第八問:次の日本語を英訳せよ。
「三角形」
姫路「triangle」
教師のコメント:正解です。
美波「hexagon」
教師のコメント:某クイズバラエティ番組の影響ですか? それだと六角形になってしまいますよ。
美鈴「snjioxing」
教師のコメント:それは中国語の三角形です。
パチュリー「私と魔理沙とクソ人形遣いのような形」
教師のコメント:それは恋の三角関係です。それと、問題にもあるように英語で記述するように、このような見逃しは結構ありがちなので注意しましょう。
明久「ピラミッド」
教師のコメント:色々言いたいことがあるので後で職員室に解答用紙を持って来てください。
ウチたちはあれから玄爺さんから色々今に至るまでの長いようで短い話を淡々と聞いていた。
「なるほど、では玄爺さんは博麗神社の横の池にひっそりと住んでいた。しかし、暇に暇を重ねて散歩しているとチルノたちに凍らされた、ということですね」
「その通り、幻想郷も昔と大分違っていた……」
玄爺は明後日の方向に視線を向け、懐かしげに語る。
「ただの散歩が一瞬の命取りになるなど、私もまだまだ未熟者。しかしご主人様は大層ご立派になられて、私は嬉しいです」
「ご主人様?」
この亀誰かに飼われているのね……。
でもご主人様――博麗 霊夢だっけ? って呼ばせるところが趣味悪そう。
「昔の霊夢さんって、そんな人だったんですね……」
美鈴も自分で納得といった表情でコクコクとしている。
「あの……美鈴?」
「はい、なんですか?」
「霊夢とかチルノとか、さっきから誰の話をしてるの?」
いい加減おいてかれるのも嫌になってきたし、この………幻想郷だったかしら、もよく知らないと。
「あ、それはですね――」
シュッ!(ナイフが美鈴を掠る音)
「なにこんなとこで油売ってるのかしらぁ?」
あれは……咲夜!?
なんか、後ろに怒りのオーラフルオープンさせてるけど……。
「咲夜! もう平気なの?」
「ご心配をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」
こちらにくるりと向けた咲夜の表情は先程の怒りに満ちたどす黒いオーラを発していなかった。
「いいのよ、ウチなんかより咲夜を運んだメイドたちに言って頂戴」
「島田さん……」
「え、咲夜さん何かあったんですか!?」
ウチたちの会話を聞いて何かを察知した美鈴。
どうやら心配をしているようだ。
「そんなことはどうでもいいの。門番が屋敷内に居るということは何か大変なことが起きたということよ、ネ?」
その時の咲夜の顔は笑っているが目が完全にヤる気満々だった。
「えぁ、ええ! そうナンデス! 実はですね、亀を持って――っていない!?」
あ、いつの間にか玄爺さんがいなくなってる!
年寄りの勘ってやつかしら、お爺さんなのに動きは早いのね。
「亀が……なんだって?」
「い、いや! その、私……寝ぼけてたみたいです!!」
ついに自ら墓穴を掘ったァ!
「………美鈴」
「はいぃ!」
もう今の美鈴は蛇に睨まれた蛙のように怯えていた。
「………そこを動かないで、ナイフを一万――」
「さよならっ!」
あ、逃げた。
「――かける一億本っと、ナイフの後片付けが大変ね~」
死体(になる予定?)よりも彼女にとってナイフの片づけの方が大変なのね……。
その後、美鈴は咲夜の能力を使われて呆気なくお仕置きされたらしい。
ウチに説明してくれたのはこれだけだけど、関節を折ろうとしても無事なくらいな人がそう簡単にやられちゃうのか……ナイフって恐いわね。
「さ、行きましょうか」
「え?」
「そろそろ外は夜を迎えようとしています」
窓の外を見ると一段と真っ赤な太陽が今日の役目を終え、明日の朝の準備へと沈んでいくところだった。
「夜はお嬢様が本気を出せる絶好の時間……」
「吸血鬼だもんね」
「よろしければお付き合い願いませんか?」
「別にいいわよ」
なにをするのか分からないけどウチは咲夜について行くことにした。
多分レミリアのところに連れてってくれるんだろうけど……あの騒ぎの後だし、なにかがある気がする。
――――☆――――☆――――☆
「着きました」
「………ん?」
扉を開けたその先にはウチの予想を遥かに超えた修羅場が目に映った。
「うーうー☆」
「はいはい、分かりましたよ……ねー咲夜さーん! 何時まで私に子守を「うーい☆」え、ちょ、イタ、血吸うな!」
あれは、さっき派手に館に侵入してきた新聞記者よね……。
レミリアにお馬さんごっこしてもらって、完全に遊ばれてるわ、あれ。
「その割には随分楽しそうだけど?」
「これは一方通行に私が遊ばれて「うー!」フギャ!」
レミリアの見事なジャンプからのダイブが決まった。
良く飛ぶわねー家1件越えたんじゃない?
「し、島田さん……たす……け「うる☆とら☆うー!」ガクッ」
いい新聞記者だったわ。
死因は子守って……そう思うと笑いが……ププ。
「勝手に殺さないで下さい!」
さ、流石にしぶといわね……。
「そうですよ島田さん、勝手に殺しては供養ができません」
「咲夜さん……」
「『ちゃんと』、殺さないとネ☆」
「紅魔館、恐るべし……(ガクッ)」
「うー?」
再び新聞記者は永い眠りについたのであった。
――――☆――――☆――――☆
「というわけで、文の代わりに小守をお願いしたく、此処まで連れてきた訳です」
「ウチが吸血鬼の小守!?」
無理無理無理!
