アラクニド&パンツァー ~蜘蛛から戦車乗りになる話~   作:φζΩ

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更新が大変遅くなりまして申し訳ありません。今後はもう少し早く投稿出来るように心がけていきたいです。


第4話 もっと素直に言えないの!?

 沖めぐみは目の前の少女を見て様々な考えが同時に頭に浮かび困惑していた。『バレー部だというのに何故こんなに小さいのか?』、『何故一人だけユニフォームではなく体操服なのか?』、『それよりも遅刻の問題は大丈夫だろうか?』等と考えていたが最初に出てきた言葉は本人すら予想していないものだった。

 

「…バ、バイトがあるので、ぶ、部活をやってる時間は、その…無いですの」

 

 ボソボソと妙にぎこちない喋り方にめぐみ自身が驚いていた。いつもなら軽い嫌味で返答し、相手が嫌がる反応を楽しむ筈だが今の彼女にはその様子は一切見えなかった。

 そしてめぐみの異変に問題を起こす度いつも口論をしていたみどり子も気付き、めぐみの意外な返事に困惑していた。

 

(普段の沖さんらしくないわ…!私が注意してる時はあんな萎れた表情なんか絶対見せないのに…!…ハッ!)

「沖さん!あなた体調でも悪いの!?」

 

「わ…わかりませんわ…!私自身なんでこんなに動揺してるのか分かんないですの!」

 

 先程まで人を抱えながら全速力で走っていた相手にする質問ではなかったが、その矛盾した質問に突っ込む余裕さえめぐみには無い。それほどまでに二人は驚きを隠せていなかった。

 

「あのっ大丈夫ですか!?もしよかったら保健室まで連れていきますが!」

 

「うっ…!」

(こ、この目ですわ…!この汚れを一切知らない純粋無垢な目を見てると心がざわつきますわ…!)

 

「そ、そうだわ!先生には私の方から言っておくから少し横になってなさい!」

 

 結局めぐみは名も知らぬ少女に連れられ保健室へと行くことになった。その際他のバレー部員も場の雰囲気を読み、各自が各々の教室へと戻っていった。

 結果的に見ればバレー部のしつこい勧誘や学校に来る度面倒事を抱えてくるめぐみが大人しく去っていったのは、風紀委員としては喜ぶべき事だがみどり子は違和感を感じていた。

 

(どうして私や先生方と違いあんな反応を見せたのかしら…?いつもと違いすぎてビックリしちゃったわ。それに今日沖さんが冷泉さんを抱えてきて来たらしいし…)

「あーもう!ワケわかんないわよ!」

 

「わっ!いきなり大きな声出さないでよそど子」

 

「ワケわかんないのはこっちの方…」

 

「あ、ご…ごめん」

 

 みどり子の急な大声に後輩の後藤モヨ子と今春希美は驚きつつも文句で返す。

 

(とにかく!これ以上厄介な事態にはならないでほしいわ!)

 

 

 

「さて、保健室に来たものの…先生が見当たらないですね」

 

「そう…ですわね」

 

 めぐみは少女に引っ張られ保健室に来たが中には誰もいなかった。

 

「一応体温計とかで測った方がいいですよね?ちょっと探すので待っててください」

 

「いや、いいですわ。ベッドで横になるのであなたはもう教室に行ってください」

 

 めぐみは早くこの少女と離れたかった。理由は分からないが彼女に見つめられると落ち着かないのだ。

 

「いいえ、もし悪化したら大変です!無事か分かるまでは私があなたの看病をします!」

 

「は…はぁ!?そ、そんな必要ありませんわ!さっさと教室に戻るんですの!」

 

「大丈夫です!根性でなんとかしてみせます!なので私に任せてください!」

 

(ダメだ…コイツ聞く耳持たないですの…というか根性ってなんですの…?)

