この場を借りて感謝申し上げます。いや、ほんと有難い……。
バカと幽香と一輪の花~第一問~
――――☆――――☆――――☆
「えっと……奇跡、ですか?」
「はいッ!!」
私は東風谷さんと名乗る巫女さんに奇跡という能力で捻挫を治癒してもらった。
けれど、イマイチ何が起きたのか分からないので広間で世間話でもしていた霊夢さんたちと美波ちゃんと一緒に合流した。
念のため能力を再確認させてもらうとちゃぶ台の上に勢いよく両手を付ける東風谷さんがいる。
「私の能力は『奇跡を起こす程度の能力』。その名の通り普通では有り得ない超常現象を起こすことも可能です!」
「なんと! お主は一体何者なのじゃ!?」
「なに、ただの守矢神社の神奈子様と諏訪子様に使える巫女です……」
「……初めて見た」
「通常なら見物料をいただきますが、今回はと・く・べ・つ! 守矢神社への片道祈願で「はいはいそこまで」あ、そうですね」
このままではちゃぶ台の上に足を乗せてしまいそうなテンションの高さを霊夢さんが止めた。
東風谷さんは我を取り戻したようで、清楚なイメージを作り出している。
正座をし、土屋君が淹れた緑茶に手をだす。
「あ、美味しい。どうやって淹れたのか後で教えてくれませんか?」
「………分かった」
土屋君はいつものように口数は少ないけれど、東風谷さんを見ては手が動いていた。
その動きはまるでカメラのシャッターを切るモーションだったけど、いつもどおりですね。
「さて、本題に移りたいのだけどいいかしら?」
霊夢さんは若干苛々しているのか足を崩し膝に肘を据えて顔を手で支えている。
まるで神様が威張っているかのような姿勢に私は見えた。
巫女はあくまで神に使える身のはず……私も詳しいことは知りませんが、なんだかこの人から不思議な雰囲気が感じ取れる。
そんな私を放って霊夢さんは話を続ける。
「今から真面目な話するから、この中で一番話ができる人は誰かしら?」
「……私でよければ」
「………は、は――」
ワンテンポ遅れて私が名乗り出ようかとしたのだけど翔子ちゃんに言われてしまった。
こういう時はいつも坂本君が仕切って下さるのですが、今は明久君と太陽の畑で私たちのために頑張ってくれているので、二人の帰りを無事に祈りながら私も頑張ろうと思います。
「まあできれば全員しっかり聞いてほしいけど、明久の友達って大丈夫なのかしら……」
霊夢さんはどこかに視線を映しながら心配そうに呟く。
その先には土屋君が以前よりひどく何をしているのかもはや私には分からなかった。
「土屋、早苗のお茶切れてるわy「………お待たせ」早いわね!?」
美波ちゃんがそれを汲み取ったのか湯呑みの入れ替えを催促させたけれど目にも止まらぬ速さで新しい緑茶を持ってきた。
東風谷さんは軽くお礼を言うと霊夢さんの方には気にしないでゆっくりと飲み始めている。
「私もめんどくさいから前振りなしで言うからよく聞いてね」
そう言うと彼女は姿勢を直し、改めてこの場にいる全員と面を合わせるように整える。
そして、霊夢さんは私たちの集まる視線の中で何変わらず口を開かせた。
「私たちはあなたたちに試験召喚戦争を申し込むわ」
「「「ええぇぇぇぇぇーーーッッ!!?」」」
「わーい! 戦争だー!」
「ねえねえ巫女さん、私たちも参加してもいいー?」
「戦争って、お姉ちゃんたちが学校でしているアレですか!?」
私たちの反応とは対となってこいしちゃんたちはこの事態に楽しんでいるように見えた。
「ちょちょちょ! 待ちなさい! なんでアンタ等と試召戦争なんかしなくちゃいけないのよ!!」
焦りが隠しきれないまま美波ちゃんはちゃぶ台の上に手を置き思わず立ち上がって霊夢さんに聞いている。
「こいしは知ってたけど、まさかフランまでいるなんてね」
「もしもーし!!」
「あー、分かってるわよ。といっても特に深い意味はないわ。ただの余興よ」
