ボクはあれからアリスちゃんとさっきの魔法使いの子のいるリビングに忍び足でドアを開ける。
心臓が鼓動を打ち付けてボクは自分の体が破裂するんじゃないかと思った。
それだけ、今のアリスちゃんには近づいてはいけないと第六感が働く。
でも、謝らないとだよね……あそこまで怒らせちゃったのはボクの所為だから。
「あ、アリスちゃん?」
きっとボクの目の前ではアリスちゃんがくどくどと怒り、写真の魔法使いっ子は正座でもしている様子が安易に想像出来る。
そして禁断の領域にいざ、足をゆっくりと踏み入れ現状を確認した。
「魔理沙、アナタどうしてびしょ濡れなのよ」
「い、いや~急に降ってきやがったからさ……慌てて雨宿りに」
「そ、そう……タオル貸してあげるから拭きなさい」
「おぉ、サンキューアリスっ」
なんとも言い難い状況だった。 予想していたのより、こう、和やかなものがそこにあった。
「あら、愛子じゃない」
そこにいるアリスちゃんは先ほど物凄い剣幕で誤解を解きに行っていた時とは違っていた。
穏やかで、寧ろ機嫌が良いような……怒っているように見えたのはボクの勘違いだったのかな?
「アリスちゃん? 平気なの?」
「今はそんなことより魔理沙の服を変えてあげないと」
「服は大丈夫だ、猛スピードで飛ばしてきたからな」
どうやらこのアリスと同じ金髪で、少し背が低めの為かロングヘアーがよく目立つ。
箒を持った古風な魔法使いのこの子は魔理沙と呼ぶみたいだね。
魔理沙はタオルで濡れた体を込まなく拭き取っている。今は帽子を脱いでいるから彼女の顔がよく見えた。
しかしどう見ても服もびしょ濡れだよこの子……アリスちゃんも遠慮しているとすぐに見抜いたようで。
「あれ? おっかしいな……確かここに……」
「ほら、これに着替えなさい。風邪引いちゃうでしょ」
「あー悪いな、多分大丈夫だと思うんだが……」
魔理沙の様子を見ると相当濡れてしまったみたいだね、髪を何度も拭いている。
その度にぶつぶつと何かを呟いているが特に気に止めなかった。
だって、他に気になるものがあったのだからサ。
「お? これ私にピッタリじゃないか! 流石アリスだぜ」
「時間の合間に趣味で作ったオリジナルよ、折角だしこのままプレゼントするわ」
「マジか! ありがとうな、アリス!」
「べ、別に礼なんていらないわよ! ただ暇だったからちょっと裁縫をでもと……」
あぁ^~心がぴょんぴょんするな^~~。
それにしてもこの魔理沙って女の子も可愛いのに口調が男勝りでギャップを感じるネ。
あ、これってボクも似合うかな……? ボクもボーイッシュだし、真似てみよう。 もしかすればアリスちゃんの照れ顔が拝めるかもしれない。
「なあアリスちゃん、顔真っ赤だぜ」
「愛子……どうしたの?」
素のリアクションをされたッ!? しかも頭が残念な人に向ける目をしてる!
「っく、ボクでは力不足ということか……」
「何がしたいのよ……ほら、愛子も手伝って」
そう言われてアリスちゃんからごく普通の雑巾とバケツを受け取った。
「これで玄関までに濡れてるところ吹いといてくれるかしら?」
「えぇーボクはアリスちゃんの側に居た――アリスちゃん人形で脅すのやめないッ!?」
ニコニコとしながらアリスちゃんは戦闘態勢に入りながらも「お 願 い ね ?」と無言の圧力をかける。
うぅ……やっぱりまだ怒っているのかナ? 仕方ない、この場を離れるとするか。
「おっと、ちょっと待て」
「ボクに何かな? あ、別にアリスちゃんとは何もナイからネ?」
リビングを出ようとすると魔理沙がボクを呼び止める。
アリスちゃんから貰った魔女服がとても似合っているネ、人形作りが得意なアリスちゃんは手先が器用なだけでなくセンスもあるとは。
「実は大きな声で言えないんだがな?」
どうやらアリスちゃんには秘密の用事みたいダネ、魔理沙はこそこそとしながらボクの側までやってきて小声で伝える。
「うん……うん? えぇ……わ、分かったよ」
「頼んだぜ、無くても構わないんだが心配でな」
「何二人で話してるのよ」
おっと、アリスちゃんに恐らくバレちゃいけないことだろうし、せめてもの罪償いだ。
ボクは何でもないような顔をしてさっさとその場を離れることにした。
「何でもないぜ、それよりアリス、暖かい飲み物が欲しいぜ」
「あ、いけない! すぐ作るわね!」
扉の向こう側では魔理沙が話題を九十度捻じ曲げた。 あの子なかなかのやり手だね、ボクと少し似ているのかも?
「さて、やりますか!」
雑巾と水の入ったバケツを手に早速二人の要求に応えるため行動を開始した。
――――☆――――☆――――☆
バカテスト 日本史
第17問 次の空欄に正しい解答を埋めよ。
Q.古代の人類が生活する中で、ゴミ捨て場として活用されていた()は貝殻などが積み重なったものが特徴となっている。
姫路「貝塚」
教師のコメント:正解です。この問題文の中にヒントが隠されていますので比較的簡単な方だと思います。
吉井「貝殻処理場」
教師のコメント:貝殻専門店ですか。
土屋「聖域」
教師のコメント;古代からエロ本は存在していたのでしょうか、一見興味深いテーマですが先生はもっと別のことに意欲を向けて欲しいです。
アリス「墓」
教師のコメント:ご先祖様には優しくしましょう。
魔理沙「宝の山」
教師のコメント;幻想郷では海がありませんので確かにお宝が埋まっているように見えますね。
――――☆――――☆――――☆
アリスちゃんに頼まれてからどれくらい時間が経過したのだろう。
とりあえず片方の要件は済ませた。その証として雑巾は所々汚れが落としきれずに残っている。
バケツの中の水もすっかり黒くなってしまった、床掃除にもなったかな?
「しかし、言うのもあれだけど人形でぱぱーって魔法使えば早く済んだ気がするナ~」
一人誰にも聞こえないところでぶつぶつと拭き取る。
それと同時にもう片方の件についても探してはいるけど……。
「うーん、この家のどこかにいるはずなんだけどナア~」
魔理沙に頼まれた依頼とは猫探しというものだった。
経由は時間切れで分からないけど、まあペットと散歩中だったのかな? その猫がこの家に来てからふらっと消えちゃったらしい。
それで色々捜し回っているんだけど見つからないんだよねぇ……名前とか教えてもらえば良かったなぁ。
今戻ってもアリスちゃんに捕まりそうな気がしそうだし、ここは自力で探すしかない!
「おーい、猫ちゃーん? どこ行ったのカナー?」
うーん、餌とか何か誘い出せるような罠があればいいんだけどね、玄関の鍵はしっかり掛けてある。
それにまだ雨の勢いは止んでいないみたいだし、この中を進むほど無謀なことはしないはず。
「こうなったら名前っぽいのを呼んでみよう」
早く戻らないとアリスちゃんに不審に思われてしまう、二人のいるところに声が届かないように小声で呼びかけてみることにした。
「お~い、チビちゃんどこー? パンちゃん? それとも魔理沙だから魔理ちゃーん?」
いくら捜せど見つからずただ時間が経過していくだけ、このままだと不味い。
「魔理沙さん、大丈夫かな……?」
とにかく、この家で探せる場所と言えば粗方探し回った。 あとは猫の習性とかそういうのを考えて一度整理でもしてみよう。
少女熟考中...
一方その頃、工藤に猫の捜索依頼した魔理沙はというと……。
「アリス、このコーヒー上手いな! 苦味が渋いぜ」
「そう? あんたが前に盗んだものと同じ豆だけど?」
苦戦を強いられていた。
「あれ? そうなのか?」
「もう、飲まないんだったら返してよ、あれ手に入れるの大変だったんだから」
クソ、あのパッツン緑髪の娘何を手間取っているんだ。 アリスはペットが嫌いではないが、まだ躾がなっていない野良猫同然の猫だぞ。
そんなやつを野放しにしていると上海や蓬莱に被害が及ぶ。 そうなったら私は終わりだ。
もしかしてあの猫このリビングのどこかにいるのか?
「ちょっと! 聞いてるの?」
「あ、あぁ……大丈夫だ、問題ないぜ」
「まさかあんた、風邪とか引いてないでしょうね!?」
「その点は論外だ、私はピンピンしている」
服が雨にやられたこと以外は特に何もないからな、今はドライヤーで乾かしてもらっている。
勿論、アリス自慢の人形でいつものように操作しながらだ。
「………そう、ならいいけど」
ん? なんかこいつがっかりしてないか? 溜息混じりで台詞を零すように呟いたが。
「どうした? そんなにあの豆が気に入ってたのか?」
「魔理沙の泥棒癖は今に始まったことじゃないでしょうに、とっくに諦めてるわよ」
悲しい一面を見せたかと思えば今度は怒りの感情を露にする。
「そうだぜ、アリスのものは私のものだ」
「はいはい、はぁ……魔理沙も私がもらっちゃいたいわ……はっ!」
すると今度は急に顔を真っ赤にしながら手で隠そうとする。
おいおい、今日のアリスは一段と情緒不安定だな。
「ま、魔理沙! ちょっと様子を見てくるわ!」
「え、ちょ、様子ってなんだぜ!?オイ!!」
そう言い残しアリスは一人リビングから離れる。 やけに早足で颯爽と去っていった。
「ったく、今日は上手くいかない日だぜ……こういうのを厄日っていうのか」
静まり返った空気の中、今まで耳に入らなかった外の様子が気になり窓に目を向ける。
さっきよりは止んではいるが以前傘は必須アイテムの領域だろう。
こんな時傘が歩いてきてくれたらなー、確かそれの付喪神がいたはずだが……まぁいいや。
「さっさと家に帰りたいぜ……」
私が一人黄昏ていると廊下から足音が聞こえてくる。
アリスか? そう思ったがアリスの側にいたアイツの可能性も視野に入れる。
何故か内面ドキドキしつつもその足音はどんどんリビングに向かってきていた。
急に置いてかれたからな、一人だと心細いのもあるし、人形が少し不気味にも見えてしまうからな。
雨の降る森の中に佇む洋館――雨宿りに来た主人公はたまたま訪れて行方不明になるのが定番だ。
「私はこんなところでやられるわけにはいかないぜ! 来るなら来い!」
私は不意に体を身構え、体制を整えた後に箒を装備する。
しかし心拍数はどんどん加速している。 落ち着けと言い聞かせるが心は心配性らしい、全く収まらない。
今来られたら不意の一撃を食らってしまうかもしれない。
あぁ、もうダメだ、扉のガラス越しに人影が映る。 その人物はドアノブを手にしたと思うとすぐさま勢いよく突進してきた。
「魔理沙のブラジャー見つけてきたよッ!!」
ズドーン!(私が思いっきり地面にこける音)
ドドドドド(何者かが階段を駆け下りる音)
バタン!!(リビングの扉を開ける音)
「あんッたァ! 人ん家になんてもの置いてんのよォ!!!」
何故だろう、私の寿命がもうすぐな気がする。
「アリス!?い、いや違う! 私は下着これだけだ!」
「ほら~ブラジャ~いい子にしててね~よしよし」
「魔理沙……あんたブラジャーなんかを使い魔に?」
どうしてそんな発想ができるんだ!!
あの野郎、猫を探すだけでどうしてそんなことになるんだ!
「アリス、いいからまずは深呼吸だ。私は変人じゃない」
「こ~らダメだよブラジャー、タオルで吹き吹きしようネ~」
「まるでペットみたいな扱いじゃない! どれだけ悪趣味なのよ!」
あーもうめんどくせぇ、マスパっちまおうか。
「いいか!?私はお前の家にいたアイツに猫を探させてたんだよ!」
「………へ?」
暫く目を点にしたアリスが私の方に顔を合わせる。 そしてゆっくりとブラジャーと呼ばれる声の方へ向いた。
そこにいたのは当然ブラジャーではなく、私が拾った黒猫が抱っこされている。
「な? わかってくれたか?」
「あの猫が……魔理沙のブラジャー?」
「そうだ、名前はまだなかったんだがな……」
「…………どう見ても猫にしか見えないけど」
「猫だよ黒猫だよどう見ても生き物だろうが!!」
こいつ、頭がついに
「うーん、魔理沙……」
アリスの慌ただしい表情が今やっと安定したようだ。 面倒かけさせやがるぜ。
「あのブラジャーは魔理沙には早いと思うわ」
「どういう意味だよッ!?」
まさか、あの黒猫を下着として扱っていると思っているのかこのアマ!
「おいそこの……誰だお前は!」
「そういえば自己紹介がまだだったね、ボクの名前は工藤愛子、よろしくねっ」
笑顔で明るくと喋ってはいるが、正直この工藤とかいう女は恐ろしい以外何も思わねえ。
猫とじゃれながら私と会話をしているが、なぜその猫を見ながら下着を連呼するんだ!
「なあ愛子、その猫の名前どうしてブラジャーなんだ?」
とりあえず阿呆なアリスは放置させておこう、今はこいつとの会話が優先だ。
「ブラジャーはブラジャーだからだよ、ね~?」
「ネー、じゃねーよ!」
「……変なキノコでも食べちゃった?」
「お前は黙っててくれ頼むから!」
「あ、うん……わかった」
どうしてそんな可哀想な目でこっちを見るんだ! まるで私がもうすぐ出荷される牛みたいじゃないか!!
「愛子、その猫は私が森で偶々拾ってきた猫だ、雨で濡れていたから心配になってついな」
「そうなのか~」
「だから名前はないんだよ、あったとしてもブラジャーだけはないと断言するぜ」
「そっか……じゃあ仕方ないね」
ふう、ようやくこの事態を収めることができそうだぜ。とんだ茶番に付き合わされちまったな、早いとこ服を乾かしてもらおう。
「じゃあ君の名前は……ドロワーズ?」
「いい加減下着から離れてくれェェーッ!!」
どうも、こきゅーです。前の投稿より期間が少し空いてしまい申し訳ありませんでした。
少々風邪をこじらせまして、せっかくの夏休みが一週間ほど潰れてしまいました。
さて、ギャグというかネタを存分に盛り合わせてみましたがいかがでしょうか。
工藤編はほかのキャラクターたちよりも長くなるかもしれません。
それでは、今回はこの辺で、ありがとうございました。
最後に:学生の皆さん、夏休みが終わりましたが通勤・通学などの際にどうぞ、拙い文章ではありますが、元気にいってらっしゃいませ。ん?私ですか?私は大学生なのでまだまだ夏休みはありま――おっと皆さん金属バットをどうかしまって下さい死んでしまいます。