 

 少女は善意で行動していたが、むしろめぐみにとっては余計に辛く感じた。

 

「体温計ありました、どうぞ!」

 

 めぐみは椅子に座り渡された体温計を脇に挟む。

 

「一応ありがとうですわ…ところであなた、名前聞いてなかったですわね。私は沖めぐみですの」

 

「沖めぐみさんですか!私は磯辺典子です!どうぞこれからよろしくお願いします!」

 

「ええ、こちらこそ…ってこれから?」

 

「え、だって部活に入れば…」

 

「バイトがあるから私は入らないって言ったハズですわ!あなた覚えが悪いんですの!?」

 

「そ、そうだったんですか…声が小さかったので聞こえてませんでした。ごめんなさい」

 

 最初は典子に圧倒されてためぐみだったが、徐々に慣れてきたのか遠慮なく話せるようになった。

 

「まったく…困った人ですわ~。それと私の名前に聞き覚えがないんですの?」

 

「えーと…確かにそう言われればどこかで聞いたような…」

 

(あ、これ知らないパターンですわね。まあいいですわ)

「知らないなら知らないで結構。それより磯辺さん、あなた何年生ですの?」

 

「1年生ですが…どうかしましたか?」

 

「まさか…いえ、道理で…ではなく同級生だったんですわね」

 

 正直小学生と言っても通じる身長のため心の中で『実はあの場にいたバレー部員の誰かの妹ではないのか』と思っていた。しかし、流石にそれを素直に言うのはマズイとめぐみらしくない考えが頭にあった。

 

(やっぱり妙ですわね…いつもならハッキリ言うのに…)

 

「へぇ同じ学年だったんだ。あれ、でも確か風紀委員長と普通に喋ってた気が…?」

 

(…おや?)

 

 同級生と分かり、敬語を止めた典子にめぐみは一つ気づいた。

 

(コイツ…他人との距離感がかなり近いヤツですわ…これまでの人生でこんな部類の人間とは全然関わらなかったからおそらくそれで苦手意識を感じてるんですわね…)

 

「あのー、聞こえてる?もしかして答えたくなかった?」

 

「あ、ああ。単純に年上だろうと気を遣うのが嫌いなだけですの」

 

「そうなんだ…それじゃ何で敬語で喋ってるの?」

 

「これはただの癖ですのよ。気にする必要はありませんわ」

 

 二人が会話を交わしていると、体温計からピピッと鳴った。画面には36.6℃と表示され平熱だと確認すると典子はホッとしていた。

 

「熱はないみたいだね、もしかしたら疲れが溜まってたんじゃない?バイトしてるって言ってたし」

 

「あー…そうですわねー多分そうですわー」

(これでようやく用は済んだしコイツはここから離れますわね…やっと落ち着けますわ。授業はそど子がなんとかしてくれるらしいし、今日はここで寝ることに決めましたわー)

 

「なんか…すごい棒読みじゃない?」

 

「そんなことないですわよー」

 

「やっぱりそうだよ!」

 

 会話を無理矢理終わらせようとするが露骨すぎて失敗してしまった。

 

「はぁ…もうこの際だからハッキリ言いますわ。あなたと居ると落ち着かないんですの。だから早く教室に行ってほしいですわ」

 

「…!そう…なんだ、わかった…」

 

 悲しげな表情を見せた典子はそのままドアへと向かう。あまり他人に強く拒絶されたことが無かったためか大分ショックを受けているようにめぐみは感じた。

 

(…これが正しいんですわ。これがいつもの私ですの)

 

「それじゃ、さよなら…」

 

「……」

「やっぱりちょっと待ってほしいですわ」

 

「…なに?」

 

「…もう授業始まってるので今更行ってもどーせ無駄ですわ。それに一人だと退屈なので話し相手がほしいですわねー」

 

「…はははっ!何その言い方、もっと素直に言えないの!?」

 

「う、うるさいですわ!このひねくれ具合が私らしさなんですの!いいからこっちに来るんですわ!」

 

「ふふっ、はーい!」

 

 顔を赤らめて恥ずかしがっているめぐみを見て典子はいつも通りの明るさを取り戻した。めぐみはその顔を見て少し安心したが、気のせいだと考え心を落ち着かせた。

 その後、二人はお互いが所属してるクラスやバレー部の部員が足りてないこと、めぐみがついこの間転校してきたことまで話した。ちなみに話の最中典子が何度もバレー部に勧誘し、その度めぐみは絶対に入らないと拒否した。

 

 

 

(沖さん…朝は大丈夫だったのかな…?)

