アラクニド&パンツァー ~蜘蛛から戦車乗りになる話~   作:φζΩ

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更新が遅くなり大変申し訳ありません。おそらく今のようなペースが少し続くかと思います。
それとオリキャラが出ますが、アクセント程度のキャラなので深く気にせず見てください。


第3話 軽いので忘れてましたわ

「……ス、…リス!」

 

 意識がぼんやりとした中、藤井アリスは近くで誰かを呼ぶ声に気がついた。

 

「アリス!授業終わってるよ!早くご飯食べに行こ!」

 

 自分の名がハッキリと呼ばれてようやくアリスは自分が呼ばれていたことに気がついた。反応するために反射的に勢いよく椅子から立ち上がる。

 

「す、すみません!考え事してて…!」

 

「いーよ気にしなくて。それより寝てるところ悪かったな」

 

「い、いえ!寝てたわけでは…!」

 

 よく周りを見渡すと既に教室にはアリスを含め四人しかおらず、他の生徒は昼休みなので食堂へ行き今日の昼食を何にするか悩んでいる最中だった。

 

「ほら、早く行かないと!席無くなっちゃうよ!」

 

 四人の中で一番小柄なその少女はアリスの腕を掴み、急いで食堂へ向かおうとする。少女の名は宇佐美 実優(うさみ みゆ)。アリスが最初に教室に入った時、話をしていて担任に注意された生徒の一人だ。特徴的な名字のせいか周りからは『ウサミミ』と呼ばれている。情報を集めるのが好きでアリスとめぐみが転校してくることを他の生徒より早く知るほどで、様々な所から情報を貰っている。

 

「あ、待ってください宇佐美さん!財布は鞄の中なのでもう少し待ってください」

 

「もー!はやくー!」

 

「全く…少しは静かにしなさいウサミミ。次騒いだら蹴るわよ」

 

「うげぇ…、それ冗談だよね?女王の蹴りマジで痛いから勘弁してよ?」

 

 実優を簡単に静かにした彼女は釆女 王佳(うねめ おうか)。宇佐美と一緒に注意された生徒だ。四人の中で最も背が高く、くせっけが無くよく手入れされたその髪と堂々とした態度は正に『女王』に相応しいと言える。しかし、『女王』という渾名の由来には幾つかあり、「単純に名前が女王だから」「女王の様に高慢な態度をよくとるから」「実は元ヤンでその頃呼ばれていた」等とあるがどれが正解かは定かではない。

 

「マジにしたくなかったら黙っとくことね。蹴られたいんなら騒いでもいいけど」

 

「M扱いすんなやっ!実優は体張るようなタイプじゃないしっ!」

 

 二人のやり取りを横目で見つつ、アリスは鞄の底の方にあった財布を手にした。

 

「ありました、財布」

 

「よーし、それじゃ飯食いにいくか~。ほらウサミミ、女王、行くぞ」

 

 実優と王佳のちょっとした口喧嘩を収めた彼女はアリスの自己紹介で最初に反応した生徒であった。彼女の名は猫柳 千瀬弥(ねこやなぎ ちせや)。彼女はアリスと同じような体格だが、性格はかなり違った。先生をよく困らせるお調子者で特徴的なのが常に笑っていることだ。決して頭のネジが外れているわけではなく単に笑いの沸点が低いだけである。彼女は実優と王佳とつるんでおり、グループのリーダー的立場である。よく笑うことと、名前の千瀬弥から『チェシャ』と渾名をつけられた。

 

「いやーしかし、さっきのアリスのリアクションは面白かったなー」

 

「勢いよすぎよね、軍隊じゃあるまいし」

 

「すみません…。私、集中すると偶にああなってしまうんです…」

 

 千瀬弥と王佳の冗談を交えた軽口にアリスは真面目に深く受け止めた。

 

「そんな気にする必要ないじゃん!実優なんかうるさすぎってよく怒られるし!」

 

「それは完璧アンタが悪いからよウサミミ。まあそれはほっといて慣れない学園艦で疲れてるんじゃない?確かバイトもしてるんでしょ?」

 

「はい…そうです」

 

「アリスはさーマジメ過ぎるんだよ、何事も真剣にって感じがひしひしと伝わってくんのさ」

「少しは肩の荷降ろしてもいんじゃね」

 

「そう…ですかね…?」

 

「悩みがあったら何でも言ってね!恋ばなでもなんでもいいからさ!」

 

「はい、わかりました…」

(すみません…皆さん…)

 

 三人が自分を心配していることをアリスは嬉しく思ったが、同時に罪悪感も芽生えていた。

 

 

 アリスとめぐみが学園艦に転校してきてから二週間が経った。アリスは無事にクラスに溶け込み、めぐみは目論見通り嫌われ者になっていた。二人はバイト先の面接も合格し晴れて学生生活を送っていた。しかしアリスは今、一つの悩みを抱えている。

 それは『友達』であった。今までアリスには少ししか友達がおらず、その友達にも裏切られたため再び『友達』に関して思い悩んでいた。

 アリスはこれまでに幾度となく戦い、人も殺した。この事実がアリスの心中を駆け巡り、精神を蝕んでいた。いわば『組織』の残した置き土産である。

 

(私のような人殺しが…皆さんと仲良くできる筈がない…!)

