まさか、こんなところで出会うことになるなんて誰が予想できただろうか、今僕らの目の前にはあの文月学園の学園長が堂々と立っている。
「あら、いいのですか? 藤堂さん」
「構わないさね、けじめはきっちりつけないと……」
八雲さんと学園長はまるで初めて会ったような感じがしない、もしかしてこの二人は知り合いだったのか?
だとすれば一つ納得がいく。
「なるほど、ババァとババァだから何か結び付くものがアァァーッ!」
「明久……お前は少し素直すぎるぞ。俺もババァ同士のコミュニケーションなんて吐き気がアアァァァーーッ!!」
「……紫、私の生徒が迷惑をかけてすまない」
「今度、みっちり指導しておいてくださいね?」
「あぁ、今度西村教諭と一緒にじっくりと……じっくりと」
青年スキマツアー中...
「ッハ!!ここはどこ? 僕は誰?」
おかしいな、確か僕らはババァ二体と遭遇して……そこから何をされたのか記憶に残っていない。
「まったく、レディーになんてこと言うんだい」
「誰がレディーだこのババァああああああ――」
もう! いい加減この流れやめない!?
「八雲……ぜぇ……ぜぇ……は、話をしようか。そろそろ疲れたぞ……」
「そうだよ! 僕らはなんの悪いことも、嘘一つもついてないのに!!」
「それが嘘だということを分からないのかしら?」
八雲さんがニッコリと微笑んではいるが目が死んだ魚みたいになってる。
そろそろ本気で怒りそうなので僕は自重することにした。
「……ひとついいかい?」
すると突然学園長が不思議そうに僕たちを観察すると右手を挙手し質問する。
「あんたらのその格好はどうしたんだい。まるで女の子のようじゃないか」
「「大丈夫だ、問題ない」」
「男としてのプライドとかないもんかね……」
そんなもん、とうの昔に忘れてきたよ……。
でも、改めて僕の服装をじっくり見てみると汚れちゃったなぁ……霊夢に借りたこの脇露出型の巫女服、ちゃんと洗濯して返さなくちゃ。
雄二のメイド服もだいぶボロボロになってきてるね……穴も開いてるし、裁縫セットとかどこにあるのかな?
「って! そんなことはどうでもいいんですよ!」
「あたしには服装がどうでもいいと思えないんだが」
「気にするな学園長。女装が趣味なのは明久だけだ。俺は無理やり着せられたんだからな」
「何を言ってるのさ雄二! ほらぁ学園長が僕の事を汚い豚みたいな目で見てるじゃないか!」
「事実を言ったまでだ。過去に女装した経験が生きてるじゃないか」
「嬉しくないよ!!」
まったく、雄二に珍しく褒められたけど確かに僕は学園祭のときとか仕方なくそこにメイド服を着たけどあの女装コンテストはノーカンじゃないか。
おっと、話を本筋に戻さないと。このままじゃ僕が本当に僕の部屋のクローゼットの中に女物の服が置いてあると思われてしまう。
「……それで、どうして学園長がこんなところにいるんですか? それとも八雲さんみたいに能力でここに?」
「馬鹿を言う小僧だね。私は普通の人間さね、そんな能力は微塵もないよ」
腕を組みながら上から小馬鹿にしてくる態度に、暫く見てない所為か懐かしく思えてしまう。
懐かしむ僕を横目で見る雄二は若干イラついているようにも見える。
そして雄二は口を開き、学園長に質問をする。
「それで、あいつらの目的ってなんなんだよ」
何度もスキマに落とされて雄二も限界なんだね、分かるよ、僕らは何も間違っていない。
ババァが何人来ようとも所詮それはしわくちゃなババ――あ、はい、八雲さんが睨んでるんでもう何もしません。
しかし、その二人組の狙いとは何なのだろうか、僕らと関係があるみたいだけど何も思いつかない。
「そうだったね、まずは今回の騒動の説明でもしようじゃないか」
「今回の異変の事ですか?」
「そう、聞いといて損はないはずさね。お前たちの理解もより感慨深くなるはずさ」
うーん、学園長だし前置きとか長くなりそうだからちゃっちゃと話してほしいところでもあるがいきなりそれを言われちゃうと気になる。
八雲さんも自分の意思じゃないというし、岡崎たちの所為で今の状態になってるっていうけど、学園長もきっと関係しているんだろう、
ここはおとなしく聞いておいたほうがよさそうだ。
「それじゃ、よーく聞いておくんだよ」
「「あぁ(おう)」」
僕と雄二の声が重なり返事をする。学園長も神妙な面持ちへと変化する様子は事の重大さがしみじみと伝わってきた。
これは僕と雄二、ムッツリーニたちの責任じゃない……もっと僕らが思っている以上に規模が大きいのだと素肌で感じる。
八雲さんは学園長の後ろで座ってくつろいでいる。 ……もしかして八雲さんは知っているのか?