ただの子供ならいけるけど妖怪の幼児(?)なんてどうやって……。
「大丈夫ですよ、ちょっと変わった園児だと思えばかわいいものです。ほら、今だってオモチャで普通の子供のように遊んで――」
「咲夜、鼻血」
フキフキ……
「し、失礼、しかし夜なので島田さんが眠たくなる頃にまた様子を見に来ますので、それではよろしくお願いします」
「ん~……」
確かに、最初に会った頃とは雰囲気どころか容姿すら変わって見えるけど……って! いつのまにかいなくなってる!?
「また能力とやらで……はぁ」
「………うー?」
「あ……」
いつの間にかレミリアがウチの足元でスカートの裾を引っ張ってる。
「遊んでほしいの……?」
「うっうー☆」
「うー以外喋れないの?」
「うー!!」
ダメみたいね……どこからどう見ても羽が生えて八重歯が吸血鬼をさらに強調させてるだけのただの幼児……そう思うだけの簡単なお仕事プラス遊べばいい。
いつも葉月と一緒に遊んでいるようにすれば――
――葉月?
そうだわ……ウチってばなにをしてるのかしら!
葉月!!
葉月は今頃何してるの!!
きっと泣いてさびしがってる!
ウチが行方不明扱いなんかになって……。
今すぐ帰らないと!!
「その心配はございません」
「――ッ!!誰!?」
不意に聞こえる謎の声。
誰かなんて見当もつかないけど。
「私は紫様の式神、八雲 藍という者です」
そう名乗る彼女は大きな九本もの尻尾をゆったりと動かしたり、時々止めたりしながら自己紹介を終える。
「アンタ、ウチの邪魔をするつもり!?」
「私の今の役目、それは島田美波に――」
「うるさいッ!」
声を一段と荒く叫び、部屋中に響かせる。
そして一刻も早く葉月に会うため足が動いていた。
「あ、待って! 話を聞いて下さい!!」
藍と名乗る狐みたいなやつがウチの腕を尻尾でくるくると巻き、逃げ出せないようにした。
「離して! ウチは妹を、葉月の元に帰らなきゃいけないの!」
ウチってばこんな時までなにを呑気に遊んでたのかしら!
ほんっと、ウチのバカ!!なのに、この狐はァ!
「邪魔しないで!」
「はぁ……いいですか、この状態で話しますが、あなたの妹もここに来ています」
「…………………え?」
今……なんて言ったの?
衝撃的な証言に唖然、呆然とする。
「葉月が……え?」
「いいですか、落ち着いて下さい。私はそれを伝えるためにわざわざやってきたんです」
「それで! 葉月は今ここのどこに!?」
「今あなたの妹は吉井明久という外来人と共に過ごしています」
アキ………。
焦りと緊迫と極度の不安により満たされた心はいとも簡単にこぼれていった。
代わりに温かな安らぎの雫で心は注がれていった。
「ふぅ……では、御武運を」
そう言い残すと狐はウチの腕を開放してくれた。
サッ(藍が何かの体制に入る音)
ビューン(帰るため飛んでいく音)
ガシャーン(咲夜が直した窓硝子のとこをまた割られる音)
「待てやオラァ!!!」
うわっ! 咲夜!?いつの間に……ってもうそのフレーズはいっか。
すごい剣幕で狐を追いかけ飛んでったわね……結局、なんだったのかしら……あの狐。
「……………」
気持ちが不安定だからいったん整理をしましょう。
兎に角、葉月はアキと一緒に今いるのよね。
だったら安心、きっと何とかしてくれてる。
だからウチは今出来ることをしなくっちゃ!
「……うぅ」
「え!?」
「うーー!!」
あぁハイハイ、構ってほしいのね。
「それじゃ……この十字架で遊ぼっか」
「うー☆」
園児と言うより赤ちゃんね。
……あれ? 吸血鬼って十字架とかニンニクとか苦手って聞いたことがあるけど平気なのかしら。
「……う!」
「あイタ! なにするのよ!」
いきなりオモチャをウチの顔に投げてきた。
結構痛いんですけど。
「……うぅううー!!」
「今度はなに!?」
お次は泣き出しちゃった……。
「ほ、ほら泣かないで! どうしたらいいのかしら……」
レミリアは泣き止まないし、はっきり言ってもうお手上げだわ。
「うぅうううう!!」
更に泣き声がエスカレートしていき、耳の鼓膜が破れそう……この悪魔のような吸血鬼をなんとかするには……!
「……どうやら、本気を出すしかなさそうね」
ほんとはこんなことしたくないんだけど……今、この場でレミリアを泣き止ませることが出来る人間はたった一人だしね!
「レミリア!」
「……う?」
よし、こっちに注目している今がチャンス!
ウチの眠っている全ての力を賭けて!!
――――☆――――☆――――☆
「………ん……あれ?」
「あ、起きましたか?」
あれ? 咲夜?
なんでそんな心配そうな顔してるの?