 

 

 

 その日の夜、バイトを終えたアリスはめぐみに「話がある」とだけ伝え自分の部屋へと呼んだ。

 

「アリス様、お話とは一体…?」

 

「実は…その…沖さんに相談したいことがあるんです」

 

「そ、相談…!?それは私以外には話せないことですか…!?」

 

「…はい、今は沖さんにしか話せないことです…」

 

「……分かりましたわアリス様!なんでも話してください!」

(やった!やりましたわー!ようやくこの時が来ましたわ!ふふっ…!回りくどい『計画』を練った甲斐がありましたわー!!)

 

 めぐみの『計画』とは当然アリスを堕とすためのものだ。めぐみはこれまでに何度アリスにアタックしても成功しなかったことを糧にしていた。そのため敢えて自分からアリスと距離を取り、改めてアリスに自分の重要さを再認識させて堕とす方が得策と考えた。半ば無理矢理だったが離れることには成功し、今の状況を造り出せた。

 

(押して駄目なら引いてみろってやつですわー!『兜蟲』との『約束』なんか知ったこっちゃないですわ~!!後はちょっと優しさを見せれば堕ちるはず…!)

「さあアリス様!思う存分話してください!」

 

「…はい、ともだ―」

 

 アリスが話そうとした瞬間、

 

 

 ピンポーンっ

 とインターホンが鳴った。

 

「あれっ…?こんな時間に誰だろう…?」

「沖さん少し待っててください、すぐ終わると思うので」

 

 夜中の訪問者に疑問を感じつつアリスは玄関に向かった。

 

(ちっくしょーですわー!!良いところでしたのに~!!これで堕とせなかったら間違いなくコイツのせいですのー!!)

 

「え、どうして…ここに…!?」

 

 だがアリスの驚きにめぐみは異変を感じた。何かただ事ではないと経験から感づいたのだ。

 

「どうしました!アリス様!?」

 

「あら~ゴキちゃんもいたのね。丁度よかったわ、手間が省けて」

 

 先程までのめぐみの怒りは完全に消え、すぐに疑念へ変わった。アリス達の目の前にいたのは本来ここにいる筈のない人間だったのだ。

 

「…何でお前がここにいるんですの…?」

「『兜蟲』…!」

 

「別にここに来たのはついでよ。私は用事があってこの学園艦に来たの」

「それで…アリスの顔が暗いけどゴキちゃんまたやらかしたの?」

 

「な、なにもしてませんわ!というか邪魔しないでほしいですの、これから真剣な話をするんですわ」

 

「へぇ~。ねえアリス、私もその話混ざっていいかしたら?」

 

「え、私は大丈夫ですが…。『兜蟲』さんはいいんですか?その…ホテルとか…?」

 

「あーいいのよ、私ゴキちゃんの部屋に泊まるから」

 

「は…はああああ!!?」

 

『兜蟲』の急な提案にめぐみの心には再度怒りが芽生えた。

 

「ちょっと、五月蝿い」

 

「ふざけないでほしいですわ!いきなりやって来て私の部屋に泊まるなんて認めないですわ!なにせ私の部屋にはベッドが一つしかないですの!」

 

「床で寝ろ」

「さ、話してちょうだい。アリス」

 

 めぐみの怒りを歯牙にもかけず『兜蟲』は話を強引に進めた。

 その後、アリスは自分の抱えていた悩みをすべて話した。最初、予想していた話と違いめぐみはショックを受けていたが誰も気づかないまま話は進んでいた。

 

 そして、

 

「なるほど、要は負い目があるから友達と関わるのが怖いってことね」

 

「はい、そうです…」

 

「……」

(まさか私の『計画』がこんな方向に進むとは…。確実に失敗ですわー…)

 

「その…やっぱり無理ですよね?私なんかに普通の人と友達になるなんて…」

 

「なに言ってんのよ。できるに決まってるじゃない」

 

「……え?」

 

 予想してなかった『兜蟲』の返事にアリスは驚く。てっきり「無理」と返ってくると思っていたためその衝撃は大きかった。

 

「あんなに思い詰めてたから私としては「戦いたくなった」とかそこら辺の話かと思ってたわ」

「けどただのぼっち拗らせた悩みだったとはね…正直呆れたわ」

 