「ウチらはアンタ等の所為でこんなわけわかんないことになってるのに、する意味がないわ」
「……私も同感。今はみんなの安全が最優先」
美波ちゃんが啖呵を切ると翔子ちゃんも同じく反対意見を出す。
木下君はどちらでも良さそうな表情をしている。 土屋君は……分かりません。
「困ったわね……反対されるとは思わなかったわ。あなたたちの世界での試験召喚戦争はこっちの弾幕ごっこみたいなものだと伝えられたから」
「つまり裏に誰かいるのね! そいつは誰なの!?」
「……おそらく私たちを連れてきた八雲 紫」
話の流れの中で自然と翔子ちゃんから出た言葉に少し気になってしまう。
翔子ちゃんも八雲さんに連れてこられたなんて、しかし幻想郷に来るには神隠しに遭うしかないと八意さんは言っていた。
私の短い中で自問自答を行い、再び話の中に入る。
「霊夢さんどうするんです? 色々先に話しといた方がいい気がしますが」
「そうね……結界のこともやっと完成したことだし、先にそっち言っておけばよかったかしら」
「何二人でブツブツ言ってるの!?」
思わず立ち上がる美波ちゃんに私は慌てて止めに入る。
「み、美波ちゃん落ち着いて下さい!」
「そうじゃぞ島田、お主だけが決める話ではない。これはワシたち全員の意見を聞く必要がありそうじゃ」
「そ、そうだけど……」
私と木下君が今にも暴れそうな美波ちゃんを説得に入る。
よかった、私たちの声に耳を傾けてくれたので少し落ち着きを取り戻したように見える。
再び美波ちゃんはその場に座ると霊夢さんを敵対視するように睨み始めた。
「まずは私たちの話を聞いてくれる? それからゆっくりことを成して説明するから」
「木下、こんな提案乗る必要ないわ。さっさとお帰り願いましょう!」
一層広間に美波ちゃんの声が広がる。 外にも漏れているのでないかと思われる大声でその場を圧倒した。
翔子ちゃんもそれに賛成らしく美波ちゃんと共に霊夢さんたちを帰す準備に入っている。
木下君はそんな二人を止めに入るが、軽くあしらわれてしまう。
ここは私が止めないと! そんな乱暴な手段で何も解決しないはずです!
「待って下さい! そんなのあんまりじゃないですか! もう少し話を聞いてからでも遅くはないはずです!」
この時、私は何故かこの場にいないはずの人の声に驚愕させられた。
私の後ろから聞こえたその声の主の姿を見ると一目散に『彼』に飛びついた人がいる。
それは極当然のことだから、私はその場で微笑んだ。 木下君たちも皆『彼』の帰還に喜んでいた。
「そうだな、もう少し待ってくれないか。島田、翔子」
「「「坂本!!」」」
「雄二……!!」
「ただいま、翔子。今までよく頑張ったな」
しばし、感動の再会に時間を忘れてしまった。
それはまさに時が止まっているのを気付かない程だった。
――――☆――――☆――――☆
「あら、アナタは自殺志願者さんじゃないの」
「こんばんは、風見さん」
僕の目の前には何時間前に戦闘を交わした風見幽香が僕を見つけると獲物を狩るような笑顔になる。
もういつ日が沈んでもおかしくはないほど時が過ぎていた。
ここの太陽の畑は何も変わってないようだ、あれほど弾幕が飛び交ったというのに……これも彼女の力なのかと思うと不思議に感じる。
「弾幕ごっこ、再戦でもしに来たの?」
「いや、そのつもりはさらさらないよ」
「あらそう、面白くないの」
僕が争いに来たのではないと伝えると笑顔は消え、意気消沈してしまう。
「全く、風見さんは戦闘狂なのかい? 花が大好きなのに、そんなことじゃすぐに枯れてしまうよ」
「……アナタ、私に説教するつもり?」
「いや、話がしたいんだ。それと、謝りに」
「謝る? アナタが?」
「うん、だけど僕が謝ったら出来れば風見さんからもごめん、と言ってくれれば嬉しいかな」
「私を謝らせたいならあの時みたいに力尽くで言わせなさいよ」
「それはしない。この争いは無意味だったんだからね」