そんな僕の様子をお構い無しに学園長の重い口が開かれた。
「あれはお前たちが紫によって幻想郷に連れてこられる前の話、まだ私がこの世界なんてちっとも知らなかった頃の話さ……」
――――☆――――☆――――☆
あたしの名前は藤堂カヲル。
文月学園の学園長を務めている、しがない老人さ。
今日も大量の書類整理に、この学園に早く解けこんでもらえるために地域に貢献活動などやることは尽きない。
なにせこの学園は建設して月日が浅いからね、心配性な親共に誤解や不安を解かないと生徒が来ないと困る。
まぁ、めんどくさいさね。
手っ取り早く入学費を安くして正解だったかもね、なかなかの数の生徒が入ってくれた。
私の仕事はここから始まるんだよ。
「さてと……今日もいい天気さね」
学園長室で明かりも点けずに窓から差し込む日差しのみで書類に目を黙々と通していた。
相変わらずめんどくさい仕事だ、こういうのは適当にするのが一番。
コンコン……。
「失礼します」
あたしが一息ついていると聞きなじみのある声が扉の向こう側から聞こえる。
まったく、タイミングが悪いがそんな勝手な理由で入れないわけにも行かない。 とりあえず入れるか。
「なんだい一体……」
あたしの声を聞くとドアノブを掴んだのかカチャと僅かに動くと丁寧に扉が開かれる。
その相手は二年Aクラス担当の高橋先生だった。 メガネがよく似合うきれいな女性で印象は悪くない。
教師が受けるテストでも常に最高クラス、文句の付け所が見つからないね。
いや、一つあった、気が利かないところさね。
「学園長、お話したいことが」
「紅茶を飲みながらでも構わないかい?」
「問題ありません」
「そう、それで話ってなんだい?」
またFクラスのバカ共が何かやらかしたっていうのかい?
あいつ等、試召戦争ばっかりに現を抜かして勉強の方がおろそかにしてないか心配になるよ。
「またFクラスが問題行動を起こしたのかい?」
「いや、問題ではないのですが……今度はAクラスに試召戦争を申し込んだようで」
「ほぉ……あんたのクラスじゃないか。大丈夫なのかい?」
しかし、あの神童が率いるFクラスがAクラスにね……面白い話じゃないか。 私もシステムを開発した甲斐があるってもんさね。
だけど、試召戦争をただのおもちゃと思ってもらっちゃ困る。
複雑な気持ちさね。
「学園長、言葉に中身が入っていませんよ?」
「そりゃそうさね、別にあいつらが負けようがあたしにはなんら関わりがないからねぇ。万が一勝ったらそれはそれで宣伝材料になる。『バカでも努力次第で世間をひっくり返す力を手に入れることが可能』とかなんとか言ってね」
静かに揺れる水面に目を通し、書類の横に置いておいたカップを手に取り紅茶を一口飲む。
今朝から入れてた所為か少しぬるくなってしまっている。 時間はまだ朝日が昇ってあまり経っていないというのに。
「うーん、寒くなってきたさね」
「もう秋ですからね、今度紅葉狩りでもしますか?」
「結構」
眉間にしわを寄せてやや語尾を強くしてはきはきと言う。 あたしはそういうのは興味がないのでね。
すると高橋先生の顔が少し険しくなる。
「学園長、たまには運動でもしないと! もう年なんですから」
「余計なおせっかいは受け付けてないよ。西村先生とでも行ってきな」
「そうですか……残念です」
首をがっくりと下に向ける高橋先生。 そんなにあたしを誘いたかったのかね?