「よかった……一体何が起きたんですか?」
「昨日は……ッウ!」
「島田さん!!無理に喋らない方がいいのでは……」
「そ、そうさせてもらうわ……」
思い出したくない。
ウチが昨日何があったのか、脳が拒絶して思いだそうとしても無理。
確かレミリアの子守りをしていて……泣きやませようとウチは何かしたんだけど……ダメ、やっぱり思い出せない。
「島田さん立てますか?」
「えぇ、それくらいは大丈夫」
咲夜の心配をよそにウチはサッと立って見せる。
「だ、大丈夫なんですか?」
「平気よ、どこかケガをしてるとかじゃないから」
体が痛いんじゃなくて、心が痛い気がする……。
「そうですか……実はパチュリー様から伝言がありまして」
「伝言?」
「はい、『目を覚ましたら図書館に来てくれないかしら、渡したい物が出来たの』とのことでした」
渡したいものって言うと、召喚が自由にできるとかそういう系かしら。
もらえる物はもらっとかないとね。
「分かったわ、ありがと」
「お気をつけて」
このとき、ウチはもう少し慎重に行動した方が良かったのかもしれない。
まさか、同じ悲劇が二度起ころうとはこの時は誰も予知出来なかった。
「待っていたわ」
ウチは咲夜から伝言を聞き地下の図書館にもう一度やってきた。
「昨日は私の親友が迷惑をかけたみたいでごめんなさい」
「い、いや、ウチはなんともないから謝られても困るわ」
というよりあんまり覚えてないからどう返事していいやら……。
「それなら良かった、では本題に入らせてもらうわ」
パチュリーがごそごそと本の山から探している。
これも違う、あれも違うと言った感じで次々とハズレをポイポイとその場に捨て投げる。
え、扱い雑じゃない?
「あ、あったあった」
そしてパチュリーが取り出したものは黒く腕輪らしき形をしていた。
「これを使えばあなたたちの式神がいつでも呼び出せるはずだわ」
そういってパチュリーは黒い腕輪をウチに差し出す。
「ありがと! 早速使ってみてもいい?」
「いいわよ」
「それじゃ試しに、試獣召喚(サモン)ッ!」
ウチは貰って直ぐに装着し、早速試してみた。
ポンッ(美波の召喚獣が呼び出される音)
「「………ん?」」
そこにいたのは昨日出した召喚獣とは明らかに容姿が違っていた。
見た目は縦長に細く、その姿はまるでぬり――
バタンッ!
「あ、ちょっと!!」
イヤァァアアアアアアアアアアア!!!
『……………?』
『あ、パチュリー様、どうかされたんですか? 修学旅行のバスに忘れられた生徒のような顔をして……』
『分かりづらいし、微妙に違うわ』
『え、じゃあなんですか?』
『魔女が豆鉄砲食らったような顔よ』
『そうですか……それで、なんでパチュリー様はそのような顔を?』
『………多分失敗したのね、咲夜に実験台になってもらいたかったのだけれど窓硝子が割れた途端に行っちゃったし……』
『そんな状態のままでよく島田さんを呼びましたね……人間ってあんなに早く走れるものなんだって教わるくらいのスピードで図書館から出て行きましたよ?』
『大体は自信があったからね……うまくいかなかったらかったでまだ時間があるし』
『そうですね、まだ……昼過ぎですもんね』
――――☆――――☆――――☆
「もうイヤ……帰りたい」
島田は昨日の出来ごとを全て思い出した。
彼女は決死の覚悟で自らのトラウマである「ぬりかべ」を使いあやしたのだった。
その行為は自滅といっても等しいが、相手は500歳以上も生きている妖怪……平常心ではなかったのだろう。
「こうなったら……!」
決めた!
『この館から今、飛び出す!!』
さて、そう決めたからにはまず、自分の部屋に帰らないと。
メイド服も綺麗に畳んで、制服に着替えないとね。
咲夜とかにはお世話になってもらっといて勝手に行くのはちょっと気が引けるけど……そこはあの人に伝言でも頼もう。
パチュリーのことはもういいわ! あとは自分の力でアキたちと合流するんだから!
そう心に決めた思いを胸にウチはこの館から出る支度をした。
少女脱出中...
「……ん? 何かしら……」
門にたどり着くとそこには知り合いの二人が何か話しているようだった。
「もぉ~なんで寝ててくれないんですかぁ!」
あれは……昨日の新聞記者ね。
相手を見つけるとウチは死角へと隠れた。
あの鳥生きてたのね……ほんとにしぶといわ。
「私は決めたんです!!お客様がいる間はぜぇ~ったい寝ないって! それが門番の本来在るはず姿なんです!」
「だ~か~ら~それだと記事にならないんです!」
「そんなの私じゃなくても他にいるじゃないですか!」
「いや! アナタしかいないのです! この文々。新聞の一面を飾るために、是非ともアナタの間抜け面を――」
「お断りします!!」
す、すごいぶつかり合いね……今の内にこっそり抜けて――。
「あ! 島田美波様ぁ~!」
しまった! 新聞記者がウチに抱きつこうと飛んでくる。
それをさらりと避けきれるわけもなく、あっさりと確保されてしまった。
「あれ? 美波さんどうしたんですか? それに服装もこの前と同じですし」
ついでに美鈴にも気付かれちゃったじゃない!
まっ、気付かれたら気付かれたでいっか。
こういうのは前向きに考えた方が上手くいくはずよ。
「さ、今日こそ取材させてもらいますよ~! 島田さんは貴重なネタの宝庫なんですから!」
「残念だけど、ウチはあんたなんか相手にしてる暇はないの!」
「その強気なところがまたレアな感じがします! これは何としてでもメモしなければ!」
ダメだわこの記者、早く何とかしないと……。
「島田さん」
この場にいないはずの者の声がウチを呼ぶ。
こんな芸当が出来るのは一人しか知らない。
「勝手な行動は慎んで下さい」
「咲夜……」
美波の後ろには紅魔館の玄関で呼びとめた咲夜がいた。
「お嬢様の許しも得ないで一人でどこに行かれるつもりなんですか?」
正直、今一番会いたくなかった人物に見つかってしまった。
「べ、別にいいでしょ! ウチは決めたの! アキたちのところに戻るって」
美鈴と射命丸が沈黙の中、ウチと咲夜だけが話を交える。
「……勝手に抜けるつもりのようですが、お嬢様には全てお見通しですよ」
「そうなの、じゃあ別にいいわよね?」
こうして見つかった以上、まだウチをここから出す訳にはいかないだろう。
そんなことを胸に秘め、反抗する気持ちで刺先を向けるように相手を見る。
「島田さんがいなくなるのは寂しいですが、途中まで美鈴が同行させる、と仰っていました」
「「え!?」」
ウチと美鈴が同時に驚く。
あれ、咲夜ってウチを止めに来たんじゃなかったの?