「そ、そんな簡単な話じゃないんですよ!」

 

「いや、これはそういった話ですわー…。アリス様はただ友達を作るのが怖いから人を殺したっていう言い訳を言ってるだけですの」

 

「え、いや…その…そんなはずは…」

 

 めぐみからも否定の意見を出されどう反論するか言葉を失ってしまった。

 

「いいアリス?アンタはこれまで周りからバカにされたり虐められてきたから正しい人間関係ってもんを知らないのよ」

 

「アリス様は友達を神格化し過ぎなんですわ。別にお互いを全部知る必要とか罪があるから関わっちゃいけないなんてことはいっっさいありませんわー」

 

「でも…私は生まれながらの殺人狂ですから…」

 

「それを言ったのは田嶋頼子でしょ?あの子の能力何だったかしら?」

 

「…思考を読み取ることです」

 

「そう、つまりアリス様の意思ではなくデコがアリス様を精神的に追い詰めるためにほざいただけですの」

 

 当然ながら『兜蟲』とめぐみの意見に根拠はない。本当はアリスは殺人狂なのかもしれない。しかし今に限ってそれは重要ではないのだ。アリスを少しでも真っ当な路へ進めるために強引ながらも説得する必要があった。

 なお、この試みは以前にもしておりその際は『感染者』に単身で挑んでいたアリスを止めるためにせめて仲間と行動するように説得した。

 今回は以前と違い事案も軽く、アリスの抵抗も弱いので難なく話を進めれた。

 

「それに進んで人殺しをしたわけでもなく、全部防衛じゃない。てかそんな事で悩んで友達作らなかったら『蜘蛛』があの世で悲しむわよ」

 

「『蜘蛛』…さん」

 

「そーですわアリス様。どうせ考え込むならポジティブに考えるべきですの」

 

「ポジティブに…!」

 

(よし!この調子ですわ!)

 

 アリスの顔に少しずつ影が失せ、声に力が宿り始めた。

 

「アリス、本当はアンタも友達といたいんでしょ?少しぐらいわがまま言ってもいいのよ」

 

「なら私をアリス様と同棲させてほしいですわ!」

 

「アンタのわがままはノーカンよ」

 

「……」

(わがまま…)

 

(さて、ここまで言ったんだ…。これで失敗したらただじゃおかないわよアリス…!)

 

 しばらくアリスは黙り込んだ。『兜蟲』が来て話をしてからもう一時間以上経っていたが、二人はそのことを気にせず自分の悩みに真剣に向き合ってくれた。

 

(…沖さん達が言ったことは全部合ってる。ただ私が人と関わるのに臆病になってたんだ。もしかしたら沖さんや田嶋さんと違い私を受け入れてくれないんじゃないかって)

(…いいや、千瀬弥さん達はもう受け入れていた。私があの人達を拒んでいただけだったんだ。自分から歩み寄らないといけなかったのに…!)

 

 アリスは立ち上がり、深く深呼吸をして心を落ち着かせる。

 

「沖さん、『兜蟲』さん。ありがとうございました」

 

 アリスの顔にはもう暗さはなく、明るい笑顔が二人に向けられていた。

 

「ふぅー、これで一件落着ね」

 

「悩みが解決してよかったですわねアリス様!」

 

「はい、お二人のおかげです!これでもう大丈夫です!」

 

「それじゃあ話も済んだことだしアリス、お風呂入ってもいいかしら?」

 

「ッ!!?」

 

「あ、いいですよ。冷えてると思うので暖め直してください」

 

「ちょっ、ちょっと!ズルいですわそんなの!?アリス様が入ったお風呂に入るだなんて傲慢にもほどがありますわ!?」

 

「何言ってんのよ。誰もがアンタみたいに変態じゃないの。私は疲れてるからさっさと入って寝るとするわ」

「あ、そうそう。言い忘れてたことがあったわ」

 

「…?何ですか?」

 

「実はね…」

 

 

「続々と目を覚まし始めたわ。ワクチンを受けた元『感染者』達」

 

 

「『感染者』って…あの『軍隊蟻』のやつらですの!?」

 

「本当なんですか!?どうしてその事を先に言わなかったんですか!?」

 

「アンタの悩み相談があったからでしょ、話は風呂入ったあとでね」

 

 唐突な衝撃的な情報にアリスとめぐみはパニック状態を起こした。

 

 

 元々パンデミック事態は数万人規模に広まったが一ヶ月以上前に収まり『軍隊蟻』によって造られた『感染者』達はワクチンによって回復していった。しかし、症状は止まったもののその殆どが目を覚まさなかった。意識を失っているだけで死んでいるわけではない。植物状態に近い病状だったのだ。

