バカと霊夢と幻想郷   作:こきゅー

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『あぁ、ここにもない! あそこにもない! 一体どこに無くして……』

『邪魔するぞあk――っんお!?』

『そっちにないとすればどっちなのでしょうか……はわわ』

『何をそんなに慌ててっと! いるんだあkyっおい! 私に本を投げないでくれ』

『さっきから五月蝿いですよ! 私の大事な資料が何者かによってですね!』

『やっぱりこれは阿求の物であったか……』

『これってどれなんです……ホワァーッ!?』

『……こんなに取り乱した阿求を見るのも初めてだな』

『そ、それは……一体どこで!?』

『とりあえず、この部屋を片付けるか。お茶も飲めやしない』

『そ、そうですね……では、客室でお待ちください。慧音先生』

『分かった、しかし一人で大丈夫か?』

『家内の者を呼びます故、心配なさらずに、その破れたページについても詳しく話を聞かせていただきたいので』

『そうか、それでは待たせてもらおう』





少女片付け中...





『お待たせしました』

『それで、どうして阿求の本の一ページだけが私の寺子屋に落ちていたのか、尋ねに来たのだが……』

『私も今日の朝からずっと探していて……いつ切り離されたのかわかりませんが気づいたときには』

『そうか、この手口からすると妖怪の類か?』

『いえ、私のちょっとしたお知り合いにも相談したのですが、妖怪でこのような悪戯をする妖はいないと。私も記憶を色々探っているのですが……』

『どうしてそういいきれる? 悪戯好きの妖怪ならこの幻想郷に何人かいたと思うが……』

『それなら、どうしてこの書籍の一ページだけを、誰にも気付かれずに、寺子屋に破り捨てたというのでしょうか』

『尚更妖怪の仕業にしか聞こえないのだが、阿求は何を考えている?』

『私は、今回の騒動は知能を持った生き物――それも、厄介な類と推測しています。聞けば幻想郷に不穏な空気が流れているとか』

『何だと!?……まさか、外来人!?』

『確か寺子屋で何人か住まわせているのだとか……』

『あいつらが……いや、そんな風に見えない』

『見えなければ、そこには何も居ないのと同じではありません。正直者と呼ばれる者こそ嘘つきの象徴なのです』

『……とにかく、それは返すよ。それと、少し相談があるんだが』

『慧音先生の頼みであればなんでも聞きますよ。それにこの太陽の畑に関するページを見つけてくれた御礼もしたいですし』

『そうか、恩に着る』


――――☆――――☆――――☆


久保利光
僕と香霖堂と昼下がりの魔法使い


ここ最近の幻想郷は昔と比べ活気に満ち溢れている。

紅い霧、寒い春、明けない夜……思い返せば様々な異変は暇を潰すため妖怪たちの遊びとなっている。

僕が生まれた頃はもっと物騒だったかな。けど、博麗大結界のおかげで僕はこうして平和な日々を送れているのだから、巫女には感謝しないといけないね。

 

「あのー、この商品はどこにしまえば……」

 

僕の名前は森近 霖之助(もりちか りんのすけ)、香霖堂の店主をやっている。

午後の優雅な一時を過ごしている。 外から吹く強風に窓ガラスが音を鳴らし、僕に中で暖を取れと教えてくれる。

この季節になるとかかせないアイテムに目を配り、火が付いていることを確認する。

 

「それは適当に置いててくれ」

 

このストーブという外の世界では寒い季節を乗り切るにはかかせない道具が僕の店の内部を暖めてくれる。

最も、使用される時期が少し早いかもしれないがこの道具はそういう'用途'なのだから何も問題はない。

そうなると風が鳴らす窓ガラスの音がまるで僕の店に「寒いから中に入れてくれ」と懇願しているようだ。

けど、僕はその場を動かず椅子にもたれながら紅茶を音を立てずに一杯。

飲み終えれば今朝雇ったアルバイトが両手で丁寧に抱えながら困った顔で尋ねる。

 