とりあえず会話が成立していることを感じる。 よし、このまままた弾幕ごっこになってしまう前にこちらの目的を果たそう。
「あら、だったら争いはどうして起こるのかしら?」
おっと、風見さんがここで難しい質問をしてきちゃったな……ここから強引に逸らすのはキツイな。
でも、僕はこの問いなら自分なりの答えを持っている。 なら、それを風見さんにぶつければいいだけさ。
「僕は、誰かを幸せにするために起こると思うよ」
「私はそうは思わないわ、争いは誰かを傷つける。どんな形であろうともね」
「どうしてかな?」
少なくとも僕にはそんな事は分からない。 せっかく難問を解いたと思ったのにまた難問。
観察処分者の僕には何時間粘ってもペンが動くことはないだろう。
「それは人が醜く、愚かな種族だからよ。自分の願いさえ叶えばそれでいいのよ」
しかし、僕はこの言葉を聞いてうっすらだけど答えが見えてきそうになった。
それは僕にとってすごく反論したかったからなのかもしれない。
「確かにそうだね。でも、『人間は反省が出来る。失敗したらやり直せるのが人』だよ」
「失敗からは何も生まれない。犠牲者が聞いてたら呆れるわ」
「うん、僕もそう思う」
僕は手なんかつけちゃって格好つけながら会話する。
対する風見さんは淑やかに口だけを動かして話している。
「なら、アナタはどうするの? 思い悩んで答えが出なかったらその身を投げ出すの?」
「そんなバカな真似はしない。それこそ天国から追い返されちゃうよ」
「アナタのようなおバカさんでも正解を出すなんてね」
自分でバカって思うのは許せるけど、人に指摘されるとつい反発したくなっちゃうな。
けど、今の僕はバカだと何度言われてもその言葉を受け入れよう。
「さて、僕の答えは何点かな?」
「0点、まだ解答が満たされていないわ」
「おっと、それじゃ見直さないと」
「無駄よ。何度考え直しても求めた答えは見えてこないものよ」
「それはどうかな、諦めない限り『人は何度でもやり直せる』」
「ふふふ、面白いわね。同じことを二度も言ったわ」
「あ、あれ? そうだっけ?」
「『人は失敗をするけれど、やり直せる』それがアナタの解答で、ここに来た目的ね」
相手を威圧する笑顔からそのままの意味の笑った顔を僕に見せてくれた。
やるならこのタイミングしかない!
「……あら? どうしたの?」
風見さんはクスクス笑っていたが僕の行動に不思議がっているようだ。
僕は彼女の顔を見れないけど、彼女は僕のことを見ている。 これから何をしようとしているのか分からない者の取る行動だろう。
僕はただ、僕のケジメを付けるだけ。 そして風見さんの愛された者への為に。
「……やっぱり人は醜いわね」
「何度でも言ってくれ」
「このまま踏んづけてやろうかしら」
「僕はマゾじゃない、って! そんな冗談は無しで!」
僕は真面目だというのに、風見さんは依然僕をからかうように言葉を投げかける。
「だって、あまりに目の前の人の土下座の有様が酷かったもので」
なんと言ってくれても構わない。 この土下座じゃ済まないなら遠慮なく僕を殺してくれても構わない。
それで風見さんが許してくれるなら。
それで大切に育てられたあの花が報われるなら僕は、なんだってする!
その為に僕はここに来たんだ!!
「ゴメンなさいッッッ!!」
僕は初めて太陽の畑の土の匂いが鼻に入る。
日頃から花を大切に思っている彼女だからこそ、土の感触が今までに触ったことにないものだった。
手に地面を付け、僕は風見さんの目の前で土下座をする。
おでこにぱらぱらと土が付着していることにも気にせずに僕は本気で謝った。
「どうして……そんなことまでするの? アナタたちが犯人じゃないことは知ってる。だから、私とは関係ないことなのに」
ここからは見れないけどきっと不思議そうな顔で僕を伺っていることだろう。
僕は一旦謝るのを中断し、見上げるような体制に変える。
