確かに魔理沙のことは嫌いではないわ、寧ろ反対。
だけど、あんな言い方私らしくない。
いつもの私はこんなはずじゃない。
はぁ……自分の部屋は落ち着くわね。
上海ありがとう、アナタも疲れたら休んでいいわよ。
魔理沙の服も乾かなければもうちょっとだけ帰れない訳だしね……ふふっ。
な、なんでもないわ。 引き続きお願いするわ。
アナタは特別な存在、同時にもう一人、私には大切な人がいることは確かなのよね。
いつまでも心の奥にしまっておくのもダメ、いつかは伝えないと付喪神にでもなっちゃうわ。
さて、そろそろ行きましょう。 魔理沙を置いてきてしまったのは不味かったわね。
他の人形たちのメンテナンスも早く済ませないと、ちょっと急ぎ足になりましょう。
ん? 奥から何か声が聞こえる……?
「魔理沙のブラジャー見付けてきたよ!」
ッダ!
その後、私の意識は途切れ無我夢中で声のするリビングへと向かった。
魔理沙さんに頼まれた猫探しも無事に果たしたボクは猫を抱えながら戻ってきたんだけど何故かすごく怒鳴られた。
おかしいな、この猫じゃなかったのかな……でも他になんて皆目検討がつかない。
「ねえ魔理沙さん、この猫じゃないの?」
「だから! お前が付けてる名前に問題があるんだよ!」
「え? ブラジャーのこと!?」
「なんで驚くんだよ」
いい名前だと思ったのだけどね、前に黒猫を見つけたときは別の名前だけど喜んでくれたのに。
「そうよ愛子、いちいち紛らわしい名前を付けないでよ」
いつの間にかアリスちゃんも魔理沙さん側に付いていた。
仕方ない、ここは素直に謝ろうか。
「ご、ごめんね……でもこれには理由があるんだ」
「「理由?」」
二人同時にボクへ疑問を返した。 阿吽の呼吸というのか、ピッタリ同時に。
「そう、ボクはこの魔理沙さんの黒猫を探してたんだけど見付からなくてネ。それで名前を呼んでみたんだ」
「んぁ? 名前なんてないぜ?」
魔理沙さんは手を斜め前に上げ当たり前のように返事をする。
それはボクもついさっき本人から知ったことだから話を続けた。
「うん、だからボクは適当に呼んでみたんだ」
「ちょっと待て」
さっきの態度とは一転して、慌てた魔理沙さんがすかさず話を遮る。
「まさか、それでブラジャーと言ったら来たのか?」
「そうだよ?」
素朴に魔理沙さんの答えが合っていたのでうんと頷く。
あれ? なんで壁に拳を殴りつけてるの? 魔法使いなんだから物理攻撃は期待できないヨ。
「愛子ってホント変わってるわね……いや、
気を乱した魔理沙さんとは正反対に冷静とボクに視線を向けながら話す。
そして視線を僅かに下げボクの胸の中でくつろいでいる黒猫へ映ったのがわかった。
「にゃ~」
「あら、私の言葉に反応したのかしら?」
フフフと人差し指を口の麓に当てながら微笑した。
笑い終えるとくるりと向きを変えて魔理沙さんに言葉を放つ。
「魔理沙、いい加減壁を殴るのやめてくれない? 私の家なんだけど」
「納得いかねェ!!」
「世の中には未知が溢れているということよ」
「なんで下着で反応するんだ……」
力尽きたのかゆっくりとその場に膝を崩して手を床に付けた。
そ、そんなに落ち込まれるとショックなんだけど……。
「ね、ねぇアリスちゃん。魔理沙さん大丈夫?」
「平気よ、それと魔理沙にも呼び捨てで構わないわ。ね?」
「ああ、他人行儀で気に入らないからな。それに」
凹みながら会話を続けていた魔理沙はふと立ち上がるとボクの方へ睨みながら指を強く指す。
堂々と威張りながら、まるでその様子はボクへの宣戦布告かと思えた。
「お前は面白い外来人だ! 私の家に来い!!」
突然の台詞にちょっと戸惑ってしまう。 こ、これは逃げることは許されない。
アリスちゃんが慌てふためいているのが横目で確認する。
そして、ゆっくりとボクは口を開いた。
「………結婚?」
「ちげーよ!!」
「ダメよ愛子! 魔理沙は――ッ!!」
魔理沙のツッコミも勢いよく飛んできたがアリスちゃんの声が思わず裏返っていた。
そのまま何かを言いかけていたような気がするけど立ち尽くし、もじもじとしている。
「ん? どうしたアリス、トイレか?」
「違うわよ!!」
なんだろう、この二人って同じ魔法を学ぶ者同士だからなのかすごく息が合っている気がする。
同時にボクの中で何かが衝撃的に流れ込むのを感じた。
「ねえアリスちゃんって魔理沙のこと――アリスちゃんその人形はボク死んじゃうヨ」
「コロス!!!コイツはコロさないとダメだァァァアアアーーーッ!!!!」
「おいアリス! 落ち着け!!」
今にも暴れそうなアリスちゃんを魔理沙は慌てて羽交い締めで抑える。
暫くは収まりそうにないネ……目がマジだヨ。
少女暴走中...
「アリス、一足す一は?」
「…………また暴れてやろうかしら」
魔理沙は軽く笑って誤魔化す。 どうやら平常心も戻ったみたいで良かった。
まぁ原因はおそらくボクかなと自覚している。
「愛子も悪いことしたわね、謝るわ」
「いいよいいよ、ボクとアリスちゃんの仲じゃないかっ」
ボクは反省とかせずにいつもどおりおどけてみせる。
ふと猫を放していたことに気づいたボクは何気なく視線を向けた。
あれほどの騒ぎがあったにも関わらず絨毯の上でぐっすりと寝ている。
「マイペースなやつだな」
「ネコらしくていいと思うけどネ」
「魔理沙、あんたちゃんと飼えるの?」
「もちろんだ、そのうち私の使い魔にしてやる!」
「ブラジャー……」
「その名前はすぐに忘れさせてやるからな?」
ボソリと黒猫の名前を呟くと魔理沙はすぐさま否定した。
そんな反応にむすーっとほっぺを膨らませ残念そうな素振りをみせる。
結構気に入ってたのになぁ……。
「ほら、こっちに来い」
魔理沙がブラジャーを呼びかける。
ブラジャーは目を覚ますと背伸びをした後くるくるとリビング中を周っている。 探検気分なのかな? 可愛いなあ。
「まだ懐いてないみたいね」
「なぁに、これからさ。よいしょ」
そっと背後から忍び寄りブラジャーを捕まえた魔理沙はよしよしと撫で始める。
白いワンピースを来た魔理沙が黒猫を抱く姿は、どこかミステリアスに見えた。
「ところで、私の服そろそろ乾いたんじゃないか? 雨も、ほら」
両手がふさがっている魔理沙は窓の方向に向ける。
つられるようにボクたちも同じように見てみると雨はいつの間にか止んでいた。
雨雲で隠れていた太陽は徐々に沈み始めている。 今日はもう外に出ない方がいいかな。
「もう……雨は上がったのね」
「アリスちゃん?」
「ごめん、なんでもないわ。ちょっと様子を見てくるわね」
そう言うとどこか侘しげな雰囲気を残して去っていった。
「ほーらよしよし、猫にはマタタビだよなー?」
魔理沙はそんなアリスちゃんを気にも止めずブラジャーと戯れていた。
どうしたんだろう、妙に沈んだ表情をしていたけど……やっぱり、アリスちゃんには魔理沙のことを特別な存在。
ボクがからかっていいものじゃなかったんだ。
「ん? どうした工藤」
不意に声をかけられ思わず背筋がビクっとする。
慌てて気丈に振る舞う。
「な、なんでもないよ? 魔理沙」
「そうか」と一言会話を終わらせると再び黒猫を弄り始めた。
魔理沙も確かに女の子としては魅力的な部分はたくさんある。
魔法使いってだけでコスプレ少女として人気は十分。
それに合わせて男勝りな性格はうちの学園に居たら間違いなくムッツリーニ君の餌食になりそう。
「……私の顔に何か付いてるか?」
「んゃ!? な、なんでもないヨ!」
危ない、これ以上魔理沙と喋ると悟られそう。
彼女も魔法を使う一人、下手に出ると心を読まれたりするのかも。
「………工藤ってさ」
ヤバイ、ボクのこと気にしている? 何とか話を逸らさないとアリスちゃんに迷惑をかけることに!
「べ、別に何でもないからサ! ほら、餌でも探してきなヨ?」
「餌か……でもマタタビとかないからな」
よしよし、軌道は逸れた。 あとはそのままブラジャーの話をするだけだ。
ホッと一息、胸に手を当て心を落ち着かせる。
「やっぱり様子が変だな?」
「わぁ!!?」
「お前あれだろ、今何か隠してるな?」
「ななナ何でもないかラッ!」
「気にするな、私にはまるっとお見通しだ」
既にバレていた……だと!?
っく、流石魔法使い魔理沙。 一般人であるボクたちとは違う能力があるということか。
ごめんねアリスちゃん、変な心配をかけちゃうかも。 覚悟を決めて伝えてみる。
「魔理沙……実はアリスちゃんが」
「あ? アリスがどうしたんだよ?」
…………え? 予想外の返答に固まる。
「お前も下の名前で呼んで欲しいとかそういうのだろ? 私には全て丸裸だぜ」
がっかりだよッ!! ドヤ顔でこっち見られても心底がっかりだよ!!
「あーうん、そのままの君でいて欲しいカナ」
「どういう意味だよそれ」
その魔理沙の性格がアリスちゃんを悩ませているのはよぉくわかった。
魔理沙が何故かしょげている顔をしているけど、それはボクの方が似合ってると思う。
それから雑に受け答えしているとアリスちゃんが魔理沙が着ていた黒い魔女服を持ってきた。
「お! 終わったか、いや~今日は助かったぜ」
「困ったときはお互い様よ」
魔理沙はお礼を言うと快くアリスちゃんから受け取りニコニコしていた。
自分のお気に入りなのかな? とても上機嫌に見える。
「それで、この服ももらっちゃっていいんだな?」
「元々アンタに上げるつもりだったのよ、ありがたく思いなさい」
「感謝感激雨霰だぜ」
「雨や霰なんて碌でもない天気だわ」
「そうか? じめじめしてて私は好きだぜ。霰は痛いな、弾幕だぜ」
「はいはい、もう日が暮れるから早く家に戻ったら? 洗濯物とかしてないの?」
「おお! そうだな、早速この黒猫を飼い慣らすとするぜ!」
手振りを付けて互いに楽しそうに会話する様はボクだけ仲間外れにされたような少し心細い気持ちになった。
「そうだ、コイツの名前思いつかないんだよ。何か案はあるか?」
黒猫をアリスちゃんに突き付けるように押し出した。
同時に「にゃー」と鳴く黒猫はまるで名前を欲しがっているようにも見える。
「えぇ? 急に言われても困るわ」
「なら明日家に来てくれよ、どうせ暇だろ? 一緒に考えようぜ」
「な……なんでアンタん家に――ッ!」
「じゃあな!」
そう言い残すと魔理沙は目にも止まらない速さで家を飛び出して行った。
唖然とするボクと今にも頭から湯気が出そうなアリスちゃん。
まるで嵐が過ぎ去ったかのような静寂に包まれた。
「………とりあえず、ドア閉めよっか」
「………そうね」
全く、ドアくらい閉めて欲しいカナ。 勢いよく開けっ放しで出て行くなんてすごい人だな、魔理沙って。
とりあえずここはボクが玄関の扉を閉めにアリスちゃんを残して行った。
「閉めてきたよ」
「ありがと」
ひとっぱしり出かけて戻ってくるとそこにはいつもどおりの落ち着いたクールな少女がコーヒーを入れてくれていた。
ボクは軽くお礼を述べ、コップを手に取り一杯口に運ぶ。
少し苦いブラックな味にびっくりしたけど、すぐに慣れた。
「このコーヒー、魔理沙が気に入ってくれたの、愛子はどう?」
「美味しいと思うよ、ボクには大人な味が似合うからネ」
「大人……なのかしら」
「うん、ボクは大人な女性だからアリスちゃんの考えてることをずばりと当ててみせるヨ」
「え!?」
「単刀直入に言うと、アリスちゃん……君は魔理沙のことが好きなんだね?」
「な……いきなりなんてこと言うのよ!!」
「魔理沙が来てから様子がおかしかった。何だか嬉しそうに見えた」
「そんなことないわよ」
動揺を隠そうとそわそわしつつも嘘をついているのがひと目でわかる。
強情を貼り続けるのはアリスちゃん自身にも良くない。 ボクは行動に出ることにした。
「まあ、他にも証拠は上がってるけど、確定的なのがあの写真」
ボクはあの写真立てを再び手にして目を逸らさせないように見せ付ける。
「別に隠さなくてもいいヨ、ボクはアリスちゃんの味方だからサ」
「本当に? 変とか思わないの?」
「男子同士の恋もボクたちの学園では日常茶飯事だからネ、女子同士も全然オッケーダヨ」
「……変わってるのね、アナタたちって」
話を信じてくれたのか気を許したみたい。 少しだけど前向きに物事を考えているように思える。
まぁ、八割方嘘のようなものだけど、一応そういう体で進めようか。
「そうだヨ、だけどこっちの世界も面白くて好きだナ」
するとアリスちゃんは不安の表情を拭い去ってくれたのか笑顔になった。
「それなら――私の操り人形にでもなってくれるかしら?」
「お安い御用、ぶっちゃけボクはピエロみたいなものだしネ」
「意外な反応するのね、今の怖がるところよ?」
「え? そう? 物理的にアリスちゃんの人形にされるなら本望カナ~」
「相変わらずおちゃらけてるわね愛子」
えへへと思わずニヤついてしまう。 なんだかんだでアリスちゃんもボクのことを友達と思ってくれてるみたいで嬉しく思えた。
「それじゃ、明日は魔理沙の家に行ってもいいかしら?」
「勿論だよ!」
「ありがとう、ピエロさん。明後日はアナタの友人でも探しましょう」
ボクは残りのコーヒーを飲み干そうと口にした瞬間、衝撃的な発言にむせてしまった。
「な、なんで知ってるの……けほっごほっ」
「魔理沙の服を取りに戻ると新聞が置かれていたのよ」
ニュースになってるってこと? それなら目立ってて逆に見つけ易いけど、何したのさ一体。
そしてなんで新聞が勝手に部屋に置かれてるのさ……ここの配達屋怖くないカナ?
「大体のアナタたちの事情は把握したわ、この吉井明久ってのがよく分からないけど」
「彼は最もからかい甲斐のあr――頼りになる人だヨ」
「ふーん、そう……まあ、あとは自分で読みなさい。私は晩ご飯の支度でもするわ」
「助かるよ!」
思わない物も手に入ったことに夜を迎えたというのにボクのテンションは上がり続けている。
ひとまずこの記事に目を通して、明日のアリスちゃんの恋の大作戦でも考えるとしますか。
こういうことならボクの十八番だからネ、必ずいい方向へと展開させてみせましょう。
それよりも、まずはお腹一杯ご馳走にならないとネっ。
毎度おなじみこきゅーデス。
そろそろ私の夏休みも終わりに近づいてきたので欝になりそうですorz
前期での単位など色々心配な面もあるので後期はガチで頑張らないと。
そんな焦りを覚えつつも、小説は続けていこうと思いますので引き続きよろしくお願いします。