「いいんですか!?門番である私がいなくなっても」
美鈴も急な展開に焦っているようだ。
「代わりに小悪魔辺りにやらせるから、あなたは島田さんの護衛をしっかりしなさい」
「わ、分かりました!」
「咲夜……」
咲夜はウチを止めるどころか、それを応援する形として送ってくれるんだ。
それなのにウチは勘違いして……。
「?」
「色々ありがと! お嬢様にも言っといて!」
「かしこまりました。お気をつけて」
最後に咲夜はペコリと頭を下げ、中へと入っていった。
「では、私たちも行きましょうか」
美鈴が先に門から出て行く。
「そうね、これからよろしく頼むわ」
「お任せ下さい! 門を守る者としてあなたの命もお守り致します!!」
美鈴って、情熱的というか、勢いがあるというか、そんなところが一緒にいて楽しく思える。
「うん!」
「よし! では出発しましょう!」
こうして、ウチと美鈴は紅魔館を出たのだった。
――――☆――――☆――――☆
『………よろしかったのですか?』
『構わないわ、元より彼女は迷い込んだネズミ……一匹減ったところで清々したわ』
『そうですか……』
『それより、例の件はどうなっているの?』
『今から例の件についての手筈をパチュリー様と行います』
『頼んだわ。私の所為でとんだ番狂わせをさせてしまったわね、あとで謝らないと』
『私からパチュリー様にお伝えして参りましょうか?』
『直接言った方が効果覿面らしいから咲夜はそっちをお願い』
『承知しました』
『………行ってしまったわね
これがあの娘の気持ちだったのかしら……
私は姉として失格ね……ふふ、何故かしら、笑みが零れるなんて……
あとは、どうなることやら……』
――――☆――――☆――――☆
「ところで美鈴、どこに向かってるの?」
館を出て数十分、森の中を歩きながら談話でもしながら歩く。
そういえば目的地を聞いてなかったことに気付いたウチは聞いてみることにした。
「射命丸さんの情報によると人里の寺子屋を目指せばいいらしいですよ」
あの新聞記者か……あ! そういえばいなくなってたわね……まぁいっか。
「あ! 門番じゃない!」
ウチたちを呼び止めた声のする方向を見るとそこには小さな子供がこっちに走ってくる。
「お、チルノじゃないか」
チルノっていうと、げんじいさんを凍らせたっていうあの?
青い服で青い髪で、水色の羽根……青い子ね。
「さむっ!」
「む、失礼ね! って、あんただれ?」
なんだろ、この子が来てから急に寒いような。
「チルノは氷の妖精なので、近くにいると気温が下がるみたいですね」
「そ、そうなの……」
この季節にこれは冷えるわね。
ウチは思わず身体を温めようと震えを抑えようとする。
「め、美鈴は大丈夫なの?」
「私は毎日外にいますから、慣れてます」
あ、門番だもんね……冬でも中に入れてもらえないなんて……不憫ね。
「あ、そうそう! 中国!」
「私の名前は紅 美鈴です! さっきまで門番って呼んでたじゃない!」
「そうだっけ? まぁいいや」
「……チルノだから、仕方ないかな」
………中国?
「それで、私に何か用があったんじゃないですか?」
美鈴が話を進める。
「おぉ! そうだった! あのね、かくれ――」
チルノが無邪気に言葉を走らせようとした刹那、美鈴が何かを感じ取りいち早く行動する。
「!!!」
ッガ!!
「「!!?」」
え、何があったの?
「っく、美波さん! 大丈夫ですか!?」
「え、えぇ……」
「門番! どうした!」
「チルノ、どうやら敵がいるみたいです」
「ふ~ん、だったらあたいに任せ――」
………ケ……
「そこか!」
先程からウチの前で行われてる出来ごとに脳がついていけない。
今、美鈴は誰かと闘っているみたいだけど……。
美鈴は気配のする方へとクナイのような形をした弾幕を放った。
「ん? いない……?」
「ちょっと! 話聞いてるの!?」
チルノは美鈴とは違ってこの緊迫した中でも先程と変わらずにいる。
「チルノも気をつけて、結構早い!」
「だったらあたいが凍らせてあげる! 敵はどこ?」
「わ、分からない……」
ウチは美鈴に声をかけてみる。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫です! あなたは私が守ります!」
「う、うん……」
…………ン!
「!! そこね!」
チルノが声のした方へ向けて狙いを定めて衝撃波のようなものを飛ばした。
それに触れた草むらが一瞬で氷漬けにされていく。
キーン!