「分かりました」

 

「悪いね、今日は冷えるだろう?」

 

それなりに大きいあの道具は特別なものでもないので彼に任せることにした。

働き者の彼を雇って正解だった。この時間帯は本来なら僕一人で店内を過ごしているはず。

しかし、外の世界からやってきたのだろうこの青年を利用……いや、この店で僕の粋な計らいで働くことを条件に住ませることにしたのだ。

我ながらいい人材が見つかったと自画自賛しながらティーカップに口をつける。

 

「これが終われば休憩を挟もうか」

 

「分かりました」

 

真面目に働く彼の姿を僕は高みの見物といったところでゆっくりと座って寛いでいる。

僕らの着ている服とは異なる資材が使われているだろう、彼の服は制服というものらしい。

外の世界では子供は学び舎に通う際は必ず指定された制服というものがある。

おそらくそれの類ではないかと推測している。

 

彼が何故幻想入りをしたのか、それは本人も分からないと言っていた。

 

「霖之助さん、これはどこに仕舞えばいいですか?」

 

だが、僕にとってこれは好都合だ、このまま彼を永住させてもいいとさえ思えている。

まだ日は浅いが彼との信頼関係はこれから築いていけばもっと僕の手足となり働いてくれるだろう。

僕は残りの水滴を飲み干し彼の質問に答える。

 

「それは売り物にならないから奥に仕舞っておいてくれ」

 

「分かりました」

 

僕の店の奥にはあまり部外者は入れたくない。僕のお気に入りの非売品が詰まっているからだ。

けれど、彼は僕が許した一人であり何も問題なく頼まれたことを遂行してくれるだろうと信じている。

幻想郷には何かと騒がしいお客(といっても商品を買ってはくれないので邪魔でしかない)しかいないので、奥に人を入れるのは数少ないのだ。

 

「置いてきました」

 

「ご苦労様、紅茶淹れようか? それとも緑茶がいいかい?」

 

「それでは紅茶をいただきます」

 

「分かったよ、適当に座っててくれ」

 

ティーカップの中の水分が僕の喉を全て通り終えたので僕はついでに彼の分も淹れてあげることにした。

店長としては理想の姿を築けているだろう、そう思うとまたもや自画自賛をする。

僕はストーブの魔力が届かないこの場所まで紅茶を淹れに動くのがやや億劫だった。

この世の中には'コタツ'というとても素敵なマジックアイテムが存在していると耳にする。

霊夢の頼めばかしてもらえるだろうか、今後の計画を立てながら寒さを耐え彼の元へ戻った。

 

「お待たせ。お口に合うか分からないけど」

 

「いえいえ、ありがとうございます」

 

数時間ほど前から働いてもらい先ほど本日初の休息に彼も疲れが隠せないでいたようだ。

でも、僕がその場を立ち去っている間はそれを癒していたようだが、戻ってくるとわざわざ立ち上がりティーカップを受け取る。

なんと礼儀正しい子だろうか、僕はこんな店員が欲しいと願っていたのかもしれない。

人が願う力には不思議な力が宿っていると聞くが、僕にもその力が働いたのか。

僕の場合は半人半妖のハーフだから、その線は薄い。そんな力が存在するならば僕は霊夢の神社に毎日お参りをしているだろう。

 最近寺子屋が何やら騒がしいと聞く、この前も魔理沙がやって来たと思えばすぐに人里の異様な空気に感じると出て行ってしまった。

その後満足気な顔をした魔理沙から話を聞くと迷い込んだ妖怪退治をしてきたと自慢げに語っていたな。

 淹れたての紅茶から湯気がふわふわと上がっていく姿を確認し、ゆっくりと口の中に入れる。

 

「どうだい、この店にも慣れたかな?」

 

「そうですね、見慣れた物が多いので戸惑うこともありませんでした」

 

