「挨拶が遅れたわ。私は風見幽香――花を操る程度の能力ですわ」
急に上品な口調で話す彼女は、さっきまでの別人と思えた。
「お前が、風見幽香だな……」
「えぇ、そうですけど」
彼女は常に笑顔を絶やすことなく僕に話しかけてくる、
どうなっているんだ……臨界点を突破してしまったのか?
「幽香、話がある! 私の声を聞いてくれ」
「ええ、いいわよ魔理沙……だけど、先に喋らせてくれる?」
僕と魔理沙で情勢は有利かと思われたのだが……僕の横で魔理沙と風見が会話をする。
「なんだ?」
「さっきは取り乱してしまって、醜い姿を映してしまったわね」
「殺気がただ漏れだったが、別に気にするな。それで、こっちもいいか?」
「えぇ、どうぞ」
「今日のお前は顔を真っ赤にしていて、様子が変だった。何かあったのか?」
「………私のお気に入りのお花が、抜かれていたのよ」
「なんだって!?」
まるで衝撃の事実を聞かされたかのようなリアクションを取る魔理沙に僕は理解できずに不思議がる。
確かに花が好きなんだろうけど、この魔理沙は何かに恐れているようにも見える。
「誰がそんな命知らずなことを」
「目撃情報は得ているわ。この辺りを二人組みのニンゲンが通ったのを妖精が教えてくれたのよ」
「その妖精に同情するぜ」
「それで、一回頭の中を整理してから霊夢やあなたのところに行こうとしてたのよ」
「人間代表の魔法使いとは私のことだからな」
「そのために、私は家に帰ったわ。するとその亡骸の様子が更に変わっていた……」
「花を抜いただけでなく? 無謀としか思えない行動だが……」
「……その花は葉をもぎ取られ、茎はバラバラにされていた」
「………どういうことだぜ」
「分からない。もうすぐ健気に咲くはずだっただけに私はそれを見た瞬間意識がなくなったわ」
「そこまで取り乱すお前は珍しいな、お前がこの時季になっても移動を開始しないのがよく分かったぜ。けどな、こいつらは犯人じゃないぜ」
「そうかもね」
「そうかもねって……信じてないのか」
「えぇ、勿論」
不気味な笑顔をニコりと見せる風見。
思わず背筋がゾッとしそうだ。
「もし犯人だったとしたら、どうするんだ?」
「あの子と同じようにしてアゲる」
「そんなことはさせないぜ」
魔理沙は再びミニ八卦炉を取り出す。
「アナタは人間を守ろうとする。だけど、私はあの子を守れなかったのよ」
風見は口調は変えていないがどこか言葉の奥に力強さを感じさせる。
まるで無力な自分を恨んでいるかのような言い方にも聞こえる。
「お前の言いたい事は分かる。だが簡単に殺していいはずが無いんだ!」
「花は簡単にその命を抉りとってもいいのに、なぜヒトは死んではいけないの? この花だってもっと生きたかった。将来は白色の花びらを私に燦々と見せてくれたのよ?」
そういうと風見は懐から何かを取り出した。
一見しただけでも無惨な姿と認識される程、酷く荒らされた華がそこにあった。
「それはなんていう花なんだぜ?」
「スノードロップって言うのよ。数年前から育てていてね、今年ようやく花が咲く予定だったの」
「それは残念だったな……だけど、間違っているのは幽香、お前だ」
「そうかもしれないわね……じゃあ決めましょうか。どちらが正しいのか、『弾幕ごっこ』で……」
「望むところだぜ!!」
会話が終わり二人は再び戦闘体制へと入る。
風見はボロボロの日傘を捨て、魔理沙は箒にまたがる。
なるほどね、風見は大事に育ててきた花をめちゃくちゃにされて気が立っていたのか。
「ねぇ風見、一ついいかな?」
「命乞いなら手遅れですわよ」
彼女の見せる笑顔は何度見ても癒されるものではなかった。
本来笑うという行為は攻撃的なものとは聞いたことがあるがまさに今の風見のことだろう。
僕はそんな申し出なんかするはずもないのでさっさと話を進める。
「僕ら人間は妖怪と比べれば生きる価値はさほどないのかもしれない」
「ええ、そうね」
「けど、僕の一生の宝物を傷つけられてイライラしてるんだ」
「何がいいたいのかしら?」
「姫路さんの笑顔を壊したお前をぶん殴る」
「そうだな、俺も翔子の涙を見ちまったからな、顔が変形するくらい殴ってやらァ!」
「………あなた達の想いはすごく伝わったわ。だけど
その前にお・か・え・し」
それは不意打ちだった。
僕らが風見の話を聞き終わる前に異常事態が起きていた。
鈍い音が聞こえると共に明久と雄二は腹に拳を打ち込まれ、その衝撃で僕らは軽く吹っ飛ばされてしまった。
「明久ァ! 雄二ィ!!」
「他人の心配する前に自分のことを考えなさい」
「――ッ!!」
魔理沙は油断を突かれたが箒を両手で持ち何とか幽香のかかとおとしを受け止める。
今にも折れてしまいそうな箒を見て焦る魔理沙。
「あら、こんなところに大きな的が……」
「しまっ――!」
空いている魔理沙のガードをわざと崩させ明久たちと同じように腹に強打を与える。
「グフッ!」
「ここからは関係者以外立ち入り禁止よ」
幽香はここからでは見えなくなるほど魔理沙を遠くにぶっ飛ばした。
視界に入らなくなった魔理沙を確認すると幽香はゆっくりと明久に近づく。
「他愛も無いわね。よくそんなひ弱な体で私に挑んだわね」