「あたった! これでやつはカッキンコッチンよ!」
チルノの言うとおりだったらいいけど……。
しかし、
「ケケケ……」
「「んな!!」」
敵はその攻撃を受けても氷漬けどころか、無傷でいた。
「あなたは誰です!」
ようやく姿が見えた。
しかし、黒服で上手く顔とか見えない。
あれも妖怪なの? 美鈴のような人型だけど……。
「オ……エ……ツ……タ……」
奴が何か発言したと思えばこちらに勢いよく向かってきた。
「は、早い!」
それを美鈴が受け止める。
「ここらじゃ見ない妖怪だな、何者だ!」
「こいつ、あたいの技を受けたくせになんでこんなに動けるのよ!」
チルノが再び攻めるが敵は後ろに下がり避ける。
「むきーっ! こら! 動くな!」
「それは無茶があるような……ん?」
「どうしたの?」
美鈴が何かに気付いたのか一旦動作を止める。
「いえ、なんでもありません……」
敵はその様子を見ているだけだった。
いや、何かがおかしい。
「ケケ……ミ……タ……ネエ………!!!」
「っ!!!」
「美波さん!」
敵は今度はウチに向かって猛スピードで突進をする。
ぶつかる寸前で美鈴が庇ってくれた。
「こいつ一体なんなのよ……」
さっきから何言ってんのか全然聞こえないし、人っぽいけど動き的にありえない。
高速で突進したり、退避したり……これがここ、幻想郷?
「ケケーッ!」
「ぐふ!」
「美鈴!!」
「門番!」
ウチが色々考えているときに美鈴に敵の技が直撃したようだ。
こんなときにウチはなにぼけっとつったってんのよ!
「コイツ……やはり……チルノ!」
「なによ、急に血相変えて」
「美波さんを今すぐここから遠ざけてくれ!」
「んな! ダメよ! あんたを置いてくなんて!」
「いえ、コイツは美波さん、あなたを狙っているようです」
「え? なんで……」
「分かりません。何か禍々しい力を感じます」
あいつが……ウチを?
「ケケケ……」
敵が手を空へ掲げると鎌がどこからともなく出現する。
そしてそれを受け取ると強い力で空を切った。
するとこちらに刃のような衝撃波が全てを切り裂く勢いで向かってくる。
「ハァァっ!!!」
「ダメよ! 真っ二つになる!」
美鈴がまたもやウチを庇うために敵の斬撃を受け止める大勢に入る。
でも、あんなのどうやって……。
「ほら! 逃げるよ!」
急にチルノがウチの手を引くとそのまま美鈴と離れられる。
「美鈴!!」
チルノの逃げるスピードが早く、あっという間に美鈴が見えなくなってしまった。
『すみません、最後まで一緒にいてあげられなくて……』
「ふぅ、ここまで来たらあんたいね!」
チルノに手を引っ張られ、森の中を逃げ走る。
「………美鈴」
大丈夫かな……思ったより苦戦してたみたいだし、やられてなかったらいいんだけど。
「あんた!」
美鈴の心配をしてるとチルノが仁王立ちでウチを呼ぶ。
「名前なんだっけ?」
「あ、そうだったわね。 ウチは島田 美波」
「みなみね! 迷ったときにあんたがいれば便利そう!」
「ん? なんで?」
「南って北の真逆って大ちゃんが言ってた!」
「それって方角じゃないの。 びの美と、なみの波で美波よ」
「へぇ~」
こうして喋ると子供らしいなって思わず和んでしまう。
それに、どこか似ている……。
「なによ、あたいの顔をじっと見て」
「ううん、なんでもないわ」
しかし、これからどうしよう……美鈴の無事は祈るしかないとして、もうすぐ日が沈んでしまう。
それまでには寺子屋に着かないとかなりヤバイ。
「あ、もう暗くなってきたわね! あんたはこれからどうすんの?」
「人里の寺子屋に行きたいんだけど……場所分かる?」
「分かるよ! だってあたい天才だもん!」
「そう、なら案内頼めるかしら」
するとチルノはその場をくるくると動き始める。
子供独特の考える仕草のようだが、これはこれで見ていて飽きないなと思った。
「ん~……どうしようかな……」
どうやら迷っているようだ。
もうすぐ夕暮れ、氷の妖精といえど子供なのだから自分の家へと帰らなければ行けない。
時々止まったと思えばじっくり考え、またその場をウロウロする。
「ふぅ……ここらで少し休憩でも……」
「「あ!」」
「おぉ! 島田殿に……あ」
「あれ! 亀! なんで凍ってないのよ!」
そこに現れたのは逃げた玄爺だった。
まだこんなところにいたのね、亀だから遅いのかな?
「ちょちょちょ、待って! 私を凍らせないで!」
「うるさーい! そこを動くなよ! またカッチコッチにしてやるんだから!」
「はい、そこまで」
「ちょっと、何するのよ!」
ウチはこれ以上無意味な殺生を防ぐためにチルノを止めた。
「話があるんだけど、いい?」
「なんです?」
「むぅ……」
玄爺に聞きたいことがあるのも理由の一つ。
ここで凍らされては話が聞けなくなり、困る。
「あなたはウチを乗せて飛べる?」
咲夜、美鈴、パチュリー、そしてチルノ。
ここに住む人、妖はみな特殊な能力を持っていた。
ならこの亀なら、浦島に出てきた亀みたいに飛べるんじゃないかと推測してみた。
「えぇ、お安い御用ですよ」
「よかったぁ!」
「えぇー! せっかくだからかき氷にでもしたかったのに……」
「それは不味いから止めておきなさい」
ていうか、この時期にかき氷って、季節感ゼロ?