「僕は大切な花を失って悲しみのどん底に溺れている風見さんに酷い仕打ちをしてしまった。それは本当に醜いことをしてしまったと想っている。だから、関係なくないよ。それに、大事な
「人と同じ? 私のような妖怪でも?」
「そうだよ。だって、こんなにもいい土じゃないか。花を育てるには必要な条件だよね?」
小学生のときに習ったことだからいくら僕でも分かる。
日頃から土を触っている訳じゃないけど、じっくり間近で見て、直でそっと触れてみると僕たちの世界であまり見かけ無い種類だということが。
「花も生きているのよ。死んだら戻って来ないわ。アナタのしていることは無意味よ」
「そんなことはないよ……だって、死んだらさよならなんて悲しすぎるじゃないか」
もしも、姫路さんが風見さんにあの花のようにされていたら。
そんなことを考えていると自然に言葉が体のそこから沸いてくる。
そして、それは風見さんの方が悲しみは大きいはずだ。 理由は明白、それは、大切な花を守れなかったのだから。
「……………」
しばらくの間、ふと風見さんは何かを考えるかのように黙り込んでしまった。
僕はひと時も風見さんから視線を外すことはなく、ただ謝罪の気持ちに溢れている。
この気持ちをどうか伝わればいいと、それだけを頭に残して。
「……私は、力が欲しい」
「風見さんは十分すぎるほど強いじゃないか」
不意に零した『力が欲しい』というワードにすぐさま反応する。
僕と雄二は嫌というほど彼女の『力』を痛感してきた。
それなのに、今の風見さんはまるで我が子を守れなかった母親のような慈愛に満ち溢れている表情をしている。
「私は、このか弱い全ての花を守っていけるような力が欲しいの。今回の出来事で、まだ足りないことを思い知らされたのよ」
さっきまでの僕を試すような口ぶりはやめて、僕と真剣に話す素振りをする風見さんがそこには居る。
真実を探求するまっすぐな瞳――それはどこか誰かに似ている気がした。
「風見さん……あなたの言い分も間違っていない。けど、それじゃ過保護すぎじゃないかな」
「何かを守りたいという気持ちのどこか間違っているというの?」
「そうじゃないんだ」
何かを救う事はそう容易いことじゃない。 僕だけの力じゃ、姫路さんに何一つ満足させられないだろう。
僕の知っている風見さんは感情なんてなく、ただ人、妖怪関係なく邪魔する者はコロス。
そう思っていた。
だけど、こんなにも感情的に語りだしているのは初めてだ。 彼女の顔がにやけていたのが今は少しだけど歪んでいる。
「だったらなんだというの? 全て私が悪いのよ! 私が、もっと傍でいてあげられたら……」
「……………………意外だね」
ふと、僕の口から漏れた言葉。 思わず笑みも溢れてしまう。
「……何がおかしいの?」
「風見さんは僕の中では本物の妖怪だと思っていた。けど、今はっきりと分かったよ」
人間と妖怪――種族が違う僕たちでもたった一つ分かったことがある。
今の風見さんを見ていると頭の中に一人の女の子が思い出されるんだ。
その子はとっても可愛くて、優しくて、他人に誰よりも、自分よりも心配してくれる。
だけど体が弱くて、いつも迷惑ばかりかけていると思っている女の子のことをね。
「人がどうとか言ってたけど、僕と風見さんはとてもよく似ている。そして、
僕の大事な人も、風見さんの大切な花も、懸命に生きている。毎日を、必死に生きている。そんな彼女たちを僕たちの救いの手を差し出すまでもないんじゃないのかな?
その子が本当に困ったときに手を差し伸べてやればいい。風見さんは僅かに届かなかったけど、その思いは伝わっているはずだよ」
僕は目を逸らさず、体を震わせ全身全霊で風見さんに僕の想いをぶつける。
その人が間違った道を進まないために、僕はありったけの言葉を声にする。
前に一度だけ、姫路さんに怒られたこともあるから、この言葉が頭に浮かんだ。
だから、風見さんにも伝えたい! 僕の想っていることを、学んだことを全て!