だけど、あたしはそんなことで気持ちが変わるほど安くはない。
「まあ、試召戦争の件だが、気楽にやりな」
「……ありがとうございます」
あたしが一声かけるといつものキリッとした表情に戻る。 女性としてはスタイルもいいんだがどこか抜けている……あたしには関係ないか。
「それでは、午後までに書類を片付けてくださいね」
「分かったよ」
書類を片手に持ちながらあたしに一礼し、メガネをくいっと上げる。
話している間にもその佇まいはまさにAクラス主任にふさわしい貫禄が出ていた。
あたしの目に狂いはなかったさね。
「それでは、失礼しました」
絨毯をモデル並みの姿勢であたしに後ろを向け部屋を出て行く。
「まさに、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花、さね」
「お褒めに預かり光栄です。では」
扉の前で律儀にあたしのいる方へ向け、もう一度礼をする。
そしてガチャリと扉を開け、部屋を出て行く様子を座ってみていた。
「さてと、仕事でもするか」
書類は山積みにされていることに目を通し、嫌気を差していたところだ、気晴らしが出来た。
紅茶を飲みきってしまい、もう一度汲みに行くのもめんどくさいのでおとなしく仕事をすることに。
それにしても今度はAクラスにね……ホント、あのバカ共は飽きさせてくれないよ。
「…………」
この文月学園は特別なシステムを導入している。
あたしはそれの開発者でもある、それを用いて昨今学力低下問題を解消するために颯爽と現れた。
世間で認められるためにはまだまだ長い年月がかかるが、それも楽しみの一つさね。
努力をしない人間に、勝利は訪れてくれないのだから。
コンコン。
まただ。
あたしの部屋にはキチンとノックをしてくるところを見ると噂の彼等ではないようだ。
折角仕事に取り掛かっているというのに、気が削がれてしまう。
あとでまた来てもらうようにしよう。
「すまないが取り込み中だ、あとにしてくれ」
しかし、あたしの予想が外れ、
「失礼するよ」
「……見ない顔さね、ここの生徒じゃないね?」
高橋先生と入れ替わるように現れた二人組の少女は口では礼儀正しいが学園長であるあたしの返事を無視しやや強引に入ってきた。
「ええ、大事なお願いがあってきたの」
この赤色の服とセーラー服の二人組はなにやら交渉を申し立ててきたみたいさね。
「そういうのは事前に連絡を取ってからにしていただけないか。あたしも色々忙しいんだよ」
語尾を強く主張し、わざと相手に嫌悪していることを伝えるように話した。
「あなたに拒否権などありません。さぁ、渡してもらいますよ……あなたの『科学の結晶』をね」
「……随分と勝手だね、まず何者なんだい。名を名乗りな」
科学の結晶だと? 小生意気な小娘がいきなり何を言い出すかと思えば……。
「失礼しました。私の名前は岡崎と言います。教授をやっていましてこちらは助手のちゆりです」
自己紹介を終えると二人は丁寧にお辞儀をあたしの前でする。
「そっちの子は随分と無口なんだね? 一言ぐらい話したらどうだい?」
「いや、教授に任せているので私は何も話す必要はありません」
「そうかい」
無口な子かと思ったがそうでもなかったさね。 金髪で海兵みたいな恰好してるんだし、おとなしいってイメージはないか。
「さて、藤堂カヲルさん、もう一度お願いしますよ。科学の結晶をこちらに渡してください」
「あたしには何の事だかさっぱりわからないね。だから、渡すこともできない」
「回りくどい方法は嫌いなんです。わかっているのでしょう?」
「さぁね」
相手の言葉に最後は適当に返事をする。 どうやらあっちの交渉に応じないのがだんだんイライラしてきているのか顔に出ている。
「……そうですか、わかりました」
しかし、すぐさまケロッとした表情になる。 あきらめてくれたようさね。