「さぁさぁ、乗ってください。私に出来ることでしたらなんでも致します」
「ありがと、じゃあ早速」
ウチは少し浮いている玄爺の甲羅の上へ落ちないように乗っかる。
「じゃああたいは帰る! 今度会ったらかくれんぼの刑だからね!」
そう言うとチルノは小さな六枚の氷の羽根をぱたぱたと動かし自分の家へと帰って行った。
「ふぅ……あの氷精とはもう二度と会いたくないです」
「あの子も悪い子じゃないから、許してあげて」
ウチをここまで避難させてくれたしね。
あの子も子供なのよ……だからきっと大丈夫。
………多分。
「そうですか……まぁ、私も自分の住処に帰るところでしたし、もう二度と会うことはないでしょう」
「そうなの?」
「えぇ、とりあえず人里でしたね、向かいましょうか」
「お願い!」
彼女を乗せた博麗の亀は目的地の人間の里へ飛び立つ。
ここからそう遠くもない、彼女たちの無事は保証されたようなもの。
しかし、そう簡単に事が進む訳でもなかった。
「わぁ、爽快ね」
亀で年老いてるみたいだし、飛ぶ速さはゆっくりだが空からの眺めがなんとも絶景。
こうして地を離れ自由にしていることすら感動ものね。
さっき美鈴と離れた方向には静かで生い茂っている木々が見えるだけだった。
勝負が終わったのか、まだ続いているのかはっきりとは分からない。
けど、今はウチのするべきことを遂行するのみ。
無事寺子屋に着いて見せるわ!
「さて、少し話でもしませんか?」
玄爺がウチを乗せながら会話をしようと言いだした。
「そうね……だったらここについて聞かせてくれる?」
「幻想郷ですか? 私の知ってることでしたらいくらでも」
「ほんと? あなたなんでも知ってそうで助かったわ」
「いえいえ、昔と今では変わりましたから、私の知識が通用するかどうか」
「きっと大丈夫よ。 とりあえず、元の世界に帰れる方法でも教えてくれる?」
「ふむ、やはりあなたは最近よく見かける外来人なのですな」
「その外来人ってなんなの?」
「外来人というのは幻想郷に連れてこられた人々のことを幻想郷に住む人、妖怪、神様などが使う呼び名みたいなものですかな」
つまり日本人が外国に行くと外国人と呼ばれるみたいなもんね。
「主に妖怪の賢者と呼ばれる一人『八雲 紫』によって連れてこられる場合が多いようですな」
八雲というと、ウチと瑞希と土屋と会ったあの人か。
「この幻想郷を管理している妖怪の中でも最上級に値する大妖怪……故にそう簡単に見つけ出せないかと……」
「つまり神出鬼没なのね」
「よく御主人のところにやってくるのを見かけますが、この時期になると眠られるのでもっと難しいかと」
「眠る? 冬眠でもするの?」
「えぇ、冬になると休みを取るらしくその間は式神の『八雲 藍』と『橙』の二匹が偵察しているようです」
へぇ、ここってそういう風に出来ているのね。
でも、管理してるって割にはあんな凶暴な妖怪を放置しているなんて、信用できないわ。
「幻想郷に住む者にとっては『桃源郷』と言っても過言でもありませんね」
桃源郷ねぇ……一般人のウチからしたら結構物騒よ、ここ。
「おっと、話が逸れてしまいましたな。つまり八雲紫を探さなければあなた様は帰ることは難しいでしょう」
なるほど、しかしどこに住んでいつ顔を出すかわ分からないやつをどうやって……。
「見えました、あれが人里――人間の里です」
日は沈みかけ、少し暗くなってきたけど何とか間に合いそうね。
「ありがと、おかげで皆と会えそう」
「それはよかった。では私はここで」
そう言うと玄爺は空へと飛んで行ってしまった。
「さて、色々あったけどやっと会えるのね……」
葉月とアキ……元気かな。
拍子抜けしてたらウチが闘魂注入してあげよっと。
寺子屋の場所は玄爺に教えてもらったから迷うことはない。
距離も遠くないし、すぐに出会えるだろう。
――――☆――――☆――――☆
そうこう考えながら道を歩いていくと寺子屋らしき建物が見える位置まで辿りついた。
しかし、あの新聞記者の言うことを信じてもいいものか。
もしかしたらからかっているだけかもしれない。
いまいちつかめない奴だったしなぁ……。
「ここでごちゃごちゃ考えてても仕方ないわね」
満天の星空の下に、一人の少女が胸を躍らせながら寺子屋へと向かおうとしたそのとき、人影がうっすらと見える。
誰かはよく見えなかったがどうやら先客のようだ。
ウチはその様子を見ていることにした。
すると中から吉井明久が顔を出したのが見える。
「……アキ!」
ウチは今すぐその場へ向かいたくなった。
嬉しい気持ちが抑えきれなくなったのだ。
しかし、青天の霹靂、突然雨でも降り出しそうな曇り空がどこからともなく夜空を覆いつくす。
今にもその雲は水滴が降ってきそうな様子だった。
無数の星空も、月も、人里を明るく照らす源が隠され、眩しい夜は暗い夜となる。。
「………え?」
そんな……嘘よ、嘘に決まってる。
せっかく会えたのに……ウチはここにいるのに……。
「………!!」
そんなことも気にせず、島田は一人夜の人里に姿を消した。
時は戻り、美波と玄爺が人里に無事に到着し、寺子屋へと向かう途中の話。
「はーい、今行きまーす!」
僕(吉井明久)は晩御飯を皆で作ろうとしていたんだけどお客さんが来たみたいなので慌てて駆け寄る。
ガラガラ(明久が寺子屋の木戸を開ける音)
「あら、明久じゃない」
そこにいたのは以前僕を助けてくれた霊夢だった。
「霊夢じゃないか! 久しぶり!」
「まだ三日しか経ってないわよ……」
僕と霊夢が玄関の前で立ち話をしているとその声に誘われ、興味が沸いたのか玄関内に集まってきた。
「お、あんたが博麗霊夢か」
「………霊夢さん」
「どれどれ、ワシにも見せてくれぬか?」
順番に雄二、ムッツリーニ、そして秀吉と霊夢に一目会いたいと言わんばかりに集まってきた。
「へぇ、結構集まったんじゃない? あんたたち」
「おかげ様でね。紹介しようか?」
「いいわ、私も疲れてんのよ」
「へ? 何かしてたの?」
「その何かが終わったから慧音に報告しようと思っただけよ」
「なるほど、でも今慧音先生は休んでるから僕が伝言を聞き入れるよ」
「そう? なら助かるわ。その用件って言うのは――」
霊夢が僕に言うためにわざわざ近くに寄って来た。
まるで恋人同士が互いに唇を重ねるように。
そんなことしなくても、僕の耳はちゃんと聞こえるんだけど……。
「お前の耳までバカ扱いされてるんじゃねーか?」
「五月蝿い雄二、聞こえないじゃないか」
「っへ」
全く、僕をどこまでバカにすれば気が済むんだ。
さてと、霊夢の話も聞かないとね。
「それで、なに?」
「あーはいはい、今から言うからちゃんと慧音に伝えてね」
「分かったよ」
「それじゃ――」
霊夢が改めて僕に近づく。
ッタ!
