バカと霊夢と幻想郷   作:こきゅー

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雄二「さて、そろそろ俺たちの現段階の状況を整理したほうがいいだろう」

美波「そうね、やっと皆が集まってきてることだしいい機会だわ」

雄二「とりあえず、俺たちがいる場所について紙にまとめてみたので各自確認しておいてくれ」

・明久は太陽の畑
・俺(雄二)、島田姉妹、秀吉、ムッツリーニ、姫路、翔子は寺子屋
・清水は人里の命蓮寺
・久保は人里付近にある香霖堂
・工藤は魔法の森、アリス・マーガトロイドという妖怪と行動している。
・木下姉は現在どこに居るか不明。時期に合流する予定。

秀吉「姉上……生きておったのじゃな」

翔子「……縁起でもない」

秀吉「そ、そうじゃな……早く会いたいのう」

雄二「次に、今の幻想郷の状況についてまとめてみた」

・幻想郷全体に召喚フィールドに酷似している結界が貼られている。これにより俺たちは何時でもどこでも召喚することが可能だ。物理的に干渉することも可能(らしい)。
・この幻想郷内で今回の事件の黒幕である岡崎夢美と北白河ちゆりの二人が何処かに潜んでいる。俺たちで見つけることは不可能だろう。見付けたとしても作戦を練らなければ敵う相手ではない。
・今は、俺たちとこの世界の住人で試召戦争をすること。

雄二「とまぁこんなところだな」

姫路「かなりの数がこちらにやって来ているのですね……」

雄二「俺が確認しただけでこれが全部だ。これから増えるかも知れないし、減るかもしれない」

ムッツリーニ「………(コクリ)」

雄二「詳しいことは全員が集まり次第話す。それでは、予定通り二人は俺に付いて来てくれ」

???「「分かったわ(分かりました)」」


第二問

「お邪魔します」

 

「何もないけど上がって」

 

夜になりすっかり冷え切った体を温めるには最適の一軒家に僕は靴をそろえて礼儀よく上がった。

やはり女の子の家となるとどこか緊張するものがある……。

 

「中に入って待ってて、今温めてあげるから」

 

ま、まさか……温めてあげるって、僕の体を直接その肌でぬくぬくと、

 

「……犬小屋にする?」

 

「楽しみだなー、あははは」

 

幽香のアメリカンジョークを華麗に回避し、僕はとりあえずリビングにあげてもらうことにした。

玄関から一本道で特に迷うことはない、自然に考慮しているのか家の造りはプレハブ等ではなく木質構造だと思う。

外見は白く、一人で住むには問題ない程度だったため、中の広さも予想通り。

廊下にはいたるところに豊富な種類の花で飾られている。

 

「なんだか幽香らしいね」

 

「そう? もっとおどろおどろしい家を想像してくれたら嬉しかったのに」

 

それはそれでヒマワリ畑にミスマッチしているような気がするのはおいておこう。

 

「それじゃ、先にくつろがせてもらいます」

 

「どうぞ」

 

リビングで幽香と一旦別れ、僕は部屋の隅っこにあるソファに座らせてもらうことにする。

ふかふかで、子供の頃に感じたホテルとかに置いてあるベッドのような感覚。

全体を見渡すとエプロン姿で僕のために料理を温めてくれている。 玄関で言われた温めるとは料理のことだった。 いや、うん、僕は初めから分かってたよ。

インテリアな時計の短い針がもう9の数字を過ぎようとしていた。

外の家の色も白かったが中も白い壁紙でリビングを覆っている。

床はフローリングの上にふわふわしている絨毯が敷かれていた。

 

「明久、そろそろできるわよ」

 

幽香の声に気が付くと僕はいい香りがする料理の元へと向かった。

匂いの正体はカレーのようだ、ジャガイモ、ニンジンと様々な具材が入っていて、まさに女子といったカレーがそこにある。

テーブルの上には僕の分のカレーの他に薔薇の柄をした花瓶が据えてある。

花を愛する幽香の性格から察するにそこに飾られている花は造花だろう。 引き抜くなんて痛そうだしね。

僕はお腹もすいていたこともあり、すぐさま背もたれのある椅子に着き、スプーンを持つ。

 

「いただきます!」

 

食事の挨拶を言い終えると僕は無我夢中でカレーを残さず食した。

 

 

 

 

 

少年晩食中...

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした!」

 

「あっという間に平らげたわね……」

 

しまった、あまりにも食欲が進んでしまいがつがつと食べてしまった。

少し行儀が悪かったかなと反省しつつカレーが盛られていた皿から幽香の方へと視界を移す。

でも、ホントに美味しかった。

 

「そんなにお口に合ったかしら?」

 

「大変おいしくいただきましたっ!」

 

「それは何より……」

 

さてと、晩御飯も頂いたことだし、少し休憩してからお風呂に入ろうかな。

 

「お風呂は何時頃入る?」

 

「大体三十分後くらいかな……」

 

ん? ちょっと待って、僕。 こ、これって……いいのか? 男子が女子のみに使用されたお風呂に入浴してもいいのだろうか!!?

 

『いいじゃん? 別に相手は嫌でもないんだからさ』

 

む? 久しぶりだね、僕の心の中の悪魔め。

 

『あれ? 歓迎されてないカンジ? もっと欲望を自由に解き放とうぜ~!』

 

『いえ、そんな野蛮な行為はしてはいけません』

 

あ、僕の中の天使、まだ居たんだね……。

 

『当たり前です。そんな原始人のようなことしてはいけません』

 

相変わらず口がひどいね、とても天使が言っているようには聞こえないよ。

 

『っへ、コイツは天使より俺様を選んだ、すっこんでな』

 

『いいえ、そうはいきません。このどこまでも醜い豚は私が徹底的に監視しなければなりません』

 

僕の中の天使が清水さんに見えたのは気のせいだろう。

 

「そう、なら私が先に入るわね」

 

「『『ここでまさかのチャンス到来!?』』」

 

予想外にも僕の中の悪魔と天使のハーモニーを今ここに奏でた。

 

「首の骨を折る音って私好きなの、明久の首ってどんな音がするのかしら……ボキ? それとも、バ・キ?」

 

どっちも僕の生命に危険を脅かす気がする。

 

「先に浸からせていただきますッ!」

 

命の危険、いやそれ以上の警告音が僕の中で流れすぐさまタオルと着替えを手に取り洗面所に向かった。

 

「ふー、危うく人体解体ショーでもされるところだった……」

 

今後幽香には言葉を選んだほうがいいのかもしれない。

僕はいつの間にかいなくなった天使と悪魔に翻弄されつつも湯船につかることにした。

 

 

 

 

 

 

少年入浴中...

 

 

 

 

 

 

「お風呂あがったよー」

 

「あら、似合ってるじゃない。借りてきてよかったわ」

 

幽香はなぜか男物の着物を用意していたので僕はそれを着させてもらうことにした。

よく旅館などで着る温泉上がりの浴衣を借りている。

 

「一人でよく着れたわね、意外に器用なの?」

 

「意外には余計だよ、僕だって得意なものはあるんだから」

 

「頭の中が春なこととか?」

 

「それは長所じゃない!」

 

「あっそ、じゃあ何が得意なのよ」

 

「僕は自慢じゃないけど料理は得意だよ」

 

吉井家の複雑な事情による特技習得だから本当にそこまで自慢できるかどうか微妙ではあるが、料理の腕は矜持を持っている。

 

「へぇー、今度食べてみたいわ、貴方の料理」

 

「また機会があればね」

 

といっても、今後は忙しくなるだろうし、難しい相談かな……でも時間があれば僕のパエリアをぜひとも堪能してほしいと思う。

 

「ま、無理だろうけど」

 

「え?」

 

ぼそっと聞こえた声に聞き返してしまうが、本人は軽く受け流す。

 

「それじゃ、私も湯船に浸かるとするわ」

 

「いいお湯加減だったから、ゆっくりするといいよ」

 

「そう、なら遠慮なく」

 

ここで覗こうかと思ったけど流石に気が引けたのでそのまま素直に幽香を見送った。

しかし、幽香はふと立ち止まりくるっとこっちに翻す。 何か忘れ物でもしたのかな?

 

「あ、そうそう、布団はもう敷いてあるから先に寝ちゃってもいいわよ」

 

「了解」

 

実はというとお風呂の中でうっかり寝てしまいそうになっていた。

それほど僕は疲れていたのかと実感がしたけれど、お風呂を上った後はいつものように振る舞った。

なんとなく心配かけちゃうといけないかなーって思ったからかな、つい見栄を張ってしまう。

 

「それじゃ、お言葉に甘えて先に寝させてもらおうかな」

 

別に僕は部屋が明るくても眠れる体質だとは思うので、幽香が上がってきたときに真っ暗だと失礼なので僕は明るいまま布団の中に包まった。

お風呂上りにお布団のふかふかな幸せはとてつもないものだとはよく言う。 それがすこぶる疲れていたなら尚更だ。

僕はあっという間に睡魔に襲われ眠りについた。

 

――――☆――――☆――――☆

 

「……ん……んぅ……」

 

昨日僕は幽香の家に泊まることになった。 特にイベントなどは起きず平凡と窓から零れる朝日に向かって目を覚ます。

ゆっくりと立ち上がると思いっきり背伸びをし、体をほぐす。

 

「んんーっ! ふぅ、いい朝だ」

 

早起きは三文の得、いい目覚めだ。 おかげで弾幕ごっことかの疲れも殆どなくなっている。

とりあえず顔を洗いたいので洗面所に向かうことにした。

行く途中でふと昨日の夜の幽香の発言が気になった。 僕の料理を味わう機会が無理だろうというのはどういうことなんだろう……。

しかし、朝から脳を働かせるというのは僕には不合理なもので、結局そのまま洗面所に着いた。

僕の家のようにためらいもなく戸を開けるとそこには歯ブラシを片手に磨いている幽香が、

 

「あら?」

 

「あ、おはよう、幽……香…………ちゃん?」

 

「殺す」

 

「失礼しましたッ!!!」

 

な、なんだ今の小動物のような幽香は! 大人びた女性だった一面もあれば、パジャマなのかピンクのネグリジェと星柄のナイトキャップを着用することによりあのような愛いらしげも醸し出せるのか!

特にあの熊のヌイグルミなんて片手で抱いて歯を磨く幽香は素晴らしいものだった。

 

「殺すわ、今すぐ」

 

「ま、待って幽香! 不可抗力だ! 僕は何も悪くな――」

 

無残にも彼に彼女の弾幕をよけるすべは持ち合わせていなかった まる

 

 

ピチューン。

 

 

 

 

 

少年再生中...

 

 

 

 

 

「すげぇいてぇ……」

 

召喚獣での被弾は経験したことはあるけど、本人に被弾すると意識がぶっ飛ぶくらい痛いものなんだね……先ほど見たパジャマ姿の幽香ではなくなっていて、昨日着ていた服によく似ている服装に着替えていた。

 

「まったく、朝は私が起こしてあげようと思ってたのに、まさか私より早起きなんてね」

 

「あ、あはは……そうだったの?」

 

人の善意を潰してしまったようで少し息苦しくなる。

さっきの幽香からはもう悍ましいオーラが感じ取れない、とりあえず許してはくれたようだ。

不慮の事故とはいえ、確かにここは一人で暮らしている女性の家なんだから注意は払うべきだった。

僕は軽く「ごめん」と謝ると幽香は笑顔で許してくれる。

 

「それじゃ行きましょうか」

 

「あ、待って」

 

「どうしたの?」

 

幽香の外出する準備は万端なのだが、僕はまだあの騒ぎがあったので顔すら洗えていない。

それに幽香に聞きたいこともある。

 

「霊夢から借りたあの服なんだけど、どこにあるのか知らない?」

 

僕は寝間着のままだし、この格好で外に行くのはちょっと気が引ける。

多分、霊夢のあの巫女服に慣れてしまったのもあるかもしれない。

 

「あー、ちょっと待ってて、今持ってくるから」

 

そういうと幽香は僕の服を取りに行ってくれる。 もしかして昨日のうちに洗ってくれてたのかな?

 

「持ってきたわよ」

 

「ありがとう」

 

あまり待たされることもなく幽香は僕の服を取りに戻ってきてくれた。

しかし、なぜか袋の中にきれいに畳まれた巫女服を見せただけで僕の手元には返してくれない。

理由が分からない僕は幽香に尋ねてみる。

 

「どうしたの? その服、洗ってくれたとかじゃないの?」

 

「洗ったわよ。汚くて仕方なかったからね。でも、この服はもう着ても意味はない」

 

まさか僕に着用する許可が得られないとは……僕はこの浴衣姿で行くしかないのか。

 

「そ、そうなのか……」

 

「それじゃ行きましょう」

 

少し残念がる僕の様子を放っておく幽香は先に家を出て行ってしまう。

置いてかれるのもあれだし、慌てて気を取り直して後に続く。

電気は消した、火元もオッケー。よし、鍵も掛けてっと……。

 

「お待たせ」

 

「身支度は済ませたわね。もうここには暫く戻ってこないからしっかりとね」

 

「暫く戻ってこない? どういうこと?」

 

「私は花の妖怪、夏が終われば各地を放浪するの。そこで色んな花を見てくるつもり」

 

意外な理由に僕は感心させられてしまった。 それで機会がないだろうって言ってたのか。

そんな習慣があったなんて、やっぱり幽香は恐ろしい妖怪というより花屋の娘のようなイメージが僕の中でふつふつと湧いてきた。

 

「そっか」

 

僕は軽く返事をすると二人でいよいよ目的地に向けて出発する。

僕と幽香も暫くここには来ないだろう。 そう思うとなんだか名残惜しい気分になってしまう。

 

「あれ? そういえばどこに行くの?」

 

いけない、僕としたことがあれから結局僕は何のために幽香に付き添うことになったのか分からないままだった。

さっきの旅の話を聞く限り僕もその旅に同伴することになってるのかな? 流石にそれだけはいくらなんでも困る。 もしそういうことならはっきり断らないと。

 

「今からあなたの巫女服の修繕と私のお気に入りの日傘を取りに行くのよ」

 

「そうだったのか、僕はてっきり幽香と一緒に世界各地の花を見るのかと」

 

「そうね、二人で旅をするのも悪くない。けれど、やっぱり一人のほうが気楽でいいわ」

 

「なるほどね、ん? ねえ幽香」

 

幽香は僕たちと初めて対面したとき、確かに日傘を持っていた。 普通の日傘じゃないのは承知済みだ。

普通は傘からレーザーなんて出せるわけないからね、うん、魔法アイテムのようなものだろう。

でも、前者に言っていた僕の巫女服について聞いてみる。

 

「あの巫女服そんなに破れてた?」

 

「見かけは少し縫えば大丈夫よ。ただあの服はただの服じゃないから」

 

僕は黙って幽香の話を聞き続ける。

 

「あの服は博霊に伝わる伝統の巫女服、その予備なら巫女服にたっぷりと霊力が蓄えられているはず。今のこの服はその霊力も付ける必要があるわ。だからあなたは縫い合わすことはできるかもしれないけど、それじゃ完全には直ってないのよ」

 

あの服にそんな不思議能力があったなんて、今初めて聞かされた新事実に驚きを隠せないでいる。

それにもう一つ驚いたことがある。 幽香ほどの強さを持つ妖怪ですら霊夢のことを親しく知っているようだった。

本当に、霊夢は無敵か何かなのかと疑ってしまうほどね。

 

「私と戦えたのも多分それのおかげね」

 

「そうだったの!?」

 

僕はただただ根性と気合だけで幽香に立ち向かっていたと思ってたけど……そっか、世の中根性論だけじゃ通用しないときもあるんだね。

 

「その霊力も回復させてくれるのが、香霖堂の店主さんよ」

 

香霖堂ってそんなすごいお店があったのか、安全そうなお店なら姫路さんたちと一緒に通ってみたいな。

雄二と相談してみて何かに使えそうなら尚いいんだけどなぁ。

 

「それじゃ早く行かないとね!」

 

「そうね、私も楽しみだわ」

 

思わず無邪気な子供のように走りだすような気持ちが高揚する。

僕を考えてくれているのかどうやら人里を通じてお店に向かうようだ。 それとも人里内にあったりするのかな。

おそらく人里にはそんな店はなかったと僕の記憶が語っている。 何か忘れているのかもしれないけど、思い出せないからそこまで重要なことではないのだろう、多分。

 

こうして僕たちは話が弾むとどのくらい歩いたかわからないがおそらく数時間は歩いたと思う道をあっという間に人里にたどり着くのだった。

今に思えば、幽香もおそらく飛べるのだろうけど、ゆったりと歩きたい気分だったのか、もしくは両手が荷物で塞がっていたので僕を運んでいけなかったのが理由だと考える。

まぁ、兎にも角にも途中で姫路さんたちに会えたりしないかなーっと浮かれてしまう僕であった。

 

――――☆――――☆――――☆

 

「ねえ明久」

 

人里内を歩いていると突拍子もなく幽香が口を開く。

僕はそれに答える。

 

「何かな?」

 

僕が返事をするとまた口を開き、話をする。

以前の僕たちでは到底予想出来なかっただろうな、ふと感慨深くなってしまう。

幽香も美人で、スタイル良くて、胸もメロンとまでは言わないが大きく実っている。

そんな綺麗な人で、凶暴な彼女が僕の隣を歩いているなんて、本当に予想がつかなかっただろうな……。

 

「アナタ、好きな女の子はいるの?」

 

「ぶふぉッ!!」

 

いきなり何を聞いてくるんだこのフラワーガールめ。

 

「あら、そんなに動揺することないのに」

 

「い、いきなり何言い出すのさ!!」

 

確かに幽香は人里に入ってからは目が移らず真っ直ぐ前だけ見ていて、香霖堂にしか興味がなさそうな顔してたけど、だからって何? 暇つぶし? 一体何の因果で僕にそんな質問をするんだ。

 

「そんなに怒らないでよ、アナタの好きな子は大体分かるから」

 

「ごぱぁッ!!」

 

心の中の起爆スイッチを押されたのかと思うほど驚いてしまう。

 

いや!!まて、そうだ、知り合って間もない彼女が僕の好きな女性を知るわけがない! つまりこれはハッタリだ!

 

「ふ、ふん! なら試しに言ってみてよ! 僕の好きな人かどうかってさ」

 

この人は人を虐める素質があるような気がする。

 

「あ、あんなところに――」

 

「だ、騙されるもんか!」

 

いかんいかん、幽香が指しているが決して振り向かないよ。

これ以上は嘘だとしても精神的にキツいものがある。 何とか話を逸らさないと。

 

「ゆ、幽香! 早く香霖堂に行こうよ! 僕すっごく気になるんだ!」

 

「あら、挨拶しなくていいの?」

 

「ぇ?」

 

幽香がきょとんとした顔で僕の顔を覗いてくる。 試しに幽香の指していた方向を確認すると予想外のメンバーが並んでいた。

 

「あ、明久くん!?」

 

「あ、ああああ……アキ!!」

 

「お、ようやく戻ってきたかバカ野郎」

 

僕と幽香の前に偶然にもその場を居合わせた雄二と美波と姫路さん。

僕は一瞬言葉を失った。 まるでメデューサと目を合わせ石にされてしまったかのように体が動かない。

頭の中もいろんなものがぐちゃぐちゃになっている。 どうしよう、早く声をかけないと。

 

「や、やぁ……」

 

「っ? どうした?」

 

い、いやさ……心の準備もなしにそういうのは止めてほしい。

雄二が純粋に心配してくれてるのが少し痛む。

まさかこんなところで本当に、姫路さんに再会出来るだなんて思ってもいなかった。

 

「やぁ、じゃないわよ!!」

 

美波からすごい激が飛んでくる。 それもそうだよね……第一声が緊張でガチガチになって腹の底から必死に出したセリフが「やぁ」だもん。

と、とにかく一旦落ち着こう。 目を閉じ、周りからの声をシャットダウンし、大きく息を吸って――。

 

「……き………くん!!」

 

「え!?」

 

大きく息を吐こうとした刹那、何やら僕の体にぶつかるような感触がした。 いや、というより僕の体に何かが抱きついている。

 

「明久くん!! 明久くんッ!!!」

 

外からの声に耳を傾けると僕の名前を何度も大声で叫び続ける女性の声が聞こえた。

その声は泣いているのかはっきりと呂律が回っていない。

けれど、僕ははっきりと認識出来る。 何故ならその声は小学校のときに僕は一度聞いている。

そして、今僕の傍で泣きながらも呼んでいるのは誰なのか理解した。

 

「姫路……さん……?」

 

目を開けると、僕の視線の先には僕を全身で抱きしめながら瞳を涙で濡らしながら僕の名前を何度も叫んでいる姫路さんがいた。

 

「えぇぇーーッ!!?ひ、姫路さん!!」

 

僕は何が起こっているのかパニックになってしまい脳天が打ち抜かれたかのように意識が保てなくなりそうだ。

何が何だかわからない状態に陥って、顔から沸騰しそうで、何も考えられない。

 

「明久くん……明久くん……」

 

姫路さんの様子が落ち着いてきたようで、僕も徐々に呼吸を元に戻す。

ゆったりと深呼吸から鼓動を早めた呼吸に、そして最後はリラックスするようにゆっくりと呼吸をする。

しかし落ち着こうとしてもそれは不可能に近い。 僕は殆ど恋愛なんてしたこともないのだから、こうして女の子、しかも姫路さんとゼロ距離でいる。

ふくよかな胸の感触が僕の体で受け止め、僕の鼓動と姫路さんの心臓の音が重なるようにドクン、と鳴っているのが聞こえる。

それを聞いていると、なんだか心が落ち着いてくる。 こうして姫路さんが無事でいてくれることが何よりも安心出来るからかな。

僕は少し慣れてきたのでそのまま抱き返す。 そして、呟いた。

 

「僕はここにいるよ、姫路さん」

 

「……ッ! 明久……くん……」

 

優しく声をかけると姫路さんはまたもや泣いてしまう。 僕はつい彼女の頭をふわりと撫でる。

本当に、姫路さんには怖い思いもさせてしまって、申し訳ない気持ちでたまらない。 僕がもっと早く文の情報を思い出していればこんな悲劇は起こらなかった。

罪悪感で押しつぶされそうだ。僕はどこまで情けない男なんだと、自己嫌悪になっている。けれど、そんな僕でも、姫路さんは僕の帰りをこんなにも心配していてくれたんだ。

そう思うと心が落ち着いてくる。 姫路さんの髪を触っていると精神が安定してくる。

僕の手に触れた姫路さんの髪はふわりとしていてさらさらしていて、触っているだけでもっと撫でていたくなってしまう。

ずっと、このまま時が止まればいいのに……そんな風に考えてしまった。

 

「明久くんの手……少し冷たいです」

 

姫路さんの言葉で少しだけ夢から覚めた気分になり、慌てて現実を見る。

 

「あ、ご、ごめん……僕が触れても良かったかな?」

 

僕という男が、気軽に女の子に頭を撫でるなんてしていいはずがないじゃないか、現実を見るんだ、こうして姫路さんから抱きついてくれただけでも感謝するんだ!

そう自分に言いくるめていると不意に目と目が合う。姫路さんの潤んだ瞳は既に赤くなっていて充血している。

僕は思わず心配になるも間髪を入れずに姫路さんの柔らかい唇が開く。 

 

「もう、何の心配をしてるんですか? 私がこうしていますので、明久くんも……いいに決まってるじゃないですか」

 

僕と顔を合わせ照れながらも答える姫路さんはとても初々しくて可愛かった。 何時間でも彼女の顔を拝めたいと思った。

そして、僕は彼女の了承も得たので、また頭を軽く撫でる。

本当に夢みたいだ……女の子特有のいい匂いも鼻に入り、気持ちよくなってくる。

 

「えへへ……もっと撫でてください。明久くん」

 

「う、うん……ただいま、姫路さん」

 

「おかえりなさいです、明久くん」

 

自然と僕の口から溢れ出る'ただいま'の四文字は、心の奥底で言いたかった言葉だった。

この時がずっと続くのではないか、二人ともこのまま動かなくてずっと抱き合ったままじゃないかと思うほど僕は姫路さんと互いに生きているということを確かめ合った。

 

「あ、あのー……瑞希さん?」

 

そんな夢にも終わりがやってきたようだ。

僕と姫路さんが抱き合っていると美波が野次をいれるように口を挟む。 美波の声に我を取り戻したのかものすごく顔を真っ赤にして僕の元から離れていってしまった。

うう……こんな経験二度と来ないだろうから、この感触を忘れずに取っておこう。 僕は心の奥からそう決めたのだった。

 

「アキも……さ、時間とか……場所とか……ね?」

 

美波が姫路さんだけでなく僕にも声をかける。 よし、この記憶を僕の永久保存版に残したことだし、話を聞こうじゃないか。

 

「どうしたの? 美波」

 

清々しいほど気持ちをリフレッシュしている僕は美波の様子を確認する。

すると美波も顔を姫路さん程ではないが顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。

 

「アキ……周り見て……」

 

「周り?」

 

僕は美波に言われるがまま周りをぐるりと見てみると現在の状況に驚愕させられた。

時刻はお昼過ぎと言ったところか、あれから僕たちは何分、何時間いたのか分からないが人里のお天道様の下でずっとラブラブしているように見えただろう。

いつの間にか僕たちの周りには約四、五十人ほどの観客が見に来ていたようだ。

なぜこんなにも人が集まっているのかって? 僕でもすぐに理解した。

 

「いあjぎh;じっへおj*UJじゅ」

 

そして、僕の中で何かが爆散した。

 

「明久、何を言っているのかわからないぞ」

 

僕も恥ずかしさで顔から火が出そうになる! え!?なにこの野次馬共は! いつから見られてたの!?

 

『いやはや、若いっていいもんですな』

 

『俺にもあんな青春送りたかったぜ……べらぼうめ』

 

『感動の再会~Season2~ね……良かったわ……』

 

『吉井コロス』

 

外野からは僕たちの様子(男女が抱き合っている様である)を観覧して様々な声が上がっている。 あれ? 今僕を名指しで殺意をむきだしにしている人いなかった?

ていうか、そこの感動の再会とか言ってる人! 絶対僕とムッツリーニが再会したときにいた人里の住人ですよね!?

 

「とりあえず、一度寺子屋に入りましょうか」

 

「そ、それがいい! 皆行くよ!」

 

「誰の所為でこんな騒ぎになってんだよ……」

 

「ふふふ、やっぱりね……」

 

美波のナイスな提案に乗っかり、ひとまず寺子屋に避難することにした。

姫路さん以外がぶつぶつと愚痴や謎の言葉を発し、僕たちは人ごみの中を何とか寺子屋に目指す。

姫路さんはと言うと未だに全身真っ赤で照れているのが外見で分かる。 そんな彼女を見ていると思わず思い出してしまう。

顔が合ったときは口から心臓が飛び出るくらい驚いた。 でも、今思い出せるのは彼女の触ると弾力で跳ね返してしまいそうな唇と柔らかな胸の感触。

いかん、思い出したら僕も恥ずかしくなってしまった。

 

「おい明久、さっさと歩け!」

 

「分かってるよもう!!」

 

後ろから雄二に強引にも押されながら人ごみの中を通り抜けるように移動する。

その数分後、僕たちはひとまず何とか寺子屋に到着することが出来た。




世はバレンタインデー、女の子のピュアな気持ちのこもったチョコで溢れかえる日ですね……姫路さんのチョコほしいけど、まだ現世でやりたいことあるから、受け取れませんね(汗
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