「それでは後日。強硬手段にて奪いに参りますのでそのつもりで……では」
「荒っぽいことはしたくないんだが……警察に通報してもいいんだよ?」
「別に構いません。
「はいだぜ」
呆れた表情でこちらを小馬鹿にする態度で話すその様は少しカチンと来るものがあった。このままお望み通り警察に電話してやろうかと思ったが、次の瞬間あたしは目の前の光景に硬直してしまった。
岡崎に何かを命令された北白河は連絡機のようなものを取出し操作すると窓の外が急に風が吹き荒れていた。
気になったあたしは窓の方へと向けると見たこともないような船が空中を泳いでいたのだ。
「我々の科学力を舐めないでほしいものですね。この世界と同じだと思ってもらっては困ります。気が変わりましたか?」
なるほど、この世界 という言葉の意味がよーくわかったさね。
あいつらは別世界からの来訪者、ということがね。
どうやらあたしらよりもより高度な文明を築いているようだ。
一般人なら、素直に言うことを聞くだろう。
「………交渉する相手を間違えたね」
「……何?」
これで交渉成立かと思っていたのだろう、岡崎の顔から不快感が読み取れた。
「とっとと出直してきな若造共!!戦争でもなんでもしてやろうじゃないか!」
あたしは柄にもなく大声で相手を威圧するように言ってやった。
戦争でもなんでもしてやろう、そんな意気込みがあたしの中にはあった。
二人組の方を見るとハトがまめ鉄砲食らったかのような顔でこちらを茫然と見続けている岡崎がいた。
そして、ゆっくりと口を開けると最後こう言い放った。
「……それでは後日、お伺いしますね」
ニコリと見せる笑顔の裏腹には、あたしらをぶっ倒したいという憎悪がわかりやすく感じ取れた。
岡崎に続くように北白河も頭を軽く下げた後、この部屋を出て行った。
「さーて、仕事が増えて忙しいさね!」
文月学園を守るのも学園長としても立派な仕事。
こんな仕事もたまにはいいなとあたしは思い、作業へと移った。
―ー―☆―ー―ー☆―ー―ー☆
「……とまぁこんなところさね」
「………zzz」
「そこのバカ、さっさと起きな!」
「は、はへ!」
おっといけない、学園長の長い回想シーンのせいでうっかり居眠りをしてしまった。
いつの間にか話が終わっていたのか、僕は目の前の学園長のしかめっ面を見ながら目を覚ました。
「明久、相手はお年寄りなんだからもっと優しい態度を見せろ」
雄二は僕が眠る前とほとんど変わらない様子で僕の方を呆れながら注意する。
「ご、ごめんごめん……」
「まぁ要するに、あいつらの狙いは『試験召喚システム』だろ?」
「その通り。あたしはすぐに思い浮かんだよ」
へぇ、そうだったのか。 岡崎たちの狙いは文月学園の召喚獣だったのか。
高橋先生が出てきたところまでは覚えているんだけど……そこ話す必要あったのかな?
「……吉井、顔に出すぎてるさね。ちゃんと人の話は最後まで聞くもんだ」
まるで今さっき初めて聞いたかのようなリアクションを見られてしまい学園長に怒られてしまう。
けれど、僕にはすぐにある疑問が浮かんだ。
「でも学園長。目的はわかりましたけど、なんで僕らまで巻き込まれているんですか?」
きっと雄二も僕が考えそうなことはすぐにわかるはず、だから雄二もきっと不思議に思っているはずだ。
今の段階で思い当たることなんかひとつもないからね。
「……その質問なんだが、坂本はもうわかっているようだね」
「え? そうなの雄二?」
僕は思わず驚いて雄二の方へと振り向く。 わずかな風が起こり雄二の前髪を揺らしてしまうほどのスピードで。
雄二はどうやら図星のようで余裕綽々と構えていた。
「そうだな。俺の中では二つ案が浮かんでいる。一つは『俺たちが必要』という説。もう一つは『俺たちを犠牲にする』説だ」
僕は雄二から放たれた言葉に思わず絶句してしまった。 僕たちを犠牲にって……つまり岡崎たちのおとりってことなの?
「どうなんです学園長!」