「しっかし、なんでこんな子供が……私たちが見付けてなかったら今頃どうなってたか」
「そうね、私を褒めなさい」
「うん、すごいすごい」
「感情こもってないわよ、蓮子」
「ごめんごめん。さてと、君名前は?」
「はいです、葉月と言います!」
「元気があってよろしい」
「それで葉月ちゃんはなんであんなところに?」
「それは……葉月にも分からないです。お姉ちゃんの帰りが遅かったので迎えに行こうと思ったら……」
「あー、こりゃ迷子だね。仕方ない、私たちが家まで届けてあげよう! それが今日の活動内容よ!!」
「また蓮子の突発的な思いつきが始まったわ……まぁ、そんなことしなくても放っておけないわ」
「ありがとうです! お姉ちゃんたち!」
「さて、とりあえず後はメリーに任せたわよ」
「そうね、やれるだけやってみるわ」
「メリーお姉ちゃん頑張って下さい!!」
「ありがと、人助けもいいものね。メリー張り切っちゃうわ」
「………ぷす」
「あ、今蓮子笑ったでしょ!?」
「酷いギャップ萌えを見た気がする」
「酷くないわよ、私だって乙女なのよ? 蓮子より遥かにね!」
「そんな怒らなくても、寧ろ褒めてるのに……あー待った! 置いてかないでぇ~」
「………なぜこの結界内をくぐり抜けれる者が、これは早急に対処しないと」
「それは教授の貼っている結界が未完成だからで、すいやせん謝りますから光線銃返して」
「それで、今日はこれから何するの?」
ボクは初めてこの世界で安心して朝を迎えることができた。
あの森は息が詰まって仕方なかったから、とても気持ちの良い目覚めだった。
そして、アリスちゃんが朝ごはんを作ってくれて、またご馳走となり、これからどうするかを相談中で……。
「んー、そうだね……」
優子のことを話そうかと思ったが、これ以上は迷惑かけられないよね。
でも、気になるのは嘘じゃない、寧ろ心配だった。
ボクのように迷子になっていないだろうか、いや、この未知の世界で迷わない方が不自然だ。
「どうしたの? 固まって」
「いや、その……」
「遠慮なんてしなくていいのよ。私も暇だし」
「あ、ありがとね」
今日は赤いカチューシャを着用し、髪の手入れも朝から整っているアリスちゃん。
しっかりものの彼女はボクの面倒を見てくれている。 それがとても、
「やっぱり愛らしいね、アリスちゃんって」
「どうしてそうなるのよ」
とツッコミを入れつつも微妙に照れるアリスちゃんを見てボクは今日も頑張れそうだ。
「予定がないなら人里にでも情報収集に行きましょうか」
思わず聞き返してしまう程ボクにとっては都合がいいことだった。
人里って、確かこの世界の人間が住まう町みたいなところだよね?
そこなら優子とか見ている人がいるかも知れない。
ただ、ボクは別のことで少し気になった。
「情報収集? 昨日アリスちゃんから大体聞いたはずだけど」
ボクはまだ人探しについてアリスちゃんに話してはいない。 けれど、アリスちゃんは心の奥底を覗いた後のように話を持ちかけてきた。
もしかして察せられた?
「慧音にでも会いに行けばあなたの知恵になるはずよ。彼女は幻想郷をよく知る人物だから」
そういうことか、どうやらボクの勘違いだったようだ。
ボクは安心して話を続ける。
「それなら霊夢ちゃんに会った方が早くないかな?」
「霊夢ty――霊夢もいいけど、ちょっと人里に用があるのよ」
「ごめん、釣られそうになるアリスちゃんが愛おしくて聞こえなかった」
「……そう、なんか、ごめんね」
今にも折れてしまいそうな華奢な人差し指で頬を掻くアリスちゃんはどうやら照れているようだ。
確かアリスちゃんって、人とこうしてあまり話す機会が少ないとか言ってたネ。
つまり、会話慣れしていないからこんなにもはにかむ回数が多いのか。
「別に大丈夫だよ、それで人里にはいつ頃出発するの?」
人形をちらりと様子見し、それが終わると口を開ける。
「少し人形の整備をしたいかな、工藤さんはどう?」
「もう、さん付けはよしてって言ってるのにぃ」
「そう? それなら工藤で」
それはそれでやだな……関西の名探偵みたいで。
あと、呼び捨てにするならファーストネームで気軽にだよね。
よし、ここは全力でおちゃらけてアリスちゃんにアピールするよ!
「愛子って呼んでちょうだいっ!」
「わかったわ、工藤さん」
なんでや、なんで工藤なんや!
「お、落ち着きなさいよ……はぁ、それじゃ愛子って呼ぶことにするわ」
「わーい!」
これでアリスちゃんとお互い友達同士って感じで嬉しいな。 別世界で友達を作るって貴重な体験をさせてもらった気がするよ。
「子供かしらアナタは……まぁいいわ」
溜息を漏らしているアリスちゃんのことはお構いなしにボクはこの喜びを持続させながら話す。
「アリスちゃんのお洋服も可愛いし、まるで神様だヨ」
実はボクは制服のまま飛ばされた訳で、魔法の森を迷走していた所為で汚れがひどいことに……乙女なボクとしてはすぐにでも脱ぎ捨てたかった。
それを洗濯してくれたのはいいんだけど……裾にフリルが着いていて恥ずかしい。
最初は抵抗したんだけど……アリスちゃんが人形を駆使し、複数で襲ってこられたから仕方なく着用している。
『あ、あのーアリスちゃん、別の服はないのカナ?』
『な い わ』
『で、でもさ……ボクってこういう服似合わないからさ、ね? アリスちゃんならきっと服もたくさん持ってるだろうしネ?』
『問 答 無 用』
『いや、その、あの……うわッ! た、たす……け………』
あ、もう思い出したくない。
まあ清涼祭のコスプレだと意識してるから今は何とか自我を保ててるけど。
それにしても、やっぱりボクたちにとっては洋風でおしゃれだネ……是非とも帰ったら代表とかに着せてみたいカナ。
優子は絶対に嫌がりそうだからまずは代表を落としてから……おっと、狸の皮算用だったネ。
「ほら、私の言った通りじゃない、似合ってるわよ」
アリスちゃん、それ本気で言ってるのカナ?
「あはは……ありがと」
「愛子も女の子なんだから、これくらい普通よ」
「う、うん……」
済んだことだから気にしない気にしない、それに逆に考えてみると可愛いのかも知れない。
こういう服は他人に着せるから面白いけど、真面目に着こなすのもアリなのカナ。
これをムッツリーニ君に見せたらどんな反応なのかも気になってきた。
「フフフ、フフ………」
「口からなんかにじみ出てるわよ」
いけないいけない、アリスちゃんに変な人だと思われちゃうヨ。
ふと窓の方を見るとザワザワと音が鳴っていることに気付く。
外を確認してみると雨が降っていた。 木々に打たれる雨の雫の音が壁越しにボクたちの耳へと入る。
「あら、降ってきたのかしら」
アリスちゃんが窓の近くに寄り添い、外を凝視する。
間違いなく外は雨――それもザーザーと大雨と化していた。
「これだと外を出歩くのは危険ね」
これにはボクも同意しざるを得なかった。 家の中でさえ鳴り響く雨音だからこの状況で外に出歩くのは少々無謀だ。
おとなしく雨が止むのを待つしかなさそうダネ。
「愛子の制服も乾かせないわ……」
「森の中だし、止んだとしても湿ってそうだネ」
「うーん、やっぱり引越しした方がいいのかしら?」
何気ない会話の中で降り続けるしつこい雫の音が交ざる。
魔法の森とはいえ、雨に打たれる様はごく普通の森のようだ。
アリスちゃんはそのままの姿勢で話を続ける。
「ま、めんどくさいからいいけど」
「ん? 魔法でぱぱっと作っちゃえばいいじゃない」
「それもいいんだけど、今はいい土地が売ってなくてね……仙人にでも頼んでみようかしら」
「仙人か、やっぱりおじいちゃんとかご老人なの?」
「人間の年齢で言えばとっくに寿命は超えてるような連中ばかりよ。ただ外見は若さを保ちつつあるとか……ないとか?」
アリスちゃん自身も会ったことがないのか言葉の歯切りが悪かった。 この世界でも珍しい人たちなのカナ。
「それで、どうして仙人に頼みに行くの?」
「なんでも仙人は独自で空間を作りそこを根城とするらしいのよ。便利そうな能力じゃない?」
「それは凄そうだね。ボクから見ればアリスちゃんの人形遣いも相当だけどネ」
ニヤリとからかいながらアリスちゃんの方へと向ける。
窓の側で呆然と立ちながらボクと視線が合う。
「ホント、アナタって私に気でもあるのかしら。そういうとこ知り合いに似てるわよ?」
ため息混じりに呆れた素振りをしているアリスちゃん。
ボクは思わず壁に手を付けて至近距離へと近づいた。
「知り合いって、その写真立てに飾ってあった人の事カナ?」
目の前にはアリスちゃんのぷにぷにした白い肌が間近で捉えられる距離にある。
逃げようにもあまりにも出来事に戸惑っている様子。
ボクはそんな小動物のような彼女を見て悪ふざけを止められなかった。
「ちょ、見たのね……あれほど嫌がってたのに」
「嫌なら隠せばよかったじゃない、どうしても写真の人物を拝めたかったの?」
「そ、そういう訳じゃ……」
以前外の激しい雨は止むところを知らず、小石ほどの雫を地面へと叩きつけている音が二人を包み込む。
その様子は若い男が女を追い込み、襲い込む直前に見える。
「楽になったらどうカナ、アリスちゃんの為になるかも知れないヨ?」
ここぞと言わんばかりに畳み掛ける。 強情な彼女を落とすにはもう少しと言ったところか。
ボクの心の勢いと比例しているかの如く、雨も加速して行くがボクにはもうアリスちゃんの吐息しか耳に入らなかった。
「別に違う……もん」
…………もん?
「そういうんじゃ……ないもん」
今まで強気に抵抗していたアリスちゃんの全身の力みを抜け、弱気へと移り変わった少女がボクの目の前に降臨した。
これは……もうダメだ、ボクのなかで何かが弾けとんだ気がした。
「アリスちゃん……本当のことを教えてくれるかな?」
「……………………」
数分――彼女たちの間では時が止まったかと錯覚する程時間は流れた。
沈黙を森が雨という名の楽器で梢を鳴らす。 それすらも両者にとっては無音が続く。
アリスちゃんは顔を逸らし、その場をやり過ごそうとしている。
「いつまでも隠している悪い口はここカナ?」
彼女の顎に人差し指を乗せ、視線を無理やりボクの目へと合わせる。
くだらないことと罵るかも知れない、けれど、ボクにとってこのからかいこそが生きがいなのだよ。
「ちょっと、こんなとこ誰かに見られたら……」
「なら早く吐いちゃったほうが気が楽だよ? ボクは君を――ぉ?」
ガチャン。
この時……ボクは気付くのが遅かった。 外の豪雨の所為で家に侵入してきた第三者の足音に気付けなかった。
「………邪魔したぜ、アリス」
「「ちょっと待ったァァッ!!!」」
どうやらアリスちゃんも気付いてたようで良かった、あ、ごめんねアリスちゃん謝るから睨まないで。
「うお!?な、何だぜ二人共、さっきの続きはしなくていいのか?」
「「あれは誤解だよ(なの)!!!」」
「誤解? 何を言うんだぜ、私から見ればどう見てもカップルのイチャイチャだったぜ」
「それは違うんだよ君!」
「アリスを幸せにしてやってくれよな、緑髪の誰か知らんが」
「魔理沙ぁ、ちょっと部屋で温まってイカナイかしら? 大事な話をシナイトイケナイカラ」
おっと、アリスちゃんの怒りが頂点にマッハで到達しちゃったらしい、目の焦点が定まってない。
「アリス? お前落ち着いたらどうだ? 都合が悪い時に入ってきて悪かったけどさ」
「これが落ち着いていられるかァ!!!」
「ちょ、待てアリス! その人形は危な――」
ボクを一人その場で置いてけぼりをくらい、アリスちゃんたちはリビングへと入っていった。
色々やりすぎちゃって疲れたのかなあ、アリスちゃんの投げた人形が爆発したような気がするナ。
さっきの人は外の雨で濡れていたのか、そこに居た床は水を吸収し、染み付いている。
今は嘘のように静寂が包み込んでいるケド、間違いなくあの騒動は起きたんだネ……。
「ボ、ボクも様子を見に行こうカナ、責任取らないとネっ」
その時、ボクの足は無意識に震えていた。
どうも、こきゅーです。夏休みも中盤を迎え、若干焦りが見え隠れしています。
最近バカテストの方をおやすみしていますが、ネタがなかなか見つからなくて……試しに私が中学時代にやらかしたテストの解答用紙などを探してはいるのですがもう捨ててしまったか埃まみれか、見付からなくて……はい、私も相当の馬鹿ですからきっとクスリとでも笑ってくれるかと思います。
その代わり、今回の話の裏側をまえがきに書くようにしています。明久たちがどのようにして今回の異変に巻き込まれたのか、それをよく知るきっかけにでもなればと思います。(いわば伏線を貼るといったところでしょうか、回収し忘れないように頑張りたいです←
それでは、今回は短めですがこの辺で、次回もよろしくお願いいたします。