 だがここ数日のうちに今まで全く反応しなかった患者達が急激に目を覚まし始めた。おそらくはワクチンが長い時間をかけて『軍隊蟻』の体液を打ち消したことで完全に意識を取り戻したとみられる。

 ただ、それでも後遺症が残った。生殖機能が活動しなくなったのだ。また感染する以前の記憶も消えていた。この問題に対し、日本の医学界はもちろん海外からも多くの協力者が募った。これにより集中して研究し国際的な面でも邪魔の入らない学園艦での研究が目をつけられた。

 日本の学園艦には廃校にはなったものの手入れすれば研究するには問題ない規模の学園艦が幾つか存在するので文部科学省はその管理に加え、事情をろくに知らない上層部の圧力により学園艦統廃合も進めなければならなくなり近年稀にみる大騒動となった。

 当然今の彼女達には関係ない話だ。『今の彼女達には』だが…

 

 

 

 その翌日…

 

「まったく『兜蟲』のクソアマには腹が立ちますわ」

 

 めぐみは8時20分に部屋を出た。普段は遅刻しても一切気にしない彼女だったが、『兜蟲』に遅刻したら罰を与えると言われ、しかも普段なら作らない朝食まで作らされた結果この時間となった。

 この事にめぐみは文句を言ったが

「足速いから大丈夫よゴキちゃんなら」

 と答えにならない返事が帰ってきた。

 

「久しぶりに時間に間に合いそうですわ。これであのダサいおかっぱが私に文句を言うことはないですわね」

「って何ですのあれ!?」

 

 急いで学校へ向かってるとめぐみは奇妙な少女と出会った。小さな体でふらふらとよろけつつも歩いている少女はこのままのペースだと間違いなく遅刻するだろう。

 

「一体何ですのアナタ?どうやら同じ制服だから高校生のようですが?」

 

「…私に構うな。誰だか知らないがアンタまで遅刻するぞ…」

 

「…構うなと言われると逆に構いたくなりますわー。すぐ着くのでしっかりと掴まっててほしいですの」

 

 小柄な少女はめぐみに簡単に持ち上げられ、お姫様抱っこの状態になった。

 

「や、やめろ!高校生にもなってこれは恥ずかしい!」

 

「おや、アナタの嫌がる顔も中々に良いですわね。それではレッツゴーですわー!」

 

「は、速いぃ!降ろせぇ!」

 

「嫌ですわ!学校まで絶対に降ろさないですわー!」

 

 賑わう通学路の中めぐみの全速力と麻子の悲鳴が響きながら無事に5分前に学校へ着いた。

 

「余裕でしたわ~。あとはあのうるさいおかっぱに見つからなければ…」

 

「いいから降ろせ!周りに見られてるぞ!」

 

「ああ、軽いので忘れてましたわ。はいどうぞ」

 

 羞恥心により顔を真っ赤にした麻子を降ろしたとき、遠くから喧騒が聞こえた。

 

「いい加減やめなさいよ部活勧誘は!もう時期は終わってるのよ!」

 

「でもやらなければ部員が入らないんですよ!!」

 

 片方の声にはいつも因縁があるせいか、めぐみと麻子はすぐに気づき「またそど子か」と内心呆れていた。

 しかし、もう片方は聞き覚えがないのでめぐみは少し興味を持った。麻子は関わるのは面倒だと思い、教室へ向かう。

 

「私は冷泉麻子だ、この恩と恥はいつか必ず返す」

 

「沖めぐみですの、その時を楽しみに待ってますわ」

 

 お互い名乗り、それぞれ別の方向へ進んだ。

 

「おはようございますわ~そど子。今日も喧しいですわね~」

 

「私はそど子じゃないわ!…って沖さんじゃない!?」

「マジメに学校に来るなんて、ようやく自分が間違っていたことに気づいたのね!」

 

「バカを言うのも程々にしてほしいですわねー。ところでアナタが口論してたのはコイツらですの?」

 

 めぐみの前にはバレーのユニフォームを着た十人ほどの集団だった。彼女達の手には『新入部員募集』のプラカードがあり、めぐみは大体を察した。どうやら期間外に部員募集しているから風紀委員に注意されているのだ。

 

(なるほど、大しておもしろくなさそうですわね)

 

 状況を理解したため興味が失せ、麻子と同様に教室へ行こうとした。

 

「すいません!ちょっといいですか!」

 

 すると後ろから先程の声の主が現れた。しかし後ろを振り向いても自分を呼んだ者はいない。

 

「下です!目線を下に!」

 

 顔をしたへ向けると先程見た麻子よりも小柄な少女が満面の笑みでめぐみを見ていた。

 

「…なんですの?」

 

「バレー!興味ありませんか!?」

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