「……ん?」
今、何か音がした気が……。
「……あのね、バカに付き合う時間はないのよ」
「あ、ごめんごめん、ちゃんと聞くよ」
「たかがこれだけなのに……早く寝たいだけなのに……」
「なによ……なによなによナニヨ!!!」
あんなの! ひどすぎるじゃない! ウチが……やっとの思いでここまでたどり着けたって言うのに……それなのに……。
「あんなバカ! もう知らない!」
外は真っ暗闇な夜。
街灯などないこの人里では、外の世界と同じ明るさではなく、まさにそれは闇。
よく目を凝らさなければまともに見えないだろう。
そんな中、一人の少女の怒りと悲しみに混じった感情を声に出し、叫びながら走っていく。
「バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!」
あんなバカ! 死ねばいいのよ! あんな……バカ……。
「……ッ! なんでウチ、泣いてんのよ……」
別に、ウチが殺されそうにもなってないのに……どうして……。
なんで涙なんて出るのよ!
「もうわけわかんない……ウチ、これからどうしよ……」
こんなことになるのなら、一生紅魔館で過ごしていればよかった。
こんなことになるのなら、亀なんて助けるんじゃなかった。
こんなことになるのなら――
「ウチなんて、死ねばよかった」
「誰だよ、さっきから僕のことを何度もバカ呼ばわりして」
「え…………?」
もう人生に絶望を感じかけた矢先、どこからか声が聞こえる。
「僕だよ、美波」
その声の主は文月学園二年Fクラスの教室で毎日必ず聞いていた大事な声だった。
「……………」
「ど、どうしたのさ、せっかく会えたのに……」
「……………」
「………?」
なんで……このバカがこんなところに……いるのよ。
「なんで……」
「……え? なに? せっかく会えたんだからもっとよろこ――」
「なんでウチなんか追って来たのよ!!!」
もう……どうでもよかったのに……。
アキのことなんか……もうどうでもよかったのに……。
「み、美波……?」
「あんたの所為よ!!あんたがあんなことするから!!」
「え!?な、なんで怒って――」
「五月蝿い!!バカ!!!」
「んな!!さっきも言ってたけど、僕をなんどもバカ呼ばわりは止めてほしい!」
「ハァ? バカにバカって言って何が悪いのよ!!」
「だから! 僕はバカじゃなく、ただちょっと本気を出していな――」
「黙れェェェ!!!!」
深淵の中で虚しく響く言霊。
それは彼女自身を追い詰めてるだけにすぎない、まさしく愚の骨頂。
「あんたはいつもそう……人の気もしらないで……そうやって、瑞希とか、他の女の子とへらへらして……少しは考えてよ!!」
「……………」
「分かってるんでしょ!?ほんとは……ウチがどれくらい真剣に悩んでいたのか……想像くらいつくでしょ!!?」
言葉で暴力していると思わせる程、それは泣きながら一方的に殴るように乱暴に放っていた。
「……………ごめん」
あ…………。
アキからこぼれ出た三文字の言葉。
いつもと違う……アキ。
あれは本気で落ち込んでるアキだ。
「ごめんで済むか! バカ!」
ウチはこの暴走を制御できなくなっていた。
も、もうアキも反省してるんだし……。
分かってる、分かりたいのに……!
「もう! 一生ウチに近づかないで!」
やめて………これ以上は……そこまで、ウチとアキの関係は壊したくない……。
「ウチは、もう二度と戻らないから!!」
それはダメ……一緒に、皆で一緒に文月学園に戻って、また試召戦争して……Aクラスに勝つ。
そんな平凡な毎日の中で起こるちょっとしたトラブル。
そのトラブルも混じって、ウチはあんな毎日が大好き。
なのに今……ウチが……こうやってアキを苦しめてる。
止めなくちゃ……。
「それじゃ! BYE!!」
ウチはアキにそう吐き捨て、背を向けた。
そして、再び深淵へと戻ろうとする。
二度と……誰も入っては来れないような深い深い闇の底へと。
「美波!」
なによ……今更どうこう言ったって……なにも……
ガバッ!
「………………え?」
「ごめん……美波」
アキがウチを呼び止めようと言った言葉。
それを無視したウチはアキが……後ろから……そっと優しく……
なぜだか……心の底からウチの不要物が取り除かれていく……。
夜は気温も下がるので少女の体は緩慢と冷えていたが、その様子はまるでなくなっていた。
同時に今まで曇っていた空が徐々に晴れて月やお星様が顔を覗かせる。
(あっ……た……かい……)
「ごめん……僕を探しに来てくれたんだね……心配してくれたんだよね……バカでも分かるよ、それくらい。ただ、少し時間がかかったんだ」
「……………」
「こうして会えたのも、美波が必死に探してくれてたんだよね……ありがと。僕がこんなところに連れてこられた所為で、辛い思いをさせてしまった」
優しい声……。
優しい言葉……。
優しい人……。
いままでに起きた
苦しみ
悲しみ
怒り
全てが……ウチの中で消えていく……。
ウチはそっとアキの手を握り締めた。
「ほんとにごめん……葉月ちゃんまで危険な目にあわせてしまった……僕は最低な男だ」
「………え? 葉月は……無事なの?」
「あ、うん、葉月ちゃんなら寺子屋で楽しく遊んでるよ。それに……すごく美波にも会いたがってた」
いつも通りにゆっくりと戻りつつある互いの心の傷。
その傷は深く切り刻まれているのかと思いきや、たった一人のバカでも簡単に治療できる物であった。
互いに落ち着くとアキはウチからゆっくりと離れた。
「………分かった。じゃあ、今回だけだからね」
「え! ……許してくれるの!?」
「そもそも、アキは悪いことなんてなにもしてないでしょ?」
そう、アキは必死に弁解しようとしていた。
ウチはめちゃくちゃになりながらも、ちゃんとアキの言い分も聞いてたんだよ。
「それは違うよ! 美波たちをこんな訳の分からないところに道連れして――」
だから……さっき、後ろから優しく抱き付いてくれたお礼をしなきゃ!
「……ん」
「もういいの……あとで帰りながらにでも聞かせて」
それからウチは、アキと一緒に手を繋いで帰った。
――――☆――――☆――――☆
「お、帰ってきたか」
「お姉ちゃ~ん!!」
「葉月!!」
あれからウチはあの女の人はアキの命の恩人だと言うことを聞いて、顔が膨らむくらい真っ赤になったわ。
恥ずかしくて、穴があったら入りたかったわよ……グスン。
「明久、お前の直感はスゲェな」
「うん……なんだか、すぐそこに誰か大事な人がいると思って……」
「お姉ちゃん! 葉月、泣かなかったです!!」
「そうなの……よしよし、えらかったわね~」
そう言ってウチは葉月の頭を撫で、その感触にホッとする。
「おぉ! 島田じゃったのか! 無事で何よりじゃのぉ」
「………良かった」
「あ、木下に土屋! 皆いるの!?」
「あぁ……Fクラスはあと一人を除いてな」
坂本が補足してくれた通り、Fクラスには全員いると思えたが、一人だけ足りない。
「………瑞希は?」
「……それが、まだなんだ……」
「え……大変じゃない! 今頃どこかで……」
「その心配はないと、八雲紫に言われたらしいのじゃが……」
「そうだね……美波をこんなに苦しめる思いをさせたアイツだけは、許さない!」
そんなアキのセリフを聞いて、心がどんどん暖まっていく。
もう、このクラスメイトや妹と離れ離れにはなりたくない……。
「お姉ちゃんッ! 葉月抱っこしてほしいです!」
「………うん!」
「わーいです! お姉ちゃん温かいです!」
「葉月も、暖かいわよ……心も、体も」
「ふぇ? 『こころ』……ですか?」
「えぇ、そうよ……」
「よかったね、美波」
他人や教師からみればこのバカはただのクラスメイトというだけの関係に思えるかもしれない。
良くても友達かなにかって勝手に置いてっちゃうわね。
でも、ウチからすればこんなただのクラスメイトは……一番大切な人。
そう……いつまでもそばにいてほしい……大切な人なんだからッ!
『………そこ!』
『あら、すぐに見つかっちゃうわね』
『誰かにジーッてみられてるこっちの身にもなってよ……不眠症にもなるじゃない』
『誰かの眠りを妨げることはしないわ。私だって寝たいもの』
『はぁ……とりあえず、人里は終わった。あとは人里からここまで作ればいいよね?』
『えぇ、私も出来る限り手伝うわ』
『ったく、ちゃんとアレの準備は出来てんでしょうね?』
『もちろん、今回の仕事が全部終わったら差し上げますわ』
『ひゃっほー! んじゃ、今日は寝るわ、やり方もわかったし、明日には全部終わらせとくわ』
『お願いね……』
『ところで、紅魔館のやつら変な結界貼ってたけど気付いてる?』
『えぇ、あそこは独自で作ろうとしているようね』
『全く、こいつといいどーでもいいことに興味を出すんだから』
『あら、欲の無い人間なんて価値ゼロですわ』
『ほしいモノならあるわよ、金』
『それとはまた違うわ』
『んじゃ、そろそろさっさと自分のお家に帰って頂戴』
『えぇ~せっかくゆっくりトークタイムに入りたかったのに……』
『喋ることなんぞないわ、よくわかんないもん作らされて私はもう疲れてるの! んじゃ!』
『あぁん……もうちょっとだけぇ』
『くどいしキモい』
『はぁ~い』
『全く、珍しく私に相談しといて何なのよあの態度は……ストライキしたい気分だわ』
恐ろしく長くなってしまいすいませんでした。
いや、シリアスは好きですが私のボキャブラリーの低さにはつくづく呆れてしまいますね。