彼の返答はすぐにでも納得できた。 なにせ僕の店は外の世界から流れ着いた道具を主に取り扱っているからきっと馴染みがあるのだろうと。

なにやら人里には僕と趣向が似た本屋があると聞くがお日様がもっと顔を出す頃まで僕も店の中で閉じこもることにした。

何かあれば魔理沙が慌てて、そして騒々しく僕に出来事を話すからだ。 わざわざ僕が情報収集しなくとも勝手に耳に入ってくる。

それまで僕はこうして優雅な一時を過ごすことにする。

 

「確か君の名前は……久保君だったね?」

 

「はい、久保 利光です」

 

「今はお客がいないだけで、来客には存分におもてなしをするんだよ?」

 

「心得ています」

 

これであとは客の一人や二人いれば完全に商売なんだけどなぁ。

昨日は魔理沙一人だけだった、いやあれを客と数えるのはどうなのか。

何も買わず、ただ自慢話を聞かされただけだ。 お金も貰わず、タダ働きさせられたようなもの。

そう思うともう一度魔理沙がこの店にやってこないかと待ち構える。

 

「邪魔するぜ」

 

「邪魔するなら帰ってくれ」

 

「あ、あなたは昨日の……」

 

噂をすれば影がさす、白と黒の衣装を身にまとった魔法使いがこの店に訪れる。

彼女の名前は霧雨 魔理沙。僕の知り合いだ。

この子の親父さんには世話になり、それは僕が店を開く前からだ。

 

「よっ、香霖堂のアルバイトじゃないか」

 

「いらっしゃいませ。魔理沙さん」

 

「ふふふ、そうだよ。香霖堂なんだからこの響きがないとな」

 

図々しいお客がやってきてしまったと肩の荷をおろす。

何度も顔を見ている同士なら、緊張もする必要はない。

久保君もリラックスして接客しているようだ、僕はいつもの定位置に戻り落ち着きを取り戻すために紅茶を飲む。

 

「あ、香霖。それ私にくれ」

 

「ダメだ、今久保君がお茶を淹れに行ってくれてるだろう」

 

最も、僕と久保君が飲んでいるのは高級な茶葉を使用しているのと比べ魔理沙には其処らで拾った茶葉を使用したお茶を用意させることにしてる。

久保君にはそのことを教えていないが、来客用の茶葉として教え込んでいるので心配はない。

ただでさえウチには霊夢に占領されているんだ。 僕の店だから自由に使い分けても問題はないはず。

 

「お待たせしました」

 

「ん? いつもより色が濃いな……」

 

僕は魔理沙の一言を聞いてその場を勢いよく立ち上がった。

 

「待ってくれ、久保君、君は何をいれた?」

 

「はい、魔理沙さんは常連であり、霖之助さんのお知り合いのようなのでいつもの茶葉ではなくその隣の物を使用しました」

 

「……そ、そうか」

 

にこやかに答える彼の表情を見ていると僕はその場に座り込んだ。

足の力が抜けていくような感覚。 ストンと椅子へと着地した。

 

「お、気が利くじゃないか」

 

魔理沙は差し出された湯呑を受け取りずずーっと飲み干す。

あれは僕が店じまいのときに一息入れようと思い楽しみにしていた特別の緑茶だったのに……。

 

「ふぃ~。やたら上手いなこのお茶、こんなの隠し持ってたなんてずるいぜ」

 

「良かったですね、霖之助さん」

 

まったくもって良くない。 魔理沙はニヤニヤとしながらお茶の感想を述べる。

本来ならそれは僕の口の中に流れ込むはずの液体だったのだ、それを魔理沙に飲まれた、しかもうまいの一言で済まされた。

僕はショックを紛らわすために紅茶を一気に飲み干す。

 

「おいおい、そんなに飲むとお腹タプンタプンになるぜ?」

 

「……ほっといてくれ」

 