 

 めぐみ達とは違いちゃんと授業に出ていたアリスは昨日の一悶着を気にしていた。『兜蟲』が突然来訪してめぐみの部屋に泊まり、その事にめぐみは昨日『兜蟲』がいないところで散々愚痴を溢していたため非常に心配であった。

 

「じゃあここの問題を…藤井さん」

 

(授業終わったら会いに行こうかな…?…いや、でも沖さん確か学校では話さないようにって言っていたし…どうしよう…!?)

 

「藤井さん?あの、この問題を前に出て解いてほしいんだけど…」

 

(あっ、電話とかメールならいいか!次の休み時間のうちに連絡しよう!)

 

「藤井さーん。返事をしてくださーい」

 

(いや、やっぱりダメだ!楽な方に済ませようとしている!ちゃんと会って話をして確認しないと!でも直接は会えないし…)

 

「藤井さーーん!!もしもーし!」

 

 

 先天性集中力過剰(C.E.C.)により深く考え込んでいるアリスには先生の声は届いていなかった。周囲の千瀬弥達がフォローをしてようやくアリスは自分が問題を当てられた事に気付き急いで前に行き問題に取り組んだ。

 

 

「いやーまさかついに先生を無視するとはねぇ」

 

「そ、そんなつもりはなかったんです!」

 

「でも見事だったわよ。私達が揺さぶってやっと気付いてたし」

 

「アリス!程々にしないと先生達に目付けられちゃうよ!」

 

 授業が終わり休み時間。先程の失態を千瀬弥達は早速からかっている。

 

「もう勘弁してください!皆さんだけじゃなく他の人にまでからかわれて恥ずかしかったんですから…!」

 

「そりゃ仕方ないよ。だってマジメ系かと思ったら実優達みたいなのとつるんでるし、さっきみたいによくボーッとしたりするせいで周りから面白い人って思われてるからさ」

 

「達って…ウチはまともだろ」

 

「ないない、てかチェシャが私達の中じゃ一番変だから」

 

「たしかにー。一理あるかも」

 

「なっ!?それはおかしいって!アリスもそう思うよな!」

 

(この流れは…!…以前までは私が冗談とか言ったら失礼だと思ってたけど…昨日の相談を糧に…ここは勇気を持って!)

「…その質問はちょっと答えられないですね」

 

 これまでアリスは無難な返事ばかりしていたが、笑みを交えつつ初めて冗談で返してみた。

 

「ちょっ!?アリスお前までそっちの味方かよ!」

 

「おー!アリスがボケた!」

 

「珍しい…というか初めてじゃない?アリスが冗談言うの」

 

「その調子でもっとチェシャをイジってやれー!」

 

(…やった!)

 

 慣れないことに周りも驚くがすんなりと受け入れ、試みが成功したのでアリスは見られないように拳をグッと握った。

 

「待て待て!イジる流れが変わったぞ!元々アリスだったじゃん!」

 

「仕方ないわ、認めなさいチェシャ」

 

「そうです、女王さんの言うとおりですよ」

 

「言うわねアリス、あとようやくニックネームで呼んでくれたわね」

 

「はい、遅くなりましたがもう大丈夫です!」

 

 実はアリスは渾名に抵抗感を感じていた。『蜘蛛』から『名前を決して失ってはいけない』との教えがありこれまでは名前で呼んでいたが、冗談を言えた勢いか渾名で自然と呼べるようになった。前は友達に対して後ろ向きだった分、これからは前向きに進んでいこうとアリスの心は少しずつ変わっていた。

 

「ノリよくなったねー!ん、あそこにいるのは…ちょっとごめん!」

 

 会話の最中、実優が廊下をふと見ると突然外へ出た。廊下には四人の奇抜な格好をした生徒が教室の前を歩いていた。その四人に実優は絡みにいったのだ。

 

「…あの人達すごい格好ですね。マフラーやジャケット、ハチマキまで着けてる人がいますよ」

 

「アリスは初めて見るのね。彼女達結構目立つのよ」

 

「歴史好きなんだっけ?それで好きな偉人に憧れて真似てるんだとさ」

 

「へぇー…色んな人がいるんですね、この学校には。…ウサミミさんはあの人達と知り合いなんですか?」

 

「確か必修選択科目が一緒のハズよ。面白そうだから話してみたら仲良くなったって言ってたわ」

 