明久はたった一撃で全身が震えるほどボロボロにさせられる。
まるで産まれたての小鹿のように立ち上がる明久を見て思わず嘲笑する。
雄二はそのまま意識を失ってしまう。
その衝撃で黒金の腕輪の効果が消えてしまった。
彼らが戦う術をなくした瞬間である。
「………痛いでしょ? 苦しいでしょ? 憎いでしょ? 人間に感じる感情は花にも宿るのよ」
「……風…見………」
「必死に迫り来る恐怖に打ち勝ちたかった……花も、私も、あなたも生きているの」
「……ウゥ!」
明久は自分の足で立つのが精一杯だった。
腰に受けたダメージが重なり、痛みは想像を絶するほどにまで至る。
「ほら、あなたの大切なお友達も応援してくれてるわ」
「姫路さんッ!?」
「ふふ、嘘よ。彼女たちは逃がしてあげたわ。罪人にしてはひ弱すぎるもの」
「幽……香……!」
「そんなふらふらでどうやって私に勝つつもりなの?」
目の前にいる風見の姿がぼやける。
意識が朦朧とする。
僕の中で何かが消えようとしていた。
「どうやら、私が正しかったみたいね」
「……ちが……」
「何が違うというの? 幻想郷では勝者が敗者を好き勝手出来るのよ。いいルールだと思わない?」
「そいつは違うな」
向日葵が囲むこの場所で炎のような無数の弾幕を空から突如一斉に銃火する。
それをいともたやすく避ける幽香。
花畑に着火しそうな弾幕は幽香が素手で受け止めて消火を行う。
まるで花を――自らの子供たちを守るように思える。
そんな様子を見ても表情を一切変えないところを見ると予測済みだったようだ。
ボロボロの明久の前にその身をゆっくりと降り立つ。
「………今日は関係者以外立ち入り禁止なんだけど?」
「生憎、たった今からこいつらの保護者になったんでね」
――――☆――――☆――――☆
「あなたは……藤……」
「これ以上は喋るな。全く、無茶しやがって」
顔見知りである彼女は今にも倒れそうな明久を優しく介抱する。
「よくやった。あとは私に任せろ」
「……そういうわけには……行きませんよ」
「お前……まだやれるのか?」
「……今、僕は不死身だからね」
「強がりを言う人間だ」
どうみても嘘をついている明久を彼女はくすりと笑うと幽香の方へと向ける。
「さて、私とあんたは初めてだったな、私の名前は藤原 妹紅だ」
「いきなり焼き払うとか、自殺志願者がすること。この風見幽香が直々に殺してあげる」
風見は魔理沙と戦う前以上に血管が破裂しそうなほど憎悪で満ち溢れている。
あんなのをまともに直視すると恐怖に呑み込まれてしまいそうだ。
僕は生きてきた中でこんなにも怖いと思えたことは無かった。
「ほら! 起きなさい!」
「ん?」
ふと僕の後ろで誰かの声が聞こえる。
気になって振り返ると雄二の近くで何かしているようだ。
「吉井君が頑張ってんのに、あんたはそこで呑気に睡眠でもとっていいわけ!?」
高圧的な態度で雄二を起こそうとするその後姿。
声、外見、それらは僕が一度でも聞いたこと、見たことがあるものだった。
「いつまで寝てるつもり!?」
いつまでも変化がない雄二に対してその人は雄二の顔をペチペチと叩き始めた。
さらに口調がやや荒れ始める。
この攻撃的な性格……僕の思いはより確実なものへと変化していった。
「………んぐ」
「起きた!?坂本君!」
「……お前は…秀吉?」
「まだ寝ぼけてるみたいね、ちょっとしびれるけど我慢しt――」
「悪い、謝るからそのスタンガンをひとまず地面に置いてくれ」
「――折角代表から一つ護身用に貰ったのに」
雄二のことを苗字で呼び、代表とは霧島さんのことを指す。
間違いない。僕の目の前にいるのは秀吉のお姉さんの――。
「木下さん!!?どうしてここに!」
彼女は秀吉と瓜二つの容姿をもつ木下 優子さんだ。
パッと見は秀吉が戻ってきてくれたのかと思ったけど、徐々にその点に疑問が浮かんだ。
そしてその謎の予想は的中した。
「ちょっと妹紅さんのところにね。って今はそんなことより、吉井君は戦闘に集中しなさい!」
そうだった、木下さんのことで時間を取りすぎた。
僕は慌てて風見の方を振り返る。
「もう不意打ちなんて汚い真似はしないから安心しなさい」
「風見幽香、お前って意外と器が小さいんだな」
「売られた喧嘩は何十倍にも返せと聞いたことがあるので」
「たかが人間の喧嘩で命を奪うことねえだろ。スケールも小さいのかお前は」
「よく喋る蓬莱人ね、そんなにサンドバッグにされたいのかしら」
どうやら藤原さんと風見が言い争っている最中だったようだ。
「すまん、明久……俺だけ寝ちまって」
木下さんに起こされた雄二は僕と同じくらいのボロボロで戦線復帰した。
「いや、僕もちょっとお爺ちゃんに挨拶してきたから」
「三途の川は見慣れただろ?」
「うん、でももう見ることはないと思うよ」
姫路さんの料理以外ではね。
「んじゃ行くか! 明久!!」
「今度こそ倒してやる! 風見!!」
僕らの体が立てなくなったとしても、召喚獣の力には反映されない。
つまり、ダメージを受けていたとしてもそんなの関係ない!!
「起動(アウェイクン)!!」
「「試獣召喚(サモン)ッ!!」」