「………人間と妖怪。所詮相容れないかと思っていたけど、あなた、名前は?」
「僕は吉井明久、明久でいいよ」
「私は……って、もう知ってるのよね。幽香でいいわ」
僕たちは夢幻の季節はずれの向日葵に囲まれながら、数時間の時を過ごした。
とても長い時間のように見えて、実は少しだけの短い時の中を彷徨っていただけ。
けれど、見失っていたモノを取り戻す大事な時間だったと思う。
「面白い人間もいるものね、明久」
「遠まわしに僕をバカって言ってないかな?」
「さぁ? どうかしらね……」
きっと幽香の花を殺した犯人だってこの幻想郷にいるはず。
それはきっと、僕たちの異変と関わっているに違いない。
僕は幽香の無念の想いを胸にしっかりと受け取りながら太陽の畑を後にしようとした。
僕の気持ちはしっかりと伝わったはずだから、もうここには用はない。 幽香もできれば姫路さんたちに謝って欲しかったけど、今は後にして、早く寺子屋に帰ろうと思った矢先、
「明久」
「何かな?」
「アナタに見せたいものがあるの」
見せたい物ってなんだろ、突拍子に言い出した幽香はそんな僕を面白がるように笑いながらポケットの中に手を突っ込んでいる。
そして中から取り出したのは無残に引き裂かれたあの花だった。
「明久と話せて良かったわ……そこで見てて」
一体何をするつもりなんだろう、全く考えていることが分からないまま今度はその花を土にそっと置いた。
次に土に小さな穴を開けるとそこに花を埋めた。 埋葬のつもりなのだろうか……。
「えーっと……まだ近くにいるはず。ちょっと待ってて。勝手にどこか行ってたらコロスから」
「エッ!!?」
なんとも物騒な言葉を捨て台詞にと言わんばかりにこの場を後にして去っていった。
しかし数分もしない内に空から戻ってくる。
ふわふわと風になびくスカートは下からだとドロワーズが丸見えだった。
「おまたせ」
「いきなり心臓に悪いじゃないか」
二重の意味で。
「だけど、アナタにも見てもらいたいの。輪廻転生を」
「り、りんね……点線?」
「ふふ、馬鹿で無鉄砲なアナタだから分からないわね」
「すみません」
「うふふふ……さあ、始めるわよ」
そう言うと幽香は何か小さな白いふわふわしたものを持っていた。
それを先ほど埋めた今は亡き花のところに押し付けるようにする。
「明久には説明してもちんぷんかんぷんかもしれないけど、自然にも命は宿るの。この子も当然生命が宿っていたわ。その命を拾ってきたの」
「え? まさか、今行われるのって死者蘇生!?」
「いいえ、違うわ。そうね……あの子であって、あの子でない花が咲くのよ。ほら」
いつの間にか地面にはあの花の生まれ変わりと言いたそうな可愛い小さな『命』が芽吹いていた。
「これが、あの花だって言うの?」
「そうよ。これから長い年月をかけて、私に綺麗な花びらを見せようと頑張って、懸命に生きていくの」
僅かな時だけど幽香はその花から目を一切逸らさずにずっと見続けてながら'懸命'というワードを強調させて話す。
それは我が子を崖から突き落とす親の痛い気持ちのようなものを感じ取れた。
「咲くといいね、この花」
今はなんとも言えないけど、きっと見事にこの花が咲き誇るだろう。
僕も、この花に負けないように今を、未来に向けて頑張っていこうと思えた。
「植木鉢の中じゃなくてよかったの?」
「この子には外の世界を見せてあげたいのよ、あの子は狭い世界に閉じ込めてしまったから……太陽の光を体全体で受けられるここで育てていくわ」
お気に入りの生まれ変わりということなら自分の近くに置いて眺めていたいという欲望があると思っていた。
けど、今の幽香はその子の生命力を信じて花の声を聞いているかのように向日葵畑に咲く一輪の花としたようだ。
「そっか……へっくしっ」
今日はやけに冷えるなと思ったらもう日が沈んでいることに気付いていなかった。
ふと空を見上げると月が雲からこっそりとまるで僕たちを観察していたかのように顔を出している。
どこか吸い込まれてしまいそうになりながらも月を眺めていると、
「今日は家に止まって行きなさい。風邪でも引いたら大変だわ」
「えっ!?」
思ってもいなかった出来事に思わず動揺してしまう。 確か紫さんに行き帰りを頼んでいたこともあるし、ここは悪いけど丁重にお断りを――、
「紫のことなら心配しなくてもいいわよ。私が追い払ったから」
――なんてことをしてくれたんだこの人は。
「いいじゃないの一泊くらい。明日も付き合ってもらうわよ」
「は、はい……」
日も暗くなっているこの状況で一人夜道を彷徨うのは自殺行為だって慧音先生が言ってた気がする。
ここは幽香にお世話になるしかなさそうだ……。
いや待て、逆に考えるんだ。 これは……あれだ。 一晩男と女が一つ屋根の下で過ごすってことなんだよな?
これはFFF団がいたら紐無しバンジー以上の死刑確定ものだぞ。 素直に応じるしか最初から道はないじゃないか。
「何してるの? 早く来なさい」
「はい!」
「………変なこと考えてたら手脚もぎ取るわよ」
「はい……」
どうしていつもこう、話の路線がねじ曲がってしまうのだろうか……素直にこの状況を喜ぶべきか否か。
僕はテンションを迷走させながら幽香の後を無言で付いていくのだった。
待っていてくれ姫路さん……明日、必ず会いに行くよ。
『………(ありがとう)』