 改めて実優の方へ視線を向けると見事に四人と溶け込んでる実優の姿があった。

 所々声が聞こえるが『カエサル』や『エルヴィン』、『左衛門佐』等のフレーズが聞こえ唯一ちゃんと分かるのは『おりょう』位だった。

 

(おりょうって…坂本龍馬の妻だった人だったっけ?他のはよく分からない…)

 

「よくあの集団の会話に混ざれるわねー。あの子バカで歴史とか全然知らないのに」

 

「適当に相づち打ってるだけじゃねーの?もしくはウサミミのレベルに合わせて話してるとか」

 

「ウサミミさんは自分のペースに持っていくのが得意ですから上手に立ち回ってそうですが…」

 

「お、戻ってきたぞあのバカ」

 

 教室のドアを閉めウサミミは元いた場所に戻った。

 

「おまたー、何話してたの?」

 

「あなたがあの子達の会話にどうやって混ざってるのか考えてただけよ」

 

「あーなるほどね。確かに彼女達が喋ってるの難しいんだよねー」

 

「なんだ、多少は理解してんだな」

 

「ぜんぜん!ちんぷんかんぷんだよ!」

 

「…じゃあどうやって会話についてくんですか?」

 

「んーとね…人の話がよく多いんだけどそんときはその人がなにやったか聞くようにしてるよ」

 

「何でまたそんなこと聞くんだ?」

 

「そしたら待ってましたと言わんばかりに語んのさ。その自信満々に説明してる顔が良い表情なんだよねー」

 

「内容は分かんなくても相手の表情で満足って…」

 

「さっきの話…一番変わってるのはウサミミさんですね」

 

「だな」

 

「そんなー!!」

 

 その後、めぐみからメールが届いた。内容は『兜蟲』は朝帰ったからもう心配はいらないとのこと。アリスは授業中の不安が晴れたのに一安心してから次の授業の準備をした。

 

 

 

「はぁー…面倒ですわ…」

 

 時間は二時間目に当たる頃、めぐみは教室で授業を受けていた。サボる予定だったが典子に半ば強制的に保健室から教室に連れてかれたのだ。

 

(『組織』で粗方教育されてたので退屈ですわねー。それに周りの視線も微妙ですし)

 

 めぐみはこの学校ではめぐみの思う問題児として過ごしており、成功はしたがクラスではあまり嫌悪の目では見られなかった。それよりも畏怖の視線が多かったのだ。

 

(私はビビられたいんじゃなくて、嫌われたいんですの。そして嫌う相手を完膚なきまでに潰すのがいいんですわ。なのにこのままじゃアリス様を落とせず嗜好も満たせずで踏んだり蹴ったりですわー!)

 

 この事態は正にめぐみの自業自得としか言えない状況だった。だかその事と典子の前での異変に彼女は少々イラついてた。

 

「…散歩でもしますか」

 

 小声でそう呟くとめぐみは立ち上がり、廊下へ出ようとした。

 

「おい沖めぐみ!授業中だぞ、早く席に戻れ!!」

 

 もちろんその行為に教師は注意する。但しこの行為は初めてではなく、これまでにも頻繁に行われたので教師側も意味があると思ってはいないでやっている。

 

「…つまんない授業聞くよりは外歩いてる方がましですわ。気が向いたら戻ってきますの」

 

 教師に振り向き用件を伝えるとドアを開けて廊下に出た。めぐみがいなくなると教室は一気にざわつく。クラスメイトの中にはめぐみがいなくなったことに喜んでいる者が多かった。

 

「あーやっといなくなった」

「アイツいると無駄に空気重いからホント勘弁だわ」

「もう戻ってこなくていいっつーの」

 

 めぐみがいない今、どんどん彼女への文句が湧いていった。めぐみは嫌われてはいたがそれは本人には伝わってはいなかったのだ。

 しかし、

 

「あ、忘れてましたわ」

 

 すぐにめぐみは戻ってきた。

 

(えっ!うそっ!?)

(もしかして今の聞かれてた…!?)

(聞かれてませんよーに…!)

 

「財布を忘れてましたわ。私としたことがうっかりでしたわ」

 

(よかった…!)

(聞かれてない…!)