魔理沙の所為で胃に穴が空いているのかあまり飲んだ気がしない。

僕はもう一杯、今度は別の紅茶を飲むことにした。

それは明日の分だったのだが、少量ならば問題はないはずと思い僕は再び席を後にした。

念のため魔理沙を一人にするのは危険だと判断し、久保君に見張りを頼むことを忘れずに。

 

「すまないが、魔理沙を監視していてくれ」

 

「監視……ですか?」

 

僕の言葉を聞いた久保君は不思議がり、魔理沙は不機嫌になっていた。 しかし僕はもっと機嫌が悪いのだ。

腹の虫が収まらないまま僕は奥の部屋へと心機一転するためにティータイムする準備をすることにした。

 

――――☆――――☆――――☆

 

「監視……ですか?」

 

魔理沙さんの飲み終えた湯呑を回収すると店主である霖之助さんはどこか不機嫌になりながら奥の収納部屋へと姿を消した。

 

「私を監視だって? 囚人みたいな扱いしやがって」

 

「まぁまぁ魔理沙さん、僕が勝手なことをしてしまったのが事の発端です。私が謝りますのでどうか怒らないでください」

 

この店に拾われてからというもの、この世界は僕の非常識が溢れている。

霖之助さんからどんな世界なのかは粗方教わったが、到底理解出来ることではない。

こうして目の前に魔法の話をする少女がいるのだから。

しかし、商品は僕たちが普段ごく自然と使っているものばかり。

中身が空っぽの炊飯器、玉がなくなっているけん玉、中にはパソコンまで整理して飾ってある。

いけない、住み込みで働かせてもらっている身だ、とりあえずせっかくのお客様の相手をしないと。

これらのどれかを買ってもらうために丁寧に接客させてもらおう。

 

「あ? なんでお前が謝るんだ?」

 

「いや、ですから私が間違えて魔理沙さんに淹れてしまったのが原因で……」

 

「美味かったんだから何も問題はないはずだぜ。毒とか入れてるなら謝罪じゃ済まないけどな」

 

そう言いながら彼女は変哲もない笑顔で僕を慰めてくれているようだった。

昨日もそうだったが、彼女は男勝りな性格をしている。 僕も昨日の彼女の話を聞いたのだが、その話し方はやや男口調だった。

見た目は女魔法使いといった黒い帽子に片手に箒を携えているのが彼女の特徴だ。

そんな初めて見る魔女に励まされるのはなんとも形容しがたい気持ちになる。

 

「ところで、今日は買い物に?」

 

気持ちを切り替え、さりげなく飲み終えた湯呑を霖之助さんのいつもいるテーブルの上に置くと談話でもと話し始める。

 

「それとも、昨日のような自慢話ですか?」

 

「お前香霖に似てきてる気がするぞ」

 

「そうですか? ところで香霖と言うのは霖之助さんのことで?」

 

昨日もそうだったが、この人は話の始まりには「こうりん」と呼んでいた。

霖之助さんの苗字は森近……どこからこの名前が来ているのか少し疑問に感じている。

今は二人きりだ、自然に魔理沙さんに聞いてみることにした。

 

「香霖イズ香霖だぜ」

 

「いやまあそうですが……」

 

少し捻じ曲がった回答に動揺しつつ言葉を返す。

僕自身そこまで気にしていなかったのであだ名か何かだと勝手に決め付けることにした。

 

「んじゃそこの机借りてくぜ」

 

そう言うと僕の目の前ではもうすでに店の商品だった机の上に荷物を置き、椅子を探すと見つけたのかさっさと持っていく。

なんとも行動力が速い子だろう、僕はその手癖にもはや感心させられる。

 

「ふむ、こんな感じだろう」

 

勝手に店で何を始めるつもりなのか、気になり横から顔を出し様子を伺う。

すると机の上にばらまかれた物に驚く。

 

「これは……算数?」

 

「あぁ、来るべき日に備えてだぜ」

 

魔法使いの試験でもあるのだろうか、だけどその教科書とも言える算数の本はとても簡単なものだった。

魔法というのは科学の世界では存在し得ないもう一つの可能性と僕は考えている。

それを扱う人がこんな初歩的な勉強をすることに僕は戸惑いを隠せずにいた。

このような本ならここにも何冊かあった気がする、まさか……。

 

「その本、霖之助さんの店の本ではありませんよね?」

 

「違うぜ。これは阿求から盗……借りたものだ。失礼だぜ」

 

一瞬泥棒のセリフとも思える発言が聞こえた気がするが気のせいだろう。

まぁ、霖之助さんと交友関係を持つ人が盗みを働くとは到底思えない、疑った僕が明らかに間違ったことをしてしまった。

 

「すみません、変なことを聞いてしまい……」

 

「気にするな、ところで……」

 

魔理沙さんはその教科書をパラパラとめくるとぴたりとその動きを止め、とある場所を指さした。

 

「この問題わかるか?」

 

……なんということだろう、算数も分からないとは。

この出来事がきっかけとなり僕の中で何かが燃え上がった。

 

「えっと、円の面積ですか。それなら半径×半径×円周率という……」

 

「なるほど、聞いたことあるぜ」

 

僕がヒントを言うだけで彼女は転がっていたペンを利き手で強く握り持ち変えるとそのままスラスラと数式を書いていく。

分からないというのは建前であって、彼女一人でも解けたのではないかと思えるほどだった。

一通り書き終えると僕の方へくるりと首を向ける。 その時金髪のさらさらとしたロングがなびいた。

よく見ると金髪というのは馴染みがあるということでもないので新鮮に思える。

 

「これでいいか?」

 

「あ、あぁ……合ってるよ」

 

「サンキュー」

 

僕が答えかどうか見てあげると彼女はそのまま次の問題へと移った。

椅子に座り勉強をする彼女の姿はこうして見ると彼女の風貌は幼い外国の少女のようだった。

しかしどうしてこの店で勉強をしているのだろうか、勉強というのは図書館やカフェなどでするのが自然であり、ここでは不釣り合いな行動だと思う。

また変なことを話してしまうかな、と思いながらも訊いてみる。

 

「魔理沙さん、一ついいかな?」

 

「ん? 礼なら言ったが」

 

「いえ、それは関係ない。どうしてここで勉強をするのかと思って」

 

「別にいいだろ? 迷惑をかけてるわけじゃないんだから」

 

確かにここは店主には失礼だが寂れた古道具屋、滅多に人が買いに来るとは思えない。

本来ならば賑わっていてもおかしくない昼下がりだというのに客は魔法使いただ一人。

邪魔されて迷惑と思う人も当然いない。 しかし、だからこそここに通う魔理沙さんの行動は少々引っかかる。

店主と仲が良いからと言って毎日、昼過ぎに訪れるのは何か訳があってのことだと思う。

僕は話を続けることにした。

 

「確かに迷惑は誰もかかっていない。しかし、図書館やカフェなど施設はあると思うのだが」

 

「図書館かー、あそこはもっとヤダな。カフェーとかいうのはあまり行ったことがないんだが、なんとなくやだ」

 

「何か理由でもあるのですか?」

 

「そんな大層な理由でもないんだが……誰にも話すなよ? 香霖は知ってるが」

 

一度溜息をすると覚悟を決めたかのように淡い青い瞳で僕を凝める。

そして、こじ開けるようにその内容を話し出す。

 

「私は、あまり努力する自分を誰かに見られたくないんだ」

 

「努力は素晴らしいものであって、別に隠すことではないよ」

 

僕も学校で休み時間にその授業の復習を五分、休憩五分と時間を割り決めている。

その間クラスにいるのだから注目されるのは当たり前だろう。

しかし恥ずかしい、誰かに見られたらどうしようという後ろめたい気持ちはサラサラなかった。

むしろ余念がなく、そんなことを思う暇すら僕にはない。

 

「もっと胸を張ってもいいんじゃないかな?」

 

「いや、そうなんだろうけどさ……周りが勝手に……」

 

どうも彼女の言葉は歯切りが悪く、ところどころ言葉が詰まっているようだ。

時々目を逸らしたりペンをくるくると回したりと落ち着きがない姿が垣間見える。

まだ日は登りきったばかりで外を明るく照らしている、別に話したくなければ僕はその場でやめさせるまでだけど、本人はそれを望んでいないようだ。

 

「周囲の目が気になるのかい?」

 

「私はな、別に努力なんて大それたことはしてないんだよ。本を読み、知識を得るというのはいつもと変わらない日常。ただ勉強しているのが魔法ではなく一般教養に変わっただけ。それなのに人は頑張っていると私をおだてる。それが嫌なんだ」

 

小さな体に大きな野望を秘めていることに気付けずにいた僕は彼女の偉大さに目が眩みそうになる。

予想外の返答に立ち呆ける自分がそこにいた。

 

「特に霊夢なんて一言「魔理沙は勉強なんてして偉いわねー」なんて言いやがって、二度と神社で勉強はしないとこの胸に誓ったぜ」

 

「そうだったのか……なんというか、魔理沙さんは偉いよ」

 

「お前までそうやって私に茶々入れるのか? もう飲み飽きたぜ」

 

「いや、冗談なんてない。魔理沙さんにとって当たり前なことでも僕らからすれば立派なことだ。勉強でも、それ以外でも努力もなしに何かを手に入れようとする人間がいる。それを僕は快く思えないんだ」

 

僕はいつの間にか少女に熱弁をしていた。

高校生がまだ成長盛りの彼女に何を熱く語ってしまったのだろうかと、少し頭を冷やさないと行けないのかもしれない。

でも、そうさせたのは魔理沙さんの影響だろうな、こんなにも胸が清々しいのは久しぶりだ。

 

「そうか、お前は『勉強』は好きなのか?」

 

「ああ、知識を得るというのは楽しいことだ。毎日していても飽きることはないだろう」

 

僕の返事を聞くと魔理沙さんは満足げに一言残すとそのまま勉強を続ける。

彼女はきっと将来大物になるだろう、実に珍しい人種に出会えた。

 

勉強というのは数式を覚えたり、作者の気持ちを読み取ることではない。

新しい何かと出会えたり、その何かに探究心を強く抱くことだ。

それをやめたとき、人は堕落していくのだろう。

僕はそんな勉強が好きだ。 教科書だけでは学べない、僕に特別な感情を教えてくれた吉井君には感謝しきれない。

そして、彼女のことが僕の中では好印象へと変わっていくのが分かった。

 

「お待たせ、ん? 魔理沙、それはなんだい?」

 

魔理沙さんと話していると霖之助さんが奥の小部屋から戻ってきたようだ。

両手にティーカップなどの洋食器を持って自分の席へと座る。

 

「まあいいや、僕は自分だけの世界に閉じこもるから。店を荒らしたりしないでおくれよ?」

 

「なんだよ、今日はそんな目的じゃないんだから」

 

「まぁ、心配だからわざわざここで優雅に過ごすんだけど」

 

「心配性だな、香霖は」

 

「魔理沙だから目が離せないんだよ。勝手に商品を持っていかれないようにね」

 

「失礼な、ちゃんと物々交換してるじゃないか」

 

「今回は何も持ってきてないのだろう? だったら交換すらも成り立たないよ」

 

「と、とにかく今日はここでゆっくりと過ごさせてもらうぜ」

 

「それなら何も問題はない。ゆっくりしても構わないよ」

 

いつの間にか僕は蚊帳の外のようでふたりの会話に入り込む隙すらなかったので先ほど魔理沙さんの飲み終えた湯呑を回収しつつ、洗浄することにした。

後ろで楽しく話す二人の様子を僕と憧れの人に照らし合わせながら、僕は奥の小部屋へ入れ替わるように消えていった。

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