職員達がこちらを見てクスクス微笑ましそうに笑って通り過ぎていくがそれでも下ろさない。下ろしてなんてやらない。
「エリオ、遠慮しなくっていいんだぞ?」
「え?」
その言葉が余程意外だったのか、抵抗を忘れてしまったかのようにエリオは硬直する。
「お前があまりにもしっかりしてたから気付けなかった。お前は『大人』になろうと必死だったんだな」
「………………」
そうだ。俺はきっと忘れていた。エリオは良く出来た子だ。年上の俺なんかよりずっとしっかりしてる。戦えば強いし、仕事だって十全にこなしてる。――――だから忘れていた。
俺がエリオのいつもの笑顔に感じる既視感。その正体は俺くらいの年齢から増える『作り笑い』だった。仲間はずれになりたくない。嫌われたくない。子供のときは考えもしなかった打算の付き合い。それが中高生辺りからぐっと増える。
別にそれが悪いとは言わない。成長する以上……大人になる以上……そういうのも必要だし、仕方がない。――――それでも、エリオくらいの年齢でそれを覚えるのは間違ってる。絶対に。
「多分、お前は色々大変だったんだと思う。『大変だった』その程度しか俺にはわかってやれないんだ」
さっきエリオが語ったことを、俺はほとんど理解出来なかった。もう一度詳しく聞いたってきっと理解出来ない。それは俺がこの世界に関する知識が足りないからとかじゃなくて……。当たり前に親がいて、学校に通って友達と馬鹿な話で盛り上がって笑ってた俺には想像すら出来ないものだと思うから。
でも、それとこれとは別じゃないか。
「俺もまだまだガキだけど、お前は俺よりずっと子供だ。泣きたきゃ泣いて、笑いたけりゃ目一杯笑えよ。我儘だって言っていいんだ」
「そんなこと……」
「大丈夫。そうしたって誰もお前のこと嫌いになったりしねえから」
「…………っ!!」
エリオの体がブルリと震えた。震えは止まらず、縋るように俺の頭を抱える。
きっとエリオは本当に嬉しかったんだと思う。フェイトさんやみんなが優しくしてくれることが。そんな当たり前のことをまるで奇跡かのように感じていた。だから失いたくなかったのだろう。だからエリオは嫌われることを恐れていたんだろう。
誰だって他人に嫌われたくはない。エリオの場合人一倍その想いが強かった。だから早く『大人』にならざるを得なかったのだ。なるべく迷惑をかけないように。困らせないように。嫌われたくないという一心で。必死に、必死に。子供らしからぬ『遠慮』が、エリオを聞き分けの良い『大人』にしてしまった。
「別に今が楽しいっていうお前の言葉が嘘だとは思わない。でも――――今が辛くないから。幸せだから……だからこれ以上の幸せを本当に望んでないのか?」
俺みたいな年上の奴よりキャロくらいの同年代の友達と遊びたくないのか。フェイトさんともっと一緒にいたくないのか。望んでないはずがない。望みが無いはずがない。
たしかにエリオは俺なんかよりずっとしっかりしてる。大人びてる。でもやっぱり、
「やっぱりお前はまだ10歳の子供なんだから」
「でも、そんなこと……」
「いや言葉が違うな。数年先、お前が俺くらいの歳になったとして、それでも俺達はお前を心配するぞ。フェイトさんもスバル達もみんなお前を心配する。別に子供だから心配してるんじゃない。お前が大切だから、今よりずっと幸せでいて欲しいからだ」
「………………」
「だからさ、嫌なら嫌って言ってくれ。欲しいものがあるなら欲しいって言えよ。――――お前はもっと俺達に甘えていいんだぞ?」
もうエリオからの返事はなかった。震えも止まらなかった。抱えるように頭にしがみつきながら、時折すすり泣く声が漏れている。我慢しなくていいって言ったのに意外と強情な奴だ。けれど、俺にはようやく今日初めてエリオが年相応の『子供』に見えた。
閲覧、感想ありがとうございます。
>たまに出てくる真面目回!
>これは作者的になのは作品を観て思ったことをそのまま書き出したことでもあります。なのはさん達はもちろん、みんな若いのに達観してるというかなんというか。子供らしい青臭さとか我儘って意外と作者は好きなのですよ。
>次回は初アラート……前の説明回で終わってしまうかも?
ではではー