 

 文句が聞かれていなかったことに生徒達は安心する。めぐみは自分の机へと行き、かけてあるカバンから財布を取り出した。

 

「これでよし。それじゃ行きますわー」

 

 改めて廊下へ向かう。だがめぐみはドアの傍で立ち止まった。

 

「それと」

「悪口を言うならせめているときに言って欲しいですわねー」

 

 そう言ってめぐみは教室から立ち去った。この発言は直接言われた方が良いといったつもりのメッセージでもありクラスメイト達に警告と捉えさせる二つの意味を持っていた。しかし生徒達は全員前者の意図をくみ取ることは出来ず、文句がバレていたことに怯えるばかりだった。

 

(な、なんて恐ろしい方でしょう…!やっぱり私の高校生活はもう終わりなんでしょうかー!)

 

 めぐみの隣の席である秋山優花里は文句は言っていないがめぐみの傍若無人ぶりに恐怖していた。

 

 

「授業を抜け出したものの…することないですわねー」

 

 暇潰しになるようなものを探していたが授業中のため当然そんなものは無かった。校内を巡るのを早々に諦め、めぐみは外を散策することを決めた。

 

「次なるアリス様を堕とす作戦を考えなくてはなりませんわね…しかし良いアイディアが全く浮かびませんわー」

 

 誰もいないので独り言を呟き歩く。だが口に出して考えを纏めようとしても妙案は思い浮かばない。

 そして次第にめぐみは大洗学園が保有している山林地域にまで足を運んでいた。流石に歩きすぎたと思い引き返す。

 

「こんなとこでやれるのは鬼ごっこ位ですわね…またもやうっかりしてましたわ」

「…ん?」

 

 しかしめぐみは足を止めた。どこかから気配を感じたのだ。うっそうと木が何本も生えているため人影は見当たらない。

 

「ですが、私の前では姿を隠したところで無意味ですわ。私の『風読み』(エアディテクション)で居場所はすぐに分かりますのよ」

 

 めぐみには『風読み』という空気の流れを読む力が備わっている。これにより誰がどこに潜んでいるかを気流の乱れで察知したり、相手の動きを先回りして攻撃することができる。

 

(どうやら右後方の木が怪しいですわね…まさかこんな学校に私を付け狙うような輩がいたとは…少々驚きですわ)

「鬼ごっこではなくかくれんぼがお望みだったとは、でも生憎こちらの方が私得意なんですわ」

 

 警戒して近寄るが気流の変化はない。相手は全く動いていなかった。

 

(なめてますわね…!こうなったら!)

 

 めぐみは一気に相手に詰め寄る。遂に相手との距離は木を挟んだ僅かな距離だった。それでも変化は一切ない。

 

「っち!この!」

「…って、あら?」

 

「…なんだ?何であんたがここにいる?」

 

 我慢できずに回り込むとそこには寝転がっている麻子の姿だった。さっきまで寝ていたがどうやらめぐみの声に起こされたようだ。

 

「なんだ、冷泉さんでしたのね。警戒して損でしたわ」

 

「だから質問に答えてくれ」

 

「ただの散歩ですわ~。あなたこそ何でここに?」

 

「見ての通り寝てるんだ。この時間はどうも眠くてな…ここだと心地よく眠れるんだ…」

 

 軽くあくびをして眠そうな瞼をごしごしと擦る。

 

「…朝から変わった人だとは思ってましたが、あなたかなり変人ですわね」

 

「沖さんには言われたくないな。話を聞く限りまともじゃないようだし」

 

「あら~噂でも聞いたのかしら?」

 

「それもあるが…今日の朝、教室に入ったら皆から心配されたんだ。『酷いことされなかったか』とか、『金は盗まれなかったか』とか色々聞かれたんだ」

 

「おお、やはり女子というのは連絡網が素早いですわね」

 

「終いには『犯されなかったか』なんて聞かれたぞ。よくそこまで話が飛躍したなと驚いた」

 

「げっ、私いつの間にそんな手を出しやすい女と思われてるんですの?勘弁してほしいですわ~」

 

「…だが朝や今話して改めて噂とは全然違うと思った。とても『先生を視線だけで殺した』女とは思えん」

 

「…なんですのそれ!?」

 

 めぐみは自分の噂を少しは知っていた。『20対1のケンカに勝った』、『生徒会や風紀委員、先生達の弱味を握っている』、『放課後はオヤジ狩りをしている』等といった根も葉もない噂を聞いてきたが麻子の噂は聞いたことが無かった。

 

「転校する前の学校でやったと思われてるようだ。聞いた瞬間嘘だと分かったがな」

 

「そんなん嘘に決まってますわー!その噂流したヤツ発想スゴすぎですわよ!」

 

「結局噂は全部嘘なのか?」

 

「私が聞くのは嘘ばっかですわね。全てデマと思っていいですわよ」

 

「…だろうな。『沖めぐみはレズ』なんていうしょうもない噂ばかりだからそうだろうと思ってたが…」

 

「えっ、どこで知られた…?」

 

 麻子の話を遮って出た言葉は噂を事実と認めるものだった。

 

「…おい、まさか…?」

 

「…はぁーっ、冷泉さんを騙せるとは思いませんから特別に言いますわ。単に今まで私が惚れた相手が女性だけだっただけですのよ」

 

「なるほど…ってそれで済むわけないだろ、マジで本当なのか?」

 

「要は半分正解ってとこですわ。しかし一体誰がその噂を…」

 

「…一つ聞く。私は違うよな?」

 

「ん?ああ…その心配をしてたんですわね。心配ご無用ですわ、あなたを『頂く』つもりはありませんの」

(まあこれで納得はしないでしょうね、おそらくは同姓愛者である私を蔑むでしょう。これで久々にあの視線を感じれますわ。は~嫌われ者で…)

 

「なるほど、分かった。じゃあ私は寝る。」

 

「はっ!?それで終わりですの!?」

 

 期待してた返事をせず、眠りに入ろうとした麻子にめぐみは思わず腕を掴んでしまった。

 

「なんだ…もう話は終わりじゃないのか…?」

 

「いや、その…話を聞こうとしないんですの?」

 

「確かに最初は驚いてしまったが…そういう話はあまり深く聞くもんじゃないだろ。それとも聞いてほしいのか」

 

「そーいうわけじゃなくてっ、もっとびっくりするかと…!」

 

「したら失礼だろ。沖さんが傷付くだろうからな」

 

(うー…!予想を反して良いヤツすぎますわ…!困りますわねー)

 

「用は済んだな。じゃおやすみ」

 

「…ちょっと待ってほしいですの!」

 

 再度麻子の腕を掴む。一度目はともかく二度目には流石に麻子もムッとした。

 

「しつこいぞ、次はなんだ?」

 

「…私の性癖は冷泉さんとだけの秘密にしていただきたいですわ」

 

「それぐらいなら構わん」

 

「それと私もここで寝ますわ」

 

「…それも構わん」

 

 麻子の隣で横になっているめぐみは今日生じた出来事に違和感を感じていた。どことなく相手を気遣ったり見下す発言を避けたりするなどらしくないと考えていた。

 そしてめぐみはふと思う。

 

(まさか…昨日のアリス様の話を聞いて私も友達をつくろうと…!?)

 

 それが正しい答えかは誰にも分からない。だが今の彼女にはそれ以上に適切な回答は想像つかなかった。

 蜚蠊は環境に適応する生物。沖めぐみ、彼女もまた大洗学園艦に適応しようとしているのかもしれない。

 この日はアリス、めぐみの両名にとって大きく変わった日だと言えるだろう。それが良いことか、悪いことかは別として…。

 

 

 

 その日の夜、文部科学省にてある男が一枚の手紙を読んでいた。その男の名は辻 廉太。『文部科学省学園艦教育局長』の肩書を持ち、現在彼は維持費のかかる学園艦の廃統合、そして学園艦の施設を研究施設へ改装し、パンデミックから復帰して後遺症が残った人へのワクチンを創る計画を同時進行しており疲弊するほど仕事に勤しんでいた。

そんな彼だが手紙を読み終えると疲れが飛び、満足していた。

 

「ふふ…藤井アリスは大洗学園にいるのか…!」




これにてアリス達の一年生編は終わりとします。次回からはアリス達が二年生になってからのお話です。ここまでの話はこれでアリス達も学園艦に混ざれたかなと思いながら書いてました。
あとようやく次からみほが出てきます。戦車も